「す〜ちゃん。オフロいいよ?」
「は〜い!」
朝風呂に入るのはスピカとお袋の日課みたいなもんだし。
オレの言葉をうけてスピカは風呂に。
…さって…と。
スピカがオフロにはいっている間に…と。
「・・・・・・・・・・・で?」
さっきから気配を感じている存在が二つ。
気のせいでも何でもなく、ベットに腰かけ問いかけるオレの言葉と同時。
ベットの横のテーブルにおいてあった水が柱となり小さな人型を創りだす。
それと共に部屋に透明な人型も出現する。
「どうしたの?シーラ?ニルファ?」
そこにいるのは水と風の大精霊の二人。
『どうもこうも…どうなさったんですか!?』
『地球にお戻りになっておられたはずでは!?』
何か口ぐちにいってくる。
「オレにもわかんないって。な〜んか自分で無意識にこっちにきちゃったみたい。妹といっしょに。あはは」
そんなオレの言葉になぜか、
「「…シル様ぁ〜…笑いごとでは……」」
なぜか二人して異口同音。
「それにしてもよくわかったね。さすが大精霊」
『シル様は私たちの力をお使われになられましたから…もう、びっくりして……』
それでわざわざ出向いてくれた、というわけか。
なんだか恐縮してしまう。
「大丈夫だって。心配してくれたの?ありがとう。
  だけどいつも何かたよってばかりも悪いから呼ばなかっただけだし。
  今から眞王廟にいってエドさんに戻れるようにたのむって」
そんなオレの言葉にしばし顔を見合わせ、
『…あの?シル様?今エド様は地球に出向いていらっしゃいますが……』
・・・・・・・・・・・・・・・・
「は?」
思わず目が点。
「…まじ?」
ってことはすぐに戻れないってこと!?
でも何で地球に?
『ウルリーケ殿もそれをしっておられるので、昨夜の瞑想は取りやめになっていたようですが……
  まさか、シル様がこちらに来られてるなんて知ったら…急いで連絡を……』
申し訳なさそうにシーラがいったあとに、ニルファも戸惑ったようにそんなことをいってくるけど。
「別にいいってば。どうせ今から眞王廟にはいくんだし。いつも頼ってばかりじゃ悪いしね。
  ニルファやシーラ、それにフレイやアスラ達にはいつも世話になりっぱなしだもん」
強大な力をもっているはずの、しかも四大元素を従える精霊の王だというのに。
オレなんかのためにいつも力を貸してくれて感謝してもしきれない。
『しかし……』
それでもさらに心配そうにさらにいってくる。
「オレは大丈夫だって。だから心配しなくてもいいよ」
そんなオレの言葉にしばし顔を見合わせた後、なぜか軽くため息のようなものをつき、
『…そこまでいわれるのでしたら…ですが、用があるときはすみやかにお呼びくださいませ』
『シル様。私たちに気がねなどせず、いつでも用があれば申しつけくださいませ』
いってなぜかお時儀をしてくる二人の姿。
だからなんで大精霊ともあろうものがそうもいってくるの?
ねえ?
と。
「?おに〜ちゃん?何ぶつぶついってるの〜?」
風呂の方からスピカが声をかけてくる。
「なんでもないよ。それよりスピカ。お湯加減は?」
「ちょうど!そろそろでるね〜!」
「しっかり体はふくんだぞ〜?」
「は〜い!」
そんなオレとスピカのやり取りをしばしききつつなぜかほほ笑み、
『シル様。本当に用があるときはいつでもおよびくださいませね』
『念のために出発時はついていかせていただきます』
ニルファとシーラが交互にいってくる。
「…大丈夫だっていってるのに……」
なんか精霊達もものすっごく過保護なんだよな〜……不思議なことに。
何か昔あったのかもしんない。
たとえば死んだ母さんにオレのことを頼まれていたり…とかさ。
何しろ産まれたときにあっているらしいし。
大精霊達とオレの両親は。
そんな会話をし終えると同時、再び現れたときと同じく姿を消す二人。
だけどニルファは外に満ちている霧から気配を感じるし。
シーラに関しては空気に混じって存在しているのがまるわかり。
……大精霊っともあろうものがオレなんかにかまっててもいいの?
ねえ……

