スイート・メモリーズ     ~第66話~

「いったい何だっていうんだよ!」
ダン!
連続して起こる、どう考えても納得のいかないこと。
それを調べるために、そのために。
聖地から、正確なデータを仕事のために戻っているランディに頼んだその直後。
さけびつつも近くにある柱をたたきつけるゼフェルに。
「気をせくな。ゼフェル。われらとて気持ちは同じだ。
  ……こんなときに女王陛下のそばを離れているなどとは。」
そういいつつ、少し腕を前にとくみ、そんなことをいっているジュリアス。
次元回廊が閉ざされた、ということは、ほかならぬ女王に何かがあった。
ということを暗に指し示している。
そんなときに、女王の守護をすべき自分たちがこうして女王のそばにいないことを。
彼は心の底から悔やみ、そして、改善策を考えるべく頭をめぐらす。
「そういえば、今ランディがあちらに戻っていたはずですね。
  …ディアもいるはずですから、きっと何か……」
そんな会話をしつつ。
それでも、今まで見たこともないほどに狼狽している守護聖たちの姿に。
「…いったいどういうことですの?ありえるはずもないのでは?
   次元回廊は女王陛下の力によって保たれ、そしてこの地も陛下の守護の元にあるのだから…」
いいつつも、その身に不安をたぎらせ、つぶやいているロザリア。
「…それは……」
どうすべきか。
話すべきか、自分たちが、というか、今宇宙がすでに寿命を迎えている、ということを。
これは、そのための試験。
これからの試練に耐えうるべくの初めの試練でもあるが。
だけども、今は単なる『女王候補』である自分がいっても、いいものか。
そんなことを考えるが。
だがしかし…
顔に手を当て、考え込んでいるロザリアをしばし見つめ。
そして。
すっと顔を上げ。
といっても、アンジェリークの姿は六歳の子供。
子供の視線と大人、そして17歳の少女の視線。
当然見上げるような格好になるのだが。
少し顔を上目遣いに上げ、そして。
「…それは、おそらく……
  私たちの宇宙が寿命を向かえ消滅に差し掛かっている……ということに原因があるのだと…」
ざわっ!!!!
全員を見つめつつそういいきり、そしてまた。
すんだ瞳で全員を見つめつつ、そういいきるアンジェリークの言葉に思わずその場が騒然とする。
「な゛!?アンジェリーク!?」
驚愕とも、そして非難ともいえるジュリアスの声。
「ふっ。」
そんなアンジェリークの言葉に少しばかり笑みを浮かべ。
「ジュリアス、もうこうなっては事実をいうしかあるまい?」
確かにこのような事態になってまで、隠し通すことは不可能。
「クラヴィス!」
そんなクラヴィスの言葉に思わず声を張り上げているジュリアスであるが。
「…そう、今アンジェリークのいったとおり…異例、ともいえる今回の女王試験。
  現在の女王の在位は歴代の女王と比べ、比較的短い。
  守護聖の誰もが気づいていながら口には出さなかっただけだ。」
そう静かに言い放ち。
そして、きっぱりと。
「アンジェリークのいうとおりだ。もはやわれらの宇宙は死んでいるのだ…」
淡々と語るそんなクラヴィスの言葉に思わずその場にいた全員が絶句する。
「クラヴィス!」
そんなクラヴィスに非難の声を上げているジュリアスであるが。
「…そんな。そんな馬鹿な!ではどうして、私たちがここにいるんですか!?
  私たちは時代の女王となるべくここにいるのではないのですか!?」
宇宙が死ぬ。
そんなことは考えたことも、そしてまた、聞いたこともない。
そんなロザリアの言葉に。
「…それは、今からきちんと説明があると思うわよ。ロザリア。
  でも、宇宙がきちんと代謝していないのは本当。それは星々の悲鳴からでも感じ取れるから。
  …ロザリアにも聞こえるはずよ?心を澄まして耳を澄ませば。」
そうロザリアの手を軽くにぎり、そして、その視線を次元回廊の扉にと向けるアンジリェーク。
それと同時。

パァァァ!!!

次元回廊の扉が光とともに開いてゆく……



時をさかのぼること少し前。
「陛下!」
閉ざされている聖なる空間。
そこに入れるのは女王のみ。
だけども。
「陛下!陛下!― アンジェリーク!大丈夫!!?」
気が気ではない。
気配が…か細い。
もしや、彼女の身に何かあったのではないか。と。
「…くっ!アンジェリーク!許可はないけど入るわよ!」
それは、同じ女王候補として選ばれたディアだからこそ。
そしてまた、補佐官として活動している彼女だからこそ。
臨時のときには、少しばかり女王の力を使うことができる。
その規模は小さくとも。
完全なる女王の力ではないにしろ、似た力でも、扉を開くことは可能。
だがしかし。
ゴゲン!
勢いよく、ロッドを扉にたたきつけて、その力を送り込む、という方法はいかがなものか。
穏やかに見えても、するときはする。行動するときは行動する。
それが、この女王補佐官ディア。
キィ。
その衝撃とそして送り込まれた力の波動で、一時少しばかり扉が開き。
その隙間にすかさずもぐりこみ、そのまま、長い階段を駆け上がってゆくディア。
扉の先にあるのは、長い、長い淡く白く輝く階段がひとつ。
その先に。
すべてのこの宇宙空間を見渡す聖なる間が存在し。
そこから、代々の女王はその力を宇宙にと注ぎ込む。
聖なる御座。別名でそう呼ばれている場所。
ただ、どれだけ走ったのかわからない。
だけども、気が気ではない。
…次元回廊が閉ざされた、ということは。
少なくとも、女王の…『アンジェリーク』の意識が途絶えた、ということに他ならないのだからして。
「アンジェリーク!!!!」
悲鳴に近いディアの声。
…ずっと、一緒だった。
幼少部のときから。
ずっとずっとあこがれて…そして、尊敬すらもしていた親友。
その彼女は今は宇宙を救うため、自分の幸せをも犠牲にし。
そして…今、こうして第255代女王として君臨し。
滅び行く宇宙を救うためにその力のすべてを宇宙の保持にと努めている。
その負担はどれほどなのか、ディアにはよくわかっている。
すべて自分で何もかもしようとするそんな彼女に。
だからこそ、少しでも手助けしたい、と思うのは。
ディアにとって、彼女がかけがえのない親友であるがゆえに。
叫びつつ、階段をのびりきり。
そして。
その先にある薄いベール状のカーテンをさっとくぐる。
そこには。
四方に映し出された宇宙の姿と。
その中心にあるひとつの台座。
そこに座っている一人の少女は。
ぐったりと、椅子にもたれるようにと意識を失っているのが見て取れる。
「~~!!!!?アンジェリーク!しっかり!」
おそらくは急激な力の負荷がかかったのであろう。
そのことは瞬時に理解ができた。
即座に懐に忍ばせておいた、小さな小瓶を、
そこにいる長いストレートの金色の髪の女性の口にと注ぎ込む。
「…うっ…ん…」
それは、ディアが開発した、気付け薬のようなもの。
しいていえば、一般に普及している栄養ドランクといったようなものに近いが。
喉に伝わる冷たさと。
そして、自分を呼ぶその声に。
暗闇にと向かっていた自分の意識が向上してゆくのを感じつつ。
そして、うっすらとその瞳をあける。
瞳をあけた女性の目にと映ったのは、心配そうに覗き込む親友であるディアの姿。


                -第67話へー


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