「ブランドン!」
オレが駆け寄ると。
「ユーリ。危険だから俺が!」
コンラッドの腕をふりきって、
いまだに何やらわめいている男の少し離れた位置にと横たわる彼の元にとかけよる。
「ブランドン!ブランドン!」
仰向けに少年をヒザにと乗せる。
薄く目を見開き、唇をうごかしたる
生きてる!
「おに…ううん。へいか……」
「陛下なんてよばなくてもいいんだよ」
とにかく血を止めないと。
頭の形が少しかわっている。
「……でも…王様に…なるんでしょ?」
「ブランドン…。ああ。オレ約束する。
  お前たちを…この村を含めて守ってやる!守ってやる。約束するからな!だからしっかり!!」
「なげるの……もっとおしえてくれるん……」
「しゃべったらダメだ!誰か!医者を!そうだ!ギーゼラを!!」
オレの言葉に。
「ギーゼラを!」
コンラッドが兵にと伝え、兵士が走ってゆく。
「…へいか……」
だんだんと冷たくなってゆく。
ダメだ。
ダメだ。
ダメダダメダ。
死んだらダメだ!
やがて、ぱたり、と伸ばされた腕が地面にとおち……
「っ!!!!!〜〜!!死んだらダメだぁぁぁ!」

瞬間。
オレの身体はものすごい熱さに襲われ…そして、何もわからなくなった………



ユーリの叫びと同時。
ユーリの周囲からとてつもない風とともに、空を突き抜ける光の柱が出現する。
それはユーリの身体からほとばしっており。
ふわり。
と空中に浮かんだ少年の体においては、見る間にその傷がふさがっているのが目にみえる。
そして……
次の瞬間には、少年はぴくり、身体をうごかし人々を驚かせる。
そして。
「…あれ?僕?」
きょとん。
とした顔で起き上がり、周囲をきょろきょろと見渡している少年…ブランドンの姿が。
少年の目に入ったのは、少し見慣れた姿より髪の長いユーリの姿。
「まだそなたは大地に還りゆくのははやすぎる。身を呈して余を守ろうとしたその心根。
  今後は人々のために、家族のためにつくすがよい……」
そうユーリが言い放つと同時。
光の帯も消えうせる。
そのまま、ユーリの身体はその場にと倒れ付す。
「陛下!?」
驚きの声をあげるコンラッドに。
「蘇生の力まで復活しちゃったかぁ……。でもまだ身体に負担がかかりすぎるんだよねぇ」
のんびりといいつつ、ユーリの身体をいつのまにか真後ろにと移動してきていたのか。
とにかく、ユーリの身体を支えるアンリの姿が。


「……ば…馬鹿な……」
確かに頭をつよく殴った。
助かるはずはない。
ないのに……兵士たちに取り囲まれて呆然とする男。
それともうひとつ。
「双黒が二人!?」
今さらながに、その点も隠せない。
「陛下っ!」
顔色を変えて近づくコンラッドに。
「心配ないよ。ウェラー卿。ちょっとばかり一気に物質再生だの。蘇生だの。
  そんな力を使ったから身体に負担がかかってユーリは気を失っているだけだから」
さらり。
と何でもないようにと言い放ち、ユーリを抱きかかえているアンリの姿。
そして、はっと我にともどったヴォルフラムが。
「とにかく!その男をつれていけ!」
『はっ!!』
兵士たちにと指示を出す。
そしてまた。
「…今度の魔王は常識はずれのようだな……
  あのときの赤ん坊がここまでの力を持っているとは……な」
一人、何やら小さくアンリに手を貸しつつもそんなことをつぶやいているグウェンダルの姿が。
彼はユーリの赤ん坊のころを知っている。
知っているがゆえに、彼を過酷な運命に巻き込みたくなかったのも…また事実。
ユーリは知る由もないが……
まあ、血筋からいっても、確かにありえないことではないのであろう。
それはわかる。
わかるが……
普通、力ある言葉を唱えずに力を使うなどということは…かなりの至難の業……
いまだにざわめく村をアトにして。
ひとまず気絶して完全に今は深い眠りに入っているユーリをつれて。
コンラッドとアンリとヴォルフラム。
この三人と数名の兵士たちはひとまず先に血盟城にともどってゆく。

