スイート・メモリーズ     ~第55話~

う…ん。
何か、暖かい。
何?
どこかまどろみつつも意識が浮上する。
うっすらと目を開くと。
そこに見えたのは。
長い、そう、まるでその身長よりも長いのではないのであろうか。
といったような。
長くすばらしいまでの金色の髪を持っている一人の女性の姿が、
一瞬視界に映りこんだような気がするが。
だが、それも一瞬のこと。
見えるのは、肩の辺りまで髪を伸ばしている金色の髪の少女の姿。
?どうして、ここにアンジェリークが…
などと、まどろむ意識の中で、そんなことをふと思い。
・・・・・・・・え?
――アンジェリーク!?
ガバッ!
そのまま、勢いよく横になっていたベットから起き上がるロザリア。
「ああ!ロザリア!何いきなり起き上がってるの!?まだ寝てないと!」
いいつつも、そんな自分の横にいるのは、
その面影からしても、間違いのない同じ女王候補であるアンジェリーク。
だがしかし、
いつもの六歳の女の子の姿ではなく、今の彼女は自分と同じ十七歳の少女の姿となっている。
「って!?アンジェ!?」
声を出したいのだが、何と声をだしていいものか。
「とにかく!まだ熱が高いんだかから、寝るの!」
ポスッ。
いいつつ、そんな起き上がったばかりのロザリアを再びベットにと押し倒しているアンジェリーク。
「…って!?あなた、その姿!?」
目を見開き驚きの表情を浮かべているロザリアに。
「え?ああ、これ?何か?」
「『何か?』ではなくてよ!その姿!」
そういいかけるロザリアであるが。
「お嬢様、甘酒がちょうど温まりましたですじゃ。どうぞ。」
そういって、キッチンから甘酒を持ってきているロザリアの婆や。
そんな彼女のそれを受け取りつつも。
「う~ん、まだ少し熱があるわね。」
ひんやりとした手の感触が心地よい。
アンジェリークはロザリアの額に手を当てて熱を測っているのである。
本来ならば、アンジェリークがロザリアに飲ました万物に効く、といわれている、
レインボウ・フラワーより作り出されたその涙状のロザリアに呑ました品物は。
すでに、ロザリアの害意的な病素は取り除いているものの。
だが、精神面からくる、疲労と疲れはいまだに残っている状況。
「とにかく、何か話しなら後からたっぷりと聞くから。
  今はゆっくりと休んで?ね?ロザリア、疲れたまってるのよ。」
そういうアンジェリークの言葉に。
「ですから!そうではなくて!どうして!?あなたのその姿!?」
いいつつも。
「お嬢様、さめないうちにどうぞですじゃ。」
言いかけたロザリアの言葉をさえぎる婆やのその言葉に。
「あ、ありがとう。婆や。」
とりあえず、せっかく作ってくれたのだからと、とりあえずは先に甘酒にと口をつけているロザリア。
コクン。
のどに通る暖かい液体。
「…あ、おいしい…」
思わず素直な感想を述べるが。
コクコクと甘酒を飲み干し。
そして、一息つき。
「どうもありがとう。婆や。で?アンジェリーク?その姿、説明してもらえる…あら?」
くらっ。
思わずめまいがして、額を抱えるロザリア。
「ほらっ。まだ無理したらだめよ。ロザリア。」
そんなことをいいつつ、再びロザリアをベットにと沈め。
「質問ならロザリアが元気になったらいくらでも受け付けるから。とにかく今は休んで。
  でないと、ロザリアのフェリシアも大変なことになるわよ?」
「…ぐっ。わかったわよ……」
そんなアンジェリークの言葉にいろいろと聞きたいことはあるものの。
だがしかし、愛する自らが育成している大陸の名前を出されると。
確かに、養生を怠り、具合の悪いままだと、育成地にも支障が出るのは明らか。
何しろ、ここ、飛空都市と、あちらの星というか大陸では、時間の流れが完全に違うのだからして。
そういいつつ、目を閉じるロザリアであるが。
目を閉じると同時に睡魔が遅い来る。
そのまま、睡魔に身をゆだねるようにして、いろいろと聞きたい事もあるのに。
そんなことを思いつつもそのままロザリアは睡眠の中にと堕ちてゆく。

クゥ。
目を閉じ、眠ったロザリアをみつつ。
「お嬢様は少しでも元気になられましたら、無理なさいますから。
  強行手段をとらさせていただきましたです。」
にっこりと笑うばあやの手には、小さな小瓶がひとつ。
「レムの花の蜜ね。いつもやってるんですか?」
一目でそれが何なのか見抜き問いかけるそんなアンジェリークの言葉に。
「ええ。お嬢様は昔から、頑固でしたからね。
  いつも甘酒にこれを少し混入しておいて、で、無理やりにお休みになってもらうんです。
  そうでもしないと、ロザリアお嬢様は少しでも具合がよくなったらすぐに動かれて。
  またすぐに病気とかを悪化させてしまうもので。」
伊達に、長くロザリアの世話をみているわけではない。
彼女の性格を見抜いているがゆえに。
今、ロザリアに手渡した甘酒に、自然界に、といっても、珍しい花なのではあるが。
花そのものが、睡眠効果をもたらすといわれている、
辺境の惑星などにはよく見受けられているといわれている、『レムニアの花』。
通称。レムの花。
その花の蜜を飲み物にとこのロザリアの婆やは混入しているのである。
この蜜は、甘みをかなり持っており、動物などがこの蜜のとりこにされることもしばしば。
まあ、その蜜で動物などをおびき寄せ、そして、花粉などで対象物を眠らせて。
その間に自分の横で寝ているその動物などの体に、種を落とし、寄生させる。
それが、その花の特徴なのだが。
寄生植物の一種ではあるが、だからといって動物の栄養を少し分けてもらうだけ。
ある程度、というか、双葉まで種から出たところで、
その双葉はとり付いている動物の体からポトリと落ち。
そして、その落ちた別の大地にて根を張り、そして成長してゆく。
つまりは、その花にとっては、生きるための手段なのである。
それの効果を利用し、害のない睡眠薬などにも古などによく用いられているその花。
ロザリアはその花の蜜を今、甘酒と一緒に飲み干したのである。
ゆえに――
ロザリアはその意思とは関係なく、ただひたすらに眠りについているのだが。
そんな婆やの言葉に。
「…確かに、ロザリアだしね。」
そうしみじみつぶやくアンジェリーク。
「あ、アンジェリークさん。後は私がやりますから。
  アンジェリークさんもお部屋に戻ってくださいな。アンジェリークさんまで具合が悪くなっては…」
そういうそんな彼女の言葉に。
「あら、婆やさん。私もロザリア心配だし。彼女が目覚めるまで、というか、
  回復するまでここにいるわよ。それに…お世話は二人の方から何かと楽でしょ?」
にっこりとそんな彼女にと微笑みかけるアンジェリーク。
そんなアンジェリークに。
「…アンジェリークさん………」
感極まり思わず涙を浮かべるロザリアの婆やの姿が、ロザリアの私室にて見受けられてゆく。


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