スイート・メモリーズ ~第43話~
ばたばたばたばた!
朝から飛空都市全体が騒がしい。
ドンドンドン!
「アンジェリークさん、ロザリアさん!」
それぞれの部屋をノックする音。
パスバたちに連れられ、この寮にもどってそんな数時間程度しか経過していない。
時計をみれば、時刻はただいま六時を指している。
昨夜、寮にと戻ったのが夜の22時。
だが、一時を過ぎたころからであろうか。
何か胸騒ぎがしてロザリアは目が覚めた。
そして、アンジェリークもまた。
ロザリアはその理由はわからない。
だがしかし、アンジェリークにはその理由はわかっている。
「…どこの世界というか時代にも困った人間っているわよね…」
被害を少なくしようと、姿を、『天使』として、人々の前に姿を示し、
きちんと今回の災害のことを伝えていた。
それ以上のことは、彼女たちがすることではなく。
それから先のことは、そこに生きる人々の選択。
動けない、生命は、それも自然の理と、理解しているがゆえに。
悲鳴こそあげるが文句などはいわない。
彼らの命は、そのまま、次なる命にと受け継がれる。
というのをそんな命たちは理解しているのである。
それを理解しないのが…人間、という種族でもあるのだが。
そんなアンジェリークのつぶやきをかき消すかのように。
ドンドンドン!
激しく部屋の扉がたたかれる。
「アンジェリークさん、ロザリアさん、至急、王立研究院にきてくださいとのことです!」
そんな叫び声が。
まだ日も昇りきらない、朝のひと時。
飛空都市の中にと響き渡ってゆく。
「いったい。何だっていうんだよ。」
朝も早くから、呼び出しをうけた。
いつもなら、ふけるのだが。
だがしかし、呼びにきたルヴァの様子が尋常でないこともあり。
素直にと王立研究院に朝も早くからやってきているゼフェル。
「ねぇ、ランディ、僕、昨日の夜から何か……」
「しっかりしろ、マルセル。」
マルセルの力は、緑の力。
豊かさの象徴でもあり、そして、自然界になくてはならない力。
それゆえに。
今回の災害の一番の被害をうけているのは他ならない、彼がはぐくむ命の数々。
何が起こったのか理解はいまだにしていないが。
昨日の夜から、何か、心の奥底が悲鳴を上げている。
誰かが、泣いているような感じをうけているのだ。マルセルは。
そんなマルセルを支えているランディ。
風のにおいがいつもと違う。
いや、ここ飛空都市の風はいつもどおりなのだが。
何というか。
感じる『エリューシュオンとフェリシア』の風のにおいが異なるのだ。
その意味をまだ彼らは知らされてはいない。
「遅くなりました。」
いいつつ、すでに全員そろっている場所にとたどり着いているロザリアとアンジェリーク。
心ならずも二人とも顔色が悪いのは、別に誰の気のせいでもない。
いくらわかっていたとはいえ、その結果は、その目でみれば、また話は別。
まだ被害のほどはみていないにしろ。
よろけるロザリアを支えつつ、研究院にとやってきた、アンジェリークとロザリアがみたものは。
朝も早くから、研究院にと勤めている職員全員の姿と。
そしてまた。
そこに、守護聖全員の姿を認め、思わず驚いているロザリア。
「これで全員がそろったな。…女王候補たちよ。心して聞くがよい。
貴殿らが育成しているかの地に、昨夜、災害が襲いかかった。」
「「災害!?」」
その言葉に思わず顔を見合わせているゼフェル、ランディ、マルセルの三人。
「このように早急でなければ何か対策が練られたものを…」
そういいつつ、ちらりと横にいるクラヴィスをみつついうそんなジュリアスの言葉に。
「それはこの私にいっているのか?しかたがあるまい。この水晶は気まぐれなのでな。」
そういいつつ、その視線はアンジェリークにと向いている。
この少女。
私がこれを感知する前に、すでにこのことを知っていたようだが。
などとそんなことを思いつつ。
「今ジュリアス様から説明がありましたとおり。
昨日、女王候補たちがその予兆を察知して民に呼びかけてくださらなければ。
