「っ!?ユーリ!?」 いきなり目の前で話していたユーリが消えてしまい、おもいっきりあわててしまう。 そう。 一瞬のうちに消えてしまったのだ。 いったい? だがしかし、先日。 陛下と猊下の会話をギュンターから聞いたことを思い出す。 猊下と、そしてユーリは本来は空間移動が楽に可能だ。ということを。 では…いったいどこに? そう思い、ふと思い出す。 彼が消える直前のことを。 「まさか!?」 そのまま、ヴォルフラムはあわてて、アンリの元にとかけてゆく。
「……罪もない女子供に対しての悪逆非道。汝らはそれでも人間かっ!!」 ユーリの周囲に巻き起こる突風。 女の子はすでに一緒に行動していた人が助け起こしていたりする。 馬上にいた攻撃を仕掛けようとしていた人々が突如として吹き飛ばされる。 「いくら大儀名文があろうとも。きれいごとを並べようとも。 罪なき村を襲い、私利私欲を欲するとはなにごとかっ!!」 先ほどまでのユーリとはうって代わった態度に思わず呆然とする人々。 先ほどまで一緒に救助活動していた少年とは雰囲気がまったくがらり、とかわっている。 しかも、彼は立ったままだ、というのにまったく雨に濡れる気配すらない。 「罪なき人々を苦しめた罪は重い!その罪、その身をもってつぐない反省するがよいっ!」 言葉と同時に。 ざっ! 襲撃していた男たちの周囲の雨が、一瞬のうちにその姿を変えて龍と成す。 そしてそれらの龍はそのまま、男たちにくらいつくようにと襲いかかる。 『うわぁ〜!!??』 もはや、彼らとしては叫ぶ以外に道はない。 というより、それ以外は何もできない。 しかも、そのような現象は、この場だけではない。 ユーリが空にかざした手の先から光の帯が空に向かったかとおもうと。 それは上空で分散し。 上空より人々を襲っていた襲撃者たちにと襲い掛かっていき、 すべてのモノたちをそのまま二階建ての建物よりも高く高々と空にとかかげてゆく。 周囲では雷らしき龍がうねり、彼らとしては生きた心地がするはずもない。 そんな上空にと水の蛇にと人々の目にはみえるそれにと高々と掲げられている襲撃者たちをみて。 ただただ呆然とするしかない村人たち。 いくら魔族でも、こんなことができるなど聞いたことがない。 「くそっ!はなせっ!くそっ!アーダルベルト様ぁ!!」 数名が上空よりある人物の名前を呼び叫んでいるが。
「なっ!?あれはまさか陛下!?」 兵より連絡をうけて、どうしてこんな所に陛下が?と思うよりも。 とにかく、その身を保護することが何よりも先決。 その場をグウェンダルにと任せ、村に向かっていたコンラッドの目にうつったものは。 数十体以上という水の龍。 しかも、一つ一つの龍に数名づつ空にと掲げられている人々の姿が。 おそらくは襲撃者であろう。 見ただけではわからないが、ユーリは実は精神体にも多少干渉し。 彼らのパニックをさらにあおっていたりする。 こういう光景が始めてではないだけに、それが何となくわかってしまうコンラッド。 「いそがないとっ!」 今、あんな魔力をつかってしまえば…それでなくても、まだ体が完全ではないはずだ。 そうおもい、コンラッドはさらに急いで馬をはしらせてゆく。
「命まではとらぬ!その罪、いきながらの苦しみで一生つぐなうがいい!」 そんな空にと龍によって掲げられている人々にと高々といっているユーリの言葉。 そして。 ユーリが手を前にとかざし、その手の先に光が出現するのと同時。 カッ!! 村は淡い銀の光にとつつまれる。 その刹那。 人々はみた。 その光の中で焼け落ちたりしたはずの家々が元通りに再生されてゆくのを。
「ユーリッ!」 遠くからユーリを呼ぶ声。 そして。 「おってそのほうたちには裁きを申し渡す!」 そういったその刹那。 ユーリはその場にとたおれこむ。 あとには…何事もなかったかのように晴れ渡った空と。 ユーリが気絶したことによって戒めから解き放たれ、 上空から地面に叩きつけられ動くことすらもままならない襲撃者たちの姿。 コンラッドがユーリの元にとかけつけたとき、 すでにユーリの手により村はよみがえり、ちょうどユーリが気を失う直前のこと。
