染めた髪が目立つからだろうから、とターバンを譲ってくれた。 まあ素直にちょっと落ちなくて、といったらくれたんだけど。 というか地毛だし。 アニシナさんの名前を出していたからか、その辺りは詳しく聞かれなかったので大助かりだ。 ちらり、と時計をみるとただいま午後の一時を回っている。 こっちにきて一時間半は経過した、ということだ。 どこかで時刻をこっちに合わせないな…… ゴトゴトと馬車にゆられてゆくこと十数分。 やがて道の先の闇がひらけ、ちょっとした村…というか家並みがみえてくる。 聞けばここは眞王廟のある山のふもととか。 この山を越えたところに、王都、王城があるらしい。 オレはいっつも王城から眞王廟にいっていたのでこちらのことを知らなかったようだ。 う〜ん…自分の国なのに…… 今度、ギュンター達にせがんで国内視察に出たほうがいいかもしんない。 こっちにきてもうすぐ約二年たとうか、というのに知らないことが多すぎだ。 最近は他の国との外交に忙しかったからなぁ〜…… 女性の姿のままでいろいろとやってたし…… 山のふもとにあるその村は、松明の明かりに照らされて、しいていうならば食事処の山賊のよう。 その表現がなんかこうぴったりくる。 結構ひらけており、もう日が沈んで夜の闇がおしよせてきている。 というのに通りは馬や馬車、そして人々でにぎわっている。 兵士の姿もちらほらとみえる。 ということはきっと駐在兵もいるのだろう。 彼らに連絡してもらうにしても…オレ本人って証明する自信ないからな〜。 翼でもだせば一発だろうけど。 スピカの手前、あんまり騒ぎをおこしたくないし。 何にしてもスピカはこっちの言葉をはなせない。 ゆえに言葉が通じないゆえにかなり不安そうだし。 蓄積言語とかの引き出し方をしっていたらやってみるのに。 オレがアーダルベルトにされたように。 スピカの前世はこっちの人だってアンリがいってたしね。 宿もいくつかあるらしく、きちんとした納屋がある宿にアベル&ティアラ夫婦はとるようだ。 他にも宿はあるようだけど、一応この宿は各部屋にバストイレがついてるらしい。 日本みたいに水道がある、とかでなく。 よくわからないがある特殊な魔石を使い、水を蛇口から出すようにしてるらしい。 何でも水を操る術者にその中にある一定量の水を入れてもらい、できる技とか。 この世界の仕組みっていまだによくわかんない。 まあ、部屋にバス、トイレがついているのは心強い。 双黒を他の人の前でさらしちゃったらどうなることか。 もしかしたらオレの顔を知っている人がいない…とも限らない。 そうしたらまちがいなく大騒動だ。 オレとしては騒ぎはさけたいし。 まあ王位についてはいるものの、いまだに何の実績もないオレとしては心苦しい。 アベルさん達と同じ宿でひとまずオレ達も部屋をとることに。 ちなみに一人、金貨一枚らしい。 安いのか高いのかわからないけど、とりあえず前金制らしい。 宿泊名簿に名前をかく。 どうにかこっちの文字で名前がかけるようにまではなっているのでたすかった。 漢字で書いたら絶対に目立つ。 スピカと一緒に一室で。 ちなみに普通の部屋。 名前と、連れとの続柄、そしてえっと…連絡先? それと出身地とかかかれている項目が。 出身地って? やっぱり眞魔国でいいのかな? 連絡先は…とりあえずコンラッドの名前をかいておく。 個人の名前でも勤務先がはっきりしていたらいい、と聞けばいっていたし。 ギュンターやグウェンダルの名前はさすがにまずいだろうしなぁ〜…… コンラッドは顔も広いみたいだし。 連絡先にコンラッドの名前をかくと、やっぱり 「ウェラー閣下のお知り合いですか?」 と聞かれてくる。 コンラッドにはほんといつもお世話になりっぱなしだ。 知り合いなのは間違いなのでうなづいておき、スピカと一緒に部屋にとはいる。 風呂場は普通のビジネスホテルよりもちょっぴし広い。 