スイート・メモリーズ     ~第41話~

まだ、確かに見た目には被害は起こってはいない。
だがしかし。
頻発している地震。
それは疑いようもなく。
二つの大陸、フェリシアとエリーシュオン。
互いの大陸は頻発する地震に、人々は憔悴しきり。
アンジェリークとロザリアが大陸にと降り立ったときには。
人々は、何か起こるのではないか。
と、かなり怯えているその状況。
「とにかく、人々を安全に避難させることを先決としませんと…」
そういいつつ、遊星盤の上から、精神体となっているロザリアが、
自らが育成している地、フェリシアをみてそんなことをつぶやくが。
「ロザリア。でもそんな悠長なことをいっている時間はないわよ?
  私たちのいる飛空都市の時間率から行けば。
  この大陸に災害が襲い掛かるのは…朝方よ。この地では、数年先のこととはいえ。」
この地と、アンジェリークたちが滞在している空中都市でもある飛空都市の時間率は大きく異なる。
惑星を見下ろすようにと位置する彼女たちがいる場所。
そして、そこから、必要な力、つまりはサクリアを送り、
それぞれに大陸を育成、発展させるのが、彼女たち、女王候補の務め。
そういうアンジェリークのその言葉に。
「どうしてそんなことがいえますの?」
この子は、私にもわからないようなことをいともたやすく、さらりといいますけど。
そんなことを思いつつ、問いかけているロザリア。
「ロザリアも意識を集中させて、心を澄ませて、すべてのものの声を聞いてみて。
  …聞こえるから。すべての命の鼓動や、そしてその声が。
  …そして、この大陸、というか星の鼓動も。」
そういいつつ、横で目を閉じているアンジェリーク。
「……。」
とりあえず、いわれたとおりに、心を澄ませて、すべてのものにと意識を向ける。
今まで、そう意識したことがなかったことに。
いまさらながらに気づかされる。

いつも、にこやから、どこかぼやってしているような、見た目子供のアンジェリークなのに。
いつもそう。
自分が気づかないようなこといつも簡単にとしてのけ。
気づけば、いつも、自分はアンジェリークに引っ張られているような気がする。
それは、女王候補になる前から。
彼女がスモルニィ女学園の高等部にと入学してきたときから。
ペースが乱される、というか、何というのか。
しかも、相手は、同い年、というのにもかかわらず。
その姿は、まだ見た目、六歳前後の女の子。
対抗心を燃やすのも、何だか自分が少しばかりむなしくなってきてしまう。
それゆえか、ロザリアは高等部にと入り、彼女と首席を競うようになって。
どこか人間性が丸くなった。と周りからは言われていたりする。
本人の耳はそんなことは届いてはないが。

とにかくいわれたままにと、意識を自分が育成している地にと向け、
そして導かれ促されるままにとその意識を同化する。
―どくん。
何かが鼓動しているのが見て取れる。
『【視える】、でしょ?それがこの星の鼓動。
  …今は、滅びの波動で…逆に活性化しているけど…急がないと…』
ロザリアの脳裏、というか、まるでぽんと、浮かぶようにとアンジェリークの声が聞こえてくる。
星が活性化、している、というのはいいことだが。
だがしかし。
「…これは…」
ロザリアの目、というか精神、というか。とにかく、感じたもの。視えたものは。
星の内部が活性化し、活発化しているマグマの姿。
この調子でいけば、近いうちに、地上にそのマグマは噴出し。
大爆発を起こすのは…明白。
はっ。
思わず、はっと目を見開く。
閉じていた目が大きく、大きく見開かれ。
「とにかく、人々の避難の指導をしないと!」
叫ぶロザリアに。
「…私は大陸の人々に姿を見せるわ。それでこのことを促すつもり。ロザリアはどうする?」
「…確かに。それしかないかもしれませんわね…」
女王候補たち、つまり、大陸の人々にとっては、『天使』と呼ばれている彼女たち。
彼女たちの姿を見れるのは。
それぞれの大陸で民をまとめる役目にと位置している『神官』のみ。
…アンジェリークの場合は、よくそのまま、生身のままで。
この大陸に降り立っているのであるが。
確かに、時間は残されてはいない。
まさか、大地が噴火するなどとは、誰も予想だにしない出来事であろうからして。
「噴火位置もまた、心を澄ませて同化させれば把握できるわよ。
  ――私は私の大陸、エリーシュオンに向かうわ。ロザリアもがんばって。」
そういいつつ、そのまま、自分の大陸の方にと進もうとするアンジェリークに。
「あ、アンジェ。」
思わず呼び止める。
「何?」
本当なら、お礼をいいたい。
教えなければ、自分の育成がはるかに有利になるのは明白だったのだから。
だがしかし。
「あなた、どじだからヘマしないようにね。おほほほほほっ!」
「あ゛~っ!ひっど~い。ロザリア!ロザリアもどじらないようにがんばってね!」
ぷうっと頬を膨らませ、そんなことをいっているアンジェリーク。
その姿が何とも愛らしい。
まあ、アンジェリークの姿は見た目は六歳の女の子。
そのふわふわのウェーブのかかった金髪に赤いリボン。
見た目でもかなりかわいい、といえる分野の子供。
そんな女の子が少し頬を赤くして、ぷうっ。と頬を膨らませていれば。
はっきりいって、かわいらしい。以外の何ものでもない。
そんなやり取りをしつつも。
アンジェリークとロザリア。
二人はそれぞれの育成する大陸の住民に、今後起こるべく自然災害を教えるべく。
その姿を、人々の前にと現すべく、その意識を集中させてゆく。

その日。

柔らかな、金色の光が、ここ、惑星ε-α。
そんな光が惑星全体を包み込んでゆくのであった……

人々は、そして。その金色の光の中。
彼らが言うところの『天使』のお告げを聞くこととなる……


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