アンリの声とともに、低い姿勢で構えていたオレはすばやく動き体当たりをかます。 でもって腰のベルトをつかむ間もなく……こけてるし。 相手のほうが。 「・・・あれ?」 何が起こったか理解できずに、口を半開きにしたままで間抜けに転がっている美少年。 オレも先日はこんなだったのかなぁ? などとおもってしまうが。 「東!ユーリ!一本勝ち!」 「やったぁ!」 高々とアンリの声が響く。 「陛下。何ともご立派な戦いでございました。 双方、一滴の血も流さない何とも慈愛深さゆえに生まれたこの決闘は。 我ら魔族の美談中の美談として語り継がれることでしょう」 何かギュンターがそんなことをいってくるけど。 「いや。慈愛というか、笑い話としては語り草にはなりそうだけど……」 いいつつも、転がっているヴォルフラムにと手をさしのべる。 が。 オレの手をぱしっとはらいのけ。 「こんな馬鹿な勝負があるものかっ!!異界の競技で勝負が決められてたまるかっ!」 って…… まったくこりてないし。 こいつは。 よっぽどあまやかされて、わがままほうだいに育ったな。 「あのなぁ?お前がオレに決めていいっていったじゃん」 そんなオレの言葉は何のその。 「うるさい!お前はこの国の王になるだろうが!だったらこの国のやりかたで決着をつけろっ!」 いや。 やるって決めてないんてけずど…… というか、いってるの一方的にそちらからだしさ。 オレが次の王様だって。 そんなことをいいつつ、いきなり剣を抜き放ってくるヴォルフラム。 「うわっ!?」 「陛下!これを!」 パシッ。 コンラッドから投げられたそれは、昨夜の剣。 でも鞘からぬくなくて気もないし考えられない。 「ヴォルフラム!見苦しいですよ!」 ギュンターが制しているが。 このわがままさんはきいちゃいない。 とりあえず打ち込んでくるヴォルフラムの剣をうけつつながす。 というかさぁ……こいつ…… 何かワンパターン? 動きがすぐに完全に視えてくるし…… 「どうした!?反撃もしないのか!守ってばかりではかてないぞ!!」 などといってくるし。 幾度打ち込んできても、まったく同じパターン。 昨夜のコンラッドとの会話が脳裏をよぎる。
「これはユーリの勝ちだな。キリのいいとこでおわってほしいんだけど。 下手したら、以前の農場と同じになっちゃうしさぁ〜……」 「……それは確かに。ありえますね。ああなるとかなり困りますよね……」 「ま、こっちの世界だから、あっちみたいに記憶操作とかはいらないけどさぁ。でもねぇ……」 「…あの光景は、しばらくは俺はうなされましたが……」 「ま。あれはねぇ。僕もかなり結構きたよ。ボブが大変だったんじゃない?」 「でしょうね。」 ?? ツェリ様の横でそんな会話をしているアンリとコンラッド。 何のことだろ?
ま、とりあえず。 「お前の攻撃なんか、こわくないね!ずっと打ち込みから何から何までパターンが同じだぞ!」 とりあえず、鞘がついたままの剣を握りなおし、そのまま思いっきりパットのごとくに振り切り。 相手の剣をボールと見立てて、思いっきり打ち上げる。 と。 カキ〜ン!! 澄んだ音がして、相手の手から剣がはなれ、剣はあさってのほうにととんでゆく。 よし。 これで相手は丸腰だ。 「なんと!?あの数回の動きで相手の動きを読まれるとは、さすが陛下!」 一人ギュンターが何か褒めちぎってるけど。 「というか、模範的な攻撃だし。今のフォンビーレフェルト卿の攻撃。」 「確かに」 何やら冷静なことをいっているアンリとコンラッドの二人組み。 とりあえず、相手はもう武器をもってはいないばず。 「というかさぁ?オレ的にはもう引き分けでもいいからヤメにしない?」 そんなオレの言葉に。 「ひきわけだとぉ!?そんなものがあるものか!どちらかが倒れるまで決着はっ!」 「って!?」 いうが否や、その手に何やら炎をだしてくるし。 って反則じゃんっ!? 「ヴォルフラム!陛下はまだ盟約もお済みになってないのですよ!?まけたからといって!!」 ギュンターがヴォルフラムに叫んでるけど。 盟約?それ何? 「……まず。そろそろとめないと」 アンリがつぶやき、コンラッドが前にでてとめようとすると、 グウェンダルがそれを押しとどめていたりする。 「なぜ邪魔をする?グウェンダル?!」 そんなコンラッドの言葉に。 「あれが本物なのか確かめるいい機会だ」 「ですが!まだ陛下はどのような盟約も!」 グウェンダルの言葉に何やら叫んでいるギュンター。 いや、だからぁ。 その盟約って…何? オレがそんな会話を小耳に挟みながらも、とにかくどうしようか?という考えを張り巡らせていると。 「陛下っ!よけて!」 「…というかよけなくても炎からいやでもよけるけど……相手が相手だし……」 コンラッドの叫びとアンリの何やら悟りきったような意味不明な声がオレの耳にと届いてくる。 ? うわわっ!? 気づけば、ヴォルフラムの炎がオレのほうにとむかってきてるけど。 なぜかとまどっている間に炎はぶつかる直前、オレを綺麗によけてゆく。 ぐ…偶然に助けられたぁ〜…… それをみて。 「うまくよけたな。だが今度はどうかな!?」 いや、よけたんじゃなくてお前がコントロールをあやまったんだって。 今のは。 オレがそんなことを口にする暇もなく、次の瞬間。 「って!?何あれ!?」 ヴォルフラムの後ろに炎の獣…みたところ獅子のような何かが。 あんなのにあたったら確実に死ぬじゃん!? オレの心の叫びはどこにやら。
