スイート・メモリーズ     ~第57話~

「……う……ん……」
何か、変わった夢を見ていたような。
そう、アンジェリークがいきなり、自分と同じ年頃の姿になった夢を……
などと思いつつ、カーテンの隙間から差し込むまぶしい太陽の光で目を覚ます。
そして、ふと。
自分が寝ている横、というか、ベットの脇の椅子にと腰掛けている一人の人物の姿が目に止まる。
……ばあや?
……じゃない?
一瞬、ばあやかとも思うが。
だが、その身長的にそんなはずもなく。
薄い白いワンビースのスカートのすそと、そしてフリルのついた胸の部分の装飾が。
伏せている布団の隙間から少し見受けられていたりする。
ベットの横にとおかれた椅子からもたれかかるようにして、
ロザリアの寝ていた布団のほうにと、倒れこむようにと眠っているのは。
見間違いのない金の髪。
そして。
ふと、横をさらにみれば、こちらもまた。
ソファーにと腰掛けてそのままの姿勢で眠っているばあやの姿。
こちらの方にはきちんと毛布がかけられているが。
だがしかし、椅子に座っているほうの女性にはそんなものはなく。
「…アンジェ?」
あれは、じゃあ、夢じゃなかった?
それとも、私はまだ夢をみているの?
自分で自分がわからない。
そんなことをロザリアが思っていると。
ふいに、完全に寝ていたわけではなく、うとうととしていただけ。
そんな椅子にと座っていた女性が、ふっと顔をあげ。
そして、その視線はロザリアにと向けられる。
その見開いた瞳は間違えようもなく。
その顔立ちもしっかりと、六歳のときの姿の面影をのこしつつ。
「あ、ロザリア、気がついた?えっと……」
コツン。
いいつつ、ロザリアのおでこにと自らの額をあて。
「うん!もう、大丈夫。熱も下がってるし。脈も……」
いいつつ、ロザリアの片手をとり、その脈を取っているその女性。
「…いや、だから。」
言いかけるそんなロザリアの言葉をさえぎり。
「よかった。まったく、ロザリアはいつも無茶をしすぎるから。疲れがたまってたのよ。
  ばあやさん、ロザリア、もう大丈夫ですよ~!」
いいつつ、後ろにあるソファーで寝ているばあやにと話しかけているアンジェリークらしきその女性。
そんな言葉をうけ。
「…う…ん。はっ、私、いつのまに眠って!?」
自分がいつのまにか寝ていたことに驚きつつも。
ベットから半分起き上がっているロザリアをその視線の先にてとらえ。
「まあ!お嬢様、もうお加減具合は大丈夫ですの!?」
あわてて、ロザリアの元にとかけよってゆく。
「もう大丈夫みたいよ。脈もしっかりしてるし。」
「よかったですわ。心配いたしましたわよ。ロザリアお嬢様。」
そんな会話をしている二人にと向かい。
「というか、何がどうなっているのかきちんと説明してっ!ばあや!それに、アンジェリーク!!」
思いっきり叫んでいるロザリア。
そんなロザリアの言葉に一瞬キョトンと目を丸くしつつも。
「きゃぁぁあ!ロザリア、私が誰かってすぐにわかるんだ!さすがロザリア!」
だきっ!
そんなロザリアにと抱きついているアンジェリーク。
「って、何あなたは人に抱きついているの!?
  というか、何がいったいどうなっているのですの!?きちんと説明してくださいませ!!」
いつもの、ロザリアの口調が。
全快したロザリアの私室のその中にある寝室にて、しばし見受けられてゆく。

ロザリアが、二人から事情をきき。
そして、アンジェリークのこの姿になっている理由。
そしてまた。
どうして普段あのような姿をしているのか。
事情をすべて聞き終えたのは。
外がだいぶ暖かくなった昼近くのこと。


