何の曲だろう? ロシア民謡? 聞き覚えのない。 だけども何か懐かしい歌のようなものがオレの中で流れている。 夢と現の境目で、身体はここちよく暖かい。 降り注ぐ日光があたっていてまぶたの裏まで真っ白い闇。 そんな光が翳ってくるころ、ようやく目をさましコンラッドの胸から頬を放す。 「…ロシア民謡が……」 オレの寝ぼけ眼な言葉に。 「何ですか?東西冷戦問題ですか?」 「違う。それはもう終わったよ。ベルリンの壁もなくなったし」 「そうなんですか!?へぇ〜。」 十五年前に合衆国を出て、約十年前にのみ日本にやってきていたコンラッドは本当に関心した声をだす。 …まあ、あの出来事はこれ以後の歴史に残る瞬間ではあるよな。 ベルリンの壁崩壊は。 …それはそうと。 オレ、何でコンラッドの胸の中で寝てたんだろ?? ふと周囲を見れみればオレとコンラッド、そしてヴォルフラム。 この三人しか見当たらない。 「うなされたぞ」 オレをみて眉をひそめていってくるヴォルフラム。 「誰が?オレが?」 寝ている間にうなされていたのだろうか? というか、オレいつの間に寝ちゃったの? というか…ここってどこ? 「違う。僕がだ」 何か怒ってるし? 可能性としたら、もしかすると…… 「ヴォルフラム?何をそんなに怒って?…ってああ!?もしかしてまたオレすごいことをやっちゃったの!?」だって、オレ、自分でもものすっごく怒ってたもんなぁ…… 自分で堪忍袋の緒が切れたのわかったし…… 「やっちゃった…って。覚えてないのか!?アレを!?まったく!?」 オレの言葉に、その背を壁に寄りかからせたまま、大きく息をついて。 「幸せもの。」 「ええ!?覚えていないほうが幸せっていうほどひどいことをやっちゃったの!?オレ!? てゆうか!?ここどこ!?」 見ればちょっとした広さのある、だけどもな〜んにもない部屋。 床も壁もむき出しで、なぜか窓には鉄格子。 「…何で鉄格子……。オレ何やって…。どれくらい寝てた?確かセーラー服に説教かまして。 でもって、ベアトリスが連れて行かれそうになって、ピッカリ君が…って?! これピッカリ君のカツラじゃん!?何で!?どうして!?」 見れば、オレの横に例のピッカリ君の帽子つきカツラが。 「ひとつずつ順番に答えますよ。まずベアトリスは元気だし両親と一緒です。 あなたはこの世のものとは思えない強力でおそろい術を披露し、海賊たちを懲らしめました。 前、というか昔のときもおもいましたけど、陛下には要素うんぬんは関係ないのかもしれませんね。 地球でもむちゃをやってましたし」 「…は?」 無茶…って、何が? 「で。陛下のお力で、ほとんど海賊たちが鎮圧されたところへシマロンの巡視艇がかけつけ。 海賊たちを全員拘束しました。あなたはそのまま寝込んでしまって、今日でもう三日目です」 「三日!?」 どうりで何かおなかがすいているわけだ。 「三日も!?…アレ?でも何でオレたち閉じ込められてるの?」 オレがおもうに何もしなかったら、今ごろ皆が大変なことになっているような気が…… 人身販売の商品などを乗せて海賊たちは逃げていただろう。 きっと多分オレやヴォルフラムを含んで。 船を沈めて他の人たちは皆殺しにして。 「バレたからですよ。魔族だと。シマロン領は魔族にとってたびを楽しめる地域じゃないんです。 護衛船も大きなダメージだったようですし。この船の救助艇はすべて壊されていました。 おそらく去り際に火を放って船ごと沈める計画だったんでしょうね。皆殺しですよ」 自分もそれに含まれていたかもしれないのに、淡々と説明してくるコンラッド。 「そんな馬鹿な!?大惨事を防いだのに閉じ込められてるの!?」 オレの言葉に、なぜか苦笑いしているコンラッド。 こんなことは慣れている、といった感じの笑みだ。 「ごめん……オレ、軽はずみなことしちゃって……」 やっぱりオレが悪かったのかなぁ? 「オレが頭に血を上らせなけりゃ、今ごろはコンラッドもヴォルフラムも。 こんなところに巻き込まれることもなかったのに……」 そんなオレの言葉に。 「ユーリが謝ることはない。」 「ヴォルフ……」 「おろかなのは人間どもだ。」 といって、吐き捨てるようにといってるし。 「でもヴォルフラム?人間もそう捨てたもんじゃないだろう?」 「……それには感謝はするがな」 いって、オレの横のカツラにと視線を向けてるけど。 「って!そうだよ?何でピッカリ君のカツラがここに?!」 そうだ。 まだソレをきいてない。 「陛下は御力を使われて、髪も元通りの黒にもどっちゃったんですよ。 もう人々の前で双黒をさらけ出しちゃいまして」 そういえば、オレの髪の毛。 染めていたはずなのに、その染めた色が落ちてるし。 アンリがいってたっけ? オレの場合、力を使うと何の小細工も効かなくなるって。 それがなぜなのかは聞いても教えてくれなかったけど。 「で。陛下が倒れられたとき。ヒスクライフ氏がこれを陛下の頭にとかぶせてくれたんですよ」 「うえっ!?ピッカリ君のカツラを!?」 なんで?どうして? 「お前の黒髪を役人たちの前でさらすわけにはいかないからな」 憮然としながらいっているヴォルフラムだし。 「え?…でも何で……」 いいかけると。 カチャリ。 と扉の開く音。 そして。 