「何だってユーリに教えたの!?」 「そんなことをおっしゃられても!!」 パカラ。 パカラッ。 空の先に見える黒い雲。 間違いない。 ユーリは間違いなく移動してしまっている。 自分からいきかねないから黙っていたのに。 それでなくても、彼女の手によって、こちらとのつながりが復活しているのだからして。 エドも考えてるよなぁ…とはおもうものの。 だがしかし。 確かに、あのままでは彼の身体に負担がかかり、下手をすると魂にも影響を与えるのは明らか。 「でも兄上が向かわれているのだから。 今頃はもうすべて収めて事後の対策にかかっているとおもうんですが。」 ヴォルフラムの私兵とともに、アンリもまた村にと向かう。 ギュンターはユーリが紛争地帯に空間移動した。 というのを聞いてそのまま卒倒してしまい。 しかたないのでほっといて彼らだけでと村にと向かっているのだが。 アンリは自分も移動しようとしたのだが。 ヴォルフラムに自分もいく!といわれ。 しかたなく、馬でも移動を余技なくされている。 道並みの空間をつないでそのまま移動したがゆえに、時間はずいぶん短縮されている。 それにヴォルフラムたちが気づいて驚愕していたりしたのだが。 アンリにとってそれはどうでもいいこと。 自分たちの…特に、ユーリの本来の力は、今はまだ誰にも知られるわけにはいかない。 パニックになるのは必死。 下手をしたらそれが争いの種になりかねない。 いや、すでに動き出しているモノもある。 だからこそ。 しばらく進むと雨雲が彼らの視界の先からきえ。 かわりにまぶしいまでの光が周囲を覆い尽くす。 「って!?何ユーリのやつあれまでやってるの!?」 思わず馬上で叫ぶアンリに。 「?何だ?この光は?」 光をうけて戸惑いの声をだしているヴォルフラム。 光はすぐに収まっているものの。 「むちゃばっかりして!今の彼の身体で物質再生なんてやったら負担が大きすぎるのにっ!」 いいつつ、アンリは馬をさらに早く走らせる。 「ちょっとまってください!猊下!というか何ですか!?その物質再生って!!」 そんな駆け出すアンリを追いかけ叫ぶヴォルフラム。
しばらくすすむと、村の全体がみえてくる。 すでに火は消えており、というか何かあった痕跡すらもみあたらない。 「これは?いくら何でも……」 いくら何でも綺麗すぎる。 村人たちは小高い丘の上に固まっているらしく、 村の中では兵士たちが右往左往している様子が見て取れる。 どうやら犯人らしき人々をひきたてている様子も確認できるが。 「まったくだ。いきなりの雨が降らなきゃいい線いってたんだがな」 アンリとヴォルフラムの背後から聞き覚えのある声が。 「っ!」 その声に顔をゆがませるヴォルフラム。 見れば全員こちら側は凍りついたようにと動けなくなっている。 というか…このフォンヴォルテール卿たち…気づかなかったの? アンリからすればそちらのほうが驚きだが。 顔と頭を隠したフードの下でそんなことを思ったりしているアンリ。 彼――フォングランツ・アーダルベルトはゆっくりと近づき、 ヴォルフラムの横顔をながめながら。 「これだからお前は甘いっていうんだよ。王様を守るのに十騎ばかりでいいのか? しかも純血魔族なんかばかり集めたりするから魔封じの法術に簡単にと引っかかる。 こういうときは最後の一人に術を向こうかさせるヤツを選らばねえとな」 などといっているが。 なるほど。 彼はこの僕をユーリと間違えている。 悲しみにその心を捉えられ、真実が見極められなくなっている…気の毒な存在。 だがしかし、ならばこの状況は利用できる。 前世においては、自分がそばにいなく。 この彼に対する想いというか優しさから、彼女がつらい目にあっていた。 彼女が自分の使命を理解してからはなおさらに。 だが、この男は、自分の想いだけを彼女にぶつけ、ある日、あろうことか…… 未遂ではあったが、許せるはずもない。 