しかし…先日のあれはなんだったんだろう? オレは確かに力が安定してからこちらの世界にもどったはずなのに。 教室で倒れ目覚めた時には保健室で、しかもまた女になってるなんて…… 保険の先生がボブおじさんの知り合い、というか地球の魔族の人でよかったよ。 あやうく大騒ぎになるところだった。 先日、夏休みに入って一度目の登校日があり長期あちらで滞在していたのが嘘のような日常。 ちなみにうちの高校は八月中に一度、登校日があり、夏休みが終わる直前にもう一度登校日がある。 ちなみに新学期は九月一日から。 すっかり長期滞在ゆえに忘れてたけど、 あのとき、オレは女の子の流された水着をとりに海にはいったわけで。 遊泳禁止の箇所なのに泳いでいたらしいお姉さんの頼みで。 あちらの世界では半年以上滞在した、というのにも関わらずに、 こちらの世界ではほんの数分程度しか過ぎていなかったらしいが。 それはともかくとして登校日。 学校にいくと季節外れの転校生を紹介され……その後オレの記憶はない。 いや、その子がはいってきた途端、オレは不思議な感覚にとらわれて……気づいたら保健室のベットの上。 しかもまた体が女性体になってたり。 なんでこうも変態してしまうのやら。 まるで火輪のリーアンよろしく。 あわてた様子でやってきたアンリに力の誘導をしてもらいどうにか男の姿に戻ることはできたものの、 あのとき見た光景が脳裏からはなれない。 あれは…まさか宇宙空間? 転校生が教室にはいってきたとき、オレは確かにいきなり宇宙空間にいるような錯覚にとらわれた。 そして…何かをみて…そして気を失った。 それが何かはわからないが。 「ほらほら。ゆ〜ちゃん。せっかくのハイキングなんだから。難しい顔をしないの!」 横でおふくろが何の悩みもなさそうにいってくる。 本来はこのハイキング…というよりピクニックはアンリの家族も一緒だったのだが、 アンリは急用ができたとかで後から来る。 というのでアンリの両親とアンリの弟とオレの家族。 おふくろとオヤジと兄きと妹。 この八人である山間の公園にきているのだが。 ちょっとした大きさの湖や少し奥のほうにいくと滝があったり、と。 まさにピクニックにはうってつけのこの自然公園。 湖は気をつけないと草原の一部からはきりたった崖になっており足元をすくわれてしまう。 もっとも、そこが飛び込み台として湖で泳ぐ人とかには利用されていたりするのだけど。 「へ〜い」 「へい。でなくてハイ、でしょ?」 「はいはい」 「ハイは一回でよろしい」 兄きはこんなところにまできてノートパソコンをいじっている。 何でもレポートの提出がせまっているらしい。 だったら家でまっとけばいいものを。 「お〜い!ゆ〜ちゃん。そろそろお昼にするからす〜ちゃんよんできてくれよ!」 遠くのほうでおやじの声がする。 今日のお昼はお約束のパーベキューだ。 「は〜い」 いいつつも起き上がる。 ねころがり空を眺めて考え事をしてたのに。 どうもすっきりしない。 スピカはたしか虫をおいかけて遊んでいるはずだ。 何か途中から他の家族の子と仲良くなって遊んでいるようだけど。 しかしそ問題はその家族さんもどうやら地球の魔族の人々らしい。 それはオーラの色の違いでわかるし。 アレ以後、な〜んかオレの力、強くなってるんだよな…女になっちゃって以後…… しかも今では自由に翼の出し入れや、物質化もできたりするし。 …できるようになってこっちにもどった、というのもあるけども。 よもやまさか自分がファンタジー世界の住人のような状況になろうとは。 人生、何がおこるかわからないものだ。 この辺りにいるのはオレ達の家族とアンリの家族と…あとはその別のひと組の家族のみ。 ま、ここの自然公園、広いしね。 湖もオレ達がいるのはあさいほうのやつだし。 ここの自然公園の森の奥手部分。 そんなに公園にはいってまがないところにメインともいえるそこそこの湖とかあるし。 大概の家族連れとかはそこに集う。 この湖も昔は深かったそうだけど、十八年前の土砂崩れで水位が半分にへったとか。 何でも大きな台風がきたらしい。 そのつめ跡が湖のハシには残っている場所もある。 