「いいえ!陛下!とんでもない!ここは私一人でも大丈夫です」
「でもどんどん運ばれてくるし。アンリも手伝ってるみたいだし。
  オレにも何かできることはない?」
「猊下に続いて陛下まで。何ともお二人ともおやさしい心をお持ちなのですね。
  お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。ですが陛下。
  どうぞお戻りになって兵たちの指揮をおねがいいたします」
などといってくるけど。
そんな彼女の言葉に首を横にふり。
「見苦しいことなんてぜんぜんないよ。皆苦しんでるんだからさ。
  それにオレは軍隊を指揮できるタイプじゃないもん。
  だったら少しでも命を助けるために行動するのは当たり前でしょ?
  オレに出来ることって手伝いくらいしかないんだしさ」
オレの言葉に、何やら瞳を潤ませて。
「返答に猊下も陛下も。とてもお心がおやさしく、そして広いのですね。
  それでは…お言葉にあまえさせていただきます。
  申し訳ありませんがお願いしてもよろしいですか?」
「えっと?何すればいいの?」
「あちらの軽度の患者から。この液で消毒をお願いできますか?
  必ず手袋をなさってください。布とはさみはこちらにございますので。
  あの?陛下?負傷兵の治療のご経験は……」
「育った所に、兵士うんぬんってそのものがなかったけど。
  でも多分気を失ったりはしないとおもうよ?」
死球傷とかスライディング傷とか、スパイク傷なんてものは見慣れたもの。
あとはガラスに突っ込んだクラスメートの治療とか。
救急車がくるまでの応急処置で。
車にひかれた人のはきつかったなぁ…目撃者だったし。
でもそういえば、よくあの人…助かったよなぁ。
頭から血をものすっごく流してたのに。
ふと、昔遭遇してしまった事故のことを思い出す。
まあ、今はそんなの関係ないけど。

とりあえず、教えられたとおりに手袋をして、消毒液などを手にする。
ギーゼラという女の子は他の重症患者をみにいっている。
太股を切られた男に大丈夫?と声をかけながら大胆に消毒液をふりかける。
肉が開いてピンク色。
よくカッターなどでざっくりと切った傷によくにている。
……その範囲が狭いか広いか、という差はあるにしろ。
「運がわるいな。金属のないとこやられちゃうなんて。でも安心しろ。傷は浅いぞ。
  動脈からもそれてるし、それに何やら骨も筋肉もみえてない」
いいつつ、消毒液を振り掛けて、丹念に傷口をぬぐう。
痛いだろうけど我慢してもらうしかない。
「痛いだろうけど我慢してくれな。
  傷口にばい菌がのこったのまで包帯でもしたらあとあと大変だし」
下手したら、膿んでとんでもないことになってしまう。
「そんな…陛下…もったいない……」
何やら、かなり痛いであろう当人の兵士はなぜかもったいながっている。
目に涙がたまっているのはあまりの痛みのせいだろう。
「もったいないだって?薬品をけちっちゃいけないよ。傷口はしっかりと消毒しとかないと。
  後々悪化するもとだからね。えっと…ねえ!?これちょっと傷薬ぃ!?」
オレはここの文字は読めないので、薬をもって叫んでギーゼラ、という女の人に問いかけると。
少女はオレにとうなづいてくる。
どうやらこれが傷薬のようだ。
キッドの中の黄色いジェルを大きめのガーゼにぬりたくり、
保健体育だったか、応急処置講座だったか…それともボーイスカウトで習ったか。
ともかくどれかで習ったとおりに幅の広い包帯で股をおおう。
男はしきりにもったいながってるけど。
こういうとき包帯などをけちってはいけない。
「きちんと傷をおおっとかないと。膿む可能性もあるからね」
いってとりあえず包帯をぎゅっとしばる。
包帯をとめる金具でもあればいいんだけどどうやらそれはなさそうだ。
あれば便利なのに。
ここにはそんなものはないのかな?
「よっし。とりあえず安静にね。よしっ!次!」
男に声をかけて、次にと向かう。
さすがに裂傷ややけどの患者が多いけど。
比較的元気なものがオレの担当であるようだ。
ちょっとしたやけどの処理とかならしたことあるけど、この光景はオレにとっては衝撃的だ。
何しろ大概訓練するときは、擬似患者だったしなぁ。
何人かの人たちを処置した後。
うつぶせの男の番に。
背中をなめに切られているが防護服のおかげか出血の割りにはひどくない。
そんなに傷も深くないし。
よく時代劇とかである、辻斬りに襲われて倒れてた人の傷によく似ているような気がするけど。
革紐のついた銀のコインが首の後ろにとまわっている。
コインからは、この男性を心配する、おそらく家族のものであろう気が感じられる。
「えっと?これちょっとよけるよ?でないと傷の手当ができないから」
そういって、コインに手をのばそうとすると。
「さわるなっ!」
「いや。だから。ちょうど革の紐が傷の上にのってるし」
オレの言葉に。
「オレに触るなっ!どうせ殺すんだろ!?魔族が人間を生かしておくわけがねぇ!」
何やら叫んでるし。
まったく。
「殺す…って。だれも殺したりしないよ。というかさ。魔族だの人間だの。
  だからどうだの。偏見だとおもうけどなぁ。オレ」
そんなオレの言葉に。
「魔族と人間は違う!お前ら魔族と一緒にすんな!くそ!殺すんなら早くころせっ!」
「殺さないって。それにあんたオレが魔族っていうけどオレ自分でそうだってわかんないし。
  というかさぁ。あんた、いい大人のくせして傷の消毒がそんなに恐いの?
  まあ確かにしみるけどさ」
気持ちはわかるけど。
かなり沁みるだろうしね。
「消毒だぁ?今さら善人ぶった嘘はくんじゃねぇ!魔族が人間を助けるわけがねぇ!
