「大丈夫か?ユーリ?」
「あ。当たり前だろ!?」
そうはいっても、無意識下の体の震えはとまらない。
この沈黙と緊張感が耐えられないほど苦しくて。
「コンラッドが言っていたように、見つかってもむやみに抵抗するな。
  そうすれば奴等は命まではとらない。お前は見目がいいからな」
前を向いたままでいってくる。
「そんじゃ、お前も手をだすなよ?お前のほうがオレより数段にかわいいし。美形だし。
  これだけの美少年を捕まえて斬っちゃえってヤツはそうそういないはずだよ?」
オレの場合は女に間違われる可能性大だとして。
「ダメだ。僕は魔族の武人として戦わずして生き延びることは許されない」
「そんな馬鹿な!!」
「しっ!」
鍵をカチャカチャとする音がしてから、扉が強引にと叩き壊され、誰かが部屋の中にと踏み込んでくる。

「貴重品だけ持ち出されてやがる!もう逃げたんじゃないのか?」
いや、元々貴重品なんてものはないです。
ハイ。
「そんなハズはねえよ。甲板で特別室の客が一組いないって確認したからな。あいつはこの船に詳しい。
  海にでも飛び込んだのなら話は別だが。金持ちの物見遊山の旅行客にそんな度胸のあるヤツはいないし」
…二人だ。
「それにしても、こいつら本当に金持ちなのかなぁ?たいしていいもんもってねぇなぁ」
などと一人がいい。
「けどよ。特別室一泊の料金で三等船室で一年は暮らせるっていうぜ?」
そうなの!?
それってお金の無駄づかいじゃあ!?
…税金の無駄遣い判明。
というか、この旅行代…国民の皆さんの税金から出してませんように……
「ひゃ〜。あやかりてぇ」
「馬鹿いってないで、寝室もさがせ」
ベットの前の床板が一枚きしむので二人がそばまで来ていることが判る。
「そ〜いや、あの勇敢な連中はどうしたよ?」
コンラッドたちのことだ!
無意識に身を乗り出してしまったらしく、爪先が何かにぶつかり。
コトッ。
小さく音がでる。
しまった!
よく時代劇でこういうパターンがあるが、無言で逃げるか動物の鳴き声が定番だ。
よし、逃げられないのならば、ポビュラーな声で。
「に…にゃぁ〜…」
オレの言葉になぜかヴォルフラムがため息まじりに顔を手で覆い。
「ゾモサゴリ竜だ!」
「ゾモサゴリ竜は幼獣でも人間をくうぞ!?二人だけじゃ危ねえ!もっと人をよべ!」
って竜だって?!
ダイナソーの親戚とか?
「まずいぞ。あいつら誤解しちゃったよ!?
  オレがいつ竜の泣きまねなんかしたってんだ!?オレはかわいい猫ちゃんを……」
「猫はメエメエだろ。」
「メエメエは羊だろ!?」
そんな会話をしている間にも、人を呼んだのかドヤドヤとクローゼットの前の気配が多くなる。
「あけるぞ。いいか!?オレがひきつけている間にお前は逃げろ!!」
いいつつ、ヴォルフラムが扉を蹴破り外にと躍り出る。
隣で銀がきらめく。
「ヴォルフラム!ダメだ!」
全開にされた扉から光がなだれこんでくる。
オレの目がくらんでいるうちに、ヴォルフラムは一人の腕を斬り、二人目の腹を掠めていたが。
残る六人は彼の背を狙って巨大な刃…どうみても、半月刃を振りかざそうとしている。
「ヴォルフ!ダメだ!おおすぎる!」
クローゼットの中から身を乗り出して叫ぶが。
「うるさい!」
でも、このままじゃ……
「頼む!ヴォルフ!やめてくれ!!……命令だ!」
オレの強い言葉にヴォルフラムは凍りついたようにと動きを止める。
そして、オレを見ることもなく剣を放す。
カラン。
とベットの上にと剣がおち。
オレたちはそのまま、男たちにと捕らえられ――甲板にと連れて行かれることに―――


ヴォルフラムに小声で指摘され、オレはコンタクトをはずしたままだ、というのに今ごろ気づく。
が。
でもどうしようもないので、とにかくうつむいて瞳の色が見えないようにとしておく。
日本みたいに明かりが明々とは照らされてないので、そうしていればごまかせるだろう。
あるのはランプの明かりだけ。
薄明かりに甲板は照らし出され、見れば先ほどのニューハーフ風呂にいたヨザとか言う人とコンラッド。
そして、この船に乗っていたであろう男の人たちが一箇所に集められている。
男たちは…間違いなく海賊なのであろう男たちに半月刃を構えられて取り囲まれていたりする。
ちらり。
とコンラッドをみると、見つかってしまったか。
というような顔をしているし。
ごめんなさい。
オレのミスです。
はい……

