「……まっじぃぃ〜……」
せっかく高校に合格したこともあり、ちょっとした事情でやめていた野球。
幼いころからの腐れ縁でもある、幼馴染であり親友の言葉いわく。
『自分でチームを作ってみれば?』
といわれ。
確かに諸事情で時間の関係などもあり、野球部に入れない人は多いわけで……
……で、結果。
この春より草野球チームを作成したのだが。
それがついこの前のこと。
今日は親切にもマネージャーをかってくれたあいつと、今後の活動内容などを話し合う予定だったのだが……
……先生に引き止められてしまったのだ。
それも、もうどうしようもない理由で。
……顔が母さんゆずり…なのは仕方ないとおもうぞ……
いくら何でも『女みたいだからもうちょっと何とかしろ』はないとおもう…
オレだって自分なりにがんばってるんだからさ……
まあ、それはそれとして。
とにかく急いで家にと戻らないと。
あんまりあいつを待たせたら気の毒だ。
と。
「……あれ?」
とにかく、ギコギコと自転車を走らせる。
というか、この道の横に流れているちょっとした川には絶対に柵は必要な様な気がするのは、
オレの気のせいだろうか?
普段は水かさもない川だけど、雨など降ったときにはその水深も増す。
そんな通いなれた道の先。
「……何やってんだ?お前ら?」
あきれつつも、自転車を止めて降りて、目の前でたった一人を取りかんでいる人々に声をかける。
「……あ。ユーリ」
……ど〜みてもからまれているだろうに、気楽な声をかけてくれるのは……
「というか、アンリ?お前こんなところで何やってんの?
  ていうかこいつらもしかして集団違法行為働いてるわけ?」
絡まれている、とどうみても思われるのは、オレの腐れ縁でもあり、また親友でもある。
村田健。
通称アンリ。
どうして名前とまったく違うあだ名なのか?という理由はごく簡単。
何でもこいつって自分が生まれる前…すなわち、前世とかいうのを全部覚えているらしい。
ついでにいえば、死んでから生まれ変わる間の魂だけの状態になっているときのことも。
オレとしては昔アンリからそんなことを聞いて、自分は覚えてなくて本当によかった!
と切実に思っていたりする。
すんなり信じてしまったのはまだ幼かった、というのとオレの周りの環境のせいであろう。
まあ、本人も『嘘つき』呼ばわれされるのが嫌らしくその辺りのことはごく一部の人間しか知ってはいない。
オレ的には何となくアンリという名前。
…つまりはこいつの前世の名前のひとつが気に入っているので昔からそう呼んでいるのだが。
ちなみに、関係ないけどアンリ曰く、オレの前世は目の見えない女性だったらしい……
名前を聞いてもアンリは教えてくれないが。
どうも知ってるみたいなんだけどなぁ。
その事実を聞いてからこのかた12年間、教えてくれないし。
「ん?ああ?誰かと思えば渋谷有利じゃないか」
「じゃあ原宿は不利なのかよ?」
「女みたいな顔してよ」
などといいつつことらを向いてくるのは、同じ中学でもあった三人組。
……はぁ……
「……その言葉は今までに五万回以上は聞いた。けど!この顔はしかたねぇだろ!!」
死んだ母親ゆずり、というこの顔はどうにもならないぞ。
「だまってれば美人なんだからよ。え?原宿不利」
人が気にしていることを。
そりゃ、オレははっきりいって何でも外国人だったとかいう死んだ実の母親に瓜二つ。
というのは認めるけど。
オレが赤ん坊のころに死んだ、という実の両親の思いでといえば、
なぜか写真ではなくロケットペンダントにと入っている肖像画のみ。
そのペンダントには変わった模様が刻まれてるけど。
それと、あとはこの自分の顔。
オレは男だ。というのに。
はっきりいってロケットペンダントの中でオレらしき赤ん坊を抱えて笑っている母さん――
ソフィア母さんの顔そのもの。
育ての親である両親は。
『男の子は母親に似たら幸せになるんだってv』
などとのんきなことをいっている。
おかげで産まれてこのかた十五年……今年で十六年に突入するけど。