かつて飛び込み台だった崖は足場が不安定になっており、あまり身をのりだしたりすると危険だ。 「スピカ!お昼御飯の用意ができたって!」 ふと視線をめぐらせればスピカの姿はすぐに目につく。 仲良くなった同い年くらいの女の子と何か遊んでいるようだ。 「は〜い。…あっ!」 ひゅっ…… スピカが立ち上がると同時、風がふきスピカのかぶっていた帽子をとばす。 スピカは帽子をとろうとしてかけてゆくけど。 ・・・・・・・・・・・ 「って!スピカ!そっちはっ!」 そっちは例の崖だしっ!? あわててダッシュしてスピカを追う。 パシリ。 とスピカが帽子を捉え…そのまま、 グラッ… 足場が崩れスピカの体がぐらつくし!? 「スピカっ!!」 こうなりゃ、ひと目なんて気にしているばあいじゃないっしょ。 …あとであの家族の人達には説明するとして。 走ったのでは間に合わない。 それに気付いて、 「す〜ちゃん?!」 おふくろが悲鳴をあげているけど。 とにかくスピカを捕まえないと。 後もとが崩れおちてゆくスピカをとにかく人目も気にせず助けるためにそのまま空を飛んでスピカの元へ。 気絶しているスピカをかろうじてスピードを出して飛んで捕まえたのはほぼ水面近く。 もう体勢を整えるのも間に合ない。 …水中でどうにかするっきゃないでしょう。 ここの水位は確か百六十か百八十程度はあるはずだ。 スピカをぎゅっとだきしめ…そのままオレも勢いあまって湖の中にと落ちてゆく。 ・・・・・・・・・・ハズだった。 ・・・・・・・・・あれ? 湖の水面に触れたと同時、一瞬、視界が揺らぎ…… そして、再びあの教室でみた闇が襲い来る―――
チチチ…… 「う〜ん……は!?星花!?」 ふと気がつくとどうやらオレは倒れていたらしい。 あわててスピカを探すとオレの胸にしっかりとスピカの姿が ほっとしつつも思わず周囲を見渡す。 ・・・・あれ? オレ達、いつの間に森の奥にはいったっけ? 見渡す限りの木々が鬱蒼と茂っている。 周囲からは小鳥の鳴き声と、そして…ちょろちょろというせせらぎの音。 音に振り向けばオレの横には小さな滝が絶壁の上から岩を伝って流れており、 その横をちょっとした小川が流れている。 小川、といっても幅はせいぜい数センチといった程度のものだが。 ・・・・・えっと? もしかして湖に落ちてどっかに流された…にしてはおかしいし? とりあえず。 「スピカ。スピカ。す〜ちゃん!」 気を失っているスピカをゆりおこす。 どうやら怪我はないようだ。 「う…う〜ん……」 身動きしてゆっくりと栗色の瞳をひらくスピカ。 スピカはおふくろ譲りの髪と瞳の色なので髪も目もあわい栗色だ。 「スピカ。よかった。怪我は?気分は?」 問いかけるオレの声に。 「ゆ〜りお兄ちゃん?あれ?わたし、確か……」 きょん、とした様子で首をかしげるスピカ。 「気をつけないと。崖からおちたんだよ」 怪我がないことにほっとする。 まったく肝が冷えたぞ。 「?ここ、どこ?」 「・・・うっ!…ごめん。オレにもわかんない」 こんな場所はないはずだ。 もしかしたらオレ、無意識にどっかに移動した、という可能性が高いかもしんない。 それがどこか判らないけど。 「と、とにかく。誰か人がいるかもしれないし。さがしてみよ。 もしかしたら森の奥のほうにきちゃってるのかもしれないし」 湖を超えた先は深い森となっている。 なのでその可能性も捨てがたい。 いまだにスピカを追いかけたときに出したままの光の翼をしまいこみ、 立ち上がりつつスピカにも手を貸し立ち上がらせる。 「うん」 とまどいつつ立ち上がるスピカの服を整えて、しっかりとつかんでいた帽子をかぶらせてやる。 何か空気がちょぴり肌寒い。 日本は今、真夏だ、というのに。 もし突拍子もない場所に移動していた場合、スピカも一緒につれて瞬間移動ってできるんだろうか? そもそも日本でこの力を使うようなことなんてなかったし…… とりあえず今、自分達がどこにいるのかは把握しないと。 ひとまず手近な気にのぼり、周囲を確認するが見渡す限りの木々で周囲の確認はできず。 どうやら登った木が低かったようだ。 スピカとともにとりあえずこの場を離れる。 木々の葉などの茂り方で方角はわかるのでとりあえず明るいほうにとあるいとゆくことに……
