とりあえず、さすが巡礼用の中間地点の村。
村の構造は中心に大きな道がありその左右に家が並んでおり、それらが奥にいくつか続いている。
そんな道の途中にお店があり、そこでちょっとしたローブを購入。
山の中なので寒いこともあるらしく、そういったものがおいてあるらしい。
普通の服の上からそのローブを着込むと他の巡礼者達と違和感がない。
ただいま、腕の時計が示している時刻は七時半。
いつもなら通常日だと学校にいくのに家をでるころだ。
目の前に広がっている緑はどこまで続いているのかわからない。
自然が豊かな証拠だ。
いまだに濃い朝靄がかかり空気もひんやりして気持ちがいい。
「おに〜ちゃん。人いないし。飛んでいこ?ね?上からみてみたいっ!」
なんでか横ではスピカがおねだりモード……
・・・・・・はうっ……
瞳をうるうるさせてみあげられたらダメ、とはいえなくなってくる。
ま、まあ確かに氏優位にはまだ人の気配はないし。
何より山越えするのはスピカの足ではきついかも……
何しろ一応、街中育ちだし。
宿でみた地図によれば眞王廟はこの反対側。
道らしい道は一本しかなくあとは木々が鬱蒼と茂っている。
確かに山を旋回して飛んで行ったほうが近いし何よりも歩いて道に迷う、ということもない。
この霧の深さでは道に迷うこともありえなくもない。
霧はみたところ下のほう…地面に近い所だけらしいし、霧をさけていくのもいいかもしんない。
「しょうがない。スピカ。しっかりつかまってろよ?」
「わ〜い!お空のお散歩!」
「…人に気付かれたら面倒だから。お願いだから大きな声はださないでね?」
スピカを抱き上げ、周囲を確認しそのまま翼を出現させて高く舞い上がる。
木々より上にと舞い上がるとさすがに朝靄はかかっておらず、くっきりと周囲や遠くの景色がみえてくる。
「わ〜…すっご〜い……」
スピカがそれをみて思わずつぶやいているけども。
たしかに景色は絶景だ。
とりあえず…と。
「え〜と…眞王廟は…と……」
くるり、と見渡すと何やらそれらしき建物がちらり、と視界にはいってくる。
どうやら斜め上方向に飛んでいけば近いらしい。
「霧が晴れそうになったらおりるからね?」
「うん。わかった」
そのままスピカを抱きかかえたまま、眞王廟があるであろう方向にと飛んでゆく。
風がとっても気持ちいい。
はしゃぐスピカを落とさないようにするのが大変だ。
しばらく飛んでいると視界にみえる下のほうの霧が晴れだしてくる。
「スピカ。そろそろおりるよ?」
「え〜?もう?」
なんか不満そうにいっくてるけど。
「見つかっちゃったら騒ぎになるってば」
しぶるスピカをなだめて道の近くにある木々の合間に降り立ち翼を引っ込める。
ちなみに周囲に誰もいないのは確認済み。
そのまま道にでると、
道のもう少し先に見慣れた建物の一部が薄くなっている朝靄の中に見え隠れしているのが見て取れる。
踏みならされてところどころに石がきちんと敷き詰められている道にと出て歩いてゆくことしばし。
やがて人々の姿が見えてくる。
どうやらみなさん、参拝者のようだ。
ここって裏なのか表なのかはわからないがとにかく入口のひとつなのだろう。
いっつもオレは同じ入口を通っていたけど。
参拝者の姿なんて見たことないし。
たぶん関係者専用通路だったのだろう。

「早くから眞王陛下への参拝。まことに御苦労さまです。
  皆さま。受付で署名をお願いいたします。万全を期して戻られるとき振り返ってチェックいたしますので。
  男性の方はひとまず一般の方でも簡単な検査を行います」
何か朝も早くから叫んでいる視子さん達の姿が目にとまる。
見た限り、身知った顔の人はいないらしい。
知ってる人がいたら話しは早かったのに。
城方向から以外でここにくるのは初めてだ。
とりあえず中にはいって知っている人を探して話しをしたほうが早そうだ。
そんなことを思っていると。
「はい。早く並んでくださいね」
なんか見回りにきた女の人にそういわれるし。
「あ、はい」
とりあえず素直に従おう。
もうここまでは来てるんだし。
受付は四か所に分かれており、どこでやってもいいらしい。
よく奥のほうでみる巫女さんや兵士さんの姿は見当たらない。
一般向けと奥神殿とでは勤務が違うのかもしれない。
「?おに〜ちゃん。ならぶの?」
「らしいよ?」
「?」
スピカと会話するオレをちらり、とみて首をかしげている女兵士さんの姿。
やっぱりみたことない人だ。
オーラの色がこの人達、何語はなしてるの?
人間かしら?
などと思っていることをひしひしとオレに伝えてくる。
あ〜…そういや、同盟を結んでから人間の参拝者も増えたとかいってたっけ?
どうりで今、ここにきている人達は様々なオーラをもっているわけだ。
「こちらにお名前と。お連れの方がいる場合。そちらの名前と続柄。そして来訪目的を」
事務的に一枚の紙を手渡してくる受付の視子さん。
ここ、受付で髪をもらい少し先にあるテーブルの上で記入して入るときに渡す仕組みらしい。
「どうも」
戸惑いつつも紙をうけとる。
…うっ!
字…こ、細かいし……
えっと…全部読めるかなぁ?
う〜……
どうにか読みつつも指定されたところに名前をかいてゆく。
来訪目的?
…何てかこう?
とりあえず相談目的…にするとして。
単語の文字がわかんない…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
ええいっ!ままよっ!
日本語でかいてやるっ。
まだオレ、文字の語学が完璧でないもんな〜……
こっちの言葉って難しいんだもん……
見たところ、この場では紙に書かれた内容をチェックしてないようだし。
あとでまとめてチェックするんだろう。
とりあえず入口にいる人にと書いた紙を渡すと、木の番号札を渡される。
みれば何か色がついている。
木の番号と色らしきものを紙を渡した人が記入している、ということは、
きっとこれで全員外に出れたかどうか確認をするのだろう。
何しろここ、広いしな……
一般に開放しているのがどれくらいの広さかはしらないけど。
とりあえずそのまま他の参拝者と同様に流れのままに建物の中にとはいってゆく。
中でしばらく待たされるようだ。

