何でもこの彼女は人妻らしく、夫と子供二人で眞王廟にお祈りにいくところとか。 日が暮れる前に休憩がてらに夕飯をたべて眞王廟に向かう予定だったらしい。 彼女は薪を集めにでていたようだ。 即位一周年記念以後、オレに憧れて髪を黒く染める人がどうも多発しているらしく、 オレの髪の色をみてもオレもそんな中の一人…と、どうやら捉えたらしい。 「崖から…それは大変だったねぇ」 「は…はぁ……」 彼女の夫もとても優しい人で、このたび産まれ故郷の村の駐在係りに任命されたとか。 そのこともありお祈りに来たらしい。 駐在係りって…つまり、例のあれか。 どうやらあの試みは順調にいっているようだ。 ということはこの人は魔族の兵士ってことだろうけど、オレはみたことないし。 …まあ、顔見知りだったらそれはそれでヤバイのかもしれないけど。 横ではスピカがおいしそうにシチューをたべている。 この家族はどうやら馬車で移動していたようだ。 「それで?あんたたち姉妹はどこにいくつもりだったの?」 ・・・・・がくっ。 ・・・・・・やっぱり女と思われていたのね…… オレ、ズボンをはいているんですけど…… 「…あの〜。オレ、男なんですけど……」 「え!?嘘!?そうだったの!?てっきり女の子かと……」 本気で驚愕してくるし。 「…も、いいです。慣れましたから……」 それに女にも慣れてしまう、と判った以上、何か以前のようにムキになって訂正する気が失せた。 というのもあるし。 「?」 そんなオレ達の会話にスピカはただ首をかしげるばかり。 「そういえば、君たちの名前は?」 夫という人がきいてくる。 「あ。すいません。オレはユーリっていいます。妹がスピカです」 そういえば自己紹介がまだだった。 「…ユーリ?」 何かその言葉に首をかしげているけども。 「よくある名前ですし」 それとなくごまかしておく。 一般的にはユリティウスで名前は知られているようだけど。 愛称が『ユーリ』と知られていてもおかしくない。 「あんまりないとおもうけど…ま、とりあえず妹さん、言葉はなせないの? どうも会話が通じてないようだし。あなたとは通じているようだけど。 方言か何か?一般語はできないの?」 「は…はぁ……」 何とこたえればいいものか。 ちなみに、夫の名前がアベルで奥さんの名前がティアラ、というらしい。 …何かあるアニメのようだ。 二人の子供もおり、男の子と女の子。 見た目十歳より下と五・六歳くらいの女の子の名前はディーノとレオナらしい… えっとぉ…それっておもいっきりとある漫画の主人公達の名前じゃぁ…… …深く考えまい。 「あ、あの。そういえばみなさん。今から眞王廟にいくって。 今からじゃ夜になるんじゃぁ?というかここから王都…というか城下町と眞王廟。 どちらが近いですか?」 そんなオレの問いかけに夫婦は顔を見合わせ、 「どうもショックで記憶の混乱があるようだね。ここからだと眞王廟のほうがちかいよ。 王都というか城下町は逆方向だから」 「へ?」 逆方向…って…… 「つまり。私たちは城下町とは反対側から山にはいっているのさ。 一応こっち側に参拝者用の宿泊施設もあるしね」 「そんなのあるんですか!?」 というか初めてしった事実だぞ? いっつもそのまま城から眞王廟にいってたもんな〜。 それとか眞王廟の中に直接でたりとか。 「しらなかったの?」 「はぁ……」 「普通、一度でも参拝したことがある人なら知ってるはずだけどねぇ。 参拝者とはいえ基本的に眞王廟は男子禁制。 ゆえに一般のお参りの人もそれなりの手続きをとって参拝するんだよ。 そのために城と逆方向の山の中にちょっとした宿が集まる村があってね。 だいたい手続き申請してそこで泊まって次の日に参拝する。 っていうのが常識なんだよ。夕方でなく昼間なら問題ない限り数時もすれば許可が下りるけどね」 「へ〜…そんなにややこしいんだ……ま、まあ。聖域とかいわれてるくらいだから当然…なのかな?」 ほいほいと招きいれて何かあっても大変だし。 …とりあえず、町の人の声をきくために月に一度か二度くらいは直接話しをきこう。 というオレの意見で人々と直接対談は可能になったけど…… ま、まさかあれほどの人数がやってくるとは…あまり考えないでおこう。 あれでも簡単な身もと調査や確認は一応しているらしいし…さ。 万が一、オレに何かあったらいけないからって。 眞王廟もそんな感じなのだろう。 