スイート・メモリーズ ~第64話~
いつもながら、これほどに、力が衰退したことは、今までかつてなかった。
いつもなら、そう、いつもなら。
自分が、移動する際にもすべて行動を起こしていたがゆえに。
今回、別の手を借りたのは、他ならない。
新たな宇宙におけるとある出来事と、そして…あの子の影響。といっても過言ではない。
「…エリオス…」
そうつぶやく、アンジリェークのつぶやきは。
ただただ、精神のみで移動して様子をみている、エリューシュオンの上空上風にと吹き消されてゆく。
「お手数をおかけいたします。」
本来なら、女王試験中の守護聖を呼び戻すなど、試験に影響をおよぼす可能性が高いがゆえに。
そう、おいそれとできる事柄ではない。
それゆえに、いつもよりも数倍以上も恐縮してしまうのも当然であろう。
そんな恐縮した言葉をかけている、王立研究院、主任。
ここ、聖地における、ここ研究院においては。
惑星どころか銀河そのもの。
それらの管理や監視、そして研究。
などといったことを仕事としている。
それゆえに、どうしても、守護聖たちの力を借りなければならない、非常事態。
そういったときに限り、様々な手続きを得て、こうして直接に守護聖を迎えることともなる。
めったと顔を合わすのも、はっきりいって恐れ多い。
それなのに。
それなのに…である。
ここ最近は、こうして守護聖の力を直接に借りないと、宇宙の代謝がうまくいかない。
という現実もまた然り。
それは確かに、新たな女王の選出が行われている今現在であるがゆえに。
多少の女王の力の安定が不安定になっているにしろ。
この様子ははっきりいって、今までにないこと。
だがしかし、今までの長い年月によった情報などを照らし合わせたところある可能性にとたどりつく。
たどりつくが…だが、それは信じがたい事実。
…可能性からすれば、それはありえざかるべきことだとは頭で理解はできるが。
だからといって。
すんなりと納得できるものでもない。
そんな王立研究院主任である男性の言葉に。
「それはかまいせんが…ですが、いったい?
最近、俺たち守護聖の力を直接に必要とすることが増えているみたいですが?」
こんなことは聞いたことがない。
いくら、女王の力が衰退している、とはいえ。
しかも、先日は巨大すぎるプラックホールが突如として出現したばかり。
そんな風の守護聖であるランディの言葉に。
「はぁ…。とりあえず、こちらの用事を先にお願いいたします。」
恐縮しつつ、とある新たな星系を指し示す。
それは、先日、寿命を追え、そして、爆発したとある惑星。
爆発した惑星のその力は、
その惑星の重力などに応じて、新たな惑星そのものを誕生させるきっかけとなるか。
もしくは、何ものも受け付けない死の空間になるか、または…
ともかく、惑星の寿命が終わったときの、そんな宇宙の状態の安定を図るのも。
また、女王の力によってその安定は保たれている事実。
それは、この宇宙に存在しているモノならば、誰もが幼い、しかも物心つく前から。
宇宙の仕組みなどは、漠然と習ったり、聞いたりするというのが周知の常識。
そんな主任の言葉に、その場所にと目を移す。
「…新たな息吹をふかすために、ランディ様のお力をお願いいたします。」
風のサクリア。
それは、活性化を促す力でもある。
「わかりました。」
そういいつつ精神を集中させる。
それと同時にランディの体から、まるで神秘的なまでの力があふれ出す。
本来、彼らがもっているこの【
彼らがもつ力は、それほどまでに、危険で、それでいて、宇宙に欠かせないもの。
知識的にはその力が自分たちの手にあまりあることだとは理解はしているが。
だが、その身をもっていまだに彼らは経験したわけではない。
精神を集中し、その場所特定に風のサクリアを注ぎ込む。
それと同時に。
核融合反応が確認され、新たな息吹が再び芽生えてゆく。
彼らのような守護聖が直接に力を注ぎ込まなければ。
宇宙は…代謝機能を果たすことすら、不可能ともはや成り果てているのである。
「お疲れ様でした。ランディ様。核融合反応が確認されました。」
いいつつ、丁寧に研究院に勤める職員ともどもお辞儀をするが。
彼らからすれば、自分たちの力で何も対応ができない。
というのも、プロ意識に傷をつけるものでも何ものでもないが。
「それで?主任?いったい?」
そんなランディの言葉に。
ふぅ。
軽くため息ひとつ。
「…実は……」
ため息をつきつつ、それでいて、いまだにパニックになるがゆえに。
公式発表すらもできない事実をランディにと伝えゆく。
まだ、大丈夫。
あの巨大ブラックホールの一件より。
自分とそして意識を共にしている、といっても過言でない。
いわば半身であり、そしてまた、宇宙の意思そのもの。
といっても過言でない、【意思】かの、神鳥、といわれているその力が数段にと増した。
それは、いかなる宇宙の神秘か。
だがしかし、これで大丈夫。
「大丈夫。まだ…」
宇宙の意思が選んだ、といっても過言でない二人の少女。
はじめは驚いた。
その指示というか、その意思を聞いたときには。
本来、というか、あまり知られていないが。
次代の女王、というものは、宇宙の意志によってと決定される。
だがしかし、その声を聞くことができるのは、代々の女王のみ。
それゆえに、女王がその女王のサクリアをもった少女を見つけて、選定している。
と世間一般では思われているが。
ここまで、力を消耗するとは。
だけども、これは自分が決めたこと。
そう、大切なあの人が住む世界を守るべく。
あの言葉を聞かなければ、自分はおそらくきっと…
だけどももう過ぎたこと。
大切な人が住む
そして…これからも。
この世界はずっと続いてゆくのだ。
自分と彼のその思い出を記憶して、それは永遠に続いてゆくのだ。
たとえ…そう、結ばれることはなかったとしても。
悔いがない、といえばうそになる。
だけども、あの人が生まれた世界だからこそ、守りたい。
人は大切な人のためならば命すらもかけることは問わない。
それが意思が強い人物ならばなおさらに。
そんなことを思っていると。
ドクン。
心臓がはるかに高鳴る。
「…こ、これは!?」
それでなくても、その力を崩壊する世界をどうにかとどめるために。その力を注いでいる。
そんな中。
新たではあるが、新たな波動、それもしかも、銀河誕生の兆し、ともいえる、その気配。
そちらに力を注ぐこともまた、自分の役目。
「…しまった…」
まさか、ここまで自分の力が消耗しているとは。
その先にある未来を見通す力が、どうも不安定になっていたらしい。
――あの場所の許可を出したのは確かに自分。
だけども。
まさか、ここまで力を消耗してしまうことになろうとは。
「…だめ!少し…」
意識を拡張しすぎた。
少しばかり、不安定になってくる。
だけども…この世界の安定をおろそかにするためには!
そんなかつては少女であった、そんな女性。
薄いベールの下からそのストレートの金色の髪が具間みえる。
ほんの少しほど、あちらの世界への道筋が!
…もう、時間は…ない。
そんなことを思いつつ、意識が遠のこうとするそんな自らを戒めつつ。
――ディア…
意識の中で親友であり、そしてまた。
彼女の唯一の理解者、ともいっていい、
女王補佐官ディアの名前を呼ぶ、255代女王、アンジェリークの姿が。
聖殿の奥深くでしばし、見受けられてゆく。
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