「おに〜ちゃんもはいる?」
「いや。オレはいいよ」
二人が姿を消してしばらくしてスピカがオフロからあがってくる。
簡単に風呂場をきれいにして使ったタオルなどもきちんとオケで手洗いし、
風を起こして乾かしてたたんでおく。
とりあえず時計をみればそろそろ六時だ。
外も何やら人の声がし始めている。
「少し早いけどご飯たべてでよっか?スピカ?」
「うん!」
とりあえずざっと部屋を片付けてチェックアウトできる体勢にして、
宿の一階の食堂にと少し早いけど朝ご飯を食べに行く。

朝も早い、というのに食堂には数人の客。
何か数人の男性グループがオレとスピカのほうをみて戸惑いまくっているけども。
…何か恐れているような?
オレ、別に何もしてないけどなぁ〜?
気になったことといえばなんでか部屋のかんぬきが朝、はずれていたけど。
きちんと締めていなかったっけ?オレ?
それか朝、無意識にあけたか。
たぶん後者だろう。
鍵をあけるのが習慣づいてるからなぁ…オレ、いつも家で。
モーニングセットを二人前頼み、飲み物はミルク。
牛乳の味はあちらもこちらもかわりない。
日本と同じくこちらの牛乳にもいろいろ種類があるらしいけど、それはいずこも同じであろう。
頭にターバンを巻いた状態での食事。
まあ顔はしげしげとみられない限りあんまりバレないだろう。
しかし、エドさんが留守……となると、オレ、自力で戻る方法なんて知らないよ?
できるらしいけどやりかた、わかなんいし……
ご飯をたべおわり、食事代を払っていると何やらバタバタと人の走る音が。
思わずそちらをみると、何か昨日のティアラさんがあわてた様子で走っており、
そのままフロントの人に何やらいっている。

「ティアラさん。どうかしたんですか?」
どうもただ事でない様子。
ひしひしと切羽つまったオーラがティアラさんから感じ取られる。
そんなオレの問いかけに、
「あら。君はユーリ君。だったわね。ちょっと娘が熱をだしちゃってね」
オレに気付いてとまどいつつもいってくる、昨日オレ達を助けてくれたティアラさん。
「熱…って……」
昨日はそんなそぶりはまったくなかったけど。
「疲れ、だとはおもうのよ。でもお薬は高いし……」
何かそんなことをいってるけど。
どこの世界も子供は突発的に熱をだしたりするもんだ。
「あの〜?ちょっとした病気とか怪我とかならオレ、多分治せますよ?みてみましょうか?」
そんなオレの言葉に目を見開き、
「え?ユーリ君…癒しの力をもってるの?癒し手の一族なの?」
何か驚いたようにいってくる。
「いや。そうじゃないですけど。…多分。でも多少は治せるとおもいますよ。
  というかこの前両方の回復術。どっちも使えるようになったし……」
伊達にこちらで長期滞在していたわけではない。
それらの力の使い方は一応こちらでしっかりと練習済み。
「両方って……」
「患者の治癒力を高めていきる力を引き出して治すパターンと。
  あと大自然の治癒力を直接たたき込んで治すパターン。この二つですけど」
ちなみに前者のほうは当人の体にも結構負担がかかるらしい。
それに意識がもうろうとしていたり、生きる力がなかったりしたら効果はない。
後者のほうはいろいろと応用がきき、一気に叩き込む方法とじんわりと流し込む方法がある。
ちなみにじんわりと力を流し込んだほうが体の負担もはっきりいって極力少ない。
一種の簡易的な栄養剤の点滴に似たようなもの、ととらえればほぼ間違いない。
オレの言葉になぜか目を見開くティアラさんとフロントに座っている人。
何か二人からは驚きのオーラがでてるけど。

「ユーリ君。それって……」
「とにかく。昨日助けてもらったお礼もありますし。オレでよかったら治しますよ?」
そういうオレの言葉に戸惑いつつも、
「本当に…できるの?」
なんだか信じられないように再度聞いてくる。
「ええ。…多分」
一応、多分、ということばはつけておく。
「あ。部屋はどこですか?」
何か戸惑っているティアラさんに問いかけると、フロントに座っていたお姉さんがかわりに教えてくれる。
「?おに〜ちゃん?」
「何か娘さんが熱がでたんだって。
  出発はレオナを治してからにしてもいいかな?スピカ」
つんつんと服のすそをつかんで問いかけてくるスピカの視線にあわせて問いかける。
「おに〜ちゃん。そえいえば病気とか治せるようになってるしね。うん。いいよ!」
視線をあわせるようにしてかがんでいたオレにとにっこりと笑って答えてくるスピカ。
この笑顔は誰にも負けない。
というかグレタと同じくらいにとってもかわいい。
以前はスピカほどかわいい笑顔の持ち主はいない、とおもってたけど。
グレタを養女にしてからはグレタもおなじくらいかわいい笑顔の持ち主だ。
と常々感じている今日この頃。
とりあえず、
なぜか戸惑っているティアラさんを促してオレとスピカはティアラさん達が泊まっている部屋にと移動する。