「きっと崖から落ちたショックで一時的か一部分。記憶がとんでいるんだろうね。 妹さんをかばって一緒におちたんだって?君は?」 「はあ。スピカが足をふみはずしちゃいまして…とにかくもう、必死で」 …とんで捕まえた、というのは伏せておく。 しかし…自分の国だ、というのに判らないことが多すぎだ。 即位してこちらではもう一年たった…というのに、である。 やっぱりオレはまだまだ未熟以外の何ものでもない。 同盟国ももっぱらカヴァルケードの人々の力がかなり大きいし。 最近、ベラールって人が静かなのも気にかかる。 改心して世界平和に目覚めてくれて静かにしている。 というのだったらいいけども。 何はともあれ話しをまとめると、どうやらここからだと眞王廟が近いらしい。 だったらそこにいってから城にと連絡をいれてもらったほうがいいだろう。 いつもシルファ達大精霊達に頼るのも悪いし…… 何しろ、毎回、毎回お世話になってるからなぁ〜…… こんなオレなんかのために。 その理由がこの前少しは判明したけど。 いまだになんか実感ないぞ? オレの中にシルなんとかという創世神の力が多かれ少なかれ眠ってるなんて。 天空人は多かれ少なかれその力を秘めているらしいけども。 創世神。 この惑星所かこの銀河空間を創ったらしい神様。 そんな神様の力がって…そんな馬鹿な、と一笑に伏せれない自分がこわい。 何しろ地球に魔王がいる…なんて事実を知っている身としては…あう…… 科学的にいえばそんな馬鹿なことはありえない…というのに。 そのあり得ないはずの当事者になってしまっている身としては…… 「でもそんなことを聞いてくるってことは。知り合いでもいるの?城下町に?」 「ええ、まあ」 知り合い…というかこっちの世界でのオレの家が。 家、というか城だけど。 「ごちそうさまでした!」 横でスピカが食べ終わり、手をあわせてごちそうさまの挨拶をしているが。 そして。 「で。ユーリお兄ちゃん?私たちどうするの?」 心配そうにと聞いてくる。 「とりあえず、このちょっと先にある建物。眞王廟ってところがあるから。 ひとまずそこにいってからコンラッド達に連絡をとってもらうよ。
いつもなら迎えがくるんだけど。ないってことはどうやらオレのほうから無意識にきちゃったらしいし」 アンリとの移動のときにはアンリが直前に何か連絡をいれていたらしいし。 たぶん泉の中…というか湖に落ちる寸前。 怪我をしないように無意識にと移動した可能性…あり。 それにアンリがいってたし。 翼を出している状態では自力での異世界移動が可能だって…… そんなオレの説明に、 「じゃぁ、あのウルリーケって子にもあえる!?」 目をきらきらさせていってくる。 そういえば、スピカにはウルリーケのことは話しているっけ。 「たぶん。というか連絡してもらわないと。それかいきなり戻る…ってのもひとつの手だけど」 スピカをつれて飛んでゆく…というのもひとつの手ではあるが。 それだと目立つしな〜。 そんなオレの言葉に、 「やった〜!一度あってみたかったんだ!それにおに〜ちゃんが養女にしたっていうグレタちゃんにも!」 スピカは八ミリ映像で身知っているからなぁ。 グレタやウルリーケのことは。 ちなみに、いうまでもなく八ミリ映像はおふくろがアンリにことづけて撮ったやつだけど。 向こうはこっちのことを写真でしかしらなくても。 そんな喜ぶスピカの姿をみて首をかしげ、 「?あの?ユーリさん?スピカちゃん、どうかしたんですか?」 言葉がわからなくても何か喜んでいるっぽいのはわかるらしい。 紫の髪にアメジスト色の瞳。 紫づくめなのに違和感がない。 というかオレが慣れただけだろうけど。 こっちの人の外見は様々だ。 「あ。いえ。ちゃんと戻れるらしいというのがわかったらしくて」 エドさんにいえば戻れるだろうし。 地球には。 そんなオレの言葉に。 「・・・・・・・・・・・どれだけ迷ってたんですか?」 呆れた視線を向けられてしまう。 …どうやら道にまよっていてやっと帰れる…というか、 きちんとした場所にいけるとおもって喜んでいる、と判断したようだ。 「そ、それより。こっちの先にある村って…服とかうってます?」 オレはスピカの服は何かちょっと浮いてるし。 TシャツにGパン。 上下繋がっているワンピースとブラウス。 ・・この世界ではあまり一般的な服装ではない。 