スイート・メモリーズ     ~第37話~

「つまり、エリューシュオンでの最近の出来事は。
  何らかの、育成以外の力がかかわっている。そういうことなんだな?パスハ?」
主だった守護聖たち。
そこにいるのはジュリアス、オリヴィエ、オスカー、ルヴァ。
「で?クラヴィスはどうした?」
そう問いかけるジュリアスの言葉に。
「あ~。彼なら今リュミエールが迎えにいってますよぉ。」
のんびりと、そんなことをいっているルヴァの言葉に。
「…まったく。あいつは。非常事態、というときでもマイペースらしい。」
ため息とともにそんなことをつぶやくジュリアス。
ひゅう。
「しっかし。お嬢ちゃんもなかなかやるねぇ。
   エリューシュオンが堕落してないの、どうもアンジェリークの育成の結果なんだろう?」
普通なら。
ここまで大量に育成以外の力が加われば。
人々、否、進化の過程で何らかの影響は必ずあるはず。
それなのに。
多少の変化は見られるものの。
豊か過ぎる物質は、逆に人々に謙虚、という言葉を覚えさせ。
そして、豊かさを求めることを追求するわけではなく。
たとえば孤児とかななっている人々に寄付する、という、やさしい心をはぐくんでいるのが見て取れる。
それは。
「最近、アンジェ、夢の力と水の力を大量に注いでいたからねぇ。…アンジェはわかってたみたいね。」
夢……人々の心にもたらす夢の力と。
そして、水…やさしさをもたらす心。
その二つがいいようにとバランスよく注がれ。
どうにか、堕落してゆくのが防がれているのが見て取れる。
「…報告いたしますと…別の力が加わっているのは……」
結果としても、調査としても明らか。
「…マルセル…か。」
「まさか勝手にマルセルが育成するなんて。
  あの子、自分のもつ力がどんな影響与えるか、まだよく理解してないのかしらん?」
おちゃらけた口調で言い放つオリヴィエに。
「オリヴィエ。そんな問題ではない。強いてはこれは女王陛下への反逆とも取れる行為だ。
  …このようなことが二度と起こらないために、一度試験を中止して。マルセルは聖地にと戻し。
  再度、得に年少組みの守護聖たちには教育をしっかりとしなおすべきだと…」
カツン。
そういいかけるジュリアスの言葉をさえぎり。
「それはいけません。試験を中止するなど。…今、このときでも惑星の命は成長しているのです。」
足音とともに振り向けば。
そこにいるのは穏やかな表情をしているやさしそうな一人の女性。
「…しかし、ディア。」
言いかけるジュリアスの言葉をさえぎり。
「ジュリアス様。確かにマルセルのしたことは許されないことかもしれません。
  ですが、これも試験のひとつのハードルなんじゃないでしょうか?」
そういいつつ。
ディアの後ろから、今の状況を聞かされて、心ならずも顔色の悪いランディ。
「ハードル?」
聞き返すオスカーのその言葉に。
「ええ。様々なトラブルとかも含めて。すべてが女王試験なんじゃないんですか?
  アンジェークはそれがわかっていたからこそ。
  そして、マルセル本人に気づいてほしかったからこそ。
  誰にも言わずに一人でがんばっていたんじゃないんでしょうか?
  ここで試験を中止するなど、それこそ陛下の意思にそむくことのような気がするんですけど。
  失敗したらそれを補えばいい。そのために僕たちは九人、いるんではないんでしょうか?」
きっとした表情で言い放つそんなそのランディの言葉に。
「ケッ。ジュリアス。マルセルを聖地に戻す、っていうんだったら。
  オレも勝手に二つの大陸にどんどんとサクリアを送り込んでやるからな!」
などとぶっきらぼうにといっているゼフェルの言葉に。
「ゼフェルゥ!あなたは何ということをぉぉお!?」
一人パニックになりかけのルヴァ。
「――あ、あの…ごめんなさい!」

呼ばれて、王立研究院にとやってきたマルセルが見たものは。
自分が勝手に育成していたことが発覚し。
それで臨時の召集がかけられたのだと理解する。
その言葉にそこにいる全員が振り向く。
そこには。
顔色を青ざめさせているマルセルの姿。
そして。
その横にはアンジェリークの姿が。
ここに来るまでにちょうど一緒になり、そして二人は一緒にやってきたのであるが。
「あ、あの。皆様方。マルセル様もこういって、わかってくださりましたし。
   ――ここにくるまでにマルセル様からも謝ってくれましたし。
  そんなに大きく騒ぐほどのことでも……」
すでに泣き出しそうなマルセルの言葉に続き。
そんなことをいっているアンジェリーク。
「しかし、アンジェリーク……」
そういいかけるジュリアスの言葉をさえぎり。
にっこりと。
「私、それにエリューシュオンは大丈夫です。
  この程度のことでヤワになるようには私、育成はしていません。
  マルセル様は、わかってくださった。私にはそれで十分です。
  確かに、少しばかりエリューシュオンの進化には影響はでましたが。
  それに。ジュリアス様?間違ったことをしたからといって削除するのは。
  それは歩き出そうとする子供を親が過保護にしてしまい。
  怪我するのを恐れて、手をだして成長の芽を摘んでしまう。
  そんなことになるかと思うんです。私は。」
にこやかに、それでいて、まったく動じずに言い放つアンジェリークの言葉に、思わずはっとする。
あのおとなしいアンジェリークの背後に。
今、確かに。
一瞬、白い羽が、その場にいる全員に見えたような錯覚。
そんな錯覚を全員が起こし、思わず目を丸く見開く。
だがしかし、よく見凝らしてみれば、そこにいるのはいつものアンジリェーク本人。
背後に羽など見えるはずもなく。
しばらくの沈黙を破ったのは。
「う~ん。いいこというねぇ。さすがは女王候補。
  ジュリアス。確かにアンジェリークのいうとおりだよ。
  私たちが騒いでもどうにもなるものでもなし。
  それにアンジェリークはどうやら勝手に育成されている事実を知っていて。
  なおかつ、マルセルに自覚を自分自身で持ってもらうように何もいわなかったようだし?
  女王候補として、自分自身で解決しようとしていたアンジェリークの姿勢は、
  みごととしか言いようがないと思うけどねぇ。」
そういいつつ、くすりと笑うオリヴィエ。
いったいこの少女のどこにそんな力があるものか。
見た目が六歳程度の女の子であるがゆえに。
どうしても扱いが子供扱いになってしまうのではあるが。
「…だが、しかし……」
まだ何か言いかけるジュリアスの言葉をさえぎり。
「ジュリアス様。
  確かに今回のことは私たち、女王候補の手だけでは納まらないことかもしれませんが。
  でも、少なくとも、アンジェは自分の手でどうにかそれを乗り越えてました。
  それにマルセル様もどうやら自分のしたことの重みをわかってくださっているようですし。
  今考えるべきなのは、過ぎてしまっことより、これからの大陸の方向性ではないでしょうか?
  私たち、フェリシアとアンジェのエリューシュオン。
  二つの大陸がよりよく発展することこそ。女王陛下の御意思なんでしょう?」
そんなジュリアスの言葉をさえぎるように明瞭にと言い放つロザリア。
彼女もまた、アンジリェークとともに。
ここ、王立研究院にと向かっているときに。
マルセルと一緒になり、二人とともにここにとやってきたのであるが……


                -第38話へー


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