スイート・メモリーズ     ~第39話~

空が大地がきしんでいる。
このままでは…
「…フェリアーナ、アンジェリークの補佐は?」
問いかけるその言葉にも。
戻ってくるのはあまりいい返事ではない。
今はかろうじて。
彼女-否、神鳥であるフェリアーナの力にて、あの大銀河は存続しているのに他ならない。
無数にあまねく銀河が集まり、ひとつの大きな銀河団となり。
それらひとつ、ひとつが。
それぞれの意思をもっている。
いや、持たしている…というべきか。
そして、その中でもこの場所は。
特に尊重すべき場所。
すべての始まりでもあるその場所を無に還すこと、それすなわち。
この『全てなる世界』を【姫】の元に還す、ということ。
自らの役目もそこまでとして。
いや、役目…とはいえないであろう。
そんなことを思いつつくすりと笑う。
「…役目…とはいえないわよね。私が無理いって、こうして頼んだことなんだから。」
――そう。
本来ならば全て、そのまま無にと還りゆくはずであったそれを。
ほかならぬ自分自身の願いより。
この世界は存続しているのに他ならない。
そんなことを思いつつも意識をあちらにと向ける。
いや、全てなる空間は彼女自身、そういっても過言ではないが。
そんなことをつぶやきつつも。
ふと思い直しつつ。
「…で?状況は?」
定期報告。
こちらに着てからずっと、【彼女】にはその報告を届けてもらっている。
『…崩壊の余波がこちらにも…一番に影響されるのは…この大陸の…』
それはもうわかっていた。
あちらとこちらの空間、もとい、次空をつなげたときから。
「ともかく、フェリアーナは引き続き、アンジェリークの補佐を…こちらは私が何とかします。」
その言葉に。
『――…御衣に……』
その言葉と同時に、部屋に白い羽が舞い落ちる。
白く淡く光る白い羽を、といっても、それは物質的なものではなく幻想的なものなのではあるが。
そんな舞い落ちる、羽の幻の中。
そっと、窓のカーテンをあけ空を見つめる。
「…そろそろ、こちらも次の段階に移さないといけないみたいね…」
そうつぶやく、リモージュの瞳は。
いつもの緑色の瞳ではなく金色にと輝き。
その金色の瞳に星空が映りこんでゆく……


「これ…は!?」
思わずそこにある水晶を凝視する。
そこに映し出されるのは崩壊する大地。
そして、吹き荒れる…
ガタン。
思わず席を立ち上がる。
いくらなんでも、こんな光景。
今時点で何もしないわけにはいかない。
まだ、何か対策ができるはず。
自分の遠見の水晶は、いつも気まぐれ。
そのいつ起こるとも知れない未来をふいにと映し出す。
して、それを制御することにより、自らが望むものすら視ることすらも可能。
だが。
今映し出された光景は。
何も自分が望んだ光景ではない。
コンコン。
「失礼します。クラヴィス様…?どうかされたのですか?」
めずらしく、そのまま。
水晶を片手に、部屋から出かける用意をしているクラヴィスの姿をみて、
少しばかり首をかしげているリュミエール。
あまり人が寄り付かない、ここ闇の守護聖・クラヴィスの執務室。
そこに毎日のようにかいがいしく通っているのがこの水の守護聖・リュミエール。
黒と水色の対象がまた、何とも絵になっているようにも見えなくはないが。
「リュミエールか。お前にも関係あることだ。――こい。ジュリアスのところにいく。」
そういいつつも扉にと向かうクラヴィスの姿に、思わず目を丸くする。
彼があのジュリアスの所に自らいくなどとは、今までにないこと。
…まあ、逆であちらから、こちらに来ることはよくあるのだが。
大概はお小言…いや、心構えをいいに。
「え?あ、あの!?クラヴィス様!?」
何が何だかわからないが。
いつになく、クラヴィスの瞳は真剣で。
そのまま、あわてて、彼の後にとついてゆくリュミエールの姿。

