広間の扉を開を細く開き、中の様子を伺って気分が再び悪くなる。
この国の各地方から本日のためにと集まってきた貴族諸侯の方々。
更には各種族を代表するちょっと人とは称しがたい方々。
仲良しになった骨飛族やその親戚の骨地族。
米国のビルの上にいるカーゴイル風灰色の豹に似た四本足の人。
アブラぜみの羽根と音をもつ手のひらサイズのプチマッチョ……
妖精か、もしくは小人族…というところなのだろう。
床をぬらしてでかでかと横たわっている巨大なマグロ。
「……ま、マグロですか……」
というか肺呼吸でないんだから陸にあがってたらいけないのでは?
マグロといえばえら呼吸で住処は海でしょうに……
あれらがみんな国民だ、というのだから思わず頭がくらくらする。
だがしかし、慣れなくてはいけない。
人間は外見じゃなくて中身だ。
それは判っているけど…インパクトが強すぎる。
あまりの緊張に初心の表明演説を忘れかける。
必死になってベットの中でやっぱりそういうのがあるとおもって考えた台詞を。
オレの野望。
眞魔国日本化計画。
ちなみに、全世界にも同じように訴えかけて本当の平和な星にしていきたいという。
そんな計画だ。
平和主義と国民主権の移行を最終目的とした平和表明演説。
「うっ…コンラッド。オレもう吐きそう。しかも緊張で何かお腹もいたいし……
  もいっぺんトイレ。トイレどこだっけ?」
この城ははっきりいって広すぎる。
一人でいこうものならまずまちがいなく道に迷って餓死するかもしんない。
いや、冗談抜きで。
よほど緊張しているのか、さっきから自分でもわかるけど十回以上はトイレにといっている。
「またですか?」
「またでなくてお腹だよ。お腹」
「そんな時間はございません。陛下」
白くてタイトなチャイナ服風のオレの教育係というギュンターが、
何やら我が事のような心配顔で走ってくる。
「じきに始まりますからね?よろしいですか。陛下。ご説明いたしましたとおりに。
  中央を進まれて段をのぼりましたら、ツェツィーリエ上王陛下から冠をいただき……
  むろん、儀式を執り行わなかったからといって。
  国民の陛下への忠誠が揺らぐわけではありませんが。
  やはり形式にはそれなりの効果が……」
まずい。
このパターンは。
この二日よく聞かされていた延々と続く説明づくし!?
この二日、意味不明なところが多々とあったにしろ耳にたこができるほどきいている。
「だぁ〜!もう!だからちゃんとやるっていってるだろう!?」
アンリは先に部屋にと入っているらしいけど。
でもオレが思うに。
この国ではアンリ……つまり、『双黒の大賢者・アンリ・レジャン』と呼ばれていた彼は。
神―つまり初代魔王とかいう人の眞王とかいう人と同じく神とあがめられているらしい。
ならアンリがいるって知らせたらオレの注目度はさがるんじゃ!?
と思ってアンリに提案したものの、逆に。
――そんなことしたら、ユーリへの期待がさらに膨らむよ?――
と切り返され。
アンリの判断に任せることにしているオレ。
だって下手に何ができるか、というか。
何もできないかもしれないのに、下手に期待させて絶望させても困るし。
で、結局。
アンリの存在は一部の存在のみにと知らされ。
このたびでは発表しないことに決まったのだけども。
でもそれって……
アンリが自分が目立ちたくないって思っている…というのと同意語だよなぁ〜……
いや、本当に……
「それを聞いて安心いたしました。陛下。よくご決心くださいました。
  わたくし、フォンクライスト・ギュンター。
  このたびの陛下のたのもしき姿を見られるだけでも……」
何やら感極まって爺モードにと突入しかけているギュンターがいるけども。
まあ、話によると本来、彼はオレの教育係にはじめからなるはずだったらしいし。
つまりは、簡単にいえば、オレが地球になどいかずにこちらですごしていた場合。
彼がずっと教育係としてオレの面倒をみることが決まっていたらしい。
こるギュンターの年も見た目×五。ということは、百数歳を超えているだろうから。
彼にとってはオレは孫と同じようなものなんだろう。きっと。
見た目何しろ二十歳そこそこだもんなぁ。
このギュンター……
ツェリ様よりは年下みたいだけど。
そんなギュンターの横をすっと横切り、
先にと部屋の中にと入ってゆく灰色の紙に青い瞳の男性が…うん?
