「しかしまさか水と火を同時に……。あ、いや。 しかし僕の剣を弾き飛ばしたのは中々だった。ああいう打ち込みははじめてだ。 お前の育った国の剣術なのか?」 ?同時?何のことだろ? 「何が?ああ。あの満塁ホーマーか。違うよ。あれは剣術でも何でもないよ。 ちなみに、フェンシングでも剣道でもないぞ? あれはオレが小さいころから野球やってて、あの剣のグリップがたまたまバットに似てたから。 同じように握って剣をボールにみたててふっただけだよ」 「グリップとかバットとかは、ユーリの使い慣れた武器の名か?」 だぁ〜…… 「だぁかぁらぁ。オレが育ったところではそんなものはないの! というか、銃刀法違反っていう法律もあって。 刃物とか危険物は所持するのは法律で禁止されてるしっ! 日常で包丁とかカッターとか使うのはともかくとして、外で使うのは禁止なのっ! 一般的な戦い。といっても。竹でつくった剣もどきで剣道とか。あとはテニスとか卓球とか。 それとかサッカーボールっていうのもあるけど。オレは野球がすきだし。 野球っていうのはチームを組んで、一人が投げてそれを別の一人がそのボールをうけとめて。 でも別のチームの人がそのボールをうつ。投げているほうは打たれないようにする。 そういう競技なの。守りと攻めにわかれてて、 で、ある決まった回が過ぎたら交互に守りと攻めを変えて点を競う競技なの。 一点、一点のせめぎあいで生きるか死ぬか。みんなそんな気になってがんばっているんだよ。 興奮するし楽しいし。プロにでもなったら年収何億っていう契約金で彼らはそれやってるし」 「何億!?たかが球あそびでか!?」 あ、驚いてる、驚いてる。 「たかが、ボールをなげて、それを打つ、というだけでか!?」 「う〜ん。実際にみたら野球の面白さはわかるんだけどね。 っていってもこの国の野球人口っていったらオレとコンラッド。 それとあとあの子供たちだけだからなぁ」 二人だとわかんないし。 楽しさは…さ。 キャッチボールなら出来るけど。 「僕と話しているときにコンラートの話をするな。コンラートのことなどどうでもいいだろう。 あいつなら今はひいきの人間どもの村にいっている」 「?そういや。仕事とか?」 詳しく聞いてなかったけど。 「ああ。国境近くの村で紛争があって兄上とコンラートで鎮圧にむかっている。 難民に貸した我々の土地だが、この時期は早場の麦がなるからな。 周囲の村に狙われやすい。昨年は豊作だっただけに今年はなおさら危険だろうな。 人間どもは魔族についたものを仲間とはみなさないから、好き勝手してくれる」 ちょっとまてっ!? それってまさか!?あの子達が!? オレ自信、自分で顔色が変わることに気づく。 「何だよ!?それって!?被害…ってまさか、怪我とかしてないだろうなっ!?」 オレの叫びに。 「死傷者のない争いなどきいたことがない」 ってそんなっ!? 「っ!!いかないと!子供たちが!!」 「はあ?…って…おいっ!?」 死傷者のない争いなど聞いたことがないって…… とにかく、オレに何ができるかわかんないけど。 助けにいかないとっ!! そう思うと、なぜか身体が熱くなり。 そして…… いっしゅん、視界がぐらり、とする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・あれ?」 ふと気がついたら、なぜか目の前には燃えさかる家の姿。 えっとぉ? 「あれ?ここって…?」 オレ、さっきまで城の中にいなかった? 「おか〜さん!おか〜さん!」 って? 何か聞き覚えのある声が。 この声って…… 「ブランドン!?」 どうしてオレはここにいるんだろう? って今は考えても仕方がない。 とりあえず、今は目の前の現実をどうにかするのみ! 駆け出してゆくとそこには、燃える家の前で叫んでいるブランドンの姿が。 やっぱり、ここってあの村だ。 「おに〜ちゃん!?」 顔がすすで汚れている。 「ブランドン!?いったい……」 「おかあさんが!妹がまだ中に!!」 「っ!?オレがいくっ!」 ちょうど風呂上りでまだほんのしっとりと濡れてるし。 少しは違うだろう。 水を汲みにいってたりする余裕は家の燃え方からして、そんな余裕はなさそうだ。 ブランドンをその場にのこし、家の中にとはいってゆく。 というか!? 何で家々が燃えるんだよ!? 見渡せば、火矢がとびかっている様子が目についてくる。 「大丈夫ですか!?」 家にとびこんでしばらく。 家の奥の部屋にうづくまっているブランドンのお母さんたち発見! なぜか不思議なことにオレの周りには火はよってこないし。 偶然ってあるんだなぁ〜。 ともかく、火に囲まれてすでに身動きすらできなくなっている彼女のそばにと近づくと。 「陛下!?」 何やら驚いてるし。 そして。 「どうしてここに?」 むせこみつつ、きいてくるけど。 「それはオレが知りたいよ!気がついたらここに来てたし。とにかく外へ!」 みれば、小さな娘をぎゅっと胸にとこの人は抱きかかえている。 とにかく、肩をかして、外にと出る。 「ブランドンは……」 「おか〜さん!」 外にでると同時にかけよってくるブランドン。 