 てめえら魔族は人間を殺す!だからオレたちも魔族もぶっ殺すのさ!」
「殺しやしないって。うるさいな〜。というか、何で殺すだの何だのっていう風になるわけ?
  種族違ってことはあるにしても話し合えばいいじゃん。
  同じ星に生きて、きちんと言葉も通じるんだからさ。
  それも罪もない人たちを迫害したらあやめたりそういうのはおかしいよ。
  それにもってけが人は種族も何も関係ないしね」
そんなオレの言葉に、消毒液の痛みに悲鳴をあげながら。
「うるせえ!この村の連中は魔族についた!魔族に魂をうったんだ!
  そんなやつらは人じゃねえ!殺されても当然なんだ!神は俺達をお許しになるっ!
  魔族を懲らしめるために力をおかしくださるのさ!」
痛みと出血のためなのか、ヒステリックにかすれた笑い。
そして。
「神は人間をお選びになるっ!」
とかいってるし。
「というか、戦争する人ってどこの世界でもそういうよね。それでもって自分に都合いいようにさ。
  オレの育ったところなんか昔人間を神様とかいって戦争してたけどね。
  でも戦争は何も生みださないんだよ。
  戦争によってつらい目にあうのは産まれてまもない赤ん坊とかも例外ないしね。
  あんたの子供が自分と同じ年頃の子の返り血とかあびてたらどうおもうよ?
  子供は善悪がわからないんだしさ?大人が手本を示さないと。
  人の命は地球…っていってもわかんないか。ひとつの星より重いって言葉があるんだし。
  それは種族に関係なくいえるんだしね」
とりあえず、彼が叫ぶのに身体を起こそうとしたので、それを利用して包帯をまいてゆく。
「人って痛みにたえかねたら信じられないことをいったりするからね。あと本音とか。
  でもれがもし本音からいってるんだったら改めたほうがいいよ?
  もしあんたの子とか孫ができたら、自分は人を殺したんだ。って胸はっていえる?
  いえるんだったら、それはそれでおかしいよ?
  自分は人殺しです。って自慢じゃないよ。それは。それは違うでしょ?」
相手が何か言いかける前に。
「そもそも。戦争とか争いって。周りに踊らされていることが多いんだよね。
  あと小さなころからそう教え込まれていてさ、真実がみえなくなってたり。
  何が正しいのか、悪いのか。それをきちんと教育うけてなかったりとかでね。
  たとえば、どこかの悪の組織の中で育ってたら自分の悪いことをするのが正しい。
  と思い込んだりとかね。だけどそれは間違いなんだよ。
  周りの大人から正しい道にいくように、きちんとした道を示さないと。
  子供は大人の背中をみて育つんだしさ。何よりも命に種族も関係ないし。
  命そのものには色もないんだから。すべて平等だよ?」
相手に突っ込みを入れられないほどに一気にまくしたてる。
話してたら素直に傷の手当をするのに抵抗する力がよわまり、受けさせてくれるし。
ついでに間違った考えはこの場できちんと訂正しておこう。
正すこともまたひとつの義務だしね。
「死んじゃったらそれまでの過ちとかを正すことは二度とできないけど。
  生きていれば間違いは正すことはできるしね。今からでもおそくないよ。考えをあらためなきゃ。
  それにもし、『種族が違うから戦ってもいいんだ。』
  なんて考えもってるんだったらそれも間違ってるよ。
  そういうのは周りの育った環境で思い込んでいるのかもしれないしさ。
  でも自分で何が正しいのかきちんと見極めないと。
  子供まで間違った方向にいっちゃうよ?種族違いなんて関係ないよ。
  だってそうだろ?オレの知ってる人なんて魔族と人間の子供だし。
  オレだって魔族だったっていう父さんと、天空人とかいう種族の母さんとの子供らしいし」
ぴたっ。
なぜか相手の体がぴくり、と震えて固まるし。
「よっし。これでオッケーっと。あ、でも背中をかいたらだめだよ?
  傷が浅いからむずむずしたりするだろうけど」
いいつつも、その場を片付けて次の人に移動しようとするオレに。
「…まて。今の…本当なのか?」
何でか声が震えてるけど?
声を震わさせてオレにといってくる今手当てをしていた男性。
「何が?」
「お前の母親のことだ!」
「らしいよ?ソフィアっていって。オレが赤ん坊のころに死んだらしいけど」
「馬鹿なっ!あの!あの子供は…死んだはずだっ!」
とかいってるし。
「え?何か話しでも聞いたことあるの?
  でもそれって多分。オレ異世界に送られてたからじゃないのかな?ほら。動いたらダメだって」
動く彼をまた横たえ、別の人にと移動する。
何かさっきの人は、
「そんなはずはない。そんなはずは……」
とかぶつぶつうなってるけど。
そんなにしゃべる元気があるなら彼は大丈夫だろう。
「えっと?君は……」
いいつつも、次の人の手当を開始しようとすると。
なぜか周りの患者の人たちのうち、目を開ける人たちは眼を見開いてオレを見てるし。
「??え?何?どしたの?」
何かほとんどが驚いたような表情になってるし?
「陛下。ご気分を害されませんでしたか?ですが今の陛下のお言葉。
  心より感じ入りました。命に種類はない。そのとおりですわ」
首をかしげるオレにと近づいて、そういってくるギーゼラさん。
そして、ふと。
「あら?陛下?それはコンラート閣下からの捧げものですか?」
「そうだけど?」
オレの首にとゆれている石をみて何かを思い出したのかオレに問いかけたあと、小さくうなづき。
「とてもよくお似合いです。とてもよく」
などといっている。
??



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