「あれ?ちょっとまって。グウェンダル。オレよりあんたが先にはいっちゃってもいいの?」
オレの問いかけに。
珍しく口元に笑みを浮かべ…ぎこちないけど。
「上王陛下に冠をお渡しする光栄な役回りを仰せつかったのでね」
そうオレ達にといってくる。
「ふ〜ん。あれ?でもあんたはオレの即位に反対じゃないの?」
何かあまりいい事のような思ってなかったようだしさ。
まとうオーラからして悪い人ではないと判るけど。
この人の外見は絶対に見ただけで相手が萎縮する。
地顔らしいけど、いつも不機嫌そうな顔をしているし。
そんなオレの言葉に、向きをかえて、オレのアゴにと手をかけてくる。
……むちゃくちゃに身長差があるし。
オレだってまだまだ成長期。
のびる可能性はある!……と思う。
「とんでもない。反対などするものか。よい王になられることをいのるね」
それだけいって手をのける。
「よいって……」
「素直で大人しくて。従順な魔王陛下にだ」
「それはあなたが陛下を思うがままに操ろうという魂胆ですか!?」
ギュンターがまったく的外れなことをいって口をはさんでくるけども。
「まあまあ、グウェンダルもそういう意味では……
  あ。そういえばグウェンダル?アニシナがきてたぞ?
  儀式が終わったらお前に用があるとかいってたが……」
びくんっ!
面白いまでにコンラッドの言葉に、
あの常に無感情、ともいえる無表情のグウェンダルが身体をびくつかせてるし。
「私は用がある。といっといてくれっ!」
何やら吐き捨てるようにいって部屋の中にと先にと入ってゆくグウェンダル。
えっとぉ?
「?コンラッド?アニシナ…さんって?」
オレの問いかけに。
「フォンカーベル二コフ卿アニシナ。グウェンダルの幼馴染です」
「ふぅん……」
答えてくるコンラッドの言葉に、
とりあえず今部屋の中にはいったはずのグウェンダルを思い浮かべる。
…今の彼の反応は、幼馴染…という反応だけじゃないぞ?あれは……
何かむちゃくちゃぁぁぁに恐怖してたような気がするしさ……
しかも、名前を出されたときに、グウェンダルの身体から発せられているオーラが。
あからさまに恐怖の色にと彩られたのをオレは見逃してはいない。
グウェンダルのウィークポイント…みたいなものなのかなぁ?
「さ?陛下?よろしいですか?緊張していらっしゃいます?深呼吸して、すって。はいて〜」
いいつつ、自分がやっているギュンター。
「ギュンターがやってどうするの?」
思わずそんなギュンターに突っ込みをいれてしまう。
「時間ですよ。陛下」
高々と鳴り響くファンファーレの音。
ちなみに、腕にはめているままの時計が示す時刻はただいま十時半を回っている。
時間率的にはここも二十四時間周期みたいなもので回っているらしい。
なのでまったく違和感はないけど。
あるといえば侍女とかが控えて待っている…ということくらいか。
オレはそんな柄じゃないから丁寧に断っているけど。
…いつまでそれが通用することか……
ギュンターとコンラッドを従えて、
開け放たれた扉から中央の絨毯が敷かれている上を歩いてゆく。


ずらっとならんだかなりの美計算たちやいろんな種族の人々。
ゲームの中の勇者とかも勝利の凱旋のときとかはこんな感じだったのかなぁ?
とか自分の緊張と気持ちを紛らわせるために思ってみたり。
ちなみに、絨毯の上には真っ黒い花びらが敷き詰められている。
縁起でもないしもったいない。
いったい何本の花からつくったものか。
石の階段の下の左側にアンリがフードをかぶってこっちをみて小さくガッツポーズをしてくる。
コンラッドとギュンターはそのまま階段の左右に分かれて待機。
オレはアンリのガッツポズ…
つまり無言で、がんばれ!といっているのをみて小さくため息をつき、
意を決して階段を一段、一段とのぼってゆく。
階段の上には、そこににはなぜか部屋の中なのに。
ライオンらしき口から滝のように流れている水と。
その横には輝くばかりの金の巻き毛と美貌の持ち主が。
艶めく素材の深紅のドレスでツェツィーリエ様が待ち構えていたりする。
かぁなり、健全な青少年として目のやり場に困る服である。
…ボディーラインとかくっきりとわかるし……
「お…お美しいです。ツェリ様……」
女の子にばかり間違われ、もてない人生を歩んでいるオレにとっては目の毒。
といっても過言ではない。
いや、普通の健全な少年にとっても目の毒だろう。
そんなオレの言葉に。
その手元を口元に運ばれて湿った赤い唇で。
「ありがと。陛下」
なんていってくるし。
はっきりいってくらくらするんですけどぉ……
「でもこんなときまであたくしの機嫌をとらなくてもいいのよ。今日の主役はあなたなんですもの」
とかいってくる。
いや、機嫌うんぬん、でなくて本音なんですけど?
これで三人の子持ちで、しかも百五十歳以上。
というのだから信じられないよなぁ……


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