スイート・メモリーズ     ~第49話~

ぱたぱたぱた。
この空気が懐かしい。
いや、雰囲気が似ている、といったほうがいいのだろうか。
かつて、仲間や友人達とともに作り上げたあの場所。
あの場所に近い雰囲気をもっているこのあたり。


守護聖たちが集う聖殿。
この場所に常に日頃ではこの宇宙を司る九つの力。
一般に、サクリアと呼ばれるものを持っている、守護聖、と呼ばれる九人が滞在している。
本来、彼らは【聖地】と呼ばれる場所に滞在する人物なのだが。
今は女王試験、ということもあり、ここ、惑星ε-α。
その惑星の上空にと設けられている、ここ飛空都市。
ここから、地上…すなわち、惑星上にと存在する二つの大陸を育成し、
より早くに惑星の中心にとある【中の島】と呼ばれている場所に。
それぞれが育成してはぐくんだ生命がたどり着けるか否か。
それで女王は決定される。
そういうような内容の試験であるがゆえに。
だがしかし、その実態は。
まだほかに生命が誕生している惑星もいない、真新しいこの銀河集団。
いわゆる【宇宙】といっても過言ではない。
いくつもの銀河が集まり、そしてそれらがひとつの形となり。
そして、この場所にあるのは、このひとつの銀河のみ。
まだほかには星星のきらめきは誕生していない。
否、あるにはあるのだが、まだそれなりに発展というか進化を遂げていないのである。
故に、この場所に今その宇宙代謝の寿命がつき、滅びを迎えかけている、
彼らが本来その身をおく場所の星星すべてを移動させても、
まだこの場所においては、器としてのその余裕は余りある。
ゆえに、現女王255代女王アンジェリークは。
この場所に自分が守る宇宙のすべての星星を、
この場所にと移動させるべく、今回の女王試験を行っているのであるがゆえに。
今彼女は滅びを迎えた宇宙を支えるのとその綻びを修正するのに、その力をすべて注いでおり。
ゆえに、歴代の女王と比べ、彼女は女王となったその日から、
その力のすべてを宇宙のほころびの修正とその安定。
それを必要以上に心がけなければならなかったのだ。
だからこそ、今の女王の力の衰えは……
歴代の女王の即位期間よりも短く、例外、ともいえる女王試験が今行われているのだが。

彼女には悪いことをした、とはおもっている。
だけども、だからといって。
つなぎで自分が即位するより、誰かにそれを引き継いでもらわないと。
これから後の動乱には、誰にも苦労をかけたくはない。
まあ、あの場に新たにできる宇宙の新女王には苦労をかけるかもしれないが。
だけども、それは必然。
新たな空間はそれなりのハプニングが起こるのは。
それは世の理。
何もない空間から無から有が生み出されるのは矛盾しているようで、実は矛盾していない。
ゆえにこそ、光があれば闇があるように、それらは起こるべくして起こるようにとなっている。
――そう、かつて仲間たちとともに決めた事柄。
でも、その【出来事】をどのようにして生み出すのかを決めるのは、
それぞれの空間そのものに今は彼女は任せているが。
「今こんなことを考えてもしょうがないわよね。それより早くルヴァのところに…」
人がいないときには、彼女にとっては守護聖とは、その身の分身に等しい存在であるがゆえに、
彼らの名前は呼び捨てにしていたりする。
人目があるときにはそんなことは今の段階ではできないが。
いいつつ、ぱたぱたと。
そのまま走って聖殿にと向かってゆく一人の少女。
走るたびにその金色の髪がふわりとたなびく。


