コズミック・サブリナル   ~第22話~

「しっかし、まだ学芸館も開いてないのに、よくそこまで詩がつくれますよね。」
思わず感嘆する。
「ふふ。そうかい?でも、すぐに真実になるよ?」
そんなティムカの言葉に笑みを浮かべつつ、くすりと笑って答えるセイラン。
ここは、学芸館。
いまだにこの場所は開かれてはいないが、
いつ何時でも、女王候補達のためにこの場所を開いてもいいように。
いつも選ばれた三人の教官達は常に心身ともに身を引き締めている。
「おや、でも、感じないかい?もうすぐ、僕たちの力が必要となるよ。」
そう、自分の勘が告げている。
「まあ、俺たちは、いつでも彼女たちの力になれるように。
  女王陛下のお言葉を待つのが今の役目だな。
  後はいつでもすぐに体制を整えられるように。」
そんなヴィクトールの言葉に。
「まあ、そういうことだね。― そろそろ、休憩にしないかい?」
薄く微笑み、にっこりと微笑みをむけるセイランの姿が。
ここ、学芸館の一角でしばし見受けられてゆく。




コンコンコン。
「アンジェリーク、いるぅ。」
部屋の扉をノックする音がする。
「あ、まって。レイチェル。」
カチャリ。
扉を開けるとそこには。
同じ女王候補であるレイチェルの姿が。
「は~い。アンジェリーク、暇してると思って遊びにきてあげたわよ~。」
いいつつそこにはにこやかに笑い立っている一人の少女。
コレットと同じ女王候補であるこの少女。
レイチェル=ハート。
コレットと違い、誰もが認めるほどの天才少女。
「あ、レイチェル、いらっしゃい。座って。散らかってるけど。」
そういいつつ、部屋の中にレイチェルを招き入れるコレット。
「それじゃ、お邪魔しま~す。あ、この前のあのオレンジの紅茶、まだある?
  あれ、ものすっごぉくおいしかったから。」
以前コレットの部屋で出された紅茶を思い出してそれとなく催促しているレイチェル。
さすが、といえばさすがである。
「本当?じゃ、すぐに用意するわね。座って待ってて。」
試験が始まり、約半月。
ようやく同じ女王候補のレイチェルやそして守護聖達。
そして、教官として呼ばれているという三人の教官。
それと、占いの館を任されているまだ幼い、
はっきりいってかわいい、としかいいようのない、一人の男の子。
今まで、普通に生活していたのならば、絶対にお目にかかれなかった人々。
はっきりいって、どうして自分が選ばれたのか、いまだにもって皆目不明。
コポコポコポ。
目の前で沸いてゆくお湯をみつつ、そんなことを思っているコレット。
初めてあの子に出会ったのは、学校帰りの一ヶ月前。
その後、いきなり女王候補として選ばれ、そしてこの聖地にとやってきた。
そんなことを思っているコレットとは別に。
「わたし、フルーティーな飲み物とか食べ物とかって大好き。
  昔から、研究員としていろいろな惑星とかにいって、
  そのときに飲んだりした、新鮮な様々な飲み物、あれっておいしかったなぁ。
  そういえば、その当時だったっけ。エルンストに出会ったのも。
  あの人ったら、周りがいくら熱帯地方でかなりあつくても、絶対に長袖の制服なのよね~。」
ただひたすらに独り言のように奥の部屋にいっているコレットに話しかけているレイチェル。
そしてふと。
「そういえば、アンジェリークって、女王陛下と同じ名前なのよね~。
  あ、まさか、同じ名前だからってあなたが女王になれるなんて思ってないわよね?」
一人、ずっとただひたすらに話しているそんなレイチェルに。
「まさか、そんなことは思ってないわよ。どうしたの?レイチェル?
  何かいつにもまして話が達者だけど?」
カチャカチャカチャ。
確かにいつもよく話すレイチェルだけど。
いつもより、よく話すそんなレイチェルの様子に首を傾げつつも、
今入れたばかりのオレンジの紅茶を手にとり。
レイチェルが座っている机にと運んできているコレット。
「あ、ありがと。…あ、うん…それなんだけど…」
目の前に置かれた紅茶カップを手にしつつ。
素直にコレットにお礼をいい。
そして、少しばかり考えて、口を開いてゆくレイチェル。




研究院がもたらした報告どおり。
きちんと、ずっと『育成』は行っている。
それなのに。
ここ最近、育成物、つまりは聖獣の成長は止まっている。
そして、時を同じくして感じるこの気配。
そして。
聖地のいたるところで、というより主に湖でそれが目撃されている。
そう噂で聞いて、そして自分なりに調査もしてみた。
「…アンジェリークも感じているんでしょう?」
いつになく真剣なレイチェルの言葉に。
こくりとうなづく。
「…やっぱり、レイチェルも?」
そんなコレットの言葉にしばし視線を落としてじっと紅茶カップを見ているレイチェル。
しばし、二人の間に沈黙が落ち。
「…データがあてにならない。というのはね…」
「ええ……」
二人して、しばし顔を見合わせ。
「…そういえば、匿名で手紙がきてたけど…」
「あ、それ、私も。」
なぜかかわいらしい、ピンクのラッビングでハートマーク。
しかも書かれていたのは、ただ一言。
― 見えるものにとらわれないように ―
それがいったい何を意味するのか、それは二人にはわからない。
「あれって…」
「…多分…」
あの文面というか残っていた気配から、間違いなくアンジェリーク女王陛下のもの。
いったい陛下は何が言いたいのか。
二人に何を伝えたいのか、彼女たちにはわからない。
そんな会話をしつつ。
二人は、互いにここ数日感じていることをそれぞれに意見を交わしてゆく。

ここ、数日。
感じている違和感。
それを感じているのは二人の女王候補のみ。
そして…
「「…あ。」」
二人同時に。
その『声』をきき。
思わず顔を見合わせている二人の女王候補の姿が。
女王候補寮の中のコレットの私室にて見受けられてゆく。


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