後には。
事後処理をするためにその場に残るグウェンダルたちの姿と。
いまだに戸惑う村人たちの姿がのこされてゆく―――




「……う〜。信じらんない。どうしてこういうことになるかなぁ?」
思わずぼやいてしまう。
「仕方ないだろ?自分で王になるって宣言したんだし」
「そうそう」
「う〜……」
壁にともたれかかったままでオレをみてにこやかにいっているコンラッドに。
オレになんにやら正装らしき小道具をつけてくれているアンリがそんなことをいってくる。
「そりゃそうだけど…だからって何でよりにもよって戴冠式……
  歴史の教科書の図8でしかみたことないような戴冠式…あぅ……」
目が覚めるとオレはいつのまにか、再び城の中の部屋に寝かされており。
オレの回復と同時に国は新たな王を向かえる準備で大賑わい。
オレもここ数日練習とか作法とか…とにかく、インスタント的にとつめこまれ。
そして今日がその本番。
ついつい王になるっていっちゃったのは確かだけど。
…何でよりによって戴冠式?
戴冠式なんてご大層なものがあるなんて…考えてもいなかったし。
しかも、パレードみたいなものは話を聞く限りはないらしいものの、
バルコニーでのお披露目みたいなものはあるらしい。
何か難しい言葉で説明されたので、何があるのかオレにもいまだに詳しくはわからない。
ともかく、簡単な戴冠式における作法を覚えるので精一杯。
何しろ目覚めてすぐに二日後に戴冠式…となっていればなおさらに。
何かまたまたあの村でオレは何かしでかしたらしいけど。
オレは何も覚えてないし。
つうかさぁ…オレはしがない一高校生なんだから、仰々しいことは簡便してくれ…
……というのが本音である。
「ノミネートは君一人。プレゼンターは母上」
「あ。いいこというね。ウェラー卿」
「アカデミー賞っぽくいうなっ!」
二人とも絶対に楽しんでいる……
「よし。できた。まあこんなものかな?」
とりあえず制服だといろいろと代用がきくというのもあり、ひとまず制服で戴冠式に挑むことに。
というか、あまり仰々しい服なんてきられるか!というのが本音だけど。
ま、高校生の正装っていったらやっぱり制服だし。
「それじゃ、僕は先にいってまってるからね。がんばってねぇ〜」
ひらひらと手をふりつつ、アンリが先にと部屋からでてゆく。
先ほどまではギュンターも一緒だったのだが。
例によってオレを褒めちぎり、式の進行のためにと走り去った。
彼が褒めたのは学ランのことと、あとはあの村のこと。
「しかしあれだけのことをしておいて、まったく覚えていらっしゃらないとは……」
いってコンラッドが苦笑するが。
オレ自身とすれば、ブランドンの身体が冷たくなっていくところまでしか覚えていない。
その先はぷっつりと真っ白だ。
国土を救っただの。
難民とはいえ国民の命を救っただの。
と大げさに褒められても、すべてにおいて平凡な高校一年生にとっては、
本当に自分がそんなことをやったなどとは到底信じられるものではない。

「わたくしの申し上げましたとおり、魔力は魂の資質なのです。
  陛下は魔王の御魂をもたれ、天空人ソフィア様の血をも受け継ぐおかた。
  盟約などでお手をわずらわさずとも四台元素も喜んで従いましょう」

そんなことをいってギュンターは一人勝手に納得してわが事のように吹聴して回ったようだ。
コンラッドはといえばもうすこし客観的だ。
「俺には王都にくる途中の休憩した場所が怪しいと思うな。あのとき俺と君は水をのんだだろ?
  どうもあれがきっかけでつながりが出来たように思えてならないけど。
  俺には魔力の欠片もないから確信はもてないけど。」

そんなことをいってるし。
まあ、何はともあれ。
子供たちや、そして村人。
そして村そのものが無事だった。
という事実はとても喜ばしいこと。

そんな会話をしつつ、部屋をでて、とにかく長すぎる廊下を歩いてゆく。
廊下にでてしばし歩いていると、廊下の向こうからゆれる金髪が近づいてくる。
青の強い紺の正装がすばらしく似合う。
魔族のプリンス・ヴォルフラムだ。
ここまで美少年はそうそういないだろう。
というか、きちんと少年、に見える…というのがものすごくうらやましい。
ここまで美形なくせしてさ。
オレなんか、美少女、とかはよくいわれるけど……
美かどうかは別として。
男で美しい、というのは彼とかギュンターのことをいうのだろう。
オレの場合は美しい、というか完全に女顔だし。
そんなことを思いつつ内心ため息をつきつぶやくオレ。
と。
「何だ?その質素ななりは?」
「……はぁ?」
いきなり出会いがしらにそういわれ、思わず間の抜けた声をだす。
「だって公式行事っていえば学生は制服が基本だし。」
校則にもきちんとそう書いてある。
そんなオレの言葉に。
「肩章も装飾もほとんどないじゃないか。これから魔王になろうかというものが、
  そんな肩の飾りと布だけで貧乏くさいカッコウでいいと思っているのか!?」
オレの顔をみないまままであちらこちらにと視線を動かしつついってくる。
いつもなら白磁のような滑らかの頬には少しばかり赤みが差している。
熱でもあるのかな?
それか緊張で顔を赤くしているかのどちらかだ。
「財の欠片もないような姿で兄上や僕に恥をかかせるなっ!」
いや、そういわれても。
オレ、全財産を足しても財産なんてないですけど?
あっても百万にいまだにいっていない。
せいぜい数十万がやっとほどだ。
こちらが言い返そうと口を開く前に、ヴォルフラムはオレの胸をつかみ金色の飾りを留めてくる。
「…おい?」
「これは僕が幼少のころにビーレフェルトの叔父上にいただいたものだ。
  特にいわれがあるものではないが。
  戦勲どころか戦場に出たこともないやつにはこんなものこそお似合いだろう。
  何しろユーリは剣すらもまとまに扱えられない史上最高のヘナチョコだからな。」
「へなちょこっていうなっ!」
「よし。まあまあだ。」
不自然なほどの早口でそれだけいうと、ヴォルフラムは小走りにと立ち去るし。

左胸にとつけられた贈り物は、両翼を広げた金の鳥だ。
みたところ、お袋たちがはまっている、
とあるネオロマンスゲームの神鳥のブローチに似通っているかもしんない。
そんな弟の姿を得意げに背中を見送っているコンラッド。
そして。
「どうやら陛下はヴォルフに気にいられたようですねぇ。」
「ええ!?あの高慢ちきな何様殿下に!?しかもわがまま!」
「あいつは昔から気にいった相手には、ちょっかいとかよくかけますしね。」
「……子供の行動パターンかよ……」
コンラッドの言葉に思わずうなる。
で、そ〜いや、結局あいつ、オレに謝ってきてないし!?
そんなことを思いつつも、とりあえず長い廊下を進んでゆく。


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