「……でも、ある意味納得しましたわ…」
いいつつ、手にしたコップをかちゃりとベットの横にと置かれたテーブルにとおきつつ。
ため息まじりにつぶやくロザリア。
どうにか熱も下がり。
もう大丈夫。だというのに。
いまだに万全を期して、まだ寝てないとだめ。
という、アンジェリークとばあやの言葉に仕方なく従い。
いまだベットに横になっているままのロザリアであるが。
今目の前にいるアンジェリークの姿は。
いつもの六歳程度の少女のそれではなく、自分と年相応の少女の姿。
しかも、何というか、
そう、雰囲気がどこか神々しさ、というか神秘的なものを感じるのは気のせいであろうか。
そんなことをおもいつつ。
カチャリ。
ティーカップに入っていた蜂蜜入りのレモンティーを飲み干し、ベットに半起き状態になりつつ。
その肩にカーディガンをひっかけて。
ベットの横の椅子に座っているアンジェリークにと話しかけているロザリア。
「?何が?」
そういいつつも、結局、昨夜は。
部屋に一度も戻ることもなく、ロザリアに付きっ切りで看病していたアンジェリーク。
そんなロザリアの言葉に首を傾げつつ、問いかけるが。
「アンジェ、あなた、以前、入学する前。その姿で女学園の高等部。見学にいらしたでしょう?」
ひたりとアンジェリークを見据え、そんなことをいっているロザリア。
「え?ええ、まあ…」
そんなロザリアの言葉に少し言葉を濁すアンジェリーク。
確かに。
アンジェリークはそもそも、スモルニィ幼稚園から通っていたわけではない。
ロザリアなどは、生まれたときから、その女王としての性質を認められ。
完全なる女王候補としての教育を受けていたがゆえに。
スモルニィ幼稚園の特待生として、幼いころから通い。
そして、スモルニィ女学園の特別生として、通っていたのだから。

そもそも、女王の資質たる、サクリアを持っている少女たちは。
主星にとあるスモルニィ女学園にと通うことがそもそもの恒例。
スモルニィは代々、女王育成学校であるがゆえに。
少しでも可能性がある子供たちは、本人の意思とは裏腹に。
まずは、大概、親たち、つまりは貴族などの名声のために。
ある子供などはまったくの遠縁にもかかわらず、無理やりに養子縁組をして。
女王候補としての女王特待生、として、教育を施すことすらあるほどに。
そもそもは、まず、女王、または守護聖。
それらを産出した家柄は、上流階級にと加えられる。
または、名声をも得ることができるがゆえに。
地位と権力などに目がないそういった大人たちは。
子供の意見も聞かぬまま、子供にそれを強要する、という事実もあるが。
だがしかし。
まだ、女王候補予備軍の彼女たちはましであるほうであろう。
何しろ、守護聖の証である、【サクリア】に目覚めたものは。
本人の意思とは関係なく、その役目を受け継ぐ羽目となる。
そう、いくら本人がいやだといっても、抗ったとしても…である。
だが、そもそもは。
サクリアの本質となっている【意思】からすれば、この宇宙の中でよりふさわしいものを彼らは選ぶ。
そう、それは、彼ら、というか、サクリア、というものが意思をもち。
そして、その役目を人間にと譲り渡した当時から。
もはや、その事実を知るものなどは、皆無に等しいが。

「あのとき、見たこともないかわいい子がいる。とかいって騒ぎになりましたからね。
  わたくしはそんなの気にもとめませんでしたけど。」
そういいつつも苦笑しているロザリア。
確かに、一瞬ではあるけど。
見えたような気がした、もうひとつのアンジェリークの姿ならば。
人々が騒ぐのもおかしくない。と思いますけどね。
などと心の奥で思いつつ。
もし、あの当時。
今のアンジェリークがもう少し髪をのばしていたとして。
そのふわふわの髪を後ろにと流していたままだとしたら。
まず、間違いなく人目を引く美少女、の位置にと値するのは明白。
今は髪が短く、そして、どことなく幼い面影があるような気がするがゆえに。
そんなことは微塵も感じられないが。
だが、この幼さは、何となくではあるが、ロザリアは。
アンジェリークがわざと幼さを演じているようにと雰囲気までも調整している。
そう何となく漠然と確認したわけではないがそう、捕らえている。
「まあ、昔のことだし。それよりロザリア。あまり無理をしないでね。
  まだ、ロザリア、病み上がりなんだから。」
そういいつつ、にっこりと微笑み、ロザリアの飲んだコップを下げようとしているアンジェリークに。
「まったく。この私としたことが、失策ですわ。
  まあ、繊細な私だからこそ、こうして倒れたのかもしれませんけど。
  そういう、アンジリェーク、あなたも気をつけることですわね。」
いつものようにそう言い放つロザリアの口調に。
「あ、ロザリア、だいぶ調子戻ってきたわね。もう少しで全快ねv」
そんなロザリアの言葉をききつつ、様子をみながらも慈愛に満ちた微笑を向けているアンジェリークの姿。
そんな光景が、しばし、この場にて見受けられてゆく……


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