今、どの部分にいるのか知るために、案内係りがいないか探してみる。
…いない、とはおもうけど。
デパートとか、ちょっとした観光施設ならば日本ならば必ずそういった箇所や人はいるのに。
「おに〜ちゃん。ここにあのウルリーケっていう子がいるの?」
「ウルリーケは大概、託宣の間にいるらしいからねぇ。
  しかもこの廟の奥の部分…というか中央付近だろうし。ここからどうやっていけばいいんだろ?」
スピカに問いに答えるオレに、
「きいてみれば?」
きょん、とした表情でスピカはいってくる。
「でもさ。オレ本人だって証明する自信ないよ?」
そもそも証明なんてできるのだろうか?
「翼だしたらすぐにわかるとおもうけどな〜」
「…他の人の目があるって。ともかく。誰か顔見知りの人がいないか探してみるよ」
それにターバンにサングラス。
そして全身を覆うようなローブ。
サングラスはたまたまウェストポーチにいれていたのでかなり助かった。
自分でもこんなアヤシイ格好をしているヤツを警戒しないほうがおかしい、とおもうし。
他の人とともにしばらく進んでゆくとちょっとした広間にとでる。
どうやらここで簡単な身もと調査などが行われるらしい。
中にはよからぬ目的で、ここ眞王廟にくる輩もときどきいる…と以前ウルリーケから聞いてるし。
おそらくそれらにたいする対策なのだろう。
ふとみれば、何やら兵士達が廊下のほうでバタバタ走っている姿も見て取れるけど。
…何かあいかわらずみなさん、お疲れ様、状態だ。
チロルチョコとかなら全員分くらいかってこれるかな?
あ、でもビニールなどのゴミをこっちで作りたくないしな〜……
とりあえず番号を呼ばれるまでひとまず待機。

待機することしばし。
と。

「あら?ユーリ君?」
「え?」
人ごみの中にいたら万が一、髪と瞳の色がバレると厄介なので入ってきた入口付近で休んでいると、
入ってきた別の参拝者から声をかけられる。
みれば、
「あれ?ティアラさん?それにアベルさんや子供たちも。もう熱は大丈夫なんですか?」
どうやら遅れてやってきたらしいアベルさん夫婦がオレに気付いて声をかけてくる。
多分あれから馬車でここまできたんだろう。
それにしてはヤケに早く彼女達もたどり着いてるよな〜。
そんなオレの問いかけに、
「それは。おかげ様で。それより……」
何かティアラさんがいいけると、つんつんとスピカがオレの服をひっぱってくる。
「?スピカ?」
「オトイレ!」
「…げっ!?」
ちょっとまて!?ここってトイレ…どこ!?
思わず硬直。
「ってぇ〜!?ここ、イトレどこ!?ってスピカ、ちょっと我慢してね!」
ここのコト、というか間取りはまったくわかんないし。
「あ、すいません!近くのお手洗いはどこですか!?」
とりあえず廊下をバタバタと走っていた手近にいた巫女さんにと叫んでといかける。
「この先を曲がって右に…って!?今の!?」
「この先を右だって!スピカ!いくよ!」
「ありがとうございます!」
何かはじかれたように振り向いてくる巫女さんにお礼をいい、スピカと一緒にかけだしてゆく。
…あれ?
今の子、どこかでみたような?
…きのせいかな?
今は何よりもトイレが先だ。
広間の横の廊下をつっきり右にと曲がる。
そこからは何か四方八方へと道がのびてるし……
「わ〜!?」
この道のどれ!?
思わず頭を抱えてしまう。
と、運よく前のほうから二人の女の兵士さん達の姿が歩いてくるのがみてとれる。
ラッキ〜!
「あ。すいません!お手洗いどこですか!?妹が急にもよおしちゃって!」
そんな二人に話しかけると何やらびっくりして立ち止まっている二人の姿。
「おに〜ちゃん……」
もじもじとしはじめているスピカ。
あまり時間はなさそうだ。
「もうちょっと頑張って!スピカ!」
しばし二人兵士さん達は戸惑いつつも、スピカの様子をみて余裕がない、とわかったのか、
「仕方ありませんわね。近いところは一般人は入れないのですけど…こちらです」
いいつつも案内してくれる。
た、たすかった〜。
「ユーリ君!?スピカちゃん!?」
ふとみればなんでか後ろからティアラさんがおいかけてくるけども。
『ユーリって……』
そんなティアラさんの言葉に顔を見合わせている兵士さん達。
見た目はタチくらいかそれより少し下、というところ。
実際年齢は…考えまい。
「あれ?ティアラさん?一体?」
なんでおいかけてきたんだろう?
「夫が万が一のことがあるかもしれないから、ついていけって……」
とまどいつついってくるティアラさんだけど。
ぐっ。
「…そりゃ、たしかに方向音痴ですけど……」
少し一緒に行動しただけで、見抜かれていたわけ?
オレが方向音痴だって。
…なんだかなぁ〜……

