スイート・メモリーズ ~第52話~
「で?ジュリアス様?ロザリアの様子は?」
心配そうに問いかけてくるオスカーのその言葉に。
「うむ。どうやら熱がかなり高そうらしいが。
ロザリアの婆やより話を聞けば、アンジェリークからも何らかの薬らしきもの。
それを飲まされている、ということらしいからな。
ルヴァの薬とあわせて、すぐに元気になるだろう。」
おそらくは、アンジェリークがロザリアに併用した、というのは。
彼女の一族に伝わる秘薬か何かだろうからな。
などと、説明も受けていないのにさすが聡明なるジュリアス、といったところか。
そう、ものの見事に判断しそんなことを自らの執務室にとやってきている、
炎の守護聖オスーカに説明していたりする。
「そうですか。ロザリアも先の災害でかなり走り回ってしましたからね。
精神的な疲れなどもたまっていたのでしょう。」
そういうオスカーのその言葉に。
「うむ。確かにな。」
そういいつつ、窓の外を具間みるジュリアス。
外はきれいに晴れ渡り、青空が広がっている。
といっても、ここ、飛空都市は惑星の上空に、というかまるで衛星のごとくに。
惑星の軌道上にと存在しているがゆえに。
この空もすべて特殊な結界により覆われている。
この地の中で作られている、人工的、ともいえるぺきものなのではあるが。
「でもそれをいうなれば、アンジェリークも同じくらい大変でしたでしょうに……」
ふとそんなことをつぶやくオスカーに。
「確かにそうであろうな。だがルヴァがいうには。アンジェリークの一族。
すなわちクリスタル一族には様々な事柄に有効な手段があるらしいからな。
もしかするとそれを用いてるのかもしれぬ。」
そういいつつ窓のそばにたたずむジュリアス。
クリスタル一族。
それは守護聖である自分たちですらまだそのすべては解明できていない。
古よりの一族。
その一族の一員であるアンジェリーク=リモージュ。
「それより、オスカー、聖地よりの連絡は?」
「…はっ。それが…」
いいつつ、先ほどジュリアスに言われ調べていた報告結果をジュリアスにと伝えてゆくオスカーの姿。
「絶対におかしいよな……」
カチャカチャカチャ。
静かに金属が重なり合う音が響いてゆく。
確かにおかしい。
絶対におかしい。
あの、ロザリアが病気になるなどと。
「確かにここは聖地ではないけどな。
けど、俺たち守護聖が集っている、しかもここ、飛空都市は女王の加護下のもと。
いってみれば聖地の避暑地みたいなもんだ。なのに…何かあるんじゃないのか?」
いいつつ、その口にボトルなどをくわえ。
ある機械を作っているのは鋼の守護聖たるゼフェル。
ロザリアが病気になった、ということをうけ。
自分なりに、その原因を解明しようと、ある機械を作り出しているのだが。
「聖なる気のよどみとか、悪気などの検査装置。
プラスの力とマイナスの力。この装置できちんと解明してやる。」
いいつつ、一人黙々と。
装置を作成してゆくゼフィルの姿が。
ここ、飛空都市内部にと与えられている彼の私邸、というか別荘にて。
しばし見受けられてゆく。
「ロザリア…大丈夫かなぁ?」
「ゼフィルが原因解明のための装置作るっていってたぞ?」
そんな会話をしているのは緑の守護聖マルセルと風の守護聖ランディ。
「…というか、確かに何かあるよね。リュミちゃん。何かきいてないのかい?」
そういいつつ、横にいる水の守護聖リュミエールにと問いかけている夢の守護聖オリヴィエ。
そんな彼の言葉に。
「いいえ。しかし…確かに異常、ではありますね。
ここ、私たちが集っている飛空都市にての病気など……」
そんなオリヴィエの言葉に顔を曇らせてそうつぶやくリュミェール。
「ルヴァの薬がきけばいいけどね。」
いいつつ、女王候補寮がある方向を窓の内側から眺めるオリヴィエ。
彼の執務室にリュミエール、マルセル、ランディが集まり、今は紅茶を飲んでいる真っ最中。
守護聖たちがそれぞれ、そのように過ごしているそんな中。
そっとロザリアの額に触れる。
「どうやら熱は下がったみたい。」
いいつつ、安堵の表情をうかべ微笑むアンジェリーク。
結局のところ、ジュリアスがロザリアの部屋を出て入れ違いになるように。
アンジェリークもまた、ロザリアのところにとやってきているのである。
「アンジェリークさん、お嬢様を気にかけてくださるのはうれしいですけど。
ですが、アンジェリークさんまで具合を悪くなさっては…」
心配そうに問いかけるそんな彼女の言葉に。
「大丈夫ですよ。ばあやさん。だけど…確かに。
この姿のままじゃ、介護というか看病するのにちょっと不都合…かもしれないわね。」
「…は?」
当然のことながら婆やさんにはそんなアンジェリークの言葉の意味は理解不能。
何しろ、背が届かないのだ。
今のアンジェリークのこの姿では、ロザリアの額に乗せるタオルひとつを取るにしても。
今の身長ではタンスの最上部にと届かない。
まあ、アンジェリークは空中に浮かぶことなど造作もないのだが。
だが、毎度、毎度、わざわざ浮かんではそれをとったりする、というのも。
それにそれをみた婆やさんが驚かない、という保障はない。
実際にアンジェリークが空中にふよふよと浮かんでいるのを以前みて。
何度かこの婆やさんは腰を抜かした経験を持っているがゆえに。
「とりあえず、ロザリアの具合がよくなるまで。私ロザリアの看病をするって、決めましたから。
…えっと、そのあの?驚かないでくださいね?」
にっこりと微笑み。
そして、すっと瞳を閉じる。
それと同時にロザリアの部屋といわず、女王候補寮全体に、とある特殊な結界を張り巡らせる。
この結界、ちょっとやそっとの力では見破ることは不可能。
まあ、特殊な結界であるがゆえに。
「私のこの子供の姿、とりあえず今は解除しますから。」
「…は?」
つぶやくそんな彼女の言葉とは関係なく。
アンジェリークはそう言い放つと同時に、目を瞑り。
そして、その次の瞬間には。
アンジェリークの姿がゆらりと揺らいでゆく。
まるで、蜃気楼のごとくに。
一瞬、アンジェリークの姿が揺らめいたかと思うと、
その輪郭が、ぐんぐんと、子供の姿からロザリアと同じくらいの少女の輪郭にと変貌してゆき。
「…え?え?ええええ!?アンジェリークさん!?」
部屋にロザリアの婆やの叫びが響き渡る。
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