「というか。フォンヴォルテール卿?彼らをそろそろとめないと。 間違いなくフォンビーレフェルト卿の命があぶないよ? 炎の精霊が誰に攻撃しかけたか判断したら間違いなく彼に攻撃しかけるのは目にみえてるしねぇ」 そんなアンリの言葉に。 「「・・・?どういう・・・」」 思わずといかけるグウェンダルとギュンターの姿が。 オレの耳には彼らがそんな会話をしているなど、聞こえてはいるけど、 まったく頭にはいってきていないけど。
「うわっ!?」 そりゃ確かに。 プライドを傷つけられた場合。 真剣勝負でのみしかそれは戻らない。 というのもわかる。 昨夜のコンラッドのキャッチボールをしつつの話からも、彼が本来は味方になるであろう。 ということもわかっている。 わかっているけど……これはないだろ!? 昨夜もらったライオンズブルーのペンダントが揺れる。 酷薄な笑みを浮かべるヴォルフラムから、炎の獣がはなたれる。 何か言葉をいって炎を操っているようだけど。 あの言葉覚えてたら今後らくかもしれない、とかそういう段階では今はないような気がする。 っていうか、相撲と剣での勝負は何だったの!? そのままとりあえず、条件反射で身をかがめると。 そのまま炎の獣はオレの上をとんでゆく。 ・・・・・・・・え? ・・・あれ? またそれた? えっと? 思わず反射的に後ろをふりむく。 「危ないっ!!」 ふと振り向いたオレの目にととびこんできたのは。 ちょうど炎が向かう先。 その先にとある回廊。 そこにあろうことか、一人の女の子があるいてるし! 見たことがある。 たしか昨日、着替えをもってきてくれた娘だ。 「ちっ!!」 全員が行動するよりも。 というよりも、すべてがおそく。 獣はまっすぐに進み、あろうかとか、少女は悲鳴もなくはじきとばされ。 同時に炎の獣もかききえる。 異なる標的を打ち倒して。 どくんっ。 近くにいた兵士たちがあわててかけよっている。 アンリもまたそちらに向かってかけていってるけど。 「っ!!!!これがお前らのいう勝負なのか!?関係のない人を巻き込む!これがっ!!」 どくんっ。 どくんっ! あまりの怒りに心臓が早く脈打つ。 そして、頭に血がのぼるのが自分でもはっきりとわかる。 ぶちっ。 何かが切れた。とオレが理解すると同時。 そのまま、オレの頭の中は真っ白に……
……あれ? 確か前にもこんなこと…なかったっけ?? 六歳か七歳のころの、たしか乗馬教室の農場で…… 気のせい……かな? そうおもいつつも、オレはそのまま。 何かふわふわとした感覚に包まれて、そのまま意識をうしなってゆく。 何かとっても気持ちいいし……
ゴロゴロゴロ… どざぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!
晴天がにわかに掻き曇り、中庭の上空のみだけに一瞬のうちにと黒雲が広がる。 大地に降り注ぐ、息も出来ないほどの豪雨。 しかも雷までともなっている。 人々がかろうじてひらいた目にとうつったのは。 雨を意に介することなく、すくっと立ちすくんでいるユーリの姿。 うつむいた姿のそのままで。 そして……
「己の敗北をうけいれず。規則を無視した暴走行為…… 果てには罪もない少女を巻き込み、それでも貪欲に勝利を欲する……」 気のせいではない。 ユーリの髪が伸びている。 多少顔つきもかわっている。 そして爛々と開いた瞳でヴォルフラムを見据えている。 「…おい?」 いきなりの口調の変貌と、まとう気配の変化。 あきなから、この雨にもだが。 彼から感じるのは…強大なほどの魔力。 今まで魔力の欠片も感じなかった。 というのに。
「…あた〜……」 それをみて、横のほうではコンラッドが顔を手で覆いつぶやき。 「…あちゃ〜。やっぱきちゃったか。そもそもこっちだしねぇ。 このたびはあのときほどはちゃめちゃにならないことを祈るよ」 炎に直撃された女の子のほうにと駆け寄りながらも、そんなユーリをみてつぶやいているアンリの姿。
彼らはこのような光景を目にするのは二度目。 あのときは本当に地獄絵図。 といっても過言でなかった。 ……では今度は? 今、この場で状況をきちんと把握できている。 というのは、おそらくはこのアンリとコンラッドの二人だけであろう。 他のものはおそらく。 いったい何が起こっているのかは…皆目不明………
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