トイレとは別々だ。 さすがに自然と共存しているだけのことはあり、 何か微生物か何かの力で水を浄化してから台地に放っているらしい。 そのあたりはとても衛生的でまた環境にもやさしい。 疲れているだろうから、とりあえずオフロにお湯を張る。 別に蛇口を使わなくても、この前からお湯や水、といった基本の四大元素は扱えるようになってるし。 力のコントロールの慣れも兼ねて浴槽に手をつっこみ念じて一気に水を張り、 そしてそれを瞬時に沸騰…というか湯加減のちょうどいいくらいまで温める。 何かこの前、ようやく女の姿から男の姿に戻れてから、というもの力を使うとき、 あまり意識しなくても問題なくできるようになってるし。 以前は力を使ったらねむくなっていたようだけど。 アレ以後そういうこともない。 きっと女性の体になってしまったがゆえに、天空人のそれに近くなっていた。 というのが原因なのかな?とは何となく思えなくもないけども。 …事実は怖くてアンリにもきいていない。 もしそうだよ、とかいってもっと怖いことを聞かされたら…オレとしてはどう反応したらいいものか。 自分で自分の体の変化がはっきりわかりとまどっている、というのに。 宿の一階にお店らしきものがあり、そこで必要なものは手にはいる仕組みだ。 布にはいったシャンプーとせっけん、そして体をするヘチマのようなもの。 それらのセットを購入。 リンスはやっぱりないらしい。 ここでのタオルはすべて綿100%なので、 石油製品の家具やタオルに慣れているオレの意見とすればその肌触りが断然に違う。 「スピカ。オフロいいよ?」 オレの言葉に。 「おに〜ちゃん。ここ、テレビないの?」 少し不満そうにいってくる。 「そんなのないって」 何しろ電気もないんだし。 部屋の明かりも灯っているランプのみだ。 「ふ〜ん…話しにはきいていたけど。何かつまんないね」 「ま、オレ達はテレビに慣れているからね。 さ。とりあえずオフロに入って汗をながしておいで。リンスはないけど」 「ないんだ!?」 リンスがなければたしかに髪がごわごわする。 それゆえに驚いているスピカの姿。 「あっちからもってきていればともかくね。城にいけばあるから」 「は〜い」 チェックインのときにここは寝間着らしきものを手渡されるらしく、オレとスピカの寝間着ももらっている。 下着は下の売店で購入済み。 …やっぱし紐パンとかがおおかったり。 一般的な下着…というのを買ったけど。 あとちょっと大きめの革袋を。 部屋に備え付けられている大きめなタライ。 何に使うか不明だったけど。 ひとまずそれに水を張り、フロにとはいったスピカの服と下着。 あとオレのきている服も先に着替えて中にといれ洗濯用…らしいせっけんを使い、 ひとまずごしごしと部屋の中でしばらく洗濯開始。 床が濡れないように一応周囲に空気で膜をつくってみる。 こういうのが無意識に意識してできるようになっていることすら驚きだ。 簡単なクローゼットらしきものがあり、 その中にハンガーらしきものがつるされている。寝 それらを取り出して洗濯のおわった服を部屋の中にとかけておく。 アイロンとかもないので風をおこしてひとまず水をきってから干してはいるけど。 よくホテルとかにある簡易式の洗濯干しとかがあれば便利なのに。 クローゼットの中にとあったロープをつかい、それを部屋の中にと張って服をつるす。 ロープをひっかける出っ張りはあるのでおそらくはみんなこうしているんだろう。 寝間着は麻らしきものでつくられており、ボタンと紐で前を結ぶ、という簡単なもの。 デザインがオレもスピカも同じ…というのが気になるけど。 何でオレンジ色? ま、まあ深くは考えまい。 オフロの使い勝手は洗面器が手桶になっている、という違いくらいなので別に問題はない。 お湯に関しても下水道はきちんと処理されているらしい。 