そういえば…… 「そういえばさ。一般の人達が入れるところってどこまでなの?」 ターバンとサングラスをはずしてローブを脱いでここにおいていた服にと着替える。 スピカの服はないけども、それは巫女さん達が用意してくれた。 何でも子供の巫女見習いもいるから子供服の予備はあるらしい。 こちらの服にとスピカも着替え、オレはいつものように制服とほぼかわんない服にと着替える。 ひとまず部屋に通されてテーブルにつき、 出された飲み物をのんでくつろぎつつも後ろのコンラッドにと問いかける。 「だいたい。外側のみですね。気になりますか?」 「だって知っといたほうがよくない?」 知らないから、では済まされない。 オレはいろいろと知っておくべきだとおもうから。 そんなオレの即答に苦笑しつつ、 「なら。あとからご案内しますよ。ギュンター達が到着してから、ですけどね」 「…げっ」 ギュンター達もくるんだ。 まさかまた以前のように勉強ざんまいになるんだろうか…… 「ねぇねぇ。おに〜ちゃん。グレタちゃんもくる?くる? 私ね。グレタちゃんとお友達になりたいな〜。ってずっと話しをきいてからおもってたんだ」 出された牛乳を飲みつついってくるスピカにおもわず苦笑。 「グレタも同じようなこといってたよ。 きっと仲のいい友達になれるよ。あとベアトリスとも」 「そういえば。ちょうど昨日からヒスクライフ氏がベアトリスと一緒にきてますよ?」 そんなオレの言葉に思い出したかのように、にこやかにいってくるコンラッド。 「きてるの?!」 何てタイミング。 「?あれ?でも、何で?」 「新たに眞魔国同盟に加わった国々の話しをかねて。 あと同盟国、それぞれの意見とかをもって。グウェンダルと相談していたはずですよ?」 「それって…オレがやるべきことじゃぁ……」 そりゃ、オレなんかは頼りないし、いつもグウェンダルがやってくれているので助かってはいるけど。 本当はオレが率先してやらないといけないことのはず。 「陛下があちらに戻られて、こちらではあれから十日以上たっていますからね。 それに、噂を聞いた人々が陛下にお会いしたい。とかいってちょっとした騒動になっていますからね。 我々としては陛下の身の安全が第一ですし。 何より天空人の血を引く人物に会いたい、というミーハーな人達が多いですからねぇ……」 いや、ミーハーって…… コンラッド、ところどころに地球で学んだ言語をいれてくるよな。 そういえば、こちらでのミーハーという意味合いの単語はどういうんだろう? 「それでなくてもベラールがこのまま大人しくしている。とはおもえませんしね。 彼も手をこまねいているままだとは到底おもえません。 かなり焦っているはずですしね。陛下が天空人の血をひき、男にも女にもなれる。
というその事実がどうもベラールにまで伝わってしまったようなんですよ。 それゆえに我々としても気をひきしめているところなんですけどね。警戒は必要です」 そういえば、例のヴァンダー・ヴィーア島の大シマロンによる人質まがいな留学提案以後。 同盟国、結構増えてきているしなぁ。 中には同盟だけでなく和平条約を結んでくれた国もあったし。 フランシアと同盟を結んだときは、いまだに翼がしまえずに幻術でごまかしていたんだけど、 なんでか見せてほしい、とせがまれたので幻術を解いてみせたりもしたけど。 …オレの翼ってそんなに珍しいものなのかなぁ? 謎だ…… まあ、翼をもった人なんて滅多にいないだろうから物珍しさもあるんだろうけど。 「とりあえず。陛下にはあちらに戻れる準備ができ次第。お戻りいただくようになるとおもわれます。
こちらでは突発的に陛下の御力が解放されかなないことがおこりえますが、 日本ではまずありえませんから。陛下だってまた女性になるのはイヤなんでしょう?」 うっ! 「そ…それは確かに……」 やっと男に戻れたのに…ねぇ…… 何だか言い含められている気もしなくもないけど。 ひとまずオレの体の状態を安定させるのに一、二カ月くらいはゆっくりと日本で過ごしたほうがいい。 というのがアンリ、そしてエドさんをも含めた意見だったらしい。 ……だから、オレ、聞いてないってば…… なんかオレの知らないところでいろいろと話しが進んでるよなぁ…… それって絶対に間違ってるぞ? ともあれ、そんな会話をしつつも、 オレがあちらに戻ってからのことをコンラッドから報告をうけることしばし。 カラ〜ン、カラ〜ン…… 『エンギワル〜!!』 外より響く鐘の音と、目ざまし鳥の鳴き声が。 時計をみればいつのまにか時刻は昼だ。 それとほぼ同時。 「陛下っ!!」 「ユーリ!!」 何やらバタバタと足音がしたかとおもうと、見慣れた人物が二人、部屋の中とはいってくる。 「やっほ〜。ギュンター。ヴォルフラム。元気?」 そんな二人に話しかけるオレに、 「お前なぁぁっ!…ってこの子は?」 何か文句をいいかけて、オレの横のスピカに気付いてきいてくるヴォルフラム。 「はじめまして。しぶやすぴかです。いつもゆ〜りおに〜ちゃんがお世話になってます!」 いって元気よく片手をあげていっているスピカの姿がそこにある。 「しぶや…スピカ…って?!陛下がよくお話なされている養父母殿の娘さん!?」 それを聞いてギュンターが驚きの声をだしてるけど。 「まあ。今のユーリなら他のものを巻き込んでの移動が可能でもおかしみないな」 何やら唸るようにいっているヴォルフラム。 「…ど〜いう意味だよ……」 思わず抗議の声をだしてしまう。 まったく人を歩く迷惑みたいに…… 確かにそうかもしれないけどさ…… 「まあまあ。二人とも。事情はともあれ。今回は陛下の妹御もこうしていっしょにきているんですし。