とりあえずティアラさんも一緒に一番近い、という手洗い所にと移動する。
女の子専用なのでオレは外でまつことに。
スピカの言葉が通じない旨は一応、兵士さん達に伝えるとなぜか二人は戸惑い顔。
もしかして…とおもいつつ、日本語を話せたらそれで、といってもダメだったし。
結果。
ティアラさんが子持ちゆえに扱いは慣れているから…とスピカをつれてトイレに一緒にはいってくれた。
「たすかった〜。どうもありがとう。二人とも」
ひとまず安心。
なので女兵士さん二人に頭をさげてお礼をいう。
あ、そだ。
「えっと。助かりついでにここって眞王廟のどのあたりですか?」
ここって血盟城ほどではないにしろ、広すぎていまだにわかんないし……
問いかけ小さくつぶやくオレの言葉が聞こえたのかなぜか目を丸くしている二人の女の子。
『血盟城って…それに……』
何かいいかけてるけど。
と。
何やら廊下の先が騒がしくなり、みれば数名の女の人達が何かいいながら小走りに走ってきている。
そして――
「陛下っ!!」
・・・・・・あれ?
な〜んか、聞き覚のある声がその集団の中からしているし。
…えっと?
それと同時。
「ユーリ!!」
何かその後ろのほうからこっちら向かって走ってくる人影ひとつ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「ってコンラッド!?」
何でどうしてコンラッドがここに!?
見ればオレにむかって走ってきてギュッとオレを抱きしめるコンラッドと。
そして巫女さんや兵士達にと囲まれたウルリーケの姿があったりするし。
「って、コンラッド!くるしいって!」
おもわずじたばたしてしまう。
何も強く抱きしめてこなくても……
「あ。すいません。でもよかった…ご無事で……
  ……心臓が止まるかとおもいましたよ。お怪我はありませんか?」
パタパタ。
ペタペタ。
何かペタペタと体をさわって確かめてくるし。
え〜と……
「というか。なんでコンラッドがここに?それにウルリーケも?
  オレまだどうやって連絡をとろうか考えていたのに?」
コンラッドと、そして後ろにいるウルリーケにと問いかける。
「それはこちらの台詞です!
  陛下の御力が不安定なのであちらで安定するまではおよびしないことにしてたのにっ!」
・・・・・・へ?
「そうなの?」
初耳だ。
コンラッドがオレを離すのとウルリーケが近づいてくるのはほぼ同時。
「コンラッドから何か陛下が近くにいるような気がする。と昨夜訪問があって。
  あわてて調べましたら…陛下。こちらにいらしているのですもの……いつの間にか」
オレの横にきてそういってくるウルリーケ。
「え?やっぱりよんでなかったの?んじゃ、無意識にこっちに来たのかなぁ?翼だしてたし」
オレのそんな素朴な疑問に、深くため息をつき、
「陛下が御力を発揮されている場合。
  その御身は光につつまれて詳しい場所を特定できないんです。
  こちらにいらっしゃることは判ったものの光が強すぎて何もみえませんし……」
そんなことをいってくるウルリーケ。
「そもそも。陛下はもう自力で血盟城に瞬間移動できるでしょうに。なぜ……
  朝方。ニルファーレナ様から連絡があってこちら向かっている。というので探していたんですよ!?」
オレに怪我がないことを確認してほっとした表情で説明してくるコンラッド。
…やっぱし連絡いれてたか。
なんで大精霊達ってこうも過保護なんだろう?
しかし、コンラッド、オレが近くにいるような気がしたって…ものすごい勘だなぁ〜……



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