そういえば、建造物の仕組みはこちらのはまだ理解できていないしな〜、オレ。 それらもきちんと把握せねば。 洗濯も無事に終わらせ、オレもひとまずオフロにとはいる。 何だかいきなり眞魔国。 しかもスピカをつれて…ときているし。 そういえば、こっちでこうやって宿をとるとかなんてあまりなかったような気が…… いつも誰かがいたし。 アンリとか。 今はスピカがいるからオレがスピカを守らないと。 いっつも守られてばかりだもんな〜…オレ…… たしかアンリがいってたよな? 翼をだしていたらまず外からの様々な干渉や攻撃は受け付けないって。 使い方によっては簡単な防御結界…みたいなものにもできるらしい。 何かあったらいけないのでとりあえず、光パターンの翼は今夜一晩出しておこう。 別に物質化しなければ出しても問題ないし。 かさばることもないし。 それに輝きもコントロールできるようにとりあえずなってるし。 スピカはオレが翼をだせるのは知ってるしな。 オレの家族全員とも。 ようやく男性に戻れてこっちにもどってきたときに、アンリが暴露しちゃってさ…… 思い出すまい…… とりあえず。 「スピカ。明日は早いからもうるねよ?」 「は〜い」 そういえば同じ布団でねるのも久しぶりだ。 「おに〜ちゃん。おうたうたって」 「はいはい」 明かりをけすともう真っ暗。 翼をだして明るさをほどよく調節する。 布団と翼で横のスピカを包み込むようにして横になる。 こうしておけば万が一、たとえば地震とか何かあっても翼をだしている状態であれば、 勝手に自己防衛として強力な結界が張られるらしい。 とアンリにきいてるし。 スピカが寝つくまで歌をくちずさむ。 色々と不思議な旋律の歌を女性になったときに思い出した。 なぜかはわからないけど。 きいたこともないはずの歌なども。 その中から静かで、何かとても気持ちがよくなってくる旋律の歌を歌いつつ、スピカを寝かしつける。 明日は早めにたって眞王廟にいってみよう。 そこからどうにかして連絡をとってもらうか。 もしくはエドさんとウルリーケに頼んであっちに戻らないと。 きっとおふくろ達が心配しているはずだ。 そんなことを思いつつ…オレも睡魔に襲われ、そのまま眠りに身を任せてゆく……
「う〜ん!」 何かよくねた。 …あれ? 何でオレ、翼をだしていたんだっけ? と一瞬思う。 そういえば… 横には寝ているスピカの姿。 「あ。たしかこっちに移動してきちゃってたんだっけ? 一瞬、自分が何でどこにいるのか寝ぼけてわからなかったけどすぐにと思いだす。 とりあえず起き上がり、スピカを起こさないようにそっと布団を抜け出す。 昨夜干していた服をみるときちんとかわいているようだ。 とりあえずそのまま窓を開け広げる。 冷たい、朝どくとくの空気が流れ込んでくる。 みれば深い霧もかかっている。 日がのぼりかけくらいの時刻らしくまだこのあたりには太陽はみえていない。 空気の冷たさから判断すると、ここ眞魔国は秋でもそろそろ冬にはいるころのようだ。 もしくは冬から春にかけての季節のどちらか。 …日付、きけなかったしなぁ…… さすがに変、とおもわれるので。 窓を開け広げ大きく伸びをする。 ふと横をみればしまい忘れていた光の翼が何か朝の空気と霧に反応してかキラキラと輝いている。 「あ、忘れてた」 精神を集中し翼をひっこめる。 自由に翼の出し入れができるなんて、まるで本当にファンタジー世界の登場人物…… と、前はよくおもっていたけど、もうあきらめた。 だってどうあがいてもこれがオレの現実なんだし。 受け入れるしかないしね。 …女にいきなりなってしまったときと比べたらこのくらいはかわいいものだ。 とりあえず洗濯ものをたたんでおこう。 干してあるそれらを取り込みきちんとたたむ。 ついでにロープをはずして元の収納されていた場所にと軽く洗って乾かしてから片づける。 