両手を広げたくらいの幅で流れている滝の中央部分の壁の部分には、
ソフトボールくらいの大きさの穴があいているらしい。
それはオレのほうからは見えないけど。
水でその穴はまったく見えない。
よくよく目をこらすと見えなくもないけど。
水は静かに脇をおちて細い通路をくだってゆく。
えっと…たしか…
「ここに手をいれればいいんですよね?」
オレのといかけに。
「そう。王になる承認はそれだけ。すんだら手をあげて。それでおしまい。簡単でしょ?」
にこやかに言ってくるツェリ様。
「……それくらいならオレでもできそう」
確か水に手をつっこんで穴の中に手をいれる。
それだけでいい…といってたはずだ。
でも何でオレ王になる。なんていっちゃったんだろうなぁ〜……
ため息をつきつつ、意を決してズボリ、と滝の中にと手をつっこむ。
そしてその手を滝の穴の中にといれてみる。
「…はぁ…何であんなこといっちゃったんだろぅ……」
つい、はずみでいっちゃったもんなぁ……
後先かんがえず。
この穴の先は裏の山に通じているらしい。
ま、ただの通気講みたいなモノらしい、とはおもうけど。
「…ん?…何?……わっ!?」
狭い穴だというのに…
なぜかオレの手は……誰かにとつかまれてる!?これ何ぃ!?
思わずびっくりして手を抜こうとするものの、強い力でつかまれていて抜けないし。
「陛下?」
ギュンターがオレの反応をみてか心配そうに声をかけてくるけど。
「って!?うわっ!?何か!何かがつかんでる!?つうか手をつかまれてる!?うわっ!?
  やっ!?ちょっとコレ何!?何かにつかまれたよ!?」
『つかまれた!?』
オレの叫びに顔を見合わせている一同。
しかも、それは恐ろしく強い力でオレの右手をひっぱってくるし。
「って!?うわっ!?」
そのまま勢いよく引っ張られ、バランスを崩して滝の中に。
もしかして、オレってこのままこの人口滝の裏の壁に激突!?
それ以前に!
このオレをつかんでいる手というか力はなんなんですか!?
滝の裏は狭くて人が一人も入れる隙間はないはずだぞ!?
ねえ!?
「ちっ!こらエド!中途半端なときに道をつなぐな!道を!!
  ユーリがそんなことを望むとでも思うのか!?」
引きずり込まれそうになっているオレをみてか、コンラッド、ギュンター。
そしてアンリが階段を駆け上り駆け寄ってきて、コンラッドがオレの左手をつかみ。
そしてアンリが何やらオレの身体をつかんで滝の中にと叫んでる。

と。

「うわっ!?」
ばしゃっ!!
それまで、信じられないくらいに強い力で引っ張られ、
上半身がすっぽりと滝の中にと入ってしまっていたオレの身体はアンリたちのほうに転がり出る。
アンリの声と同時に力がなくなったから、その反動だとはおもうけど。
「ユーリ?大丈夫?」
何が起こったのかわからずにそのばにしばしへたり込むオレ。
そんなへたりこんでいるオレを心配そうに覗き込んでくるアンリに。
「陛下!?お怪我は!?」
顔面蒼白になっていってくるギュンター。
「立てますか?陛下?」
「あ。うん。」
コンラッドとアンリに手をかしてもらい、何とか立ち上がる。
と。