みれば、その手にはオレがあげたグローブとボールが握られていたりする。 何でもこの二つを持たせて先に彼のみを家の外にと母親は出したらしい。 そして残りの娘を助けようと、家にはいり。 火の勢いの強さからでられなくなったらしいけど。 だがしかし、家から出たから、といって火が消えるわけでもなく…… 近くでは悲鳴と叫びがいりまじった音。 そして、馬にのった人物が火矢をはなっている様子もちらり、と目にはいる。 何でこんなことに!? 「…何だよ……何だってこんなことするんだよっ!!!」 ゴロゴロゴロ… ピッシャァン!! どじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! オレの叫びと共に運よく雨が降り始める。 雷をともなった強い雨が。 投げ放たれていた炎矢も雨によって鎮火してゆく様子が目にはいってくる。 「とにかく!安全な場所へ!」 混乱する人々にと声をかける。 中には兵士の姿もみえるけど。 ちょうどいいや。 「お〜い!ちょっと!ねえ!とにかく民を安全な場所へ移動させてくれない!?」 とりあえず大声で声をかけてみる。 なぜか彼らはその声にオレのほうを振り向いて…そしてなぜか硬直してるけど。 「って!?まさか!?新王陛下!?どうしてこんなところにいらっしゃるのですか!?」 一人がそんなこといってくるし。 「オレが知るはずないでしょ!?何でか気づいたらここにいたし。 とにかく!住人を安全な場所へ!けが人とかの運搬は誰が!?」 自分に出来ることをするっきゃない。 「いえ。それはまだ……そこまでは手が……」 申し訳なさそうにいってくる兵士のことばに。 「だぁぁ〜!!誰か!力ある人手伝って!家の中に誰かのこされてないか確かめないと!」 「危険ですっ!」 その場でうろたえていた数名の住人らしき大人たちにと声をかけると。 なぜか兵士が止めてくる。 「危険とかいってる場合じゃないだろ!とにかく!何よりも住民の安全が第一だろ!!」 オレの叫びに。 なぜかとまどいつつ。 「…あんた、双黒……魔族なのに…なのに…助けてくれるのか?」 などと、一人の村人らしき男性が聞いてくる。 「こういうときに、魔族がどうとか人間がどうとか関係ないじゃんっ! というか、もともとそんな差別がある事態がオレには不思議だしっ! それにオレ自分で自分が何なのかわかんないし」 最後のは本音。 だって本当に魔族なのかなぁ? オレ? だって周りの人がいってることが本当だとしたら、オレの母親って天空人とかいう種族でしょ? 父親は魔族だとしても。 そんなオレがこの世界の魔族の王だ。といきなり言われてもさ…… 日本人として育ってきたオレにはどう対応していいのかわからない。 いくつか矢らしきものも回りに飛び交っているようだが。 ことごとく、雨の強さに叩き落されている。 この分だと火事も早くやむかな? 「とにかく!家の中に誰かがのこってたら一刻を争うし!手伝って!」 「あ…はい!」 オレの真剣さが伝わったのか、まだ若い数人が手をかしてくれる。 家から助け出した人は別の女の人たちが、兵士たちの示した安全地帯にとつれてゆく。 火は確かに収まり、どうにか家の中から動けない人々を救出してゆくことしばし。
「……やってくれるな。」 何やら誰かが話しかけてくる。 あからさまにこちらにむけて。 負の感情を撒き散らして……オレにもわかるほどに。 というか、この人間の気って……かなりどす黒いんですけど…… つまり、自分さえよければいい。 というような感じ丸出しの…オーラだし。 「何でこんなことをするんだよ!!あんたたちと同じ人間なんだろ!?」 あからさまに弓やら矢やらをもっている男たち。 オレと一緒に救助活動をしていた人々はその数名をみて何やら固まっているけど。 あからさまにわかる。 彼らがこの村を襲ってきた人間だ。 というのは。 「ほう。これは珍しい。双黒の魔族とは。 この村をひとつ潰すよりお前さんを捕らえたほうがよっぽど金になるな」 ? 「??というか!質問にこたえろ!何だってこんなことをする!? この村の人たちがお前たちに何かしたのか!?」 オレの叫びに数名が馬を一歩こちらにと歩ませてくる。 「何をしたも何もねぇ。こいつらは。この村のやつらは魔族についた。 それだけでオレたち人間の敵だ。なので別に殺しても罰はくだらないのさ」 いってげらげらと笑い。 「この村を焼き払ったら…まあ雨が降っているからそれは無理でも。 皆殺しにしてからお前さんをとらえ。俺達は裕福になるのさ。 オレたちの神が導いてくれている。 双黒のものは高くうれる。何でも不老不死になれるとかでなっ!」 …何だよ? 何だよ!?それ!? 耳につく。 泣き声と悲鳴。 降り続く雨に混じって家族を傷つけれたもの、家を奪われたものの声。 …何だよ。 何だよ?そんな神様って…何なんだよ!? 小さな女の子が横から木の棒をもって、男たちにと殴りかかりそうになる。 「よくもお父さんを!」 「やろうっ!」 「っ!!ヤ・メ・ロ〜!!」
女の子に向かって剣が振り下ろされる瞬間。 オレの頭の中は、また真っ白に……
戻る →BACK・・・ →NEXT・・・
|