スイート・メモリーズ ~第74話~
「ロザリア?」
完全にと、神鳥が掻き消え。
そしてまた。
気配を本来のそれに元に戻していたのを瞬時にといつもの様子にと戻し。
音のしたほう…すなわち、ロザリアがいるはずべき方向にとゆっくりと振り向いてゆくアンジェリーク。
振り向いた、アンジェリークの様子は。
今まで、ロザリアが目にしていた髪の長いアンジェリークの姿ではなく…見慣れた姿。
歳のころならば、六歳か七歳前後の少女の、金色の髪に緑の瞳の女の子。
同じ女王候補の見慣れたアンジェリーク=リモージュの姿。
その姿が瞬きをして、次に目を見開いたロザリアの目にととびこんでゆく。
ぱたぱたぱた。
パタパタと足音をたてつつ、ロザリアにと近づくアンジェリーク。
「どうしたの?ロザリア?こんな夜に?」
見れば、アンジェリークの靴は、いつも履いているそれではなく。
どこか、身軽、というか、あまり見慣れないような靴。
しいていうならば、柔らかな布で作られている靴、というべきか。
ゆえに。
走るよるその音もまた、あまり素足と変わりがない。
「…はっ!?それは、こっちの台詞よ。アンジェ、こんな夜中にいったい、何を?」
とりあえず、あわてて、持っていたバイオリンを隠せるはずもないのに背中にと隠し。
それとなく問いかけているロザリア。
「ちょっとね。それより、ロザリア?
ロザリアこそ、どうして、バイオリンなんかもって、こんな森の湖の場所にときてるの?」
アンジェリークは、ロザリアの考えていることは、よくわかる。
いや、その気になれば、彼女は。
この任されている空間の内部においては、知らないことなどないのだからして。
だけども。
彼女は、それは望まない。
人の心を勝手に読む、というのは。
それはそれで、悲しいこともあることがわかっているがゆえに。
まあ、個人のプライバシー、というのもあるにしろ。
「こ…これは…」
まさか、あなたに、今までいえなかった想いをこめて…得意な局を聞かせようとしたのよ。
などと、素直に心ではいってみたい。
だけども、それは、ロザリアのプライドと、そして恥じらいから、そんな素直で謙虚なことはいえない。
それゆえに。
「星空がきれいだから、音楽でも、と思ってね……」
とりあえず、無難な返事を返しているロザリア。
そんなロザリアの言葉ににっこりと微笑み。
「奇遇ね。ロザリア。
私は星星と自然界が喜びに満ちているから。少しばかり踊りたくなってね。みてみて。」
いいつつ、そのまま、くるりと円を描くようにと踊り始めるアンジェリーク。
アンジェリークが、円を描き、そして。
くるくると、回るたびに、
周りの木々や草花もまた、まるで、それにつられるようにと、音なき音をかなで出す。
これは、儀式。
ひとつのいわゆる、形式的な。
新たな世界が誕生し、また、器が完成したそのときには。
彼女がずっと、やってきているひとつの儀式。
まるで、そのまま、妖精のように、それでいて、この場に満ちている光の精霊のように。
その生身の重さなどをまったく感じさせずに。
くるくると、舞を踊り始めるアンジェリーク。
そんな光の中で舞うアンジェリークの様子をしばし、幻想的な感覚で捉えつつも。
そのまま、無意識に。
そっと、その手にしていたバイオリンをケースからだし。
そのまま、アンジェリークの踊りに合わせて、その音律をかなで出してゆくロザリア。
森の湖のほとりにて。
舞を踊るアンジェリークと。
そして、ロザリアの澄み切ったバイオリンの旋律が、辺りに…
そして、それは。
飛空全体にと響き渡ってゆく。
舞いと、音楽。
その二つが重なり合い、それに伴い。
大気が、自然が、そこにある、命すべてが、喜びを伝え合う。
そして、さらには。
その波動は、ここ、飛空都市だけではなく。
この新たな宇宙空間となる、この星雲系においてもまた。
中心地帯である、惑星より、まるで、その波動が波のようにとゆっくりと、ひろがってゆく。
きらきらきら……
二人の舞いと、そして、音楽に伴い。
さらに、彼女たち二人のいる、その場所、森の湖はさらなる光にと包まれ。
二人の女王候補は、気づけば、金色の光の中で。
舞いと、そして音楽をかなで出してゆく…
「…これ…は?!」
おもわず、何事かと目を見張る。
確かに、空気が、大気が騒がしい。
まさか、異変の前触れか!?
などと思うが、だがしかし。
開け放つ窓より見えたのは。
いつもよりもさんさんと輝く、星星の光と。
そして…この地に満ちる、確かな力の波動。
この力は…
それは、間違えようのない、女王の力、そのもの。
女王のサクリアが、この地、飛空都市にと満ち溢れている。
「いったい、何事がおこったのだ!?」
いいつつも、急いで、夜着を着替え。
そのまま、ここ、飛空にと与えられている、私邸よりあわてて外にでてゆくジュリアスの姿が。
アンジェリークとロザリアが二人。
森の湖で、音楽と舞いを繰り広げている最中。
見受けられてゆく。
「…ふっ。なるほど…な。」
光に包まれたその金色の髪をもつ少女は、水晶にと映し出されているその姿は、彼女の本質たる姿。
「…つまりは、もはや、器は完成した、ということか…ならば…」
彼女が…女王の手助けをしていることは、水晶球を通じてそれは知った。
そしてまた。
どうして、この地を育成しないといけないのか。
というのは、彼女、アンジェリークの口から聞き出して。
彼…クラヴィスは知っている。
知ってはいるが、ほかの守護聖には話してはいないだけ。
「これより、何が起こる、というのだ?コスモス・メイトよ……」
彼女が現れる、ということは。
何かしらの何か大事が起こる、というのは。
それは、何となくではあるが、自らのつかさどる力がそう告げているのか。
何となく理解はできる。
だが、それが何なのか…
まだ、彼は、これより後。
起こる事実を…まだ、知らない。
「うわぁぁぁぁ!何これ、きれぇ~!」
何となく、ふと、目がさめ。
そして、チュピがあまりになくので窓を開いた。
そして、目にはいってきたものは。
まるで、光の洪水のごとくに、燦々と輝いている星星と、
そして、それらを包み込むがごとくに、さらにまばゆく輝いている月の光。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
しばし。
幻想的なまでのそんな光景に。
思わず見とれている緑の守護聖・マルセルの姿が。
彼の寝室にあるベランダにて、見受けられてゆく。
この日。
飛空に住む、この時間帯。
おきていた、または、おきだした人々は。
幻想的なまでに、燦々と、まるで光の洪水の雨を降らさんがごとくに、光星星と、
それらを包み込んでもなお、まぶしくもなく、それでいて柔らかな光にと包まれた月の明るさ。
そんな、普通の自然現象とはとうてい思えないような光景を。
全員が、全員。
その目に焼き付けてゆくのであった……
それは、彼女たちが育成する、大陸においても同じこと…
……時は。
確かに、確実に。
ゆっくりと、進んでゆく……
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