スイート・メモリーズ ~第45話~
「…ふむ。心配は…なかったようだな。」
アンジェリークは必要な力を見極め。
それに沿って育成をしているようであるが。
ロザリアは、どうも元に戻さないと、望みをかなえないと。
という概念が先立ち、
災害の復興の余波のその『結果』をないがしろにしていたところが少し目についた。
それゆえに、ロザリアにと彼には珍しくアドバイスを入れようとしたのだが。
だがしかし、彼の視線の先では。
アンジェリークの言葉により、いつもの調子を取り戻したロザリアの姿が。
「…さすがは、女王候補、というべきか。」
素質的にはロザリアが勝っているようにとはじめは思われた。
だがしかし。
試験が始まってみれば、もう一人の女王候補。
アンジェリーク=リモージュ。
この少女の力は計り知れない。
彼ら、守護聖ですら思いつかないようなことをしでかし。
結果。
彼女が育成する大陸は、
自然にと生きる、いわゆる『妖精・精霊』といった生命と共存しうる大陸にと発展していった。
それすらも、彼等にとっては驚くべきこと。
普通、はじめのころはそれを当然のようにと人間は行うが。
進化の過程で、自然の声には耳を傾けなくなるのが、普通というか一般的。
彼等のようにその身に神秘なる力を宿している存在ならば。
その姿を具間みることは可能ではあるが。
「あの力は女王候補であるがゆえの力か。
はたまた、伝説ともいわれていたクリスタル一族の力ゆえか…」
そんなつぶやきをいれつつも。
「とにかく、この私の助力は必要ないみたいだな。」
この場に彼を知るものがいればおそらくは驚いたであろう。
彼はその顔に笑みを浮かべていたがゆえに。
そんなことをつぶやきつつ、
その場を後にしてゆく光の守護聖ジュリアスの姿が、その場にて見受けられてゆく。
「ずいぶんと復興してきましたわね。」
安堵の息をつく女王補佐官ディアの言葉に。
「…ディア。それで陛下の様子は?」
聖地にと戻っていた彼女にと問いかけているジュリアス。
この場にいるのは、ジュリアスと、クラヴィス、そしてルヴァ。
守護聖の中でも最年長であるこの三人。
「ええ。ひとまずは…」
そういうディアの歯切れは悪い。
「…そこまで悪いのか…」
「とにかく早い、新たなる翼が必要です。
陛下はそのお力をすでに崩壊しはじめた世界に向けて放っています。でも…そのお力も…」
「確かに。急がねばな。」
そんな会話をとある空間、つまりは聖地とこちらをつなげる聖なる空間。
そこで話している彼等たち。
彼等は知っている。
この女王試験の意味を。
だが、その事実は。
いまだ、正式には誰にも伝えられていないのも、また事実……
「…なあ、何かがおかしいとおもわないか?」
常々疑問に思っていたこと。
それはどうにもならなく、彼の中で膨れ上がる。
「やっぱし、ゼフェルもそう思うか?」
そういうランディの顔色もまた悪い。
「…うん。この前聖地に戻ったときのあの気配…あれは…」
守護聖の力が必要、となるべく出来事があるといわれ。
先日、彼等が本来住んでいる場所、聖地にと彼等は赴いた。
ゼフェルは私用で、聖地にと許可を取って戻り。
彼にしては珍しいかもしれないが、先日の惑星ε-α。
あの大災害以後、
頻繁に聖地へ仕事として彼等守護聖たちが赴く機会が増えてきているような気がするのは。
何も気のせいではないであろう。
あれから、約20ばかり過ぎてはいるが。
それまでに、それぞれ、平均して、二度か一度は正式に彼等の力を必要とする要請があり、
仕事として聖地にと戻っている今のこの現状。
つぶやくマルセルの顔色も悪い。
以前はあんなではなかったような気がする。
…女王陛下のお力が前ほど身近に感じられなかった。
それがマルセルの不安を寄りいっそうにと駆り立てる。
「…何にしても、もしかしたら、この女王試験。オレたちの知らない何かがあるのかもしれないな。」