今度はそうは絶対にさせない。 「よう。またあったな。新魔王陛下」 ぺこり。 その言葉にかるく頭をさげておく。 勘違いしているのならそのままにしておいたほうがいい。 おそらく、彼はユーリが使った魔術はみなかったのであろう。 ほんの数分のことであったがゆえに。 自分にはユーリが力をつかうとわかるがゆえに。 「こいつらが動けないのはオレの術のせいだ。ちょっと修行して覚えた魔封じの法術だよ。 だがお前さんはどうしてこいつらと一緒に行動しているんだ? 母親と長兄にしか尻尾をふらねぇ三男坊をどうやって手なずけた?」 いいつつ、自分のそばにフォングランツ卿がくるのをみつつ。 ひとまず『反射』の術を小さく発動させておく。 発動させれば、今ヴォルラムたちにとかかっている術はアーダルベルト側にと移動する。 いわば術返し。 ちなみに、数倍返しはあたりまえではあるものの。 「まあいい。オレはお前さんを助けにきたんだよ。オレは魔族のやりかたに嫌気がさしててね。 さ。気の毒ないけにえの異世界人。早いとこオレとこの場をはなれようや。 いきなり違う世界につれてこられて魔王になれ。なんて強制されてんだろ? 魔王っていやあ人間の敵だ。この世を堕落させ破滅させる凶悪な存在だぜ?」 いや、それは差別と偏見…… 力に恐怖した人間たちが作り上げた…… アンリにはそれはよくわかっている。 わかっているがあえてだまっておく。 もし今、自分がユーリではない。 と知られたら…… 間違いなく今は魔術を使ったあとの反動で眠りについているユーリの身に危険が及ぶ。 心が曇っているがゆえに、この彼はユーリのことを見極められない。 だからこそ、彼を殺そうとしている。 というのがわかるがゆえに。 それだけは絶対に避けねばならない。 だまっていると『とまどっている』、ととらえたらしく。 「お前みたいな若くて善良な人間をそんな悪者に仕立て上げようってんだ。 なあ?あんまりじゃないか?あまりにひどすぎるとおもわねぇか?」 思ってもいないことを、こいつは…… などとアンリは思うが。 「こいつらには犠牲が必要だったのさ。王の座に祭り上げるための生贄がな。 それには抵抗も反抗もできないような何もしらない真っ白な人間がいい。 魔族に敵対する人間たちにすべての現況として憎ませる。 そのためだけの存在としてお前を王にしようとしてるんだ」 よくもまあ、ここまで口からでまかせいえるものだよね。 アンリがそう思うと同時。 「そいつの話をきくんじゃないっ!そんなヤツの話を!その男はっ!」 つらいだろうに無理して声を発してくるフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。 あらぁ。 思わずアンリは目をぱちくりさせてしまう。 僕はこいつのいうことがまやかしってわかってるのになぁ。 とも思ってしまうが。 「いいんだぜ!三男坊!無理して声をださなくても! ちょっとばかり魔力が強いと完璧に術に支配されなくて損だよなぁ。 もっと楽に意識を手放せれば部下たちみたいに楽しい気分になれたものを」 見れば他のモノたちは目を虚無にし、視線をさまよわせていたりする。 …根性ないなぁ。 素直な感想。 このまま、勘違いをさせておく。 というのもひとつの手ではあるが。 だがしかし。 そのまま黙って馬からおりる。 「お!わかってくれたか!」 「げいかっ!!」 アーダルベルトの声とヴォルフラムの声がほぼ同時に発せられる。 「悪いけど。フォングランツ卿。君のざれごとに付き合う気はないよ。反転!!」 ぴっしっ! きっと顔を上げたアンリの顔にユーリでないことに驚きの声を上げる間もなく。 空気が凍るような音がして、アーダルベルト以下数名の動きが凍りつき。 そしてそれとは逆にヴォルフラムたちの動きも開放される。
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