ガサ…… 「きゃっ!?」 「わっ!?」 茂みをかきわけ進むことしばし。 いきなり何か出会いがしらに女の人と出くわしてしまいおもわずびっくり。 何か手には薪のようなものをもっている。 ・・・・・・・・紫の髪の女の人…… 「紫!?」 スピカが驚きの声をだしてるけど。 アレ?この気配というかオーラ…ま…まさか…… 「びっくりしたわ。あら?あなたのそれ黒髪?それは染めてるの? 最近は陛下にあこがれて髪を染める子が増えてきたわねぇ」 オレをみてそんなことをいってくるし。 ・・・・・何か激しくいやな予感。 「あ、あの?すいません。オレ達。崖から落ちて道に迷っちゃったみたいで。ここどこですか?」 ぎゅっとオレの服をつかんでしがみついてくるスピカを優しくなでながら、とりあえず女の人にとといかける。 「どこ?…って。ここは眞王廟に向かう山の中だけど… 崖から落ちたって…大丈夫なの?その子、娘さん?」 「妹です」 そんなオレと女の人の会話に、 「ユーリお兄ちゃん。何をはなしてるの?ことばわかんない?」 不安そうにオレを見上げてといかけてくるスピカの姿。 「…眞王廟って…やっぱりここ、眞魔国〜!?なんで、どうして!?」 スピカには言葉が通じない。 ということとこの女の人のオーラ。 「何当たり前なことをいってるの?…もしかして頭でもうったの?大丈夫?とりあえず他の人は?」 そんなオレの声をきき心配そうに女の人が問いかけてくる。 「えっと…オレと妹の二人ですけど……」 何でどうして眞魔国?! …ひっぱられたのかなぁ?エドさんに? それにしてはいつもはすぐにお迎えがくるのに。 しかも今回はスピカも一緒にきちゃってるし…… 「二人だけなの?…そろそろ日も暮れるし、ひとまずうちの家族がまってる場所にいらっしゃいな。 もしかして崖からおちて頭とかうって記憶が混乱してるのかもしれないし」 オレの額に手をあてつつ、自分の額と比べてくる見た目、二十歳そこそこの女の人。 そしてスピカにと目をやって、 「その女の子…妹さん。何かわからない言葉をいってるし。ひとまず体を休めたほうがいいしね」 そんなことをいってくる。 どうやら悪意はなく、本気で心配してくれていってくれているらしい。 「おに〜ちゃん?この人、何いってるの?おに〜ちゃんも、ねえ?」 不安そうなスピカの言葉。 「えっと…二人だけだと危ないから、この人の家族が待っている場所に一緒にいこうって。どうする?」 スピカにと問いかけるオレに。 ぐ〜…… 「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」 返事のかわりにスピカのお腹が鳴り響き思わず女の人と目を丸くする。 そしてしばらく目を点にしたのち、女の人は高らかに笑いだす。 「あ、すいません。お昼をたべていないもので……」 というか、今このあたりはどうやら夕方らしい。 木々の合間にさしこんでくる光は夕暮れ時独特のもの。 「まあ。お昼もたべずに森の中で道にまよっていたの?だめよ。二人ともまだ成長期でしょうに?」 ここの魔族の成長概念でもそういったものがあるのか…と妙に感心してしまう。 正確にいえばお昼をたべようとしてこっちにきちゃったんだけど…… 今、こっち側は何時ごろなんだろう? そもそも季節はいつ? たしか四日前、日本にもどったときはそろそろ秋口の入りだったし。 こちらとの日本の時間率…いまだによくわかんないんだよな〜、オレ。 「とりあえず。何かたべさせてあげるからいらっしゃいね。 あとあなたのその髪、染めは落としたほうがいいわよ?」 「……はは……」 ど〜やらオレはオレ…つまり、王様の真似をして髪を染めている…と思われているようだ。 …ま、本人ってバレるよりはいいけどね。 スピカと顔をみあわせ、ひとまずこの女の人についてゆくことに。 どちらにしろ、今の現状や場所を把握しないことにはどうにもならない。 しかし、いったい何がどうなったっていうんだろうか??
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