『わっ!!』
『わ〜!!!!!!!』


????
何やらものすごい歓声が巻き起こる。
その歓声はまるで城をゆるがすかのごとくにものすごいし。
??
「すごいわ!陛下!本当に眞王陛下がそのお手を握り返されたのね!」
オレをみながら、何やら目をきらきらさせて言ってきているツェリ様。
??
「あの?というか…今の何!?というか、この反応何!?」
今、オレ的には、不可解なことが起こったばかりだというのに?
みれば、人々がものすっごく喜んでいるのがみてとれる。
オレ的にはかなりというかちょっぴり恐い目にあったというのに、この反応は理解不能だ。
そんなオレに。
「今ユーリをひっぱっていたのはエドだよ。まったく……
  あいつときたら、儀式の最中に道をつくったみたいだね。地球との道をさ。
  でも中途半端でなげだすようにあっちにもどるってユーリの気質じゃないのにね」
アンリがオレの服を軽くはたきつついってくる。
「―――は?」
だから…どういう意味?
目を点にするオレに苦笑しつつ。
「つまり。今エドは君を地球に戻そうとしてたんだよ。即位したからってとりあえず」
「は?何それ?どういう……」
思わず叫んでアンリに問い返すオレに。
「陛下。猊下。日本語で話されている最中に大変に申し訳ないんですけど。
  とりあえず人々のこの反応を静めるのが先ではないでしょうか?」
そんなオレたちにと苦笑まじりにといってくるコンラッド。
いや、日本語って…オレは普通に話してたけど?コンラッド?
「それもそうだね。とにかくユーリ。右手をあげて?」
コンラッドの言葉にアンリが何かいってくる。
「あ。うん」
とりあえず、何が何だか意味がまったくわからないが。
とりあえず、いわれるままにと右手を上げてみる。
あとからアンリにじっくりと問いただすとしよう。
オレが右手を上げるとどうじにさらに歓声というかざわめきの声が大きくなる。
と。
「新王陛下は眞王陛下の承認をうけられました。
  これをもってしてユリティウス陛下の第二十七代即位といたします!!」
ツェリ様の高々とした声が響き渡り。
またまたさらに。
わっ!!
人々の歓声の声が高まってるし。
そしてグウェンダルが、
何やらものすっごぉぉく重そうに見える金ぴか往還をもって階段を上ってくる。
中央の宝石がひときわ大きく美しい。
「かがんで。」
と小声で合図され、
オレがかがむとその頭上に、とってもずっしりと重たいそれがのせられる。
お…おもい……
「それをかぶってさらに右手をあげる。それでこの即位式の儀式は終わりだよ」
「え!?演説は!?襲名演説は!?」
普通、そういうのってあるんじゃないの?
「フォンクライスト卿の話聞いてなかったの?そんなのはないよ?」
「そんな!?」
せっかく一生懸命考えたのに。
アンリの声に思わず叫ぶ。
「でもってツェリさんの後からこの階段をおりて。
  で、部屋をでて途中王冠を納める台をもった人がいるので。
  頭からそれをはずしてその人に預けて。
  でもって一度外にでて遠回りに再び血盟城にと移動するんだよ。
  馬はすでに用意されているはずだよ?」
がくっ。
パレードはない…みたいなこといってなった!?
ねえ!?
彼らやアンリ曰く、この世界ではそれはパレードにははいんないらしい……
それはただ単に国民へのお披露目をかねた行進だとか……
それって立派に同じことじゃん!?
いまだに参列者の人々はざわめきであふれかえっているので、
オレとアンリのやり取りは階段下の人々には聞こえてないらしい。
「え〜い!こうなりゃやけだ!」
何ごともかかわりになったら最後まで。
こうなりゃ覚悟をきめて、その行事もどきをまとめてひきうけてやるっ!!
何事も途中で投げ出すのは男がすることではない、女にしろ同じく。
と教えられていることでもあるしね。
とりあえず。
アンリに言われたとおりに。
ツェリ様が階段を下りられたのをみて。
オレもその後ろにとついてゆく。
その後ろにはアンリ・コンラッド・ギュンターが控えており。
ツェリ様の横にはグウェンダルの姿が。
何かものすごく参列者の人々が興奮してるようだけど。
だから何で?
オレ、理不尽ながらも何かに手をつかまれてひっぱられて壁に激突しそうになってたんだよ?
そんな理不尽さに包まれながらも。
とりあえず、そんなざわめく会場をオレはアンリたちと一緒に後にしてゆく―――


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