首をかしげながらも、ふと手元のあるものにきづき。 とりあえず。 「あ。ヒスクライフさん。これありがとうございました」 いってペコリ、と頭を下げてカツラを返す。 彼が機転を利かせてくれたので普通の魔族だと役人には思われているっぽいし。 カツラを返すと同時にいじきたなくもオレのおなかがグ〜となる。 それをみて笑いつつ。 「とりあえずこれをもってきましたので」 「あとは荷物はそれでOK…ですかな?」 何やらごそごそと取り出しているヒスクライフさんとヨザックの姿。 ・・・・・? 「それは何だ?」 なぜか子羊の肉つきハーブソースには誰も手をつけない中。 オレがもくもくと食べていると、それをみて聞いているヴォルフラム。 でも何でみんなたべないんだろう? おいしそうなのに。 「水難救助訓練用。救命君ですよ。閣下」 「船のほうは明日にでも大丈夫そうです。なので明日の夜。ということで」 「手伝ってもらってすいませんねぇ」 「いやいや。こちらも助けていただきましたし。 それにまだまだ彼にはお礼をしてもし足りないくらいですからね。 それに何より彼には新しい商売のネタを二つももらいましたし」 ……? 何のことだろう? ヨザックとヒスクライフさんは、しばしそんな会話をしてるけど。 そして。 しばらくしてから、あまり部屋にいないのも怪しまれる、というので一度この部屋。 つまりは牢屋から出て、後にはオレたち三人と食事だけが残される。 あとで食器はとりにくるらしい。 どうも話を要約すると。 オレたちが逃げる手助けをヒスクリイフさんが手を回してヨザックの手引きで脱出するらしい。 そんなことをしてくれて大変にありがたいけど。 あとでヒスクライフさんたちに迷惑がかかりませんように…… 何でも折り紙と。ベアトリスにあげたビーズ細工のお礼と。 海賊たちから守ってくれた御礼に対することには少なすぎる。 とかいってたけど…… 後者は覚えてないとしても。 ビーズ細工も折り紙もそんなに別に感謝されるものでもないのに。 ベアトリスに物をあげた。 と知ったヴォルフラムがつっかかってくるので仕方なくもう一つの細工物を渡そうとしたら断られた。 妹の細工物。 といったら何か遠慮してたし。 とりあえず、今度オレの手作りビーズ細工を渡す。 ということで話はまとまったけど。
夜があけ、そして次の日の夜。 まだ夜明け前だというのに、ヨザックがもっどって来て脱出するから、と起こされる。 オレはコンラッドによりかかって眠っていたけど。 こんな状況だというのに、なぜか比較的に落ち着いている自分にびっくり。 「こっからは救命艇でも手漕ぎ船でも本船より先に上陸できますからね。 海の真ん中で逃げ出したって漂流するのがせいぜいですもんねぇ。 さ。陛下も隊長もおきてくれ。閣下はまだおねむらしいけどな」 美少年と美女には低血圧がよく似合う。 オレは昔そうおふくろにいわれて、自力でどうにか朝早くおきる習慣をつけた覚えがある。 かわいらしく目をこすったブォルフラムは、いまだにぼ〜としているし。 また、そのまま寝ようとしているのがまるわかり。 確かに二度寝は気持ちいいけど。 「ヴォルフラム。二度寝は遅刻の元だぞ〜。一限目の数学。ねていいからさ」 いいつつも、オレも目をこすりながら起き上がる。 ……何かオレもずれたことをいってるけど。 ねむいよぉ…… 「荷物はここにあります。船ももう直っているらしいですからね。 見張りもごまかして、うまく脱出させてくれるって手はずですわ」 いってにかっと笑うヨザック。 そして先日の救難救助訓練用人形。 救命君を取り出して、オレたちにと投げ渡す。 ゴム…というよりは、何か他の素材みたいだけど。 「こいつに予備の服着せて。ここに残していけば陛下たちがこれに化けたってんで。 相手は魔族だし何をしてくるかわからんぞ。となってこれを幽閉したりするわけですよ」 心底面白そうにいってるし。 「…つうか、そういうことするから魔族に関してデタラメな噂ばかり流れるんじゃぁ……」 オレの最もな意見に。 「まあ。確かに。時間かせぐ身代わりは必要ですよ。陛下」 にこやかにいって、風船を膨らませているコンラッド。 何か言い含められているようなきがするなぁ…オレ。 そのまま、ヨザックにと先導され、準備万端でつながれていた救命艇にとのりこむことに。 乗り込み口にヒスクライフさんがきてたけど。 ベアトリスはまだ寝ているらしい。 「お気をつけてるあとはなぁに。どうにかしますよ」 「ありがとう。ヒスクライフさんたちも気をつけてくださいね」 「いきますよ。陛下」 そんなやり取りをかわしつつ。 数日前、見習いを殴っていた船員にコンラッドとヒスクライフさんからお金らしきものが渡される。 ヒスクライフさんに別れをつげ、オレたちはそのままオールをもって船を漕ぎ出し海原へと出発する。