バタバタバタ。
「ロザリア!」
バタン!
勢いよく扉が開かれる。
「ちょっと!?アンジェ!?いきなり何なの!?部屋をノックくらいしなさいよ!」
思わず声を上げる。
ちょうど、ばあやにお茶をいれてもらい、飲んでいた最中。
一息つき、これから、育成のお願いなどにいって、
それから、王立研究院にといき、フェリシアの様子を見ようと思っていたロザリア。
「おや、まあ、アンジェリークさん。」
にこやかに。
ノックも何もなしに、いきなり入ってきたアンジェリークに対して挨拶をしているのは。
ロザリアとともに、聖地よりやってきた、彼女の世話役でもあるばあや。
彼女が幼いときから、彼女の世話をしている人物であるのだが。
「あ、こんにちわ。ばあやさん。って、ロザリア!そんなに悠長にお茶なんかしてないで!
   ノックをしなかったは謝るけど、ことは時間を窮するのよ!」
そういいつつ、ロザリアの元にとかけより、ぐいぐいとその手をひっばるアンジェリーク。
そんなアンジェリークの行動に。
「ちょっと!?アンジェ!?いったい、何が何だっていうのか、きちんと説明なさい!」
ぴしゃりとそんなアンジェリークに言い放つロザリア。
説明するも何も。
どう説明していいものか。
「―説明するより、『視て』。」
そういいつつ。
ぎゅっとその握ったロザリアの手より、情報をロザリアの脳裏にと映し出す。


大地の奥底から沸きあがる、赤いもの。
それに伴い、逃げ惑う人々や生命の数々。
そして…
それが何を意味するのか。
瞬時に情報が、ロザリアの脳裏にと刻まれる。
「な゛!?」
思わず、ばっとそんなアンジェリークの手を振り解き、驚愕の声を上げるロザリア。
「い…今のは!?」
目を見開くロザリアに。
「ともかく、育成地にいかないと。…あの惑星はまだ成長途中。
どうも、大陸ブレートというか、内部が活性化して、近いうちに、火山が爆発するわ!」
そういいつつ、ロザリアの目の前で、叫ぶように言い放つ、六歳程度の女の子。
「って、アンジェ!?どうしてそんなことがわかるの!?」
「うちの、精霊たちが教えてくれたのよ。
  ―そして、ロザリア、あなたのフェリシアの精霊たちからも…ね。」
そういうアンジェリークの声が心ならずも震えているような気がするのは、ロザリアの気のせいなのか。
その言葉に絶句しつつも。
「ばあや!と、とりあえず、私は王立研究院にとまいりますわ!」
「…お嬢様…お気をつけて…」
ばたばたと、そのまま。
「アンジェ!私もいくから、少しまってなさい!」
あわてて、出かける用意をしつつ。
そのま。
二人して、女王候補寮を後にしてゆく、二人の女王候補生たちの姿。


「…パスハ様。」
「…この数値は…」
数値が、比較的に上がっている。
このままでは。
「…あの地は、確かにまだ若いですから…ありえないことでは…」
そういいかける研究員の言葉をさえぎり。
「だがしかし。今のこの時点でももはや育成はすすんでいるのだぞ!?」
この状態で。
地下ブレートが活性化し。
よもや、火山地帯が活性化しようとは計算上ではなかったこと。
下手をしたら、このまま。
せっかく、互いの地において、進化を遂げている生命もまた。
そんな惑星の命の鼓動の犠牲となり。
また一からの進化を遂げなければならなくなる。
そんな、ここ、王立研究員主任、バスパの声をききつつ、ただただ、縮こまる以外にない研究員たち。
「と、ともかく早急にデータを割り出せ!至急、守護聖様やディア様にご報告を!」
「「はっ!」」
ばたばたばた!
一気に。
あわただしくなってゆく、王立研究院内部がそこに見受けられてゆく。


                -第40話へー


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