なかなか男の子と周りの人に思われずに苦労したことか……
そんなオレの心を知ってか知らずか。
「オメェは勘違いしたかもしんねぇけど。オレたちは単に『集金』しているところだったの。
 こいつのお財布の中の何枚かをご〜ほ〜的に集金してたんだぜ?」
とかいってくるし。
「…それのどこが合法的なんだよ?世界地図で説明してくれよ……」
思わずあきれて突っ込んでしまう。
「ユーリ!!」
そんなオレとあからさまに不良のやり取りを聞きつつ、何やらアンリがいってくるけど。
そういや、いつもなぜかこういう厄介ごとにかかわっていたら。
というかオレの中の小市民的正義感が悪さをするやつらや、法を乱すやつが許せないのだけど。
とにかく、このもって産まれた性格なのか、よくこういったごたごたに首を突っ込むのだが。
だがしつも、何かやばくなってきたら、突然の局地的豪雨で相手が戦意を喪失する。
そんな偶然をもっていたりするオレ。
世の中、偶然ほど怖いものはないなぁ〜…と。
物心ついたころからいつもそのパターンが続けば、しみじみと切実に思ってしまうけど。
紺とグレーの制服でそろいの金髪にカラーコンタクト。
という無国籍風な高校生の三人はアンリを無視してオレの方にと向かってくる。
「まったく麗しい友情ってか?それともこいつとは恋人同士なのかな?」
などとわけのわからないことをいってくる。
「まあいいや。こいつの親、銀行員だからたんまり小遣いもらっているだろう」
にやにや笑いながらそんなことをいってくるし。
というか、オレの実の親ではなくて養父なんですけど……
互いに外国人だったらしいオレの両親の知り合いだとかで、
一人残ったオレを引き取ってくれたのが今の両親。
オレの本名は何かめんどくさい、ユリティ何たら、とかいう長い名前らしいけど。
だがしかし、育ての親は二人とも日本人。
それゆえに、オレに戸籍上ついた名前は、『渋谷有利』
……どうでもいいけど、この漢字だけはやめてくれ…って思ってしまうような思いっきり当て字である。
……まあ、義兄貴なんかは、勝利…と書いて『しょうり』とまんま読むしなぁ……
うちの育ての親たちっていったい……
ちなみに、年の離れた義妹は、『星花』と書いて『スピカ』と読む。
三兄妹の中では一番まともなほうだろう。
「ユーリに手をだすな!!」
何やらアンリがいいつつ、オレのほうに向かってダッシュをかけてくるけど。
「おっと!お前は水泳でもして遊んでな!」
「…あっ!?」
あろうことか。
先日の雨でちとょっとばかり水かさの増している川の中にとアンリを突き飛ばす。
「アンリっ!」
だっ!!
はっきりいって条件反射。
そのままアンリを助けようとしてダッシュし。
「……あ゛」
「…うそぉ〜!!??」
そのまま、バランスを崩してそのまま川の中にとまっさかさまのオレたち二人。

「やばっ!二人とも落ちたぞ!!」
「オレし〜らね!!」
自分たちがやったであろうに、無責任な台詞をはいている三人組。
何とも薄情極まりない。
そんな薄情、としか捕らえられない台詞が上から降ってくる。
このまま川に落ちて打ち所が下手したら悪くて!?
などと思いつつも、アンリともどもまっさかさま。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
……ってちょいまてぃ!!
何だ!?アレは!?
落ちてく川のちょうど増したに、何か黒い渦のようなものが……
「…まさかっ!?」
何やらアンリがそれに気づき叫んでるけど。

「どわぁぁ〜!!?」
というか、…これ何なんだぁぁ!?
ありえないような協力な力で、その黒い渦のような穴のようなものの中にと引き込まれてゆくオレたち二人。
まさか、このまま下流に流されてしまうわけぇぇ〜!!??
オレの心の叫びはどこにやら。
なすすべもなく、オレたちはその黒い渦の中にと落下してゆく……


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