「みなさ〜ん。元気じゃったかのぉ。ご婦人方はそのまま隣に移ってもらおうか。
  なぁに新しい五囚人と出会うまでわしらの船で働きつつ相手をしてもらうけん」
何やらマストの上の見晴らし台の上から男が叫んでるし。
そして、ふとこちらをみて。
「それが特別室のお客さんかの?」
「そうです。親分」
親分…って……
そう聞き思わずそちらを見る。
そのまま思わず絶句。
初海賊なのでものめずらしいものもあるが。
幼児期から思い描いていた海賊とはあまりにかけ離れているし!?
ポビュラーな横じまのシャツでもなく、ピーターパンともカリブの海賊とも。
とある海賊漫画とも違う。
とうぜん、手足がゴムのように伸びたりすることもなさそうだ。
背は低めだが、肩幅が広く胸板も厚い。
ほとんど城に近いシルバーブロンドはもみ上げとあごひげがつながっている。
そこまでは、まあ許せる範囲ではあるが……
きているものが問題だ。
「って!?なぜにセーラー服!?」
思わず叫んでしまうのも仕方ないとおもう。
そりゃ、海賊だって、ある種の水兵さんには違いないんだろうけど。
けどまたどうして、ギャザースカート!?
白と水色のセーラー服!?
しかもスカート短いし!?
足のすね毛でてるしぃぃ!?
「何だ。そのセーラー服とは?」
横でヴォルフラムが聞いてくるけど。
「その二人も高く売れそうだ。つれていけ!あとは子供をもらっていって……そうじゃの。
  男のほうには用はないので船と一緒に沈んでもらおうかんのぉ」
……何?!
「…ちょっとまてぃ!お前ら!?何だよ!?それ!女子供をどうする気だ!?
  というか、船を沈めるとかいうのは海賊としてどうよ!?人を殺すのもダメだし!!
  そもそも由緒正しい盗賊っていうのはそれは違うだろうが!畜生働きこの上ないぞ!?」
オレの叫びに。
「わしら盗賊じゃなくて海賊じゃけん」
セーラー服親父は聞く耳持たず。
「おい!ユーリ!」
横でヴォルフラムが止めてくるけど。
だけど、オレの中の小市民的正義感が、海賊たちを正さないと気がすまない。
オレを抑えている賊の一味の手に力が入るが。
オレにとって、そんなことよりも今は。
「いいか!?人身販売や殺戮強奪などは国際法で禁止ってそんなの小学生だって知ってんだろ!?
  聞いたことがなかったとしてもちょっと考えればわかることじゃないか!!
  あんたは確かに親分で、他の連中よりもえらいかもしんねぇけど!!
  けどそれは仕事上の地位であって、人間としての存在の問題じゃないだろ!?
  すべての人間は平等だぞ!?種族も関係なく!あんたもあの人たちも同じなんだ!
  つまり、この船をいくら占拠したからといつて、あんたたちに子供や女性をどうこうする権利はない!
  無論殺戮なんてもってのほかだ!いいか!よくきけ!
  天は人の上に人を作らず。っていういい言葉がある。いい言葉だから覚えとけ!
  福沢諭吉っていう先生は日本じゃ万札になった偉い人だ!!」
オレの叫びは何のその。
手下らしき男たちが四方に散り、子供たちを親から引き剥がし親たちに半月刃をつきつける。
「オレはこの辺りのこと詳しくないからしんね〜けど!
  まさか他の海賊たちも同じようなことをやってんのか!?
  人としてどうよ!?普通金品だけ奪って危害を加えない。というのが義のある海賊じゃないのかよ!!」
「さ〜て。金になりそうな子供たちをのせたら。この船は海の藻屑とすんかんのぉ。
  安心なさいって。あんたらにはその前に死んでもらうから」
コンラッドのいる大人たちのほうをむいて意に介することなくいっている親分の姿。
と。
「いやぁ〜!!はなしてぇ〜!!」
何か聞き覚えのある声が。
「「ベアトリス!?」」
オレとヒスクライフさんの声が重なる。
あきらめきった女たちがぞろぞろと船からおろされ、手には縄がかけられている。
「いやぁ〜!!放して!おと〜さま!!」
見ればベアトリスを引っ張ってゆく男の姿と、泣き叫んでいるベアトリスの姿が。

「ベアトリス!ベアトリス!」
「黙れ!」
立ち上がったヒスクライフさんにと振り下ろされる半月刃。
それを手をうけているコンラッド。
真剣白刃取りよろしく。
「こっ…のっ!」
他の男がコンラッドに向かって半月刃を振り下ろす。
それをヨザ、という人がどうにかうけとめているけど。
相手は多勢に無勢だ。

船上には悲鳴と泣き声……

もう、堪忍袋の緒がきれた。
ブチッ!
自分で自分の中で何かが切れるのを感じ…
そして。

「やめろ〜!!!」

ドッン!!!

ありえるはずもない。
船上だというのに、衝撃波がユーリを中心に発生して海賊たちを吹き飛ばしてゆく。

それと同時に波は高くないハズなのに、大量の海水が雨よろしく船の上にと降り注ぐ。



ゆっくりと、そのまま歩みをすすめてゆく。
染めていた髪は海水と、力の放出によってすでに元の色にともっどっている。
顔つきすらも多少かわり、髪ものびる。
封印されていたもうひとつの顔が表にとでてくる。
「…ユーリ?」
思わずヴォルフラムが問いかけるが反応はなし。
船のゆれを利用して、コンラッド達もまた海賊たちを払いのける。
船の上だというのに、だんだんと大きくなっている地響きのようなモノ。
原因を求めて周囲を見渡すものや。
ゆっくりとデッキの中央に向かって歩いてゆくユーリの姿をみて声を上げるもの。

黒い髪。
それは彼ら、人間たちにとって、もっとも恐れられているもの。

『魔族!!?』

誰かが叫び。
そして…………



戻る  →BACK・・・  →NEXT・・・