スイート・メモリーズ ~第33話~
チチチ…
「うわぁぁぁあ!?」
……あれ?
見渡せばそこはいつもの自分の部屋。
見慣れた動物のぬいぐるみと。
そして。
自分の周りで飛び交っている青い鳥。
「あ、夢…?」
それにしてはやけにリアル。
はっきりと覚えている。
あの光に包まれるあの一瞬に感じた、あれは……あきらかに負の力。
上空に飛び交無数の物体。
それから大地に向かって何か光の攻撃のようなものが降り注ぎ……
「でも、夢…なんだよね。」
ふと気づけば全身に汗をびっしょりとかいている。
「どうしてあんな夢をみたんだろう。」
シャッ!
勢いよく窓をあける。
そこにはいつもの天気のいい飛空都市の青空が広がっている。
「でも、やけにリアルな夢…だったな。」
はっきりと覚えている。
あのひんやりとした自分が寝ていた岩というか廃墟の感覚も。
何もかもすべて。
「でも…あれってやっぱりアンジェークと…ロザリア…だよ…ね?」
首を傾げつつ。
起き上がり、そして服を着替え始めてゆくマルセルの姿が。
いつもの朝の始まりに見受けられてゆく。
「あれ?」
昨日送ったはずの力がなぜか感じられない。
昨日、女王候補であるアンジェリークの願いもなしに。
自分の意思でこの地エリューシュオンに緑の力、すなわちサクリアを送り込んだ。
確かにすぐに目に見えて結果がでる。
というわけではないが、その大地に満ちる力の量で。
いくらなんでもその力をつかさどっている彼、マルセルにはわかる。
「おっかしいなぁ?力の量が少なかったのかな?」
そういいつつ辺りに人の気配がなくなったことを確認し。
昨日と同じく再び無許可で大陸エリューシュオンを育成するために、力を注いでゆくマルセルの姿が。
ここ王立研究院の育成の間にて見受けられてゆく。
「これは。」
数値がおかしい。
今日の女王候補の育成とそして力の量。
そして、それに伴う進化の方向。
それらをまとめてそして予想をたてるのも彼ら、王立研究院の勤め。
だがしかし。
「??やけに昨日に続き今日もまた緑のサクリアの数値が上がっている?」
昨日のは夜気になったのでもう一度確認してみたが普通の予想道理の数値になっていたので。
気のせいか、ともおもったが。
また今日もまた、緑のサクリアの数値が格段に跳ね上がっている。
「…これはもう一度詳しく調べてみないといけませんね。」
いくらなんでもおかしい。
ここでたったの数時間のことでも。
あちら、つまりは育成地においてはそれだけの時間が確実に流れているのである。
ここ、飛空都市とそして育成地とでは時間の流れが異なる。
それゆえに。
小さな兆しも逃さずに発見しなければ何がおこるか。
特にこの新宇宙ではわからない。
「パスハ。どうしたの?」
そうすでに部屋の入り口まで迎えに来ているその女性のその言葉に。
「ああ、サラ、少しまってくれ。このデータをもう一度見直すから。」
「パスハ、仕事熱心もいいけど体を壊すわよ。」
「ふっ。君がそばにいてくれるし。それに君の手料理を食べたら、疲れなんてふっとぶさ。」
「まあ、パスハったら。」
そんな会話をしているのは。
ここ王立研究院所長、水竜族のパスハと。
そしてその恋人の占いの館の主でもある火竜族のサラ。
この二人…実はいつもこの調子なのは。
もはや研究員の誰もが知っている事実……
しばらく、一時間以上もの間。
二人の完全にのろけ、としかとらえられない会話が。
しばらくここ、研究院の中で繰り広げられてゆく。
おかしい。
どう考えても。
帰り際にはいくら調べても。
確かに育成した力の数値より、一部ほど、特定の力が格段にと増えている。
にもかかわらずに。
朝になればその数値は正常にと戻っている。
「…いったい…」
首をかしげるパスハではあるが。
「……とりあえず、報告は…したほうがいいのでしょうね……」
そんなことをおもいつつ。
ここ数日続いているその不可解な事実を。
守護聖の長であるジュリアスとそして女王補佐官ディアにと伝えるためにと。
報告をまとめてゆくパスハの姿が。
ここ数日の間、見受けられてゆく。
「…あ、アンジェ!」
最近夢と現実と、どちらがどちらかがわからない。
確かに夢の中に出てきているのは、間違いなくアンジェリークなのであろうが。
だが、それがどういう意味を持つのかはまだマルセルにはわからない。
今日もまたいつもの夢。
あの日から数日、続けざまに見ている。
まるで連続している物語をみているかのような。
どげっ!
「姉様を気安く呼ぶんじゃない!」
そんなマルセルに足蹴りを入れているのは、銀色の髪に金色の瞳の男の子。
ああ、またいつもの夢だ。
そう納得しているものの。
だが、感じる空気のにおいなどはすべてリアルで、どう考えても夢とは思えない。
「ほらほら、エリオス、そんなことしないの。この人記憶失ってるんだから。」
そういいつつやんわりとそんな少年を諭している金色の髪に金色の瞳の少女。
ここには守護聖、というものは存在せず。
そしてまた、彼自身ですら自分自身の力が使えない。
力が使えない、ということは、どうしてここまで不安になるのだろうか。
そんなことをも考えさせられるが。