スイート・メモリーズ ~第65話~
「ディア様!?」
惑星の視察。
それを得て、手続きを隔てて、女王補佐官であるディアへの謁見を申し出ていたランディ。
視察を得て、確信した。
…ゼフェルがいっていた、詳しい資料がほしい。
そういって意味もまたわかった。
だけども。
どうして、自分たち守護聖にそのことが伝えられていなかったのか。
「…それは、いらない混乱を避けるためです。
ランディ、滅び行く世界を助けるための女王試験なのですよ。」
そんなディアの言葉に、思わず握り締めたこぶしに力を込める。
何となく漠然と、何かおかしい。とは感じていた。
いたが…
「ですが!俺たちだって、女王陛下を支える守護聖です!」
何も説明されずに、ただ、二人で、そんな重大なことを黙っていたのかとおもうと。
何かとても寂しくなると同時に悲しくなる。
自分は、宇宙を支える…つまりは女王を支えるべき守護聖であるというのに。
「それは…」
いいかけた、ディアの脳裏に。
――ディア…
がくんっ。
それとどうじに、力が抜ける。
…!?
アンジェリーク!?
思わずそれと同時に、女王である彼女に何かがあったのだと理解ができる。
「ディア様!?」
いきなり崩れてひざをついたディアに話しかけるランディ。
「これは…陛下!」
そのまま、顔色をかえ、ランディにかるく会釈だけをして、そのまま聖殿の奥にと走ってゆく。
「…今のは…」
自分も感じた。
一瞬ではあるが、女王陛下の力が、極端に低下したのは。
「まさか!陛下になにかが!?」
ランディもまた、あわててディアの後を追いかけて走ってゆく。
「あ、アンジェリーク。」
「ロザリア?」
フェリシアより戻って、それでもぬぐいきれない不安感。
もしかしたら、彼女ならば何か知っているかもしれないわ。
そんなことを思い、アンジェリークにと問いかけるロザリア。
そんな二人の耳に。
「アンジェリーク、ロザリア。すまないが、これ以後の遊星盤の使用は禁止する。」
突如として研究院の内部がざわめきだし。
上ずった声と、いつも冷静な研究院を預かるパスハの言葉が少しばかり動揺している。
「え?いったい?」
先ほど、フェリシアから戻ってそれほど時間は過ぎていない。
「あの?」
戸惑いの声をあげるそんなロザリアに。
「緊急事態だ。……聖地との連絡が途絶え、時空回廊が閉ざされた。」
信じられない事実が、パスハの口から、二人の女王候補の耳にと入れられてゆく。
聖地にあるまじき、大地が揺れる。
世界で一番安定しているはずの聖殿が音を立てて揺れている。
それはまるで信じられない現実。
「ディア様!?これは!?」
謁見として女王補佐官であるディアと話していたランディは、いきなりの使者に呼び戻された。
そして、そんな彼が見たものは、信じられないもの。
神聖な聖殿がありえないことに揺れている…
「陛下!」
顔色も悪くそのまま神殿の奥深くにと存在する聖なる御座にと向かってゆくディア。
聖地がここまでの状態になる、ということは。
はからずしも女王に何かがあった。
ということ。
「…陛下、陛下…アンジェリーク!!!!」
真っ青な顔をして神殿の奥にと向かってゆくそんなディアの様子に。
「…『アンジェリーク』?」
ランディは知らない。
今の女王のその名前を。
それゆえに首をかしげるが。
「…ランディ、あなたは人々か不安にならないように指導をお願いします!…私は陛下の元に!」
それだけ言い放ち、そのまま全速力で駆け出して奥の間にと進んでゆくディアの姿。
「…女王試験…そうか……」
今まで、あまり気にもとめていなかった。
どうして女王試験が行われているのかなんて。
「…陛下のお力は…俺たちが気づかないうちに弱くなっているから…だからか。」
その原因は、ただひとつ。
――宇宙が代謝していない。
間違いなくそこに原因は存在する。
おそらく陛下はそれを自分ひとりの力で支え-ゆえに、力を大量に消耗しているのであろう。
そういうことはいやでも理解ができる。
そして…
「…多分これは……」
先刻、王立研究院にて、行った、自らのサクリアを注ぎ込む仕事。
それを受けて、新たな銀河が誕生し、そして進化を始めた。
それに間違いなく起因しているのであろう。
宇宙を支えるのに手いっぱいな女王に、
おそらく、あの新たな銀河をも支えるのは、少しばかり負担が大きかった…のではないか?
そんな予測もランディの中で組み立てられてゆく。
本来、彼はそういった論理的な理論を組み立てる性格ではない。
それなのに、そんなことを思ってしまうのは。
この前代未聞の現実を目の当たりにしたからこそ。
宇宙で一番安定しているはずの、聖地。
しかも聖殿が…その存在を揺るがすかのように…揺れている…
だが、呆然と自分はしている間ではない。
「みんな、とにかく落ち着け!今ディア様が陛下の元に向かわれた!
こういうときこそ、陛下にお使えするものの気力が試されるときだ!」
狼狽し、そして悲鳴をあげ、そして祈りをささげるなど。
そんな行動をしている、ここ聖殿に勤める人々に対し元気付けているランディ。
ある意味、彼には適任、といえる仕事であろう。
彼のつかさどる風の力は…勇気の力でもあるがゆえに。
「…フェリアーナ。」
誰に気づかれるともなく、ぽつりとつぶやくアンジェリーク。
そう、原因はわかっている。
わかっているからこそ。
あちらにいる、『彼女』の手助けをその力をもってしてするように伝えただけ。
ばたばたばた。
「すいません!遅くなりました!」
あわてて駆け込んでくる頭にターバンを巻いた男性。
「おせえぞ!ルヴァ!」
そんな彼に対して突っ込みを入れているのはプラチナショートの髪の少年。
「…これで、全員がそろったわけだな。
…事情が事情がゆえに、二人の女王候補にも同席してもらっている。
…パスハ。今の現状説明を。」
全員がそろったことを見て取り。
ここ、王立研究院の責任者でもあるパスパにと話しかけているのは。
長い金色の髪をしている一人の男性。
その口調は有無を言わさない何か威厳らしきものすらもまとっていたりするが。
「は。はい。ジュリアス様…。守護聖の皆様方も気づかれていらっしゃると思いますが。
聖地との連絡が途絶え…今は次元回廊も閉ざされている状態です。
…こんなことは今までには…」
そこまで、女王の力は枯渇しているのか?
などとも心で思うが、そんなことは口には出せず。
淡々と事実を述べているパスハ。
確かに、ありえざらないこと。
だが、実際に。
つまりは、この地は今、完全に孤立している、ということに他ならない。
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