「お気がつかれたようですな。ユーリ殿。」 「おに〜ちゃん。大丈夫?!」 聞きなれた声が聞こえてくる。 みれば。 なぜかヒスクリイフさんとベアトリスの姿が。 「あなたたちでしたか」 そういえば、いつのまにか身構えたコンラッドとヴォルフラムの二人は剣をもっている。 たしか海賊に襲われて、彼らは剣をもっていなかったはずなのに。 身構えをとき、ほっとした声をだしているコンラッド。 「ちゃっらぁ〜ん!おまたせぃ!豪華朝食よんっ!」 その後ろから何とも陽気な声と部屋に広がるいいにおい。 「え?あ!ニューハーフ風呂の!女装上腕二頭筋!?」 それと一緒に入ってきたのは、オレンジ色の髪の男性。 今度は女装はしていない。 「覚えていてくれたとはうれしいねぇ。ようやくお目覚めのようですな。陛下。大事に至らなくて何よりです。 さ、これは他の客と寸分たがわぬ献立ですが。陛下のお口にあいますかどうか……」 などとオレの前でひざまづいていってくる。 「うええっ!?ななななんでオレのこと陛下ってよぶの!? ってあのときの風呂でもそうだったけどって。でもオレただ即位しただけのしがない野球少年だし。 まだそんなに言われること何もしてないし……」 そんなオレの戸惑いの声に。 「い〜ねぇ!ほんとだ。素だと相当かわいいねぇ。聞いてたとおりだ」 などと肩に手を置いていってくるオレンジ色の髪の人。 「おい。陛下に対して失礼だろう」 いってそんな彼にとコンラッドがたしなめてるし。 「おに〜ちゃんが魔王なんだって?でもおに〜ちゃん、優しいのにね?」 横ではそんなことをいっているベアトリスの姿が。 「え!?えとその…あの、ヒスクライフさん!?それに…コンラッド?この人は? グウェンダルの城であっちから召還されたとき風呂場にいた人のようだけど?」 オレの素朴な疑問を含めたといかけに。 「彼は我々が逃げる手助けをしてくれるそうなんですよ。 でもつてこっちは『グリエ・ヨザック』。オレの幼馴染です。 非常時にオレたちを支援するようにとシルクラウドからずっとついていた護衛です」 「よろしこ〜」 陽気な彼の声に。 「無礼なやつですが腕はたつんでたびの間だけは目をつむってください。」 などといってくるけど。 「いや、目をつむるって……。別に普通というかざっくばらんなほうがオレとしてはきが楽だし…… 敬語とか使われるのっていまだに落ちつかないし……オレ。気分的にもさ」 オレの素直な感想に。 なぜか横では苦笑しているコンラッドと。 「おまえはぁぁ……」 などといって、深くため息をついているヴォルフラム。 ヨザック。 と紹介された彼はにこやかにオレの言葉に一瞬目を丸くしたものの、思いっきり笑ってるし。 「ユーリ殿が海賊を懲らしめてくださらなかったら我々は生きてはいませんからな。 どうもシマロンの人は魔族だから、とすぐに処断したがりますが。 私としてはいかがなものかと常々おもっておりましたことですしな。 しかもユーリ殿は信じられないことに双黒の持ち主。 コンラッド殿たちにきけば貴殿は人と魔との共存を考えておられるとか。 そのように考えられる人の上にたつものなど、大変貴重なお人ですし。 これくらいはさせていただかないと我らも申し訳たちませんからな」 などといってくるヒスクライフさん。 いや…オレ、魔王ってばれちゃってるの!? …ま、双黒がバレたら、魔族だってはわかるだろうけど。 …オレが気を失っているときに何かあったのかもしんない…… 目をぱちくりとさせるオレをみて微笑みながら。 「それに娘によくしていただいたこともある。これくらいはしないと我らも申し訳がたたないのですよ」 などといってるし。 「お気持ちはうれしいんですけど…その……大丈夫ですか?」 魔族に加担した。 といわれて迫害されたりはしないんだろうか? それがとても気がかりだ。 「お気になさらず。というかもう一部のものには話しはつけてありましてな。 皆口には出せなくても命を救ってくれた恩人を見殺しにするのはしのびない。と思っているのですよ。 なので、見てみぬふり。またはごまかしてくれております」 要約すれと、オレのところに来ている。 というのは、他の乗客が役人たちをごまかしてくれている。 というところか。 「とにかくるさめる前にこれを腹につめこんでしまいましょう。陛下。いきなり普通の食事は大丈夫ですか? もっとこう病人食から試したほうが……」 「いや!くう!くいますとも!!」 「ほほ。元気のようで何よりです。 それはあなた方の行為を粋に感じて厨房長がこっそりと持たせてくれたもの。 いやぁ。普段何気なく捨ててしまっている物や海水であのような芸術を見せてもらったのは初めてだ。 といってね。かくいう私もその一人ですが」 「??芸術?コンラッド。リサイクル品で何かつくったの?」 オレの言葉に一同の視線はなぜかオレにと集まる。 「……オレ?」 「……まあ、きにしなさんな」 「ですね」 「だな」 「?????」 一体オレが何をやったというんだろう? どこか遠い目をしながら、同時に返答を返してくるヨザック・コンラッド・ヴォルフラムの三人。 ???
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