「あれ?アンジェ?」
ぱたぱたと廊下を走る少女の姿を目に留めて。
そんな少女…アンジェリークに声をかけている金色の髪の少年。
長い金色の髪に菫色の瞳。
どこか幼さの残る顔立ちではあるが、特筆すべきなのは、ぱっと見た目。
どうみても女の子、に見間違ってしまうその顔であろうか。
そんな少年の言葉にふと足をとめ。
「あ、マルセル様。おはようございます。」
いいつつ、にっこりと微笑みぺこりと頭を下げる。
「どうしたの?朝かそんなにあわてて廊下を走って?
  ジュリアス様とかに見つかったら大変だよ?元気のいいのはいいことだけど。」
そういうその手には花瓶に入った花が数輪、手にされていたりするのだが。
「あ、えっと、ちょっとルヴァさまのところにお薬を頂きに行こうかと急いでいたもので。」
そういって少しぱかりぺろりと舌を出すアンジェリークのその言葉に。
「薬って…アンジェ、どこか具合でもわるいの?」
心配そうに問いかけてくるのは、緑の守護聖であるマルセル。
ただいま14歳であり守護聖になってまだ間もない少年。
「え?いえ、私ではなくてロザリアが……」
そういいかけるアンジェリークの言葉をさえぎるかのように。
「うん?お嬢ちゃんがどうかしたのか?」
ひょっこりと廊下の先から出てくる赤い髪の青年。
その腰に挿されている一振りの剣は、彼の家に代々続く家宝であったらしいが。
「あ、オスカ~様。おはようございます。
  ええ。ロザリア、ちょっと熱が高くて…それでルヴァ様によいお薬を。と思いまして。」
そういうアンジェリークのその言葉に。
「それはいけないな。どれ、この俺がロザリアのお見舞いに……」
いいつつその手を顔にとかけるのは。
赤い髪をしている男性-炎の守護聖、オスカー。
「それだけはやめときな。」
そんな彼の言葉をさえぎるのは。
朝の日光浴と健康のための散歩を終え。
聖殿にと戻ってきた長い金色の髪の前髪の一部をピンク色にと染めている、一人の男性。
きらびやかなようでだがしかし、よくよく見ればきちんと計算された服の組み合わせだと。
少しでも美的センスの欠片を持ち合わせている人物ならば一目でわかる。
廊下の先からそういってくるそんな男性の言葉に。
「どういう意味だ?オリヴィエ?」
そんな彼に向かって話しかけるオスカーに。
「どうもこうも言葉どおりの意味だよ。」
いいつつ、その視線をアンジェリークに移しているのは、夢の守護聖であるオリヴィエ。
そう言い放ち、そして視線をアンジェリークにと向け。
「アンジェ、ロザリアが病気だって?大丈夫なの?」
心配そうにとといかける。
「えっと、今はとりあえず寝かせつけてます。熱がかなり高いようなので。
  でもロザリアのことだから。
  ほうっておいたら間違いなく『育成』をするために、おきだしちゃいますから。
  ですからルヴァ様のところにお薬でも。とおもいまして。」
いいつつ、質問してくるオリヴィエにと返事を返す。
「何?女王候補が熱を出しただと!?」
そんなアンジェリークの言葉に続けて声を発してきたのは。
朝の定期的な報告を終え、
執務の前に少し外の風でも吸おうと二階から一階にと下りてきている一人の男性。
そして、そんな彼の言葉に。
「これはジュリアス様。ええ、今アンジェリークから話をききまして。
  それでこの俺がロザリアのお見舞いにでもいこうかとおもいまして…」
そういうオスカーの言葉をさえぎり。
「それは却下です。」
その声はまたジュリアスの後ろから彼らの耳にと聞こえてくる。
そして、その声にうんうんうなづいているオリヴィエに。
「どういう意味だ?リュミェール?」
そしてそんな声をかけてきた男性をにらみつついっているオスカー。
彼の視線の先には水色の髪をしたおとなしそうな男性が一人。
視線の先にいるのは水の守護聖リュミエール。
そして、そんなリュミエールの言葉に。
「オリヴィエさま?どうしてオスカーさまだといけないんですか?」
首をきょとんとかしげているマルセル。
そんなマルセルの質問に。
「それはね。マルちゃん。か弱い羊小屋に飢えた狼を送り込むようなものだからよ。」
そういいつつマルセルを諭しているオリヴィエの姿。


                -第50話へー


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