あまり子供の前で言い争いは…ね」 苦笑しつつもオレとヴォルフの間にはいってそんなことをいってくるコンラッド。 まあ確かに一理ある。 何はともあれ、とりあえずお迎えもきたわけだ。 後は少しスピカにここを案内しがてら見学してそれから城にもどることにしよう。 うん。
話しをきくとオレが前回、あちらに戻ってから約十日くらいたっているらしい。 登校日が八月の十日だったし。 ハイキングに出たのは八月十二日だ。 前回、こっちにきたのが八月二日だったし…… それは日本の時間率だけど。 こちらの時期とすればもうすぐ春らしい。 それでもいまだにちょっぴし肌寒い。 オレがこっちにきだしてこちらの時間的にいえば一年が過ぎもうすぐ二年目だ。 何か一年目はかなりバタバタし、前回滞在していた半年以上の間もバタバタして…… 何かあまり実感ないけど。 少しも王サマらしいことはひとつもできていないような気がするのは…オレがまだまだだ、という証拠。 眞魔国派同盟、と名づけられた同盟国や、 それに伴って有効和平条約を結んでくれた国々はすでに二十カ国を超えている。 何か以前、オレが大シマロンの手から子供たちを成り行きで助けた経緯で 一気に同盟国がかるく十カ国以上増えたようだけど。 様々な国の伝統挨拶をすべて把握するのはなかなかに難しい…… 四つある、という禁忌の箱は残すはあとひとつ。 鏡の水底、とよばれているやつが一番厄介だ、とかアンリが云々いってたけど。 よく意味がわからない。 何か負の力を吸収しすぎて分身を創ってるのなんだのといってたけど。 オレとしては?状態だ。 そういえばサラレギーはどうしてるんだろうか? 元気かなぁ? 兄弟なかよくしていればいいけど。
「「「わ〜!!」」」 …なぜかいつもより大歓声。 しかもいつもより明らかに人が多い。 こちらからしてみれば十日と少ししてから戻ってきたという短い間隔のはずなのに。 毎度の出迎えよりもさらに何か大騒動と化しているのはなんでだろう? 「…な、なんか。いつもより人…おおくない?」 思わず城下町の門をくぐってびっくり仰天。 何しろ今日は門の外までなぜか人々が山だかりと化している。 今まで幾度もこっちにきているけど、こんなに大騒ぎにはならなかったぞ? アオにまたがり後ろをついてきているコンラッドに思わず問いかける。 「すご〜い。ユーリおに〜ちゃん。人気あるんだね〜」 などと一人、コンラッドの前にすわってきょろきょろと周囲をみていっているスピカ。 「いや。これにはオレもびっくりだってば。す〜ちゃん」 というかこの人だかりはなんですか?! 「皆、陛下のお姿を一目みようとやってきているのですよ」 「何しろ陛下に会いたいがために国境付近や国外からも来訪する人々が増えてますしね」 そんなオレの言葉をうけて後ろからそんなことをいってくるギュンターとコンラッド。 「…何で?」 どうしてそこまでする必要があるものか判んない。 相手が有名人とかならともかくとして。 「…陛下〜。陛下はこの国の王で、しかも人間と魔族。 いや、すべての種族との共存をこの世界に示していらっしゃるのですよ。 そんな偉大なる陛下に会いたい、と思うのは当然でしょう?さすが我らが陛下ですっ!」 偉大…って……普通、誰でも皆となかよく暮らしたい。 とおもうのは当然だとおもうけど。 ギュンターはいつも大げさすぎるとおもう。 絶対に。 「しかもお前が男にも女にもなれて。銀の翼の持ち主だ。と世間に知れ渡り始めている。
