コズミック・サブリナル   〜第2話〜

それはある日の出来事。
「え?」
何かに呼ばれたような気がした。
それはときを同じくして。
まったく異なる場所にといる二人の少女が。
その声を聞き、空を振り仰ぐ。

キラ。
キラキラキラキラ……

空を振り仰げばまるで空から何か輝くものが降りてくる。
「何?」
そっと手を伸ばせばそれはまるで導かれるようにと。
彼女達の手にとふわりと舞い降りてくる。

青空の下で。
そしてまた、とある惑星の研究施設の外で。
まったく面識もない二人の少女が同じ現象に見舞われているなど、いったい誰が想像できようか。

「「きゃぁぁぁあ!かわぃぃぃぃぃぃぃぃ!」」

同時刻。
ここ、スモルニィ女学園の校門の外と。
そして王立研究院のあるとある施設の外で。
二人の少女の声が完全にと一致してゆく。


それは二人の少女に同時に起こった奇跡ともいえる出来事。
何かに彼女達は呼ばれたような気がした。
そしてその声に呼ばれ空を振り仰ぐと。
一人は青空の中から。
一人は雪が舞い散る最中。
同時に彼女達は光る不思議な球体が舞い降りてくるのを確認する。
それはまるで導かれるように彼女達の手の中にと舞い降り。

そして。


「わぁ。かわいい。おまえどこからきたの?」
不思議な生物。
だがしかし、どうして光る球体の中に。
ふわふわとした毛並みの見たこともない動物が入っているのか。
しかもどうやらまだ子供らしく。
そのきょとんとしたくるくるとした瞳が少女の目をひたりと見つめる。

「アンジェ、何やってるの?独り言なんかいって?」
クラスメートがそんなコレットにと話しかけてくるが。
「え、ほら、この子。かわいいと思わない?」
そういいつつ今空から舞い降りてきたなぜか球体の中にいる動物を。
持ち上げてなでなでしている茶色い髪の少女…
少女の名前をアンジリェーク=コレット。
両親が天使、という意味あいをもつ名前を、
【すこやかに育つように】という願いをつけて彼女に与えた名前。
『・・・・・・・・・・・・・・。』
友達たちの目にはただコレットが何もない空間をみて。
やれかわいいだの、何もない空中をなでていたりするなど。
どうみてもおかしい行動をしている、としか目に映らない。
「アンジェ、今日いくら苦手な授業があったからって。」
「今日はもうかえって寝たほうがいいよ。」
「「幻覚まで見えるくらいに疲れてるなんて……」」
きっちりと異口同音にコレットの友達の声が重なる。
「え?」
みんな、何いってるの?
きょとんとしているコレットではあるが。
「何いってるの?ほら、このなんか光る球体の中に。」
そういって手にもっているそれを指差すコレットに。
「アンジェ、熱あるんじゃない?」
「あ、かばんもったげる。早く家にかえろ〜ね。」
そんなことをいいつつ、おでこに手をあてて熱を測るもの。
コレットのかばんを持つもの。
などとそれぞれに行動を起こしてくるが。
「みんな。もしかして…この子が見えないの?」
もしかして、見えてない?
この不思議な光る球の中にいるこの子。
不思議なビンク色をして額に水晶のようなものをもっている。
このふわふわもこもこの超かわいいこの動物が!?
その事実に驚いて目を見開くコレット。
『キュル?』
目を見開くコレットの耳には確かにその動物の声は届いているというのに。
自分以外の他の人、というか友達には見えていない。
そのことに驚きつつ。
「アンジェぇ。ほんっとうっに大丈夫?」
「明日はやすんだほうがいいんじゃない?
  熱はないようだけど。幻覚までみえるなんてよっぼどの重症よ?」
うんうん。
一緒に帰っていた友達全員がそんなコレットに向かって言ってくる。
「……どうして誰にもこの子の姿…みえていないの?」
『キュゥゥゥゥゥ♪』
つぶやくコレットの耳にかなりかわいいその動物の声が。
確かにと聞こえているにもかかわらずに。
それはアンジェリーク=コレット以外には、
まったくもって姿も声も、そして、その光物体すらもまったくもって見えていない事実に。
ただただ驚くしかないコレットの姿が、
スモルニィ女学園の門より少し離れた壁づたいの一角にて、見受けられているのであった。


「…もしかして、この子、私にしか見えてない?」
さすがに天才少女、と呼ばれているだけのことはある。
いきなり空から舞い降りてきた不思議な動物。
見たこともない青い毛並みのふわふわしたかわいらしい。
だが不思議なことにその動物は光る物体のオーブの中にと入っており。
そしてそれがその場に実際にいないのは。
手にしている小型のノートパソコンにデータ入力した際にそれは判明する。
見たこともないものはとことん追求する。
それが彼女の流儀。
データ上では自分が手にしているはずのそれは。
そこには何も存在していない。
そう表示されている。
それだけで判断は十分すぎるほど。
レイチェルにとってはそれだけで、すぐさまに判断ができているのである。
「おまえ、いったい…何なの?」
そう問いかけるレイチェルの言葉に、その目をにっこりと微笑ませ。
『キュゥゥゥゥ♪』
かわいらしい声が聞こえてくる。
といってもレイチェルにしか聞こえないが。
彼女の耳にのみ聞こえてゆくのであった。




ぱたぱたぱた。
「ロザリア。あの人たちはもう全員ついた?」
「ええ。それはもう。」
守護聖たちに秘密で行動するのは何か子供のときに隠し事をしていたときのように。
少しばかり、というかかなり楽しい。
彼らに気づかれないように。
女王とそして補佐官の意思をうけ。
それぞれの惑星にと派遣されていた人々。
そして。
今……
「じゃ、後から彼らを謁見室に、ねv」
そういってにっこりと微笑むアンジェリークに。
「あとはチャールズだけですわ。陛下。」
そういってにっこりと微笑むロザリア。
その言葉に。
「まあ彼はヴォン財閥の社長だからねぇ。でも約束はきちんと果たしてくれる人だから。」
かつての約束。
彼がまだ物心つく前の。
それは今このときのための約束。
彼の祖父が身まかるときに。
どうして、孫である彼なのか。
というのは。
普通の見舞い客を装って、彼には伝えておいた。
そして。
他の人々にも。
といってもそれぞれの両親はそのことをある種の封印により忘れているがために。
自分の子供たちが将来どのような役割を担っているのか。
などとは夢にも覚えていない。
そして、それは。
目の前にいるロザリアもまた女王補佐官、という立場にいるものの。
女王であるアンジェリーク=リモージュより何も聞かされていない。
そういってにっこりと微笑み。
「さ、ロザリア。新たな試験の始まりよ!」
にっこりと微笑む第256代女王にして新世界の初代女王。
アンジェリーク=リモージュの元気な声が、ロザリアの執務室にと響き渡ってゆく。

今、ここに新たな物語は幕をあけてゆく……


                                −第3話へー


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