スイート・メモリーズ     ~第46話~

時はめぐる。
すべての想いを飲み込んで。

「う…ん…」
何かがおかしい。
気のせいかもしれないけど。
朝起きると同時に体が異様に重く感じるのは、気のせいであろうか。
「おはようございます。ロザリアお嬢様。」
いいつつ部屋の扉がノックされ、扉の向こうから入ってくるのは、ロザリアのお世話係でもある婆や。
彼女はロザリアが幼いころからカタルヘナ家に仕えており、
そして、ロザリアが女王候補に選ばれたのをうけ。
ロザリアの身の回りの世話をするために、こうして一緒にここ飛空都市にとやってきているのである。
「お嬢様?」
いつもと違うロザリアの様子に思わず戸惑う。
「あ、おはよう、ばあ…」
ぐらりっ。
体が傾く。
「お嬢様!?」
思わず悲鳴に近い声が上がるが。
「大丈夫よ。ちょっとふらついただけ。ちょっと疲れがたまってるのだと思うわ。」
そういいつつ、ベットから起き上がり、服を着替える。
そう。
休んでなんかいられない。
ようやく、復興の兆しを見せている愛しい大陸のためにも。
そうおもいつつ、不安な表情をみせるばあやをそのままに。
ロザリアはそのまま、いつものようにと行動を開始してゆく。


何か空気が乱れた。
「…彼女…まだ浄化されてないのね………」
思わずため息に近いつぶやきがもれる。
消したくはない、かつて共にすごした大切な友人を。
彼女がああなったのは、裏を返せば自分のせいでもあるのかもしれないのだ。
心の重みにまけ、そして闇にとらわれてしまった彼女…
その意識はそして、彼女が後に育成にあたった大地と同化し…
「…今の女王…アンジェリークの力では、『彼女』を抑えるのは…少し無理があるみたいね……」
おそらくは、守護聖たちもまた、感じているであろう。
この気配というか、空気が乱れた気配は。
「…はっ。ロザリア!?」
そして、その波動が向かった先には……
ガタン。
あわてて、椅子から立ち上がり、手にしていたコップをひとつ指を鳴らすと同時に。
そのコップは軽い澄んだ音色をたてて、一瞬のうちにと光の粒と化す。
きらきらと部屋全体を青い光の粒が飛び交う中。
すくっと立ち上がるのと同時に、すっと軽く目を閉じる。
次の瞬間には。
ふわっ。
まるで、何か幻のごとくの衣が覆うがごとくに。
金色の髪に緑の瞳の年のころならば六歳程度。
その少女…アンジェリークの姿が一瞬ゆらめき。
そして、目を次に彼女が見開いたときには、
今まで着ていた、薄いピンク色のフリルのついたネグリジェ。
その服装ではなく、いつもの…否、スモルニィ女学園の制服にと早代わりする。
はっきりいって知るものなどはいないに等しいが。
彼女はその意思のまま、服などを一瞬のうちに変化させることができる。
などということは。
今まで着ていた服は。
きれいにその一瞬の間にベットの上にとたたまれた格好できちんとおかれ。
そして、そのまま。
カタン。
同じ寮の中にといるロザリアの元にと向かうために、一応の戸締りをして、あわてて外にでる。

自分は別にどうってことはないが。
繊細な魂と心をもっているロザリアのこと。
この波動で、それでなくても数日前の大陸の大災害においてかなりの心労と。
そしてそれによる、復興のための労力において、疲労がたまり、体と心が疲れているのは明白。
そして…そんな疲れている状態では……
おそらくは…この波動を跳ね除ける力は、ほとんどなきに等しい。
というのがわかっているがゆえに。


コンコンコン。
「はい。まあ、アンジェリークさん。」
扉がノックされ、そこにいる人物の姿を具間みて。
思わず声をあげる。
そこにたたずんでいるのは、もう一人の女王候補、アンジェリークの姿。
「こんにちわ。ばあやさん。」
にっこりと微笑むそんなアンジェリークの姿に。
ふっとつられて笑みを浮かべ。
そして、ふととあることを思いつく。
「あ、そうですわ。アンジェリークさんからもお嬢様に一言いってくださいませ。」
彼女としては気が気でない。
顔色が悪いのに、育成をおろそかにすることはできない。
といって、いつものようにと行動しようとしているロザリア。
「ロザリアに…?何かあったの?」
まさか、何かやっぱり変調をきたしたんじゃ…
一瞬アンジェリークの顔色が曇るが。
「お嬢様は私がいくらいっても、具合がわるそうなのに。
  自分の役目だからって出かけるつもりなのですわ。」
そういいつつ、アンジェリークにすがるように視線を向ける。
ロザリアの性格は幼いころからそばにいるがゆえに、よく理解している。
だからこそ、自分がいったのでは逆に意地になって休まない。
というのもわかっているからこそ。
もしかしたら、アンジェリークの言葉なら聞き入れるかもしれない。
そうおもいつつ、アンジェリークの手助けを借りるためにそんなことをいっているこのばあや。
「ロザリアらしいというか…」
そんなばあやの言葉をきき、思わず苦笑する以外の何ものでもない。
「わかったわ。私からもいってみる。」
そういいつつ。
そして、ふと気づいたように。
「あ、お邪魔してもいい?」
きょんと首をかしげ、ばあやにと語りかけるアンジェリークの姿が見受けられていたりする。


                -第47話へー


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