被害はもっと拡大していたでしょう。
まさか、ここ王立研究院でも、こんなに早くにことが起こるとは…」
いいつつ言葉をとぎらせているパスハ。
「……で?被害のほどは?」
問いかけるオリヴィエの台詞に。
「…今、こちらに。皆さん、心してみてください…」
ヴ…ン…
その空間、というか、部屋の中央付近に。
二つの大陸が映し出され。
そして…
「こんな!?」
「うげっ!?」
「…これはひどい…」
思わず言葉を失っているマルセルに。
思わず後ろりと退いているゼフェル。
呆然とつぶやいているランディに。
「…これはまた…かなりの大規模な噴火だね……」
そのきれいな顔を少し苦痛の表情にとゆがめてつぶやくオリヴィエ。
「あ゛~。とりあえず、昨日、アンジェークとロザリアが。
夜遅くまで、民に噴火の予兆があることを知らせてくれていたがゆえに。
あと、その指示とその噴火の場所が正確であったがゆえにですね。
二人の声を信じ。時間があったがゆえに、避難や準備をしていた人々は、
それほど、といった被害はないのですが…」
いいつつ、申し訳なさそうにと説明しているルヴァ。
「わかってます。ルヴァ様。
それは人間の心理、というもので仕方がない、と思ってます。…大陸の被害状況は?」
顔色を悪くしつつも、それでも、冷静にきちんとそんなことをきいているアンジェリーク。
はっ。
そんなアンジェリークの言葉に。
その被害の大きさに思わず言葉を失っていたロザリアが、はっと我にと戻り。
「そうですわ。私のフェリシアとアンジェリークのエリューシュオンの被害状況は!?」
その声も悲鳴に近い。
彼らの前に映し出されたのは。
大陸のほぼ四分の一から三分の一にとわたる広範囲にと荒廃した台地。
いや、荒廃した、といっていいものか。
それらの大陸の大部分が、噴火したときに流れ出た溶岩にて、その大地が多い尽くされ。
被害は…並大抵のものではない、というのが見て取れる。
大地の形もかなり変わっているのが映し出され。
「ともかく、われら守護聖達全員、今回の復興に当たっては。
全員が協力する所存。今回何も対策がとることもできず、こんな結果になって申し訳ない…」
そういうジュリアスの言葉に。
「ジュリアス様のせいではありません。
星に命があるかぎり、生命活動をしている限り、こういったことはあるんです。
私もロザリアも…それを感知して。人々にはその旨を昨日、それぞれ民にと伝えました。
後は、民の心しだい。です。……失われた、同じ緑や自然は戻りませんが。
でも、だからといって、完全に何もなくなって…虚無となったわけではありません。
これから、守護聖様がたには今まで以上に協力していただくと思います。
でも…今はないてもいいですか?」
毅然といいつつも、やはり、こう目の前にその荒廃ぶりを目にすると。
昔からではあるが、涙が出てくる。
毅然とそう言い放ち。
そのまま。
わっ。
顔を手にあてて、泣き出しているアンジェリーク。
「…すいません。私も…今だけ…今だけお許しを…」
そんなアンジェリークの様子をみて、糸が切れたように悲しみが押し寄せてきているロザリア。
ロザリアとて、民にその姿をみせてまで危険を説いたのである。
昨日、知った、自然に意識を同調させること。
そうすることにより、そこにいきるすべての声が一部でも聞くことができる。
しばし。
その場に崩れ、なき始めるロザリア。
そんなロザリアの横で、同じく涙を流すアンジェリークの姿が。
一時ほど、見受けられ。
「「すいません。…ともかく、これから、復興にむけ、皆さん、協力をお願いします。」」
ひとしきりないた後に。
泣きはらした目で、そういいつつ。
ぺこりと、守護聖達にと頭をさげている女王候補のこの二人。
強い。
女王候補というものは、こうも強いものなのか。
その悲しみをばねにして…
そこにいる、全員。
そんなことを思ったのは…いうまでもない……
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