スイート・メモリーズ     ~第60話~

「しぃ~!シャルロッテさん、こっちに!」
いいつつ。
あわてて、シャルロッテを部屋の中にと招きいれ。
そのまま。
パタン。
静かに扉を閉めるアンジェリーク。
カチャリ。
そして、丁寧に部屋の鍵をしめ。
そして、シャルロッテを開放する。
「ぷはっ!って、アンジェリークさん!?その姿は!?」
まず、いきなり口を押さえられたことよりも。
まず、問いただすはそちらが優先。
何しろ、彼女が見知っている姿。
つまりは、今のアンジェリークは、六歳くらいの女の子の姿ではなく、
年相応の、つまりは十七歳くらいの少女の姿であるがゆえに。
「てへvまあ、ちょっとね。」
いいつつ、ぺろりと舌を出すアンジェリークに。
「『テヘv』じゃないですよ!って、やっぱりアンジェリークさん…いったい?」
どうもギャップが激しすぎる。
まあ、いつも見ていたのが、
六歳の女の子のアンジェリークの姿であったから仕方ないのかもしれないが。
そんなことを思いつつ、シャルロッテが聞き返すと。
「ちょっとね。昨日、ロザリアのところでロザリアの看病するのに。
  あっちの子供の姿だったら何かと不便だったから。元の姿に戻っておいたのよ。」
「…『元の姿』って…」
そういわれ、はっと気づく。
たしか、アンジェークは特殊な一族の出身、といってなかったか?
ならば。
この姿が、アンジェリークさんの本当の?
そんなことがシャルロッテの脳裏を横切るが。
「…どうしていつもその姿でいらっしゃらないのですか?」
当然といえば当然の疑問。
まあ、すんなりと現状を受け止めるその柔軟な思考もまた。
彼女が女王候補たちの世話係にと任命されたひとつの理由なのだが。
そんなシャルロッテの言葉に。
「あっちの方から楽なのよ。」
こっちだとふとしたところで『力』が無意識に出ることがあるからねぇ…
などという言葉は口にはせず。
まあ、嘘ではない、無難な返事をしているアンジェリーク。
「…でも、勿体ないですわ…せっかく、美人ですのに……」
そういうシャルロッテの言葉に微笑みつつ。
「ありがと。シャルロッテさん、お世辞でもうれしいわv」
にっこり微笑み。
「いや、お世辞とかではなく…。あ、そうですわ。ロザリアさん、お加減いかがなんですか?
   昨日、お部屋に行きましたら、ロザリアさんのばあやさんが。
   確かにアンジェリークさんと二人で介抱している、とかおっしゃってましたが…」
ふと。
とりあえず、気になっていたこと。
まあ、一番気になるのは、アンジェリークのこの姿だが。
とりあえず、ロザリアの具合が気になるのもまた事実。
そんな質問をしているシャルロッテ。
「うん。もうロザリア、大丈夫みたいよ。明日にはもう完全に元気になるはず。」
にこやかにそう答えるアンジェリークのその言葉に。
「そうですか。でも、ここ、守護聖さまたちが集っている飛空都市での病気とは……」
いいつつ、顔を曇らすシャルロッテに。
「疲れがたまってたのよ。ロザリアも。
  あ。シャルロッテさん。私のこの姿は、当分内緒にしてくださいね?
  それと、私、今からお風呂はいりますから。」
そういって少しばかり手を合わせ、懇願するような格好をしているアンジェリークの様子に。
ふっと。
思わず笑みが漏れる。
姿、というか、その大きさは違えども、やっぱりアンジェリークさんはアンジェリークさんですわね。
などとおもいつつ。
くす。
少し笑みを漏らし。
「わかりましたわ。……でも、驚きましたわ。私。」
「あはは。ナイショvねv」
そんな会話をしているアンジェリークとシャルロッテ。

女王候補の病気。
それは。
穢れやよどみ、といったものに敏感であるがゆえの。
そして。
破滅、破壊、滅び。
すべてを飲み込む負の気配は。
確実に。
宇宙の綻びと終焉に従い。
かつての封印はほころび、今、表に出てきている証拠でもある。

