「陛下っ!」
無駄とはわかっていても叫んでみる。
だがやはり反応はない。
いや、それどころか。
ヴォルフラムを見据えたままで。
「それが真の決闘だというのかっ!!だとしたらそのような輩を野放しにしておくわけにはいかぬっ!
  血を流すことは本位ではないが、やむをえぬ!おぬしをきるっ!」
などとヴォルフラムに言い放っているユーリの姿がそこにあったりする。

それをみて。
「……基本的にユーリは時代劇がすきだからねぇ。そりゃもう心から」
ため息まじりに少女を助け起こしつつ、そんなことをいっているアンリ。
さすがに長年の親友だけあって、彼のことをよくわかっている。
「ま…彼、というか、あの方の意思として命まではとらない。というのはわかってるけどね。
  ……精神崩壊云々はさておいて」
何かぽつり、とつぶやいていたりするアンリではあるが。
問題は、封印の上から無理に力をつかったらどうなるか。
その一点のみ。
そんなことをアンリはおもいつつ、ユーリのほうをみていたりするのだが。
それは誰も知りえるはずがないこと。

「何!?」
ヴォルフラムが叫ぶのと。
「成敗っ!!」
ユーリが叫ぶのとまったく同時。
横にと突き出したユーリの両手から二頭の龍があらわれる。
そう、龍。
日本でよくみる、伝説の、龍としかいいようがない。
こちらの世界でいうなれば蛇のような姿にみえるのだが。
日本や中国の伝説を知っているものがみれば、それは龍以外のなにものでもない。
たきつける雨と同じく、よく巻物や絵本などに日本や中国、といった場所で登場する。
まさに伝説の龍神そのもの。
それが二頭。
ユーリの手の平から出現し、それはそのまま、ヴォルフラムに向かってつきすすみ。
そのまま彼を絡めて締め上げ上空にと掲げあげていたりする。

「う〜ん……。以前と同じ龍かぁ」
「というか…陛下はいつ水の要素と盟約を結ばれたのですか?
  それに命文の一言も口にせずに。その状態で粒子を操るのは至難のわざ。
  何ひとつお教えしていないのに。どうして陛下は……」
「いや。陛下は幼いころからすべての力をつかいこなしている。
  実際、陛下がまだ七つになろうか、というときもあちらで……っ!早く陛下をおとめしないと!」
ギュンターの言葉に、呆然とつぶやきつつも、はっと我にともどり叫ぶコンラッドに。
「コンラート?」
首わかしげるギュンター。
その横では。
「……なるほど。魂は本物。ということか……」
などとつぶやきつつ。
「コンラート。別にとめるまでもあるまい」
そういってくるグウェンダルに対し。
「グウェンダルは知らないのか?って俺教えてなかったか?
  陛下は一度にすべての要素を同時につかいこなせるっ!」
『・・・・・・・・・・・・・』
しばし、コンラッドのその言葉に。
その場にいた全員が無言となるが。
それを肯定するかのように。

「離せっ!このっ!いったいどうして!?こんな急に!!きさま本当は何者だ?!」
いいつつも、ヴォルフラムは悲鳴を上げようとするのをこらえ、
炎で水の龍を解き放とうとする。
が。
それはそのつど豪雨でかき消される。
これは炎の術者よりも水の術者に力がある証拠。
主人の格と力によって具現した要素の勝敗は基本的にきまる。
「何ものだと?世の顔をみわすれたか?」
すっかりユーリは尊敬しているとある時代劇モードとなっている。
そんなユーリをみつつ、
アンリもやがて、倒れた少女のもとにとたどりつき、少女を抱きかかえていたりする。
「罪もない娘の命を奪ったおぬしの身勝手さ。断じてゆるすわけにはいかぬ。
  命は大切なればこそ、奪うことはせず。が娘と同じ恐怖と苦痛をもってして。
  その罪。その身でうけるがよいっ!」
ユーリが高々に言い放つと同時。
『なっ!!??』
今度こそ、ツェツィーリエを含めた全員が絶句。
一人、ああ、やっぱり。
という顔のアンリはともかくとして。
豪雨の中。
空中に水の龍によって、しかもなぜか正義。と書かれた球をその龍はもっていたりする。
場違いにもほどがあるが。
そんな龍に締め付けられているヴォルフラムの左右にと、
先ほどヴォルフラムが使ったものと同じような……
いや、先ほどより数段大きい炎の獣が出現していたりする。
言葉と同時にそれは出現し、ひたり、とヴォルフラムをそれらは見据えていたりする。
「馬鹿な!?水と…火をどうじっ!?」
さすがのヴォルフラムもそれをみて顔色を変える。
普通、火と水は相対するもの。
ゆえに、同時には扱えない。
そう、絶対に。
「娘の苦しみ思い知るがよいっ!」
ユーリの声とともに、炎の獣は身動きできないヴォルフラムにとむかってゆく。
ただではすまないのはあきらか。
と。
「お〜い?ユーリ。その辺りでやめとけ。女の子は無事だよ〜」
ころあいを見計らい、アンリがそんなユーリにと声をかける。
「お〜い!気がついたぞ!命に別状はないようだっ!」
アンリと兵士が何やら叫んでいるが。
みれば、少女はアンリと、そして兵士の腕の中で意識をとりもどし。
目を見開いて小さくうめいて顔に手をやり。
「…?あたし?どうして?」
などといっている。
声に振り向き、全員がそれをみる。
ヴォルフラム自信には弁解する気はとうにない。
というか、水と火を同時に操れるものなど、聞いたこともないのだから。
格が違いすぎる。
というのは、いわずもなく明らか。
・・・・・確かに彼はあのときの赤ん坊に間違いはないのであろう。
顔がそっくりな別人。
とかではなくて。
殺すなら殺せ。
半ばヤケになりそんなことを思っているヴォルフラムではあるが。
ひざまづいて命乞いをするよりは、死を迎えたほうがよほどいい。
そうおもい覚悟を決める。
だがしかし、まてどくらせど炎の獣はとまったまま。
しかも眼前で動くことすらなく。
と。
バシュッ!
バシャッ!!

