スイート・メモリーズ ~第70話~
「宇宙が滅ぶなんて…」
帰り道、ぽつりとつぶやくロザリアに。
結局のところ。
その日はいろいろとあったから、それぞれの精神も安定していないであろう。
という、ジュリアスとディアの要望により。
そのまま、全員がそれぞれ部屋にと戻ることになり。
二人並んで歩いている、ロザリアとアンジェリーク。
確かに、アンジェリークのいうがままに。
世界の声に耳を傾けていたがゆえに。
何かが起こっている。
というのは漠然とはわかってはいたが。
まさか、自分たちの住んでいる宇宙そのものが消滅を迎えようとしているなど。
いったい誰が想像できるであろう。
「あら、ロザリア、いくら、銀河の寿命が数百兆単位、といっても。必ず終わりはあるのよ。
その代わり、それが終わるとまた新たに無から有にと命は受け継がれるの。
それが世の中の理。」
そうして、命はめぐる。
ゆっくりと。
世界すらもまた、巡ってゆく。
現在、過去、未来。
すべてにおいて、いらないものなどは存在しない。
この次元、というか、この世界で。
彼女があまり平行世界を作り出していない、というのは。
過去のような過ちを【命ある存在】たちに繰り返させないがため。
ゆえに。
何か不都合などがあり、今後に影響を及ぼす、と判断したときには。
問答無用で時間を逆行させたりしたこともしばしば。
それでも。
この、女王制度が定着してからはというものは。
それらの管理を代々の女王にと任せ。
自分はほかの空間、というか銀河などにと目を配り。
かつてのような過ちが起こらないようにとしっかりと配慮しているアンジェリーク。
いわば、宇宙空間、そのものが、彼女の意思であり、力である。
何しろ、この宇宙は。
彼女の力によって、新たに創造された、といっても過言ではない。
あのとき。
すべてが無にと戻り、すべてが終わるはずであったあのときに、願いを聞き入れてくれたのは…
ほかでもない…
「ほかの場所はともかくとして…あの場所だけは…消滅させるわけには…いかないのよ…」
ぽつりと。
思わず口がすべりそんな言葉を漏らすアンジェリークのその言葉に。
「?アンジェ?どうかしたの?」
ふと。
何か考え込んでいる横のアンジェリークにと気づき、思わず声をかけているロザリア。
いつか、どこかで。
いつだったか。
こんな思いをしたことがあるような…
そんなことをふとロザリアは思うが。
消滅は免れない世界。
そして…それを守ろうとする…
ズキッ。
ふと、ロザリアは、軽い頭痛にと襲われる。
思い出しかけたその出来事は、再び深い記憶の霧の中にと沈んでゆく。
それは、アンジェリークの配慮。
何しろ、彼女…ロザリアは昔から無茶をする、というのは、アンジェリークはよくわかっているがゆえに。
「とにかく、ロザリア。私たちはよりよく大陸を育成して。新たな器の完成にむけてがんばらないと。
あの大陸がすべての鍵をにぎっているんだから。
…この、新たな
そう。
あの地から。
あの惑星を中心に。
広がるようにして、すべての星星を受け入れる体制ができていっている。
それは、知る人ぞしる事実。
「…アンジェ。あなた、はじめからしってたの?」
宇宙が滅びを迎えているがゆえの女王試験。
ということを…
最後の言葉は口には出さずに、いまだに六歳程度の姿のままをとっているアンジェリークにと問いかける。
「ええ。だって、
「…そう……」
この試験にそんな意味があるなどとは、夢にも思っていなかった。
「でも、私、ロザリアがいてくれてうれしいな。
ロザリアがいてくれるから、がんばれるもん。一緒にがんばろうねロザリア。
世界を救う、とかいうのではなく。ライバルとして、そして親友として。」
ぎゅっ。
その小さな手で、ロザリアの手を握り締め。
にっこりと微笑むアンジェリークのその様子に。
「な゛!?と、とにかく、戻りますわよ!」
なぜか、その微笑むアンジェリークの笑顔にどきりとし。
思わずきつい言い方をしつつも。
アンジェリークの手をはらいのけ。
ぐんぐん、一人で女王候補寮にと戻ってゆくロザリアの姿。
「あ~!まってよ~!ロザリア~!」
そんなロザリアをぱたぱたとはしりつつ追いかけるアンジェリーク。
走るたびにそのふわふわの金色の髪が風にとたなびく。
すでに薄暗くなった、飛空都市。
ひとつの道にて、そんなほほえましい女王候補たちの姿が見受けられてゆく…
宇宙が滅ぶ…
そんなこと、想像すらもしていなかった。
いや、していなかった。といえばうそになる。
誰もが気づいていながら、確信がもてなかっただけのこと。
「…くそっ!」
ダン!