ベットではレオナが苦しそうに横になっている。
額には布。
昨夜、熱がでて朝になってもさがらないとか何とか。
とりあえず冷たい水で頭を冷やさないと。
ついこの前覚えたばかりの応用技でちょっとした大きさの水の球体を創り、
それをタオルでくるんで額にとのせる。
この術で便利なのは水がじんわりと布に伝わり、しかも形がくずれることもない。
水が上下したり、またこぼれ出したり、ということもない。
いわば簡単な水枕のようなもの。
タオルの周囲に薄い空気で膜をはっておけば水が他にこぼれることもない。
いわば自然の水枕。
水がこぼれない、というのがかなりのポイントだ。
ちなみに水がぬるくなったりすることもない。
それをみてなぜか絶句しているティアラさん。
心配そうに部屋にいたディーノに聞けば、アベルさんは医者を探しにいったらしい。
なんでも兵の駐在所に。
癒しの力が使える人がいないかききに。
スピカにオフロから桶をもってきてもらい水を張って別のタオルをつける。
このタオルで汗をかいている顔などをふくとして。
あとはとりあえず脱水症状すら起こしかけているようなのでとにかく水を口に含ませのまさせる。
ちなみに部屋に備え付けられていたコップらしきものを用いてだけど。
どうにか飲む力はあるようなのでとりあえずは大丈夫そうだ。
水を飲ませてから様子をみつつ、レオナちゃんが一息ついたところで術を開始する。
ゆっくりと確実に力を体にとそそぎこんでゆく。
一気にしたら小さな体には負担がかかりそうだし。
横たわる体の上に手をおいてとにかく意識を集中。
どうやら疲労からの熱らしい。
まずは体力の活性化。
それとゆっくりと力を直接、周囲から集めて体の中にと叩き込むようにそそぎこんでゆく。
約、一分くらいそうしているとやがて呼吸がおちついてくる。
回復術をかけているとき、なんでか相手の体やオレの手先が光るけど。
ギーゼラさん達の術もそうだし、そんなものなんだろう。

「…あれ?私……」
先ほどまで苦しそうだったレオナ。
「「レオナ!?」」
目を覚ましたレオナに同時に声をかけているティアラお母さんとお兄ちゃんディーノ。
レオナの顔には赤みがさしている。
額に手をやれば熱もどうにかひいている。
「も。大丈夫。あとしばらく横になってて。何かたべて体力つけたら平気とおもいますよ。
  たぶん、無理というか過労から熱がでていたみたいですよ?」
いいつつも、空になっていたコップにとりあえず水をいれておく。
「いやあの…ユーリ君?…魔術、つかえるの?」
なんか信じられないようにとオレをみつつといかけてくるティアラさん。
「一応。といっても簡単なものだけですけど」
あとは無意識に何かいろいろやることはあるにしても。
「すご〜い!おに〜ちゃん。レオナの熱、すぐになおしちゃった!」
レオナの額に手をあてつついってくるディーノ。
二人とも見た目、スピカよりも下なので何かスピカの友達を相手にしているかのようだ。
…実際の年齢は二人ともかなり上だろうけど。
そんな会話をしていると。
『エンギワルー!!』
二番ドリの声がする。
「ってもう七時!?」
「おに〜ちゃん……」
泣き声が聞こえると共にスピカがオレにしがみついてくるけど。
うわ〜。
時間ってたつの早いなぁ。
「あ。オレ達、そろそろいきますね。あんまり遅くなったら面倒ですし。
  早いところ眞王廟についたほうが何かよさそうだし」
ニルファやシーラのこと。
オレがいいっていっているのに城に連絡した可能性も否めない。
もし、そうなったら……
・・・・・・ギュンターなどが迎えらきたら大変だ。
大騒動になりかねない。
なぜか戸惑いのオーラを出しているティアラさんと、熱の下がったレオナ。
そしてレオナの兄のディーノ。
彼ら三人に簡単に挨拶をして、そのまま部屋を後にする。
な〜んか、オレ、変なことしたかなぁ?
なんでかティアラさん、びっくりしてたようだけど?
癒しの力をもっている人なら誰でも病気は治せるだろうに。
あんまり使える人がいないのかなぁ??
…謎だ……

