頭が真っ白になる。 どこかで誰かがささやいている。 まだそのときではない。 ならば――
今、小学三年生の妹がまだ赤ん坊のころ。 オレが小学校にはいってすぐの春休み。 冬にうまれたばかりの妹と、義母さんと。 そしてアンリの家族。 その六人で乗馬農場にといったとき。 そのとき義父さんと義兄貴はボブおじさんによばれていて。 実際は何かボブおじさんは地球の魔王らしいけど。 ともかく、彼に呼ばれていて二人はあとからくる、というので別行動。 当時まだ七歳にも満たなかったオレが係りの人につれられて、馬にとのっているときに事件はおこった。 とんでもないことに、殺人強盗犯がその農場にと押し入ってきて。 その数、約十数名。 こともあろうに、テラスで休んでいた義母さんや、他にもきていた数名の家族連れ。 彼らに銃をつきつけ人質に。 オレも義母さんたちのほうにいこうとしたけども。 一緒にいた係りの人にとめられて…… そしてやがて警察が。 鳴り響く、パトカーのサイレンの音や、バラバラと飛び交うヘリコプターの音。 そして小さい子供を人質にして強行突破を犯人たちはしようとし。 こともあろうに、生まれてまもない義妹のスピカを奪おうとしたので、義母さんがむかっていき。 ――パァンッ! 鳴り響く鉄砲の音と、まだ赤ん坊のスピカを抱えて倒れるかあさんの姿。 「かあさっ!!」 頭にかぁっ!と血がのぼって。 それから先は記憶にない。 気づいたのは三日後で、 何でもいきなり降り始めた雷雨に犯人がもっていた銃に雷がおちたとか何とか。 ヘリコプターのすべてはあまりの雨の強さに映像どころではなかったらしく。 何があったのかはその場にいた人々のみがしっているらしい。 でも全員が気絶していたり、また同じ証言をしたために、 半死状態の犯人たちは、そのまま捕らえられたらしい。 どうしてオレの記憶がないのか。 なぜ三日も寝てたのかはわからないけど…… この感覚はあのときによく似ている。 ぼんやりとした意識の中、昔の出来事が夢にとでてくる。
野球?野球をやるならキャッチャーをやれ。 サッカーだったらえーとゲームメーカー? とにかくチームに指示を出すポジションをやれ。 監督だったら最高だ。 ――小学生は監督できないよ。 そうだな。そこが残念なところだ。 よし。ユーリ。キャッチャーをやれ。 お前がサインを出さないと、ゲームはずっとはじまらないぞ?
昔、義父さんとキャッチボールをしたときの記憶。 「オレが指示を出さないとゲームはずっと……」 ぼんやりと目をひらく。 「気がつかれましたか?」 ぼんやりと白い天井がみえる。 覗き込んでいる超美形の灰色っぽい髪も。 紫の瞳がうるみかけて、泣きそうな表情で唇をかんでいる。 「…?オレ死んだんだっけ?」 「縁起でもないことをおっしゃらないでください。猊下のお言葉で大事はない。とわかりましても。 一時は国中で皆で祈りましたのに」 「って大げさだなぁ。」 オレの言葉にギュンターは。 「ともでもない!陛下は三日も眠っていらしたのですよ? 猊下のおっしゃることには、 陛下のお体はソフィア様の術によって人間の肉体のそれと変わりなくなっているので。 そんな状態で魔術をつかった反動だ。ということでしたが」 ?? 「まじゅつ?誰が?」 「本当に驚きました。陛下が水や炎の術を同時に使いこなされたときには。 わたくしばかりでなくグウェンダルもツェリ様も驚愕いたしました。 いつのまに水の要素と盟約を結ばれたのですか? あちらでもお使いになっていた。ということですが。それに具現形態も見事なものでした。 何でも、龍、と陛下や猊下が育たれた場所ではよばれているとか。 見事な蛇でした。いったいいつ……」 ???? 「??水の術?龍?・・・ようそって何?めいやくって?」 何の話だろう? あ。それよりっ! 「三日もねてたって……それよりあの子は無事!? あの燃える狼というか獅子につっこまれちゃった彼女は!?」 オレの言葉に。 「あ。ええ。幸い命に別状はありませんでした。もっともヴォルフラムの炎が突っ込む直前。 グウェンダルと猊下が彼女を障壁でおおったらしく。 実際には軽い波動、というか衝撃でふきとばされただけなのです」 そういって説明してくるギュンターに。 「ま。そういうこと。それより、ユーリ?先に風呂にいく? 何しろ君は三日もねてたからねぇ。それともご飯にする?」 そんなオレを窓によりかかりみているアンリ。 ? 「アンリとグウェンダルが障壁?」 障壁って何? たぶん、壁、というかバリアーみたいなものかな? 何はともあれ。 「何しろよかったぁ。女の子が死んだらオレのせい!?とかおもったら何かね。 あれ?でもオレ何で三日もねてたんだろ?」 そんなオレの言葉に。 「ユーリは魔術をつかったんだよ。で、今のユーリの身体には負担がかかって気絶」 「魔術!?んな馬鹿なっ!」 というかんなのオレが使えるわけないじゃん。 「やっぱ自覚ないし。ま、そのうちにわかるよ。それよりどっちにする?」 いや、自覚うんぬんでなくて。 んなのできるはずがないってば。 「とりあえず…お腹すいてるみたいだし…先にご飯」 ものすご〜く、その言葉と同時にお腹がなる。 その音を聞いてギュンターは苦笑し。 「とりあえず、何かもってこさせます」 いって何やら控えている女性にと言付けてるけど。 