ゆえに過剰な期待をして一目会いたい、というものもいるだろう」 淡々とギュンターに続いていってくるヴォルフラム。 だからなんで翼があるくらいでそんなことがおこるわけ? 謎すぎる。 「…そんなもの?というか期待されても……」 もう翼があるのは事実なんだから仕方ないと割り切るとしても、なんだか実感がない。 おそらくこの世界にも翼をもっている種族も、また男女にもなれる種族もいるだろうに。 何しろここって地球とは常識かけ離れすぎてるしなぁ。 いない、とは言い切れない。 しかし期待されても困ってしまう。 なんだかかなりのプレッシャーだ。 そういえば、前回滞在している期間中…民の中にオレの姿をみたら幸せになれる。 とかなんともとんでもない噂がたってたっけ…… 一体どこからそんな根も葉もないうわさが出てくるのやら…… 何かよくあるアイドルや芸能人などのファン殺到…に似てなくもないかもしんない…… おっかなびっくりしつつもともかく、コンラッド達とともにスピカも連れだって血盟城へと戻ってゆく。 しかし…この人だかり…何か恐縮を通り越して何といっていいものか…… いつもの数より最低数倍は人…多いぞ? ひと月に2度、というか十日に一度。 第二、4週目の6日目に一般対談を設けた、というのももしかしたら人が多い理由の一つかもしんない。 オレがいないときはグウェンダルかギュンターがかわりに対談してくれているらしいけど。 危ないことに屋根の上にとかまで上がってこっちに手を振っている人々の姿も垣間見える。 …あぶないよ〜?お〜い?? ……こっそりと国民の皆さんとかに伝えずに城に戻ったほうがいいんじゃあ? いつも思うことだけど。 何でいつも毎回、毎回こうパレードみたくなってしまうのやら。 …いつかけが人でもでたらそれこそ大変だ、というのに…さ。 警備に当たる兵士さん達もまた大変のはずである。 なんでか毎回、提案するのに却下されるというか言い含められるんだよなぁ。 そのことに関しては。 まあ懲りずにいく度も提案してみよう。 ウルリーケによると、エドさんがただいま留守のため、道をつなぐのが時間がかかる、とか。 オレの力を使えばすぐにでもできるらしいけど。 オレ、移動の仕方というか移動する力の使い方判らないし。 魔王としての力とかはある程度コントールでき始め、 翼も自由に出し入れできるようにはなってるけど。 時空移動みたいなことはやったことないし。 空間移動は多少はでき始めたよ〜だけど。 それすらもまだ不完全だ。 あまりの歓迎ぶりに何か自分は何もしていないのに… といった思いから人々に対して申し訳ない気持ちになってしまう。 そうこうしつつもようやく城下町を抜け、そのまま城に続く長い道をすすんでゆきそのまま城門をくぐってゆく。
「ユーリ!」 城門をくぐり、馬を操ることしばし。 馬を下りたオレの耳に聞きなれた声が。 「グレタ!」 みれば建物の中から駆け出してくるグレタの姿が。 そのままグレタはオレに飛びついてきてるけど。 そしてふとコンラッドに馬から下ろしてもらっているスピカに気付いたらしく、 「ユーリ?もかして…?」 きょん、と首をかしげてきいてくる。 く〜、かわいい。 グレタには家族の写真をみせているから姿をみてわかったらしい。 そしてまた、スピカのほうも、 「ユーリおに〜ちゃん?この子がグレタちゃん?」 とてとてとオレに近づいて問いかけてくるスピカの姿。 そういえば、互いに初対面…だよな。 スピカもグレタも。 当たり前だけど。 「あ、グレタ。スピカ。紹介するね。こっちがオレの娘のグレタで、で、こっちが妹のスピカ。 二人ともこれが初対面、だよね」 いいつつも二人の背中に手をおき交互に話しかける。 グレタはただいま十歳だ。 スピカはこの冬で十歳になる。 同い年、もしくはグレタのほうがひとつ上…になるのかな? 今の段階だと。 その他の兵士はといえば、 「あれが陛下の養父母様の娘御…」 などといっている声もちらほらときこえてきてるけど。 …だから、妹だってば。 しばし二人、顔をじっと互いに見つめ合い、そしてにっこりと、 「はじめまして。グレタちゃん。いつもお話はゆ〜りおに〜ちゃんからきいてます! 私、スピカ!」 「はじめまして。スピカちゃん。いつもユーリにお話しきいてるよ!私、グレタ!」 いって二人は互いに握手をしているけど。 どうやら二人の初印象はよかったようだ。 いきなり喧嘩とかになってもこまったけど。 ま、グレタもスピカもものすっごくいい子だしそんなことはしないだろうけど。 そんなことを思っていると、 「ね。ユーリ。私、スピカちゃんにお城の中のご案内してあげてもい〜い?」 「ほんとう!?」 …何か二人していきなり意気投合してるし…… オレとしては何かつまはじきにされたみたいでさみしいぞ…グレタ…スピカ…… 「あ。オレも」 「陛下。陛下にはまずたまっているお仕事をお願いいたします」 がくっ。 「…ギュンタ〜……」 いいかけるオレの言葉をさえぎりギュンターがにこやかにいってくる。 「まあまあ。とっとと仕事を済ませればお二人と一緒に行動できますよ。陛下」 「コンラッド。だから陛下ってよぶなってば。…へいへい。わかりましたよ」 コンラッドの言葉に突っ込みをいれ、がっくりと肩を落とす。 「これも魔王のお仕事です」 そんなオレにとにこやかにいってきているギュンター。 「だ〜。わかってるってば!」 毎回、毎回同じことをいわなくても理解してるってば。 いつもと同じやりとりをしつつ、ひとまずオレ達もまた城の中にとはいってゆく――
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