いきなり、炎と水が掻き消える。
そのまま、水の龍がきえたことにより、地面に叩きつけられるヴォルフラム。
一体全体どうして?
と彼が思う間もなく。
ユーリがすっと手を動かすとどうじ、あれほど降っていた雨までがピタリ。とやむ。
そして高々と。
「フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム!
  今後自分勝手な行いで他人を傷つけることはまかりならんっ!
  お上にもなさけはあるが、時としてその情けも通用せぬものと覚悟いたせっ!」
何やら言い放っているユーリの姿。
「……な……」
ヴォルフラムが言葉を発するよりも早く。
ふらり。
とユーリの体がよろめき。

「…そろそろだね」
いうなり、アンリの姿は、回廊から瞬時に掻き消え、兵士や娘が驚く中。
瞬時にと次の瞬間、ユーリの真後ろにと出現する。
そして。
ぐらりっ。
どさっ。
そのまま、倒れこむユーリを即座に抱えているアンリの姿がみうけられ。
「まったく。こう頭に血が上ってやっちゃうとはねぇ。ユーリらしいけど。
  封印かかっている身で力つかったらどうなるか考えずに行動するんだからねぇ。
  彼女がアレをやってくれてたからまだ助かってるけどさ。でもやっぱり時代劇口調……」
ユーリを抱きかかえてアンリが何やらいっていたりする。

「陛下っ!!」
アンリがユーリを抱きかかえたその直後。
顔色を変えたコンラッドがすばやく駆け寄り。
そして、よろよろと立ち上がるヴォルフラムに対し。
「ヴォルフッ!」
バッチィィン!!
その場にツェリがヴォルフラムの頬を叩く音が響き渡る。
「わがままにもほどがありますよ。少しじっくりとお灸がひつようですわね」
「・・・・・・・・・・・」
母親に叩かれて、呆然とするヴォルフラムを。
「いらっしゃい!じっくりとお説教をしてあげますから!」
「…あ、あの?!母上!?」
驚愕の声を上げているヴォルラムの姿が見受けられていたりする。

そんなヴォルフラムを見送りつつも。
その腕の中にはユーリを抱きかかえたままで。
「でもよかったねぇ。ユーリ。今回は雷とかまではつかわなかったからさ。
  水に絡めとられたままで雷とか直撃したら普通は死ぬからねぇ。
  ユーリはその威力の調整も可能だけどさ。
  以前のときは精神崩壊、やられた人おこしたらしいしねぇ」
駆け寄ってきたコンラッドとにこやかにそんな会話をしているアンリ。
「……そうでしたね。というか昔陛下はそれをあちらでおやりになりましたけどねぇ。
  しかも、賊のみを炎で包み込んでたりしましたし…雷の龍と炎の龍……」
顔色もわるく、だがしかし、ユーリの脈などを確認して、ひとまずほっとした表情のコンラッド。
「まあまだあのときユーリは七つになる前だったしねぇ。小学一年だったしさ」
そんなアンリとコンラッドの会話に。
「…?どういうことだ?」
「どういうことなのですか?陛下は!?いったい!?」
同時にグウェンダルとギュンターの声が重なっていたりする。
彼らには、二人の会話の意味がわからない。
いや、今おこったことに関しても。
何がどうなったのかが、理解不能。
「陛下はご無事なのですか!?」
「大丈夫。封印かかった状態ではユーリの肉体は人間のそれとまったくかわらないからね。
  魔力つかっちゃって肉体が疲れて今は眠ってるんだよ」
叫ぶギュンターにと説明しているアンリ。
「ひとまず陛下をおへやに」
「はっ!そうですね!いそぎましょう!」
ユーリを心配してギュンターはかがんでいたのだが、コンラッドの言葉に、彼があわてて立ち上がる。
「……しかし……」
そんなギュンターとは対象的に、空を見上げているグウェンダル。

空は先ほどの豪雨がまったくといっていいほどに信じられないほどに快晴………

それが意味することは。
今の豪雨は、ユーリが降らせていた。
ということ。
そして、おそらくは、彼が城にはいった直後のあの雨も。
いったいどれほどの力を秘めているのか。
それは、彼が誕生したときから、ずっと心に秘めている疑問のひとつではある。

何しろ彼は、この地上で唯一、はじめて。
天空人と魔族との間に産まれた子供なのだから………


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