「…かもな。しっかし、あの二人もよくやるよなぁ。」
「僕、守護聖として、そして一個人として、二人の力になれてるのかな?」
そんな会話が。
彼等、年少組みの守護聖達三人の間で、森の中にと位置する、湖。
その湖のほとりにてそんな会話がなされてゆく光景が。
その日、見受けられてゆく。
互いの想い、そして、それぞれの行動をうけ。
年月とともに、被害をこうむった大陸は、それぞれにと復活をとげ。
溶岩で覆い尽くされた台地には、新たな芽が芽吹き。
そしてまた。
火山活動によってできた新たな湖などは。
人々や、そして生き物たちの憩いの場となり。
フェリシアとエリューシュオン。
それらは、互いに。
災害を乗り越え、再び、活性化を遂げてゆく……
思い出すのは遥かなる過去。
どうにもできなかった、無力な自分。
だが、それも。
自分の意思ひとつ、この場所ひとつで。
すべては幻のごとくに掻き消えることを『彼女』は理解している。
その金色の瞳を見開くと。
周りに映し出されているのは、すべてなる銀河の数々。
この場には、この空間に存在するすべての銀河そのものが、映し出されているのである。
それらすべては『彼女』が今の存在になってから、誕生した、彼女の子供。
そしてまた、彼女の信頼した人々が築いていった、その名残。
宇宙の消滅は次なる命をはぐくむ。
そして、その循環は。
今もなお受け継がれ。
ただ、あの『銀河空間』は、この聖なる特別な地があるがゆえに。
ほかとは違い特別なだけ。
ひとつ。
ひとつだけ、『かの姫』が『彼女』にとつけた制約――
それは。
かの御方の気まぐれか、はたまたその慈悲の心からか。
彼女は後者、と捕らえている。
その瞳の奥に、暗闇の奥に孤独の影を見出したあの時から-。
「――私は、私の意志でここに存在しています。
そして…まだ、この世界を見限る気には…私にはなれません。
…
まだ、あなたの元にはこの世界は還す時期ではないのです…」
つぶやきつつ。
すっとその白く透き通った肌色の手を横にと伸ばす。
それと同時に、あまたにと輝き映し出されていたすべての銀河空間ともいうべき宇宙が。
きれいにと掻き消え。
後に残るは、広い、広い、空間。
その中央にあるのは、細かな細工が施されているちょっとした椅子がひとつ。
そして。
その椅子にとゆったりと腰を下ろしているのは。
その長い金色の髪を足元よりも長く伸ばしている一人の女性。
金色の髪に金の瞳。
彼女こそ。
『アンジェリーク=ユニバース=ラナ=カタルテス』
アンジェリーク=リモージュ。
その真なる姿……
世間の一部では、彼女のことをこう呼び称す。
すなわち。
-『
と。
彼女の意思とそして願い。
それにより、今この世界は存続しているのに他ならない。
そのことを知っているのは…
今はもう、その意志を人たるものにとゆだねた、
『サクリア』と呼ばれている、その力の持ち主というかその元なるものと。
そして…
「…ロザリアにはこれ以上、迷惑かけられないもんね。」
それでなくても、宇宙の移動にはかなりの力を要する。
それに。
「…ねぇ?エリオス?あなたは…どうして…」
個人の感情では今すぐに彼のもとにいき、彼の心を救って上げたい。
たった一人の…たった一人の家族であるがゆえに。
リモージュとしての家族ではなく、ユニバースとしての自分の家族としての。
そうつぶやくと同時に。
その姿は。
一瞬ゆらりと揺らめき。
次の瞬間には。
ふわふわのウェーブを肩の辺りまで伸ばしている、緑色の瞳をした少女が一人。
その場にと、椅子の前にと立ち尽くし。
「さって、世界の把握はおしまい。戻りましょ。」
その言葉と同時に。
その姿は。
その場より、一瞬のうちにと掻き消えてゆく。
後には。
ただ、その場に椅子とそして何もない空間が残されるのみ-
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