「大丈夫かなぁ?ピッカリ君…それにあいつ。すぐにチクッたりしないかなぁ?」 あの船員が口をわればヒスクライフさんたちもただではすまないだろう。 オレの言葉に。 「金を受け取るものには二通りありまする小銭で動いて裏切るものと。 大金でしか動かず裏切らないものと。あいつは金には汚いけどもらった金には裏切りませんよ」 コンラッドが何やら説明してくる。 「なるほど。じゃぁ大金をもらって裏切るパターンは?」 ギコギコとボールを動かしつつ、コンラッドにと聞き返す。 「それは金銭じゃなくて損得でうごいているんでしょう」 「隊長〜。陛下ぁ〜。しゃべってないでこいでもらえますか? 本船に追いつかれちゃ元も子もないんですから」 そんなオレたちにヨザックがいってくる。 と。 オールを漕ごうとしたらボードがまわる。 「うわっ!?ヴォルフ!?ねるな!回る!まわっちまうっ!」 みれば、ヴォルフラムが居眠りを始めてるし。 「はにゃ?」 「はにゃ。じゃない!こげ!こげってば!ひいて、もどす。ヒッヒッフー。ヒッヒッフー」 そんなオレの掛け声に。 「お。いいねぇ。何か気合が入ることばだ」 「陛下ぁ。それはラマーズ法では?」 「…あれ?」 何かオレもまだ半分寝ぼけているようだ。 でもどうしてコンラッドがそんこなとを知っているんだろう? 合衆国でいろいろと学んだのかな? アンリがいうには、アニシナさんが作るようなある装置でコンラッドの脳みそに、 直接ロドリゲスさん、という人が情報を流し込んだらしい。 ちなみに、NASA製らしいが…… どこの世界にも同じような人はいるんだなぁ。 とある意味関心してしまったが…… 見上げる星は満点の星空。 ついつい、聖歌か、またはきよしこの夜を歌いたくなってしまう。 どんどんと船が遠ざかる。 さようなら。 おそらく最初で最後の豪華客船の旅。 旅の思い出…はあまりないけども。 でもヒスクライフさんのような些細なことに対しても義理堅い人間がこちらの世界にもいる。 というのが判ったのは大収穫だ。 ならばきっと、魔族と人間の共存も夢じゃない。 きっと。 絶対に。 「よ〜し!まってろよ!魔剣メルギブ!」 「「「モルギフ」」 オレの言葉に三人からあっという間に突っ込みと訂正がはいるけど。 小さく遠ざかる帆船を尻目に、オレたちは陸にとちかづいてゆく。 「は〜れるや〜」 何となくオレが口ずさむとコンラッドもまた英語で歌を口ずさむ。 でも魔王が神をたたえる歌って珍しいのかもしんない……
島の乙女に恋をすりゃ、ヴァンダー火山も大噴火。ともに海は渡れねど、見上げる空に同じ月。 あ、こりゃ。ヴァンヴァンヴァンダヴィーア。夢の島。一度きたら忘れられぬ。
ヨザックが口ずさんでいるのはヴァンダー・ヴィーア音頭の一番らしい。 でも火山が噴火したらやばいっしょ。 日本では三宅島や阿蘇山噴火が記憶に新しいけどさ……
「…ぜ。ぜんぜん夢の島じゃないし……」 オレの中のイメージは、埋めてたちのようなイメージ。 もしくはビキニ環礁地帯のさんご礁の島々。 息が弾むし足が重い。 だが、登山道は果てしなくつづき、ごねても叫んでもかわらない。 ……空を飛べたら楽なのに…… おれこれ、オレの腕のGショックが示すことには四時間半前に、汗と塩水。 主に波をうけてびしょぬれになりながら、この島に上陸した。 普通の砂浜に。 せめて鳴き砂とかなら面白かったのに。 そのままの格好ではあやしまれる。 というので使われていない海の家らしきものを拝借し、身なりを整えほんのちょっとほど仮眠をとり。 それからすぐにと出発した。 『道は舗装されてますから子供でも楽に山には登れますよ』 というコンラッドの言葉を信じて山道に挑んだものはいいけども…… これじゃ、舗装、というよりはただ土をならしているだけじゃぁ…… この世界、どうやら判ってはいたけども、アスファルトとかはないらしい。 まあ、自然のままでいい。 という意見もあるだろうけど。 こんな山登りなんて小学三年のときに無理やりに富士山に連れて行かれたとき以来だ。 あのときも結構きつかったけど。 違うのは、一応、石畳が敷き詰められている道…といっても完全に平らでもない。 「…楽にのぼれる子供がいたら、世界スーパーチルド連に入れるよ……」 「何いってるんですか。こんな道。登攀訓練にもなりゃしませんよ」 「軍人訓練といっしょにすなっ!普通高校生は山登りにはあまり縁、というかほとんど縁ないの!」 「ですが。勝馬殿は陛下が十歳になったら富士山につれていく!とはりきってましたよ?」 「…八合目まではロープウェーで登ったよ……」 そんなオレとコンラッドの会話に、 いつも突っかかってくるヴォルフラムすら、ほとんど生気を失った顔をして山道をのぼってるし。 「それはもったいない。はじめから登ればよかったのに。オレせっかくだから登ってみましたよ?」 「だから…一緒にするなって……」 「こんな道でへばってどうすんですか?ほら。陛下。ファイト」 「陛下ってよぶなってば。名付け親」 「あ…う……」 そんな会話をしているオレたちに声になっていない声を発しているヴォルフラム。 …どうやらかなりしんどそうだ……
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