スイート・メモリーズ ~第36話~
『うわぁぁぁぁぁぁあ!!!?』
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
あたりに悲鳴がこだまする。
いったい何が起こったのか。
気がつけばもはや周りはすでに火の海で。
周りやそして上空には無数に何かが埋め尽くし。
そして、それらが、自分の周りにあるのが、黒くこげた元生物。
そう気づくのにそうは時間はかからない。
「ちょっと!?マルセルさん!?何そんなところで!?」
などとわめくロザリアの声がマルセルの耳にと届き。
そこにいたりようやくはっと我にと戻る。
今日はいつもと夢が違うような気がする。
いや、そもそも。
この夢はこんなに混乱にあふれていたっけ?
などとそう理解しようとするよりも早く。
「早く!ロザリア!もうここも!」
叫ぶ別の少年の声が。
「とにかく!ここはもう!…大人たちがもう!」
その言葉に。
まるで流れ込んでくるかのごとくに。
今の状況がなぜか突如として理解ができる。
子供たちの平和を願う祈りの力でこの惑星そのものには一種のバリアがしてあった。
それは、彼ら…否、
守護聖などが存在する、聖地のバリアと同じようなものなのかどうかはマルセルにはよくわからないが。
だが、それが似たようなものである。
というのは理解はできる。
だがしかし。
そのバリアが弱まったのは。
それもやはり人の心が弱いゆえに。
平和に慣れてくれば、そんな中に刺激を求める人間もでてくる。
それが好奇心旺盛な子供ならばなおさらに。
そんな子供を捕まえて、そしてこの星の中に刺客を送り込み。
そして。
その作戦に端を発し。
今こうして、彼女たち、アンジェリークやそしてロザリアなどがいるこの惑星は。
エネルギー確保、という名目のもとに、今こうして攻撃を受けている真っ只中。
そして。
「…君…だれ?」
そこに。
マルセルは見たこともないような少女の姿を目にし、思わずつぶやく。
どこかであったような、そうでないような。
だが。
その気配は……まるで……
風にその赤いリボンが揺らぐ。
そして、その長い腰以上もある、
ポニーテールにしているにもかかわらずに伸びている、少しウェーブの入った艶やかなる黒い髪。
そして。
見ただけで吸い込まれそうなほどに…青い、青い…瞳と。
まるで夜空の闇よりも濃い、漆黒の瞳孔。
そして、その手にもたれているのは。
言い表すならば、まるでそう、惑星状で見られる、薄いビンク形式がかった、オーロラ。
それに近い色彩を放つ…その身長よりも長いロッド。
そのロッドの先に、まるで宇宙空間のような球体が見て取れるが。
それが何を意味するのかは、マルセルにはわからない。
そして。
手を伸ばそうにも届かない。
マルセルがそんな見た目の歳は十かそこら、いや、それ以下か。
ともかく、黒く長い髪をポニーテールにし、
赤いレースのようなリボンで、そんな髪を結んでいる少女の下にと近寄ろうとしたその刹那。
「・・・・・・・・」
何かの言葉をその少女が発する。
だがそれは、マルセルには聞き取れられずに。
次の瞬間。
空から降り注ぐ、光の光線が-惑星すべてを包み込み。
それが、大人たちが、この惑星に住む生物ごと、エネルギーを得ようとして、攻撃した結果。
そうなんだ……
マルセルは……薄れゆく意識の中ではっきりと自覚してゆく。
次に気づいたときには。
かつてはそこにあったはずの惑星はすべてなくなり。
そして。
「ふははははは!これでもうしばらくエネルギーには困らん!」
惑星などを攻撃して、そのエネルギーを奪っていけば必ず終わりがくる、というのに。
そんな当たり前のことにすら気づかずに。
ともかく。
…もはや、人類が地上で唯一生活できる空間であったその惑星を攻撃し。
…その得たエネルギーに狂喜する大人の男性。
自分の姿は見れば少しばかり体が透けている。
まるで魂だけの存在となっているがごとくに。
おそらくはそうなのであろう。
――これは。この地に残る記憶。
そんなマルセルの耳にと聞きなれたようなそれでいて、懐かしいような声が響き渡る。
「誰!?」
見渡しても誰もいるはずもなく。
――私はあの御方の力を得て…この世界を任されしもの。
必要なる豊かさは必要なれど、度を越す豊かさは…滅びを招く……
そう、この世界のように……
「っ!!!!?」
ふと気付ば。
周りには何もない。
そう、光も、そして惑星も…何も。
ただただ、真っ黒、ともいえない空間がずっと無限に広がってゆくイメージ。
そんなイメージが頭にと広がる。
だがしかし、マルセルの視界にと入る光景も、また同じ。
一筋の光すらない…孤独の闇…
―― 進化は…ひとつ間違えば滅びの道を歩む…いわば運命の船…
力におぼれ。滅んでいった光景が。
そんな暗闇にいくつもいくつも浮かび上がり…そして。
…それは、はじけて消え…
最後にのこるのは…ただ、闇よりも暗い虚無の闇がもたらす…孤独。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
がばっ!
自分の周りを闇が取り囲み。
まったく何の気配も感じなくなり、思わず叫ぶ。
それと同時に。
チチチ…
明るい日差しが窓からベットにと入り込んでくる。
「…あ、夢…」
いつもいったいどこからが夢でどこからが真実なのか。
明るい日差しにほっとする。
「…どうしよう?」
さすがに。
こうも、夢で、豊かさが、その度を越し、
さらに豊かさを求め、破滅にと向かっていった世界の夢をこうもみては。
それがエリューシュオンとその姿が重ならないほうがどうかしている。
「…僕の力…アンジェリークのためになってなかった?」
そういえば。
最近、アンジェは忙しそうにしていた。
ロザリアいわく、『寝てないようですわ。』と。
ロザリアが育成を頼みにきたときにアンジェの様子をきいたところ、そんなこ答えが返ってきていた。
だが、そのアンジェリークが寝ていない原因。
それが自分が勝手にエリューシュオンに緑のサクリアを送っていることで。
自分にはわからない何かがエリーシュオンに起こったからなのでは?
そんな思いが、数日たち、ようやくマルセルの脳裏にも今ここにとはっきりと目覚め、自覚する。
力がもたらす悲劇。
どうしてこんな夢をみたのかは自分でもわからない。
夢は夢、それで済ませてしまうにはあまりにもリアルすぎた夢。
目の前でどんどんと失われていった命の数々。
何もできなかった自分。
自らの力が夢の中で使えなかったのも、やはりあれは夢なのだと思う。
思うが……
「…どうしよう?」
やってしまったことは取り返しがつかない。
もし、エリューシュオンが、豊かさにおぼれ、堕落していったりでもしたら。
そう思うと震えがとまらない。
「…僕、ただ豊かであればいい。それだけで幸せだと思ってた…」
ぎゅっ。
ベットの布団をぎゅっとつかむ。
コンコンコン。
「マルセル様。起きられましたか?至急、王立研究院に起こしください。とのご連絡です。」
そんなことを思っていると。
扉の向こうより、お手伝いしてくれている、いわゆるメイドの声が彼の耳にと届いてくる。
「あ。はい、わかりました。」
――とにかく。
答えはエリューシュオンの中にある。
よく大陸をみて、それから自分でどうするか決めないと。
そう思いつつ、マルセルはベットから起き上がり。
そして出かけるためにと準備を始めてゆく。
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