自分で運命を決める。というのは好きではない。
自分が望んでもいないのに、守護聖にとなってしまったように。
だけども。
バララララッ!
勢いよくたたいた机から、大量の資料が床にと舞い落ちる。
ランディにと頼んでもらってきてもらった資料。
そして、自分で調べた資料。
可能性として考えられるすべてを調べた。
自分たちの宇宙は、すでに、もはや余裕がない、というか、存続しているのが不思議なほどに…
すでに、壊疽と、衰退と…崩壊、消滅は…始まっているのが。
はっきりと。
科学的な数字でも、それ以外の数値でもしっかりと指し示されているのを目の当たりにすると。
「…くそっ!早く女王を決めないと!」
一番、やりたくなかったこと。
だけども…女王が決まらないと、この世界も、自分たちの宇宙も…すべてが滅ぶ。
そう、すべての数値は…指し示しているのであった…
鋼の守護聖・ゼフィル。
彼は今、ひとつの段階を乗り越える時期に差し掛かっている。
ということは本人はまだ気づいてはいない…
チチチ。
「あ、チュピ、ゴメン。ゴメン。ご飯がまだだったね…」
いつ、家に戻ったのかは覚えてない。
気づけば、ベットにこしかけて、呆然としていた。
女王陛下がすべての力をもってして、支えていた宇宙。
その重みと苦痛と…そして、決断と決意。
滅び、というのは好きではない。
だけども、好き、嫌い、という問題ではないのだ。
確かに今、目前に、というか、すぐ目の前にそれは迫っているのだから。
緑の守護聖・マルセル。
守護聖になって、まだ間もない彼にとっては、かなり重い試練、といっても過言ではないであろう…
「…彼女は…」
知ってはいた。
あのとき。
水晶球がそう示していたから。
自分から、世界を守るべく、宇宙の柱になることを選んだ彼女。
頭では理解していても、感情は別もの。
だが…
「…あまり、無理をするなよ…女王陛下…いや、アンジェリーク…」
かつて、愛した…いや、まだ心の奥では愛している。
愛しているからこそ。
彼女の力になろうと決意したのだから。
彼女が即位した、あのときに。
初めて、人の心のぬくもりなどを与えてくれた彼女は今。
一人でその崩壊する世界のすべてを支えるべく。
今、まさにがんばっている。
それゆえに…
「わが闇のサクリアが彼女の力と安らぎになるように…」
そっと。
誰にも知られることのないように。
彼女ががんばりすぎて倒れないように。
女王の意思がない、というのは百も承知。
彼女はそれを望まないであろう、ということも。
だけども…
「…アンジェリーク…」
空を見上げつつつぶやく闇の守護聖・クラヴィスのつぶやきは。
そのまま夜の闇にと解け消えてゆく…
すべては、これから。
だからといって…もう、時間はのこされては…いない。
「我が力の源たるクリスタルよ。
今ここに、アンジェリークの力の支えとなり、新たな歴史を刻む手伝いをなさんことを…」
ふわり。
その日。
人気もまったくなくなった、飛空都市の公園で。
地につくまでの長い金色の髪をし、金色の瞳をした少女の姿と。
彼女の全身が淡く金色にと輝き…
そこから、まるで淡いばら色のような色をした何かの花、のような形をした物質が。
ゆっくりと、上空にと彼女の手のひらにと出現し。
空たかく舞い上がってゆく様子を。
きらめく星星と、あたりに満ちる大気と。
そこにある自然、すべてたちが、しばし見受けてゆく光景が。
見受けられていたことは…誰も知らない事実…
-第71話へー
Home Top Back Next