コズミック・サブリナル ~第16話~
ふわりとそよぐ風が気持ちいい。
「おっはよ~。アンジェリーク。」
コンコンと扉をノックする音と同時に、いきなり扉が開かれる。
「あ、おはよう、レイチェル。」
扉から入ってきたのは、同じ女王候補でもあり、
そしてまた、王立研究院きっての天才児として名高い、レイチェル=ハート。
普通の一般人である自分とはかなり違うそんな彼女に。
だけども、どこかで親近感を持っているのは。
それは、あの【聖獣が二人にしか見えない。】という、連帯感からであろうか。
カチャリとドアをあけて入ってきたレイチェルは、そこにいるアンジェリークの姿をみて目を丸くする。
「って、まだあんたネグリジェのわけ!?まったく、とろいんだからぁ。
ほら、朝食の用意ができてるらしいから。せっかくこの私が迎えにきてあげたのに。」
そういいつつ、目を丸くしつつも。
つかつかと、部屋にと入り込み。
「あ~。カーテンまで中途半端な開け方をしてぇぇ!」
テキパキ。
いいつつも、ただあけているだけのカーテンをきちんと両脇にとまとめ。
そしてそれらを二つにと纏め上げ。
「ほら、アンジェリーク、早く着替えてよね。でないと私一人でいっちゃうわよ?」
「あ、まって!すぐ着替えるから!」
その言葉にあわてて。
服を取り出し。
奥の部屋にと引っ込んでゆくアンジェリーク=コレット。
そんなコレットの姿をみつめつつ。
「まったく、あれでも女王陛下と同じ名前なんだから。
あの子がしっかりしてくれないと、同じ女王候補として選ばれた意味がないじゃん?」
いいつつも。
なぜか、頼まれたわけではないのに。
てきぱきと布団をきちんと丁寧にとたたんでいるレイチェル。
自分と同じ女王候補に選ばれた以上。
ライバルとしてきちんとしてもらいたい。というのは、誰でも思うことでもあるが。
「…あの数値とそして、データを照らし合わせたら、もしかして、あれは…」
すでに、レイチェルは、これから【育成】する予定である、謎の球体。
それの正体が何となく漠然とだが理解できている。
だがそれは、科学的に知られている【ソレ】とはかなりことなるがゆえに。
だからこそ、事実を自分の目で見極めたい。
というのもまた、何ごとにも深く取り組み、そしてまた追求したくなる彼女の性分か。
だが、今の段階では憶測に過ぎない。
ゆえにこそ。
憶測だけで、結果を出すなどとは、科学者としてあるまじき行為。
そう、レイチェルは自分に昔から言い聞かせ、それゆえにそれなりの努力をもしている。
そんなことをおもいつつ。
コレットがあけていた窓から身を乗り出し、朝の空気を精一杯吸い込むレイチェル。
朝の空気がすがすがしい。
いや、そもそもは。
ここ、聖地の空気そのものが澄んでいる、といったほうが正解であろうか。
「ちょっとぉ。アンジェリーク、まだなのぉ!?」
いいつつ、窓枠にと腰をかけ。
奥の部屋のコレットにと話しかけるレイチェル。
「あ、もうすぐ!」
レイチェルって、言葉は何かきついようだけど。
本当は面倒見がいい親切な女の子なのよね。
などと、そんなことをおもいつつ。
ここ、聖地にきてから、というもの。
毎日のようにレイチェルはこうして、朝、自分を誘いにきてくれる。
そんなレイチェルの心遣いがうれしくて。
だからこそ、このたびの試験を一緒にがんばろう。
という気力がわいてくるのもまた事実。
「うん、よっし!」
きゅっ。
身を引き締めるために赤いリボンを頭にとつける。
レイチェルに返事を返し。
そして、服を着替え、そして奥の部屋から寝室へと。
カチャリと扉をあけて出てゆくコレット。
「おまたせ。」
いいつつも。
「…で、またアンジェリーク。制服なわけ?」
その姿をみて思わずあきれた声をだすレイチェルだが。
「うん。このほうが身が引き締まるし。
それに本来なら。この時間、学校に行くためにこの服着るし。」
などとにこやかにそういうコレットのその言葉に。
「ふ~ん。私はよくわからないけど。
何しろ私はもう大学なんて卒業しちゃってるしねぇ。キャハv」
などと、あっけらかんといっているレイチェル。
さすがに、天才児。と呼ばれていることはあって。
すでに、齢、十七歳にして大学まで卒業しているこのレイチェル。
正確に言えば、十になる前に卒業は果たしているのであるが。
さすがといわず何というのであろうか。
「それより、着替えたんだったら、早くいきましょ。
まったく、アンジェリークがとろとろしてるから。朝の予定が狂うじゃないのよ。」
いいつつ、ふぁさっと髪をかきあげつつそういうレイチェルのその言葉に。
「うん、ごめんね。いつもいつも。」
そういってにっこりと微笑むコレット。
むにぃぃぃ。
そんなコレットのほほを両脇からつねり。
「ひ、ひたい……れいひぇる……」
口をゆがんだ形に開いて抗議の声を上げるコレットに。
「まったく、この子は、そんなことをいうんだったら!毎日もう少し朝早くおきる!おっけぃ!?」
むにむにむに。
いいつつも、コレットのほっぺをつねっているレイチェルであるが。
「わ、わかったから……れいひぇる……」
レイチェルにほっぺをつねられつつも、抗議の声をあげているコレット。
「よっし。ならよろしい。」
いいつつ、コレットのほっぺからその手をはなし。
バンバン。
軽く手をはたきつつ。
「さ、急ぐわよ。アンジェリーク。今日から本格的な育成が始まるんですからね!」
「い…いたいのにぃぃ…。あ、まってよぉ、レイチェル!」
いいつつ、くるりと向きをかえ。
玄関にと向かってゆくレイチェルの後をあわてて追いかけてゆくアンジェリーク=コレット。
その手はひりひりするほっぺたをしばしさすりつつ走ってゆく彼女の姿が見受けられてゆく。
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