スイート・メモリーズ ~第72話~
「…これは?」
「…陛下…これは……」
ふわり、ふわりと。
そこに今までなかったとある物体が、空中上にと浮かんでいる。
くるくると、ゆっくりと、それでいて、神秘的に回るようにみえているそれは。
淡い、光をしかも、不思議な色合いを放ちつつ、ゆっくりとその空間の真ん中にて。
部屋のすべてを照らし出すかのように光を放っている。
「…これは…?」
柔らかな光のもと。
今まで、自分の力と、ディアの支えにより、どうにか支えていた宇宙のほころび。
そのほころびがゆっくりとではあるが、確実に抑えられているのが感じられる。
『……女王、アンジェリーク…そして、補佐官ディアよ…』
二人の脳裏に突如として響く声。
「「え!?」」
思わず顔を見合わせ。
見上げたそこにあるのは。
次空の間において、見られるすべてのこの星雲の星星の命の輝き。
それだけではなく。
白い、真っ白く、それでいて、淡く金色に光る、一羽の鳥が。
彼女たちの見上げる頭上に、その羽を大きく広げ。
今、まさに。
あるはずのない、花のような形をした物質にとゆっくりと舞い降りてくる一羽の鳥。
「「…神鳥…」」
めったと姿を現す存在ではない。
ましてや。
直接に、神鳥よりかたりかけてくるなどとは。
その声を聞くことができるのは、代々の女王のみ。
そのはずなのに…
『かの御方より、この地を導くために、このムーン・フラワーが授けられます。
この地は、この世界、宇宙だけではなく、すべてにおいて重要な地…
もうしばらく、あなたたちにこの世界を任せます…すべては、かの御方の意思のままに…』
二人しかいない空間である。
周りには、そこが外界とは隔てられている場所だとすぐさまに理解できるまでに。
たちならぶ石柱の姿。
そこは、宇宙を見渡すための空間であり、そしてまた次元をつなぐ空間でもある。
直接に、かのこの宇宙の意思である、神鳥が、語りかけてくるなどとは、今までにはないこと。
思わず、顔を見合わせるディアと女王アンジェリーク。
そんな二人を見下ろしつつ、やがてゆっくりと姿をかき消してゆく神鳥フェリアーナ。
後には。
彼女たちがみたこともない、不思議な光沢と光を放つ、見た目はピンク色にとみえなくもない。
花弁の多い、バラの一種のような、そうでないような。
そんな花の形をした、水晶のような、ガラスのような。
何ともいえない物質が、ひとつ。
部屋の中央の中心で。
淡い光を空と、そして部屋のすべてを淡く照らし出してゆく……
時は。
すぐそこに。
星星がきらめく。
受け入れる体制がととのったことを。
星星と、そしてそこにある自然が指し示している。
「体制が整うのは…あと………」
それまで、がんばって…
きらめく星星の夜空をながめつつ。
祈りをささげるアンジリェークの姿が。
彼女の与えられている私室にて、しばしみうけられてゆく。
運命の日までは、すぐそこ。
あれほどまでに悲鳴を上げていた大地が。
ゆっくりとではあるが、安定し。
大陸の中の島よりこちらの世界にと影響していた負の力が、
確かに、少なくなっているのを感じ取る。
「…いったい?」
確かに、宇宙の崩壊はゆっくりとではあるが進んでいる。
だがしかし。
今は安定期にとはいっているように、数値的にも指し示されている。
それは、女王補佐官ディアが聖地に戻ってすぐのこと。
彼ら守護聖たちに伝えられた内容は。
神鳥が、女王の力を補佐している、というその事実。
まあ、あたらずしも遠からず。
確かに、事実ではあるが、完全なる事実ではない。
神鳥は、ただ、【アンジェリーク】の代理として、力を貸しているがゆえに。
「だが、大事の前の静けさ。ということも考えられる。みんな、心するように。」
確かに、今は安定を見せている、宇宙の崩壊。
そして、この新世界に影響する、負の力。
今は、確かに。
まるで嵐の前の静けさのように、その影響はびったりと留まっている……
星星がきらめく。
先日までの騒ぎがうそのように。
だけども。
確かに、時期は迫っているのは、彼女…ロザリア自身にもわかっている。
「もうすぐ試験も終わるのね……」
どちらが女王になるのかなんて。
もう、すでにわかっている。
いや、漠然と理解している、というべきか。
彼女とともに、女王候補に選ばれた、あのときから…
そう、心の奥底では、多分……いや、きっと。
というのは、すでにわかっていたがゆえに。
だけども。
窓から見上げる空には、星空が輝き。
だがしかし。
まだ、生命が誕生している星星は存在していない。
というのも、王立研究院より、聞かされて。この新世界の様子はわかっている。
わかってはいるが…
「あの子に勝とう、だなんて思うのは間違い……というか。
何か、あの子……何ごとにおいてもほっとけないのよね……」
表面上では、キツイことなどもしばしいってはいるが。
心のどこかでは、彼女をほうっておけない、というのが事実。
ふと。
「…そういえば、私、あの子にきちんといってなかったわね…」
彼女-アンジェリークは、自分に対しては、友達であり、そしてまた、よきライバルだから。
といってきてくれてはいるが。
よくよく考えたら、自分が彼女のことをどう思っているのか。
口に出したことは…確かなかったような気がしなくもない。
いったような、いってないような。
自分がまったくわからない。
アンジェリークと知り合って、確かに、自分の中で、張り詰めていた何かがかわり。
そして、今、自分はここにいる。
そんなことをおもいつつ。
すくっ。
窓辺にもたれかかっていた姿勢をただし、立ち上がり。
そのまま、クローゼットの中にある品物を取るためにと進んでゆくロザリア。
時が、わたくしの背中を押す。
というか、今言わないと、きっと私は後悔するから。
そんなことをおもいつつ。
バイオリンを片手に。
そのまま、ロザリアは自分の部屋を後にしてゆく。
今まで、きちんと、彼女と話したことはなかった。
そんなことをどうして今、思うのか。
それは…おそらくは…
「あら?」
ふと、部屋を出ようとしたロザリアの目に。
寮の裏口より出てゆく金色の影をふとその目にととらえ、思わず立ち止まる。
「どこに?」
ぎゅっと、その手にしている、バイオリンを握り締め。
用事があるのは、彼女に用事があるがゆえに。
そのまま、彼女…アンジェリークを追って、
同じく寮から出てゆくロザリアの姿が見受けられてゆく。
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