だが、その事実に気づいているのは。
今の段階では、数えるほどの存在のみ……


「まったく、この私としたことが、うかつでしたわ。」
いいつつも、寮の中庭のテラスにて向かい合う二人の少女。
結局のところ、ロザリアの病気は、一日ゆっくりと休み、そして次の日にはほとんど完治。
まあ、その間ずっと、アンジェリークはロザリアの部屋にて看病をしていたのだが。
元気になったロザリアと、テラスで紅茶タイムを楽しんでいるこの二人。
アンジェリークとロザリア。
本来ならば、育成をするために、いろいろと互いに走り回っているのであるが。
だがしかし。
女王補佐官であるディアより、何でも守護聖達の力が必要なことが、宇宙にて起こったがゆえに。
それゆえに、試験は一時お休みとなっている。
そんなこんなで、全快したロザリアと共にアンジェリークはこうして、一緒にお茶会を設けているのだが。
「でもよかった。ロザリア、元気になって。」
にこにこといいつつも、自らの手作りのケーキをぱくりと口にと運んでいるアンジェリーク。
「たしかに。このロザリア=デ=カタルヘナが病気で倒れるなんて。
  次回からはしっかりと気をつけなければ。」
いいつつクッキーをかじり、そんな和やかな会話をしている女王候補のこの二人。
だがしかし、見た目にはまさかこの二人が同い年、とは誰もおもうまい。
何しろ、アンジェリークは、いつもと同じように六歳の少女の姿をとっているがゆえに。
「しっかし…あんたもいつもあの格好でいればいいのよ?どうしていつも子供の姿なのよ?」
そんなアンジリェークの姿をみつつ、少しばかり苦笑して、
ぱくりとケーキを一口、丁寧に小さく切り取り、フォークで口にと運んでいるロザリア。
「……ま、それはそれ。でも、本当、ロザリア?これからは無理しないでよ?」
そんなロザリアの言葉をさらりとかわし。
気づかれないようにさらっと話題を変えているアンジェリークではあるが。
そんなことに気づくこともなく。
「馬鹿ね。あれは、ちょっと気が緩んだだけよ。このロザリア=デ=カタルヘナとしたことが……」
そう、気が緩んだだけ。
おそらくは、無理をしすぎたのだと自分でも何となくはわかる。
何しろ、
ここしばらくほとんど睡眠時間なども削り、フェリシアについていろいろと調べ物などをしていたがゆえに。
そんな努力の甲斐があってか、目の前のアンジリェークも同じようなことをしていたらしいが。
体に変調をきたしたのは自分のみ。
それが、完璧を目指すロザリアだからこそ、自分自身が許せない。
「だけど…」
そんなことをいいつつ、ふと、顔を曇らせ。
「…でも、おかしいわね?聖地には、病気も何もないって聞いていたけど?
  ここは、今、守護聖様達が集っていて。あんな病気になるなんて、まずないはずなのに……」
そう。
ありえるはずがないのである。
もっとも、確かにここは聖地ではないかもしれないが。
だがしかし、この地には守護聖全員が集っているのである。
ゆえに神聖なる空気に包まれているのもまた事実。
もしかして、新たな女王を選ぶにあたって何かあるのかしら?
確か、【女王交代の時期には宇宙のバランスが少しばかり不安定になる。】と習いましたし…
などと、そんなことを思うロザリア。
事実は、確かにそうであり、またそうではない。
そんなロザリアの言葉に。
「ここは、聖地でないから。」
ロザリアが何を考えているのか理解したがゆえに、少しばかり顔を曇らせるアンジリェーク。
ここは、確かに聖地ではない。
だがしかし、この地とそしてあちらの宇宙は今や運命共同体。
今の『アンジリェーク』はすでに。
その力のすべてを滅び行く宇宙の時間を遅くすることで精一杯。
しかも、力が弱まったことにおいて。
封印されていたとある『存在』まで表に出てきているのが今の現状。
そんなことを思うと思わず顔をしかめてしまう。
「ま、私はあの程度ですみましたけど。アンジェ、貴女も気を付けなさいよ?
  まあ、あんたの場合はストレスからきそうだけどね!おほほほほっ!」
アンジェリークが顔をしかめたのは、自分と同じ理由から。と勝手に解釈し。
アンジェリークを元気付けるためと、そして自分自身に言い聞かすために。
あえて高飛車にそんな言葉をつむぎだし、高らかに笑い声を上げるロザリア。
「ロザリアァァ!」
そんなロザリアの心の優しさがわかるがゆえに、アンジリェークもまた、笑いながら抗議の声をあげてゆく。

                -第61話へー


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