あれ? そういえば……? 「あれ?コンラッドは?」 いつも近くにいる彼がいない。 「仕事だよ。ユーリのことをかなり気にしていたけどね」 「コンラートも後ろ髪を引かれる思いだったでしょう」 アンリに続きいってくるギュンター。 「というか。どこの国でも同じような文句があるんだな。馬の骨とか後ろ髪とかさ」 「まあそうだね。昔からそういう言葉はあちらでもこちらでもあるからね」 そういやアンリはいろんな時代とかを生きてきたんだっけ。 というか、生きてた、というよりは転生してた、というほうが正確だろうけど。 「失礼します」 そんな会話をしている最中。 いって給仕係りらしき人がはいってくる。 起き上がろうとすると、ギュンターに止められ。 「そのままで」 「ええ!?オレもう大丈夫だよ!?」 病人ではあるまいし。 いってベットから起き上がろうとして思わずふらつく。 「ほら。ユーリ?無理はだめだよ?…とりあえず。はい」 コップがアンリから差し出され、その中には懐かしのお茶がなみなみと。 「お茶っ!」 それをもらって一気にのみほす。 どうやらかなり喉がかわいていたらしい。 立て続けに三杯のんでようやくひといきつく。 やっぱり飲みなれているモノだと落ちつくよな。 うん。 「陛下?はい。どうぞ」 「うわっ!自分でたべれますからっ!」 ベットの上に簡易テーブルが設けられ…というか、ベット広いし…・・・ とりあえず上半身を起こして食事をとる。 何やらやわらかなおかゆとか、見たこともない果物とか。 でも味は結構いける。 三日も何も食べてなかったという、お腹に食べ物が入ると落ち着いてくる。 「ご馳走様でした。」 食べ終わり、手をあわせると。 「陛下?それは?」 「日本の習慣だよ。フォンクライスト卿。食べ物に感謝をこめてお礼の言葉をいうんだ。 食べ物というのは、すなわち、他の命を食べてるからね。そのお礼を」 「何と慈悲深い!」 「いや。日本人なら誰でもいいますって……」 一人、何やら感激の渦に飲み込まれていっているらしいギュンターの様子に思わずひいてしまう。 「…とりあえず、気持ちわるいし。汗もかいてるみたいだから。風呂にはいってくるわ」 食事をしてひといきつき、身体が何かけだるいことにようやく気づき。 そういいつつ、身体を起こすと。 「いってらっしゃ〜い。あ。ユーリ。はいこれ。着替え」 いってアンリが着替えを手渡してくる。 あ。 ラッキー。 こちらに来たときに着てた服じゃん。 下着とかまで。 アレはないよねぇ。 アレは。 あの黒紐パンは…しかもつやつや…… アンリから身体を洗うものを借りて、 いまだ一人何やら感激モードにはいっているらしいギュンターはおいといて、風呂にと向かう。
風呂につかっているとだんだんと落ち着いてくる。 さすが日本人だよなぁ。 と思わず自分でおもってしまうけど。 でも本当にオレが魔法なんて使ったのかなぁ? アンリなら出来てもおかしくない。 と断言できるけど。 昔、二人で遊んでいたときに、怪我したことがあって、治してくれたし…さ…… でもなぁ…… 「何か何でかここに来てから。何かおかしいのも事実なんだよなぁ……」 ぶくぶくぶく。 頭までつかり、しばらく考える。 考えても考えても、わからないものはわからない。 とりあえず、三日ぶりの風呂でしっかりと身体を洗い風呂からあがる。 服を着替えて外にでると。 「…あ」 なぜか風呂の外ではヴォルフラムが待ち構えていたりするし。 「あれ?ヴォルフラム?」 アンリがツェリ様から彼はお咎めをうけている。 っていってたけど…… オレをみるなり。 「まだまだだなっ!」 いきなりそんなことを言い捨ててくる。 「はぁ?」 「少しはやるかと思ったらあの程度でみっともなく失神するようじゃ。 お前など魔王としてまだまだなっ!といったんだ! まあソフィア様の術の影響で身体そのものが人とかわりなくなっていたとしても。だっ!」 腕組をしたまま、あごを上げていってくる。 つ〜か? こいつ、反省の色…まったくなし? 「今後僕に勝負を挑むときには、もっと力をつけてからこいっ! あんな蛇にみえる龍とかいうやつでは僕の炎術には対抗できないからなっ!」 「だからぁ。それ何?アンリがオレが魔法を使ったとかいってたけど。オレ覚えてないし? というか、お前母親にしかられてオレに謝りにきたんじゃね〜の? なのに何だよ?そのえらそうな態度っ!反省の色がみえないじゃんっ!」 「なぜ僕がお前に謝る必要がある」 「だってさ。勝手にルールは変えるし。オレが知らない魔法は使うし。 関係ない子まで巻き込むし。…とにかく最後は負けたんだろうし、引き分けでいいよ。 引き分けで。引き分けただけでもオレ的には上出来だし」 そんなオレの言葉に。 「引き分けだと!?あれは最後まで戦いを全うした僕の勝利だ! だが、はじることはないぞ。どちらが勝者かはあらかじめわかっていたことだ。 お前ごときに倒されたとあったら十貴族として申し訳がたたないからな」 「・・・・・・・」 やっぱりまったく反省の色…ないじゃん!?こいつっ!? 何かオレこいつに説教かましたような気がするんだけどなぁ?
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