スイート・メモリーズ ~第77話~
「いったい、何が始まるの?」
初めてのことである。
女王からの直接心話など。
そして、それより後にすぐさまに。
守護聖全員があわてて、王立研究院の星遊盤がある部屋にとやってきたのは、
一時もしないうちのこと。
集まった全員と。
そしてまた。
星遊盤の上で、手を取り合うようにして、目をつぶっている女王候補の二人。
そんな二人をみつつ、思わず横にいるゼフィルにと問いかけているマルセル。
「しずかにするんだ。」
そっと、そんなマルセルに対して口元に手をあて。
いさめているランディ。
二人の女王候補たちは、金色の光に包まれ。
その淡い、金色の光は、部屋全体を包み込んでゆく。
コォォォォゥ!
鳥がいななく。
神鳥が。
それとともに。
ばさり!
その、白き翼の幻影が、辺りにと舞い落ちてゆく。
その後にと続き。
移動してゆく、星星たち。
星が、そして、星系が、そして、ひとつの星雲が…
神鳥の後をついてゆくかのように、そのまま。
次元回廊を通じて。
新たな世界にすべての命ある星星が移動してゆく。
この作業は、いわば、命がけ、といっても過言ではなかった。
それなのに。
思っていたよりも、どうにか意識が集中できる。
それは、そんな彼女たちの頭上に輝く、ひとつの花の形をした、水晶のような物質。
その力の補佐があってこそ。
というのは、説明はされてはいないが、女王もそして補佐官も、言われなくとも理解している。
「――うけとめよ。アンジェリーク。この世界のすべてを。命を…世界のすべてを!!」
さらに力を注ぎ込み。
そのまま、アンジェリークに世界そのものを託してゆく女王・アンジェリーク。
そして、その横では。
彼女を補佐するがごとくに、同じく祈りをささげ、女王を支えている補佐官ディア。
二人のアンジェリークと。
そして。
ロザリアとディア。
彼女たちの働きと、協力と、力により。
世界のすべては、新たな宇宙にと、移動してゆく。
それは、まるで、光の洪水。
第三者、というか、飛空都市に生活する人々と。
そしてまた。
大陸に生活している人々といわず、生命のすべては。
その光景を目の当たりにする。
空に輝く、無数の流れ星。
やがて。
すべてを包み込むかのような光の中。
カッ!!!!!!!!!
まぶしくも、それでいて、暖かな光に包まれたその後には。
今までよりも、さらに増えている星星の数が。
ピ…ビピピ。
画面にとめまぐるしく変化してゆく数値の数が、光の後、その変化は落ちつきをみせてゆく。
「宇宙の移動、すべて完了いたしました!」
数値に示される、移動完了、の結果報告。
示される数値とにらめっこしていた一人の研究員がそう叫ぶ。
そこにあるスクリーンすべてには。
新たに移動された、かつての宇宙にあった世界すべての様子と。
そしてまた。
かつて、それらがあった宇宙の空間が示されている。
一瞬、何が起こったのか、すぐには理解できなかった守護聖たちであるが。
思わず、誰ともなく、その場にてひざをつく。
…新たな、女王誕生。
それは、説明はされてはいないが、そのつかさどる力から。
目の前にいる少女の気配が、今までとは異なり。
自分たちが仕えるべき女王の気配にと代わっていることは、一目瞭然。
「…アンジェが…」
アンジェリークが時期、女王…ううん、新しい女王陛下…
そんなことをおもいつつ。
そのまま、みなと同じくひざをつく、マルセルの姿がそこにあったりするのだが。
ゆっくりと、ゆっくりとではあるが二人の女王候補が目をあける。
「終わったわね。」
そう隣にいるアンジェリークに語りかけるロザリアの言葉に。
「まだよ。ロザリア…陛下たちを助けないと。」
そんなロザリアに対して、ゆっくりと目を開きつつ語り掛けるリモージュ。
「――!?」
その言葉に。
女王である、彼女が何をしようとしているのか悟り、おもわず駆け出すクラヴィス。
彼女の性格はわかっている。
自らの力と命をとして…あの世界とこちらの世界の空間を完全に閉じるつもりなのだ。
と。
新世界に滅びゆく世界の波動を伝えないがために。
「パスパ!次元回廊をひらけ!」
そんなクラヴィスの言葉に。
「もうしわけありません。もはや、次元回廊は開きません。
かつて、われらがあったはずの宇宙には何もない。すでに空間も閉ざされております…」
クラヴィスの言葉に。
無情にも、戻ってくる、王立研究院所長でもある、パスハの言葉。
「…!!!!!」
――アンジェリーク!
声にならない叫びが、クラヴィスの全身から発せられる。
「ディア。でも、いいの?もう私には、新たな次元回廊を作り出す力は…」
あと残っている力はといえば、この空間とあの空間を完全にと切り離すこと。
その力がのこっただけでも、好ましいこと。
そんな女王の問いかけに。
「陛下。私たちはずっと一緒ですわ?そうでしょう?アンジェリーク。」
そんな女王の手をそっと手にとり、微笑かけるディア。
そう。
ずっと、一緒だった。
何よりも、大切で、かけがいのない、親友。
「そうね…私たちは、昔からずっと一緒だったわね…力をかしてくれる?ディア?」
「もちろんよ。アンジェリーク。」
二人の力が空間を閉じるためにと、注がれてゆく。
「――させない!ムーン・フラワー。開放!!!!!」
しばし目を閉じていたリモージュが、ふと目を開く。
一瞬、その緑の瞳が金色に光ったのをふと不思議に思うロザリア。
ロザリア以外の誰もがそのことには気づいていないが。
リモージュの言葉に従い。
かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
女王補佐官と女王陛下。
二人の頭上にと輝いていた物質が、さらなる輝きを放ってゆく。
「次元回廊を開きます!守護聖たちよ!女王陛下のもとに!」
それは。
彼らが、かつてみたことのある人物。
目を開き、少し両手を広げ光に包まれているアンジェリークの姿は。
かつて、彼らが垣間みたことのある。
ナド・ラーガの一件のときに彼らを助けた、次代の女王となのったその姿。
――あれは…
思わず全員がそのことを思い出し息をのむが。
「新たな陛下のお望みのままに。」
すっと、敬礼しつつ、そのまま。
アンジェリークの力より、新たに開かれた次元回廊にと進んでゆくオスカーと。
「――陛下っ!」
今まで、みたことのないほどに狼狽している、クラヴィスの姿。
その姿に思わず、年少組みである、守護聖三人と。
かつての、クラヴィスと女王の関係を知らない守護聖たちは思わず驚くが。
だがしかし。
「女王陛下を虚無に飲み込ませてはだめ!」
そんなアンジェリークの言葉をうけ。
次元回廊より、かつての宇宙にと移動してゆく守護聖たちの姿がみうけられてゆく。
-エピローグへー
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