こういうとき、風とかの術が自由に扱えるようになった、というのは結構便利だ。 日本では乾燥機とかあって便利だけど。 だけど地球では便利すぎて地球の自然のありがたみすら人々は忘れかけ、逆に台地を汚している。 この国の人場とは自然の恵みのありがたさを忘れていない。 むしろ共に生きている。 オレとしては多少不便でもこっちのほうが人間らしい生活を送っているとおもう。 あくまでも一般的にみてだけど。 この世界にだって地球と同じく貧困や差別で苦しんでいる人達だっている。 というのもわかっている。 ただこちらでは【世界に向けての映像や事実を伝える】役目を持つ組織がない。 それゆえに人々は詳しい様子を知らないままでいるのも事実。 テレビなどでもあればすぐに状況や様子などはわかるけど。 服を着替えて顔を洗う。 生み出した水が冷たく気持ちがいい。 あとは荷物…といっても、スピカもオレももっていたのはウェストポーチとスピカの帽子くらいなので 別に片づける…ということもないし。 顔を洗いタオルで拭いていると風が部屋の中を駆け抜ける。 それと同時。 「エンギワル〜!!」 いく度聞いてもなんとも縁起の悪い目ざまし鳥の声が…… とすれば今は朝の誤字くらい、ということか。 たぶんこれ一番鳥だし。 二番鳥が七時、三番鳥が少し遅れて十時ごろ。 ちょっとした時間の目安になる鳥だ。 腕にはめたままの時計を五時にとあわせる。 何分、難病、といった細かいところまではこちらの世界で合わすことは不可能だ。 何しろ基本時間、というものがないんだし。 時計を合わせていると、 「何!?」 がばっ! となぜかスピカが飛び起きる。 「?す〜ちゃん?」 そんなスピカに声をかけるけど、なぜだかうろうろと戸惑ったように視線をさまよわせ、そして。 「ユーリおに〜ちゃん!今の叫び何!?」 何かおびえたようにといってくる。 あ゛〜…そういえば、スピカにはあの声は何かの叫びみたいに聞こえるのかもしんない…… 「大丈夫。何でもないよ。今のは鳥の泣き声だから」 「とり〜!?あんなのが!?」 何か驚いて目を丸くしてるけど。 「目ざまし鳥って呼ばれてるらしいけどね。す〜ちゃん。まだねててもいいよ? 今の一番鳥だし。ってことは大体時間的になおすと五時くらいだし」 そんなオレの言葉に、 「…なんか目がさえた……」 目をこすりながらもベットから下りてくる。 一体スピカの耳にはどう聞こえたというんだろう? 言葉が通じない状態ではオレはあの声はきいてないし。 「う〜ん。仕方ないなぁ。あ、服かわいてるよ。下着も。 どうする?朝風呂にはいる?入るならお湯はるけど?」 「入る!」 即答してくるスピカにほほ笑みつつ、 「じゃ。ちょっとまってね」 いってオフロの中にとはいってゆく。 昨夜の湯はすでに浴槽から抜いているので新たに水を張りなおす。 といってもしばし浴槽の中に手をいれて念じれば水が自然と発生してくるけど。 その間、数秒。 ちなみに指先だけに小さな球体として水を創りだすことも可能。 水が扱いやすいのは、こちらの世界に始めてきたき、オンディーヌがくれた水。 あれに何か盟約の力か何かが含まれていたらしく、そのためにこちらの世界とのつながりが強まったから。 というのを前に知ったけど。 エドさんいわく、念には念を…だったらしい。 というか、オンディーヌがあの地に出向いたのは約五百年前ってきいてるけど…… どうやら未来予測も多少ならばエドさんは可能らしい。 女から男にもどってからは、 なんでか意識せずとも自然と四大元素の力を使える自分にもオレとしては驚きだが。 地球でもこの力は使えたしな……家のオフロで試してみたら…… う〜む。 世の中、不思議なことがおこるものだ。
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