とりあえずそのままチェックアウトして、眞王廟に続いているという道並みをスピカと二人進んでゆくことに。
聞けば今からいけば三番目ざまし鳥がなくころには、子供の足でもたどりつけるとか。
戸惑い気味に教えてくれた宿の人にとお礼をいい、そのまま宿…というか村をあとにする。
とひとまずいってみるっきゃないでしょ。
自分ではこの現状をどうにもできないんだから…さ。



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↓こそっと裏方の話しをばvv

















おまけ〜

「おい。みろよ」
「女の二人連れ。しかもどっちもかわいいじゃないか」
はいってゆく二人連れは見かけない顔。
一人はなぜか頭をターバンで巻いてはいるが。
服もまたかわったものを着込んでいる。
おそらく田舎かどこかからでてきたのであろう。
あの宿は一晩、一人金貨一枚、という高い宿。
そこに泊まれる、ということはかなりのお金もちに違いない。
田舎からでてきたものは大概何かあっても泣き寝入りをする。
「よっし。今回の獲物はあの姉妹だ」
「「お〜!!」」
どうやらひさしぶりにおいしい思いができそうである。

手口はいつも通り。
一人が客として宿にはいり、寝静まったころに裏口のかぎをあける。
大体の宿は内部からカンヌキ状の鍵をかけるようになっている。
そっと鍵をあけて仲間を招き入れる。
駐屯兵の目をぬまくすり抜けてそのまま宿の中へ。
目星をつけていた部屋のある場所にとむかってゆく。

カチャ。
薄い金属の板。
板、といっても特殊な金属で魔力を無効化する効能を少しばかりもっている。
こういった宿の鍵にしているカンヌキは多少なりとも何かの術がかかっているところがおおい。
しかしそれらは簡単なもので、少しでも無効化する品があればそれらを解除することは可能。
扉のスキマにはさんでカンヌキをはずす。
ゆっくりと音を立てずに扉を開く。
ここの宿は入口と寝室の間に少しばかり距離がある。
正確にいうならば入ってすぐ横にオフロと、そしてトイレがあり。
そしてその奥に寝室となっている部屋がある。
寝室のほうからほのかな光が漏れ出している。
「?まだおきてるのか?」
「いや。でもランプの明かりじゃあありませんぜ?」
ランプの明かりとはまた異なる、とても小さなほのかな明かり。
おそらくは何か光球の術か何かをつかっているのかもしれない。
魔力を扱えるようにはハタメにはみえなかったが。
そんなことをおもいつつ、ゆっくりと扉に手をかける。
と。
「「うわっ!!?」」
それと同時。
全員が全員、光に飲み込まれたような感覚に襲われる。
体全体がしびれる感覚。
そして、それと同時。
彼らはそれぞれがもっとも恐れている光景を視てしまう。

彼らは知らない。
ユーリが出している翼は、時として悪意をもったものにそのものの一番怖いもの。
をみせる幻…否、実体に近い幻をみせることがある。
ということを……




治せる。
そうきいたときには驚いた。
半信半疑ではあったが。
普通、さほど癒しの力をもっているものはいない。
それが一般人ならなおさらに。
さらにはさらっといわれた二つの方法。
普通の癒し手ですら困難であり、巫女などの上位のものならばできる技。
大自然の力をかりた治癒。
それすらもできる、といったこの子。
見た目女の子にしかみえないのに男の子といい、言葉の通じない妹さんと一緒にいる。
戸惑いながらもダメもとで娘をみてもらうと目の前では信じられない光景が。
…普通、簡単に水などの力を盟約の言葉もなしに扱える人がいる、など聞いたこともない。
黒い髪に黒い瞳。
…染めている、とばかりおもっていたけど、もしかしたら……
いやでも、まさか……
そんなことはありえないはず。
だってあの御方ならばこんなところにお供もつれずにいるはずもない。
こちらが何か問いかけるよりも先に二人は部屋をでていってしまった。
…夫がもどってきたらこのことを話して相談したほうがいいのかもしれない……



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