というかGパンなんてみたこともない。 遠くから来た、とおもっているのか服に関しては突っ込んでこられないのが幸いだ。 「お金、あるんですか?」 「…少しは」 サイフはひとまずもってたし。 一緒くたにいれてるからなぁ。 あっち…つまりは日本のお金もこっちのお金も。 入れる場所は変えているけど。 ウェストポーチは結構重宝する。 ちょっとした小物をいれて身につけられるし…ね。 「とりあえず、その髪はどうにかしたほうがいいよ。ヒトミはガラス?」 うっ! 「え…えっと…その……」 何といったらいいものか。 「オレにもよくわかんなくて……」 とりあえず言葉を濁しておくしかない。 そんなオレの言葉に。 「こりゃ。今日は早く宿をとって寝たほうがいいよ。 横になったほうがいい。何ならお医者さんにみてもらったほうが……」 心配そうにそう提案してくるこの夫婦。 「あ。大丈夫です。眞王廟にも知り合いがいますから。何とか……」 「そう?でも知り合いって?」 うっ!ま、まずいっ! 「そ、そんなことより。ここからその村までって遠いいんですか?」 とにかく話題を変えないと。 「それほどかからないよ。日暮れ前にはたどり着く距離だよ。でも歩きだとけっこうかかるよ?」 そんなオレの問いかけに答えてくる夫のアベルさん。 「そうなんですか?」 う〜ん。 せめて近くにコッヒーでもいたら伝達を頼めるのに。 やっぱりシーラ達に頼むしかないのかなぁ? そんなことを思っていると。 「何にしろ。村まではのせていってあげるよ。 どうも崖から落ちたせいかショックで記憶とか混乱しているみたいだし。 妹さんも何か意味不明なことをいいつつ不安がってるしね。ところで、宿代はもってるの?」 「金額によります」 つい地球時間でいえば二日前まで長期滞在していたために、こっちのお金は少しはもってるし。 とりあえず確認してみると、札が十枚。 金貨が十枚程度くらいはありそうだ。 …たぶん何とかなるだろう。 「ま、まあ…一泊くらいは何とか……」 ウェストポーチからサイフを取り出し中身をみていうオレに少し首をかしげ、 「それ?」 何かウェストポーチを指差してといかけてくるティアラさん。 「え?ウェストポーチが何か?」 いいかけてはっとする。 あ。 まだこっちには普及してなかったっけ? 実用的には。 えっと…たしか……あ、そだ。 「アニシナさんの試作品なんです」 ずざっ! …あ、二人の顔色がかわった。 しかも何やら多少後ろに下がってるし。 「あ…あなた、赤い悪魔のお知り合い?」 「というか、実験台にされた人なんだろう…ティアラ……」 な〜んか同情されてるし…… …アニシナさん、本当に民間人からも被写体募ってるんだ…… ともあれあながち嘘はいっていない。 アニシナさん、これもつくるってはりきってたし。 何しろ実用性が高いから、と。 試しに布でつくってみたら結構売れたらしい。 ただいまファスナー作成に奮闘しているはず。 「おに〜ちゃん?」 きょとん、と首をといかけてオレを見上げてくるスピカだけど。 「あんまり深く考えないでください。えっと。でしたらお言葉に甘えて村までお願いできますか? オレはともかく。妹を夜に歩かせるのはちょっと……」 しかもここって街灯なんてものはないしなぁ。 そんなオレの言葉に、 「ついでに宿までつれていってあげるよ。何ならどこかに連絡したほうがいい?」 …ヤバイ。 「え。えっと。それは何とか。アテがありますから」 村にもしコッヒーでもいたら連絡とる手段はあるし。 もし新月で月がなければ夜、ちょっと空を飛んでゆくかもしくは瞬間移動って手もつかえるし。 …スピカは一緒に万が一のことがあったらいけないので移動の際には連れて行かれないけど。 スピカの体に負担がかかりそうだしなぁ〜…… スピカ、おふくろ似だし。 人間の体にどこまで負担がかかるか皆目不明。 だからってそんな危険なこと、実験する気もおきないけど。 簡単な力ならば自在に扱えるようにはなってはいるけども、まだ移動に関してはなぁ〜…… 突拍子もないところにでることもしばしば、だったし……
とりあえずそのあたりのことは何とかごまかし、 好意で村がある、という場所まで一緒に載せていってもらうことに。 おふくろたち、心配してるだろうな〜……きっと……
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