「元々それはユーリのものだしね。彼の前世であった女性がウェラー卿にあげたものだし。
  ウェラー卿としてはユーリには彼女みたいに早死にしてほしくないから。
  っていうのもあると思うけどね。ユーリにそれをあげたのは。
  あと本来の持ち主にもどす。という意味をもこめてるだろうけど」
いいつつも、テントにと入ってくるアンリの姿。
「え?でもあれは……」
そんなアンリの言葉にとまどっているギーゼラさん。
「オレの前世…って。アンリ、いまだに名前教えてくれないじゃん?
  お前がオレに教えてくれたのは産まれ付き目が見えなかったっていう女の人ってことだし。
  その人のこと?」
「そ。それはそうと。ユーリ?今の話。外にまで聞こえてたよ?あるいみ説教だよね。あれ」
いってくすくすと笑ってるし。
そして。
「あ。フォンビーレフェルト卿は借りてたよ。彼のあの容姿はけが人には効果があるしね」
そんなことをいってくる。
「そういやヴォルフラムがいないとおもった」
確か一緒にきてたはずなのに姿がみえなかったわけだ。
アンリが入ってきてその言葉をきき、何やらはっとしてとまどいつつも。
「陛下。猊下。お二人ともありがとうございました。
  そろそろお二人とも陣営のほうにおもどりくださいませ。あとは私一人でも大丈夫ですので」
お辞儀をしつつ、いってくるギーゼラさん。
「え?でも?」
まだ治療がすんでないのに。
「そろそろ外も落ち着くみたいだし。子供たちも気になるし。もどってみない?ユーリ?」
アンリがとまどうオレにといってくるけど。
「うん。まあ…それじゃ。またギーゼラさん。手伝いにくるから」
確かに子供たちのことも気がかりではあるし。
アンリに言われたとおり、ひとまず村人たちが集まっている場所にともどることに。


兵に指示をだしているコンラッドのもとに、いまだに少しふらつく足取りでとよってゆく。
これはたぶん、先ほどの負傷した人々を治療していたし。
その光景をみた反動だろう。
まず、けが人なんて間近でそんなにみることなんてない生活おくっていたんだし。
オレは。
ところどころこげた服の兵士などが村の様子について報告しているらしい。
「あ?陛下?大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ…というか、オレ陛下じゃないってば。それより、村の様子は?」
オレの問いかけに。
「陛下は陛下ですよ。
  報告をうけたかぎり家々もすべて焼け落ちる前のそれと。まったくかわりなく問題ないようです」
そういうコンラッドの言葉に。
「ま、ユーリの力で再生したんだし。そんな力うけたら何でも元通りになるけどね……
  ユーリ。というか無意識下でシルの…いや、創世神の力をつかうのはやめとけ」
「…は?」
アンリの言葉に思わず聞き返す。
「ユーリの母親のソフィアさんってね。ほら、聞いたとおもうけど、彼女天空人だったろ?
  天空人は多かれ少なかれ、この星を創世した創世神の力を使えるんだよ。
  もっと正確にいえば、この銀河そのものを。なんだけどさ。
  で、ユーリもその力を母親から受け継いでいるんだけど……
  あの力は強大だから危険なんだよ。
  力加減間違えたら、この星そのものすら破壊しかねないし。
  何より君の身体にかかる負担が大きい。今の君の身体の状態ではね」
ぽん。
とオレの肩に手をおいていってくるアンリ。
「は?何?ちょっとまて!だからちょっとまてぃ!何それ!?
  っていうか、本当にオレが村を治したわけ!?」
んな馬鹿な。
「人々の話からすればそうらしいですよ?陛下が再生された。と」
「――んな馬鹿なことってあるわけないじゃん。オレにそんな力なんてないって」
「ありますってば」
「あるってば」
「あるだろうが。お前は」
しくしくしく。
なぜか、コンラッド・アンリ。そしてヴォルフラムまでもが加わって三人が異口同音。
何で三人が異口同音に肯定するわけ!?
つうか、んな馬鹿なことできるはずないじゃん!?
夢だとしたら自覚がない、というのはむしろおかしいし。
夢だったとしたら、ばんばん力つかって空を飛んだりさ。いろいろできるはずだし。
ここまではっきりしている夢なんだったら。
……夢でないような気がしてるのは事実だけど…さ……
「で。でもさ。いくら食料がほしいからって。こんなこと…わざわざ火をかけてまで。
  そりゃ日本でも昔は一揆とかいろいろあったらしいけどさ。でもこれはやりすぎだよね」
とりあえず話題をかえよう。
うん。
自分にそう言い聞かせ。
「人間同士が戦うなんて無意味なのに。
  というか命あるものが戦うのは普通生きるか死ぬか。
  っていう大自然のおきての中だけでいいとおもうけど……
  私利私欲で戦うなんて…絶対に間違ってるよ。しかもそれを当たり前、とおもっているなんてさ。
  だれもそれを間違っている!とか。
  とめようとする組織とかそれを裁く機関とかないわけ?ここには?
  オレが住んでる地球でも、日々どこかで確かに戦いはあるけどさ。
  それをとめようとして必ず誰かが行動してるしさ」
まあ、地球の戦いのほうがこちらよりかなり凄惨だろう。
絶対に。
何しろ飛び道具が飛び道具だ。
オレのそんな言葉をさえぎるように、馬の蹄の音が近づいてくる。

三騎ばかり従えた彼は、大きな布の塊をひきずっていて。
その塊をオレたちの前でとほうりだし、村の一団にと目をやっている。
「…これっ!?」
ボロ布にみえたのは、人だった。
兵士の服装に、肩と右足に矢がささり、額から流血でまっかになっている…人。
もう一人は農民風の男で顔白い顔で何やらひくくつぶやいている。
手には何やら手錠のようなものが。
「あちらはすぐに片付く。といっても大半は動けないから捕らえるのも楽ではあったが」
といいつつ、オレをちらり、とみていってくるのは不機嫌そうな顔をしているグウェルダルだし。
うっ!?
オレ何かしたのかな?
小心者のオレとしては、思わずびくり、としてしまう。
というか、この彼――フォンヴォルテール卿グウェンダルに見つめられ……
…というか、にらまれたら誰だって絶対に怖気づく。
確信もっていえるし。
普通に見られもにらまれたような感覚だもんなぁ。
この人……
こんな事態になっている。
といっても、グウェンダルの表情はろくに変わることがなく。
服についた他人の血痕以外には戦闘の痕跡すらとどめていない。
末の弟であるヴォルフラムが来ていることに対してか、
ちらり、とこちらをみて少し眉を上げたあと。
コンラッドと状況について語りだす。
「この男がアーダルベルトが扇動した。と吐いた。どうりで手馴れているわけだ。
  兵士くずれがかなり参加していた。
  その中に火の術者がいたらしい。先刻までの火の勢いはそのためだ」
「まあ、陛下のお力で火も消え、ついでに建物もものの見事に再生しましたけどね」
そんな彼らの会話に。
「…いや、だからぁ。ほんっとうにオレがそんなことしたの?」
思わずアンリにと問いかける。
「兄上。こいつはどうやら何も覚えていないようなのです。
  どうやら無意識下だからこそできた芸当。運とよぶしかない奇跡かと。
  今のユーリは剣も魔術も使いこなせない素人、ということです」
そんなオレの前にでて、ヴォルフラムがグウェンダルに何かいってるし。
「奇跡…って。だぁかぁらぁ〜。何がどうなったの?ねえ?
  女の子が斬られそうになったところまでは覚えてるんだけど。
  そこから先はまったく覚えてないしさ」
そんなオレにコンラッドがすまなそうな顔をして視線を向けてくる。

あの眼差しには心当たりがある。
生徒指導教室に付き合ってくれた担任の目。
あんたがそんな顔をする必要はないんだよ。
監督なくって部活を首になったのはオレなんだから。
呼び出された育ての母親は、監督と学年主任に殴った事実をわびてから笑ってきいた。
「それで監督さんは何をやっちゃったんですか?
  この子を怒らせてから殴られるようなこと。つまり、まずい出来事でもあったんでしょう。
  ゆ〜ちゃん、昔からそうなんですけど。子供のくせに自分なりに変なポリシーもってて。
  自分が悪くいわれたり、何をされたりしても怒んないんですけど。
  他人が理不尽な目にあってたり。
  また道徳的に違反するようなことに出くわすと、頭に血が昇っちゃうみたいで。
  まあ、我を忘れた状態になっても、『正義』の二文字だけは守るんですけど」
とかそんなことをいってたし。
その為か教師間では、この親にしてこの子あり。
という結論が出されたらしい。
ま、あのときは監督もあからさまにひどいこといってたし……

育ての母の言葉を信じるとすれば、
小市民的正義感は、何をしたのかわからないけど貫けているはず……
……で、結果が火を消して村をよみがえらせたってか?
んな馬鹿な!?
オレが戸惑っていると、かるくふっと冷たい笑みを浮かべ。
そのまま、グウェンダルは村人たちが固まっているほうにと馬を進めていき。
そして、村人たちの前にと手かせをはめている男性を突き出している。
そして。
「そいつらがお前らの村を襲い焼いた。殺すなりさらすなり好きにするがいい」
とかいってるし。
…ってちょっとまてぃ!
何だって!?
そのままダッシュで兵士と村人たちの前にと立ちふさがる。
「やっぱり。そうなると思った」
などと、オレの行動をみてしみしみといっているアンリはともかくとして。
だってそうだろ!?
そんな殺したり、何だりっておかしいじゃん!?
またか。
というような顔でグウェンダルに睨まれるが。
だけどひるまない。
正しいことは正しく。
間違っていることは正さないと。
「ダメだろ?こいつはつまり紛争の捕虜だろ!?捕虜の扱いには決まりがあるだろ!?
  人類皆平等!けが人もまた平等だろ!?」
そんなオレの叫びに。
「コンラート。このうるさいのをどうにかしろ」
「いいや!どうにもされないね!」
オレの言葉に少しイラついたのか額に手を当てているグウェルダルの姿。
「それは一般の話だろう。こいつは首謀者だ」
「たとえ首謀者であっても同じだ!かってに死刑とかできるわけないじゃん!
  こいつの罪はしかるべきところできちんと裁きを受けてから。というのが普通だろ!?
  そもそも。そりゃ、自分たちの村が焼かれて、家族を殺されたり、傷つけられたり。
  そんなことされたら、相手を殺そう。と思う。というのは確かに人ならありえるとおもうよ!?
  けど!じゃあっ!自ら手を下したらそれこそそれは一生消えない罪なんだよ!?
  あんたは何の罪もない村人に一生その罪を背負わすつもりなのか!?
  いくらあいてが悪人でも一つの命を殺せば誰だって心に傷がつくしっ!
  だからこその、公平な、公的組織やそういった機関があるんだろうがっ!」
よくテレビで子供を殺された親が犯人を殺してやりたい。
といっているのを聞く。
気持ち的にはそうだろうけど。
だけど理性でそれはやらない。
「人には理性。というものがあるんだから!
  倫理をもって行動しないと。いくら何でも感情でながされちゃだめだ!
  あんたはこの人たちに人殺しやリンチ犯になれ。といってるんだぞ!?」
まったく、何をとんでもないことを……



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