スイート・メモリーズ     ~第53話~

肩にかかるかどうか、いや、少しかかっている、ウェーブの入った金色の髪。
そしてぱっちりと大きな緑の瞳。
そしてその頭には金色の髪を赤いリボンで後ろで少しばかりまとめて結んでおり、
蝶々結びをしているそれが正面からも目に入る。
だが、何よりも驚いたのは。
確かにアンジェリークが自分の仕えるロザリアと同い年。
というのは聞いている。
聞いてはいるが、まさかいきなり歳相応の姿になろうとは、夢にも思うはずもなく。
そしてまた、それは【クリスタル一族】。
すなわち。
アンジェリークが所属している一族の力を、目の当たりにした瞬間でもあるがゆえに。
驚愕の声をあげるそんな彼女を横目にみつつ。
だがしかし、この婆やは知らない。
アンジェリークがその放つ気配をかなり押さえ込んでいる、という事実に。
気のせいであろうか。
部屋の空気が一瞬のうちに浄化されたような気がするのは。
そんなことを思いつつも。
「アンジェリーク…さん?」
思わず呆然とつぶやくそんな彼女の言葉に。
「あ、ごめんなさい。驚かしたかしら?とりあえずこれが私の普通の姿だから。
  この姿の方が看病するのにも都合いいし。」
そういってにっこりと婆やにと微笑みかけているアンジェリーク。
そんなアンジェリークの微笑みに。
何かどこか心が軽くなる、というか和む、というか。
ともかく、驚きに満ちてはいるものの、心のどこかが落ち着き払い。
「…話には聞いておりましたが……」
それだけしか言葉がでない。
「さ。婆やさん、手分けして、ロザリアが早く治るように頑張りましょ♡」
そういいつつ、にっこり微笑むかけるアンジェリーク。
「は…はぁ…」
そんなアンジェリークの言葉に面食らいつつも。
とりあえずは、まだ時々うなされているロザリアをみて。
今はとにかく、看病が先。驚くのはいつでもできる。
そう自分自身に言い聞かせ。
「それでは、アンジェリークさん、ここをお願いいたしますね。
  私は体によい飲み物、というか温かい飲み物でもつくってまいります。」
ぺこりと、いまだに横になったままのロザリアを、
いきなり姿がかわった。
というか歳相応の姿、見た目十七程度の女性の姿になったアンジェリークにロザリアを託し。
自らは厨房にと足を進めてゆくロザリアの婆やさんの姿が見受けられていたりする。


「…うん??こ…これは?!」
突如として水晶がまぶしく金色にと光り。
そして映し出されるは、ロザリアの部屋。
幾度かいったことがあるのでそれはわかる。
わかるが。
目の前、というか水晶の中でその姿が揺らめき、
六歳の少女の姿から一気に十七の女性の姿にと変貌してゆくアンジェリークの姿が、
赤裸々にと遠見の水晶にと映し出される。
だがしかし、すべての真実を映し出す遠見の水晶。
その水晶が映し出すのは、アンジェリーク=リモージュ。
としての姿ではなく。
その奥にあるアンジェリークの真実の姿。
「…これは!?」
思わずガタンと椅子を立ち上がる。
そこには。
まばゆいばかりの光に包まれている一人の女性の姿が、
十七歳のアンジェリークの姿とだぶり映し出されていたりする。
その身にまとう気配そのものは。
いつも彼がみている宇宙の気配そのもの。
彼は常に星星の動きより宇宙の状態を気にしているがゆえに。
「…これは…アンジェリークか?」
思わず呆然とつぶやくクラヴィスの姿が、彼の私邸にてしばし見受けられてゆく。


「…アンジェリークさんって、本当にお嬢様と同い年でいらっしゃったのですね。」
思わず関心した声が漏れるが。
「そうだけど?うん。やっぱりこの姿のほうがいろいろと便利だし。
  婆やさん、私もロザリアが元気になるまでロザリアの看病しますね。」
そういってにっこり微笑んでくるのはいつもの六歳の姿の少女のアンジェリークではなく。
ロザリアと同い年の一人の少女の姿。
「ですが、アンジェリークさんにご迷惑では?」
そういうそんな婆やのことばに。
「ううん。ロザリアがこうして病気になったのもそもそもは私にも原因あるし…」
最後の方の声は小さく。
婆やの耳には捕らえられないが。
それでも。
「私が看病したいの。何か理由必要かしら?
  大切な友達であり親友でありライバルが具合が悪い、というのに?」
そういってにっこり微笑むアンジェリーク。
そんな彼女の言葉に。
ふっと笑みを浮かべ。
「いいえ。うれしいでございます。」
そういって深く、深く頭を下げるロザリアの婆や。
こうして、お嬢様を心から心配してくれているのが、言葉の端々に見て取れる。
いまだにこの姿のアンジェリークにはなれないものの。
それでも。
『大切な親友』そういってくれたアンジェリークの言葉は彼女の心にと浸透してゆく。
「あ、私お水替えてきますね。」
いいつつ、ぱたぱたと。
熱はある程度下がったものの、だがしかし、まだ汗はロザリアはかいているわけで。
洗面器の水を替えにとぱたぱたと部屋の中にあるキッチンにと向かってゆくアンジェリーク。
「お嬢さま、よいお友達をもたれましたね。」
いいつつ、そっとロザリアの汗で張り付いた髪をそっとなでる婆やの姿が。
アンジェリークがいなくなったその場にて見受けられてゆくのであった。


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