「休憩所が見えてきましたよぉ。もうちょっとですよぉ」 とっとと先にといっていたヨザックが山道の上のほうから声をかけてくる。 「昼前に何とか登りきれば、時間に余裕がもてますよ」 「けどさぁ。オレ、昨日と昨夜。食べたもの全部吐いた病人だぜ?なのにこれじゃあ過酷すぎるよぉ」 オレのぼやきに。 「それは陛下がいじきたなく急にフルコースを食ったから」 三日ばかり眠っていたオレの空っぽの腹はいきなりのご馳走に驚いて胃痙攣をおこした。 かるいものもほとんどうけつけず。 …もったいないったら。 高くなってきた太陽が黒髪を余計に暑くする。 「ヨザック。ちょっとってあとどれくらい!?つうか信じらんない。箱根の旧街道を歩かされたときみたい。 あれも嘘だろってほどけわしくてさ。獣道なんじゃないか。とうたがったよ」 ただし、ここは気候音頭が温暖の夢の島。 脇に立っているのは広葉樹林もどき。 「この先をのぼりきったところですよ〜ん」 よくまあ、パワフルに元気なものだ。 感心してしまう。 ヴァンダー・ヴィーア島は周囲百キロくらいの火山島で数多くの温泉に恵まれているらしい。 海の幸も豊富なので収入は観光資源にたよっているらしい。 まあ、多分そこそこの大きさの島なのだろう。 オレ、地図…というか、地理、苦手だし…… 「こ…この坂って……」 まだまだ先…みえないんですけど? 思わずがっくりと肩をおとす。 周囲にはオレたち以外には誰もいない。 お祭りだったんじゃないの? ねえ?
いやに長いちょっとを登りきると、確かに休憩所がそこにはあった。 ちなみに、営業中らしい。 神を染めてそのままカフェテラスらしき場所にと座り込む。 店のつくりは、何だか時代劇と同じ…というわけでもなく。 どちらかというと現代的だ。 その後ろにはコテージらしき建物が。 外にあるテーブルにと腰をおろし、メニューも見ずに注文する。 ヴォルフラムなどは座ったと同時にテーブルにつっぷしてどこか遠い世界にといきかけている。 「とりあえず飲みものと何かを」 オレの言葉に。 「はい」 いって、ちょっぴしソバカスのあるエプロンをつけた女性が奥に…というか、建物の中にとはいってゆく。 しばらくして、出されてきたのは、紅茶とクッキー。 「…さすがに団子とお茶。というわけにはいかないか」 ため息をつきつつも、紅茶を口にと含む。 どうやらかなり喉がかわいていたらしい。 水筒。 しかも魔法瓶があればそれにこしたことはなし。 ……次にアンリに頼んでくるときに、もってきておいたほうがいいかもしんない…魔法瓶…… コンラッドとヨザックは涼しい顔で白磁のティーカッブを口にと運んでいる。 ヴォルフラムなどはカップをもつ気力すらもないらしい。 盆を抱えてたったままね、従業員らしき女の人は。 お元気さん二人と、半ばぐったりさんとほぼ死人と化している。 という異様な団体に興味津々らしく。 一番声をかけやすそうなオレにと尋ねてくる。 「あのね?おきゃくさん。あの〜。ごぞんじだとはおもうんだけんどね」 「??何?」 何かいいにくそうにしているし。 「あのねぇ。祭りのみこしが出発するんはここじゃなくて隣の山なんだけどもね」 いって隣の緑が生い茂る山を目で指す女の人。 「えっ!?ここは祭りと関係ないの?!」 オレの驚きの言葉に、ため息をつきつつ。 「休火山はお隣の山ですよ。ここは温泉やどが四・五件あるだけで。それだってうちんとこでおしまいだけど」 いいにくそうにいってくる。 「うわっ!?ちょっとオレたちまちがえちゃったらしいよ!? 下山してもう一度チャレンジなんて!?オレはまだしも……」 いまだに虚無な目でテーブルにぐったりしているヴォルフラムはピクリ、ともうごかない。 「……こいつなんかもう別の世界にいっちゃってるし……」 船酔いに加え、このハードな山登りでそうとうきているようだし…… そんなオレの言葉に。 「間違えてませんよ。用があるのは隣の神殿じゃない。」 「え?じゃあ観光協会みたいなとこで配ってたパンフレットのバルテノン神殿みたいなとこにはいかないの?」 「見たかったんですか?それは申し訳ないことを」 いってカップをおく間ラッド。 ヨザックは幼馴染だ、というコンラッドの言葉にうなづきながらも、焦げ気味のクッキーをかじりつつ。 「休火山から駆け下りる炎の神輿なんかに興味があるとは思わなかったんで。 俺達が酔うがあるのはこの山の頂上。勇壮な祭りじゃないんです」 炎の神輿…って。 何かちょっぴりそれもみてみたいぞ。 「お客さん。山の上にいったってどうしようもないよ!」 ガランッ! とお盆を落として言ってくる従業員さん。 顔色までもがかわっている。 「頂の泉はアレ以来閉鎖されてっし。ほかにみるもんもないし!たしかまだ釣堀はのこってるけどもね」 ?? 「?アレ以来…って何?何かあったの?」 オレの問いかけに、彼女はちらり、とコンラッドのほうを伺う。 どうやら彼が保護者だと判断したらしい。 大正解。 「十五・六年前だったか…いや、十八年くらいにもうなりますかも…… とにかく、それくらい前のある夏の夜に天から赤い光がふってきたんだけども。 そいつが頂の泉におっこちて、泉は三日三晩も煮えたぎったんです」 「隕石だったの!?」 オレの言葉に大きく首を横にふり。 声を潜め、顔をしかめ、さらには恐ろしいことでもいうかのように。 「……魔物。だったんす」 「?魔物?」 「そう。それから泉にはだ〜れも入れなくなって。入るとビビってしびれちゃうんだけども。 ひどい人は心臓が止まったり、大やけどして大変なんです。 湯にさわらずに奥の泉まで行って魔物を見た人が一人いるんだけどもね。 何か銀色でピカピカしてて、つかもうとしたらあまりのことに気をうしなっちゃったんす」 って!? つかもうとしたら気絶させられた!? 「その人は半死半生で発見されて。今でもわかんないことをぶつぶついってて正気じゃないっす。 顔のやけどは当に治ってるのに。顔が、顔が。ってわめくんですってさ」 稲川さん口調の語りでなくてよかったよ。 それだとかなり恐そうだ。 ということは、オレが魔剣を手にして持ち帰れば、泉も元通りになりはずだ。 でも火傷って…… …何かオレが考えてた計画……もしかして理由できない可能性があるのかも…… 相手にそんなものを預けて怪我でもされたらそれこそ国際問題だ。 まあ、ここまできたからには、とりあえず手にいれてからどうするか考えるしかないか。 ……このまま、地元の人に剣のせいで迷惑はかけられない。
とりあえず。 ヴォルフラムをその建物。 どうやら宿…というかその建物が温泉宿らしいので。 その宿にとあづけ、部屋をとり。 せっかくだから。 といって止める従業員にと別れをつげ、オレたち三人はさらに山道をのぼってゆく。
「魔王陛下が魔剣を手にいれれば、我が眞魔国は向かうところ敵なしの国になりましょう。 ああ、我が魔王陛下ばんざい…なんてな」 ぜいぜいと息をつきつつ、山を登るオレの前で、ほぼ棒読みで何やらいっているヨザック。 「本当に銀のピカピカをつかめりゃ。だが」 「ヨザッ!」 「だってそうだろ?これまで何人もが被害にあってるんだぜ?坊ちゃんだけ無事って保障はないじゃん」 何かこの人、もしかしてオレと同じことを思ってる? 「ま。心配しなさんな。もしそうなったら、いやそうなっても俺達が縄でくくってでも。 またお船でつれてかえってあげっからよ」 「ヨザ!!無礼がすぎるぞ!」 コンラッドの叱責らしき声。 「って!あ〜!!そうだよ!船じゃん!たしか釣堀があるとかいってたし!」 思わずポン。 と手を打つ俺。 「とにかく、いってみないと何ともいえないし。…しかしまだぁ?」 「ヴォルフをおいてきて正解でしたね」 「それは同感。」 そんな会話をしつつも、オレたちはとにかく道を頂上めがけてすすんでゆく。 歩くこと約一時間と少し。 ようやくたどり着いたそこには。 幸いなことに、山頂の釣堀には白い塗装がはげかけたボートが数個放置されたままにとなっている。 「……まあ。底さえ抜けてなければ。それで」 いってため息をつくコンラッドに。 「そうだよ。ちょっとボロくたって泥の船よりずっとましだよ」 御伽噺ではないけれど。 「ひしゃく!どこかにひしゃくねぇか!?たまった水をすくい出すひしゃく!」 いってきょろきょろしているヨザック。 「そんなのより。こうしたほうが早いよ。コンラッド。ヨザック。手伝って。これ横にして水を抜くから」 オレの言葉に。 「なるほど。わかりました」 「あ。その手がありましたね」 二人何やら同時にいっているコンラッドとヨザックだけど。 とりあえず、二人に手伝ってもらい三人でボートを横にしてたまっている水をぬく。 「よくカヌーの講習でこうやって水抜きやったからね。…中学のとき」 あれはかなりハードだった。 うん。 オレの言葉に。 「へぇ。陛下。カヌーもやってらしたんですか?」 「好きでやったわけじゃないよ。授業の一環。課外授業でね。も、二度とやりたくないよ。あれは」 はじめは楽しみにしてたけど。 何のことはない。 ……あれは、地獄。 というよりほかにはない。 先輩たちが、『行けばわかる。』といっていた意味がよぉぉ〜くわかった。 「?じゅぎょう?かぬ〜?」 ヨザックはオレの言葉に首を傾げてるけど。 釣り堀のにごった水面を巨大な魚がダボッ!とはねる。 宿敵ないなくなったのんきな生活は鮒をマグロにと変えたらしい。 ボートの水を抜きおわり。 次には、そのボートを泉にとうかべ。 頂の泉の上にと船をすべらせていくと。 そこにはちょっとした洞窟が。 洞窟の入り口の壁には数え切れないほどの落書きが。 赤や黄色の様々な線はオレの目にはまったく意味を成さない、ただの絵にもとれるもの。 だけど、まだ習いかけ。 とはいえ、何となく絵ではなくて文字…ではないかな? くらいはわかる。 「何てかいてあんの?」 オレの言葉に。 「陛下。よめないんですか?」 「うん」 「……話せるのに?」 きょん、と目を見開いて聞いてくるヨザック。 「オレにもわかんないよ。でもアンリがいうにはアーダルベルトってヤツがオレの魂の中から。 蓄積言語ってやつを引き出したから、こっちの言葉が通じるし、話せるらしいけど。 文字の読み書きができないのはその記憶もってたときのオレ。 つまり前世のオレが目が見えなかったからじゃない?アンリはそういってたし」 「??アンリ?」 「こっちではアンリは双黒の大賢者って呼ばれてるらしいけどね」 「……大賢者…って……」 オレの言葉に何やら驚いているヨザックだけど。 「で?何てかいてあんの?」 オレの再度の問いかけに。 コンラッドがわらいつつ。 「読みますよ。『オレたちゃここにきたぜ。へいへい。命しらずだぜ。いぇーい。』 とかかれてるようですよ。これは」 にこやかなまでにと説明してくれる。 「って!度胸だめしかいっ!」 思わずつっこんでしまう。 この国にもそういうのがあるんだ。 苦笑いしつつ教えてくれるコンラッドの横では、なぜかヨザックが黙り込んだままとなっているけど。 ? そういや、このヨザック。 アンリにはまだ会ったこと…なかったよな? ま、普通、この世界では伝説。 といわれている人物らしいから驚くのは無理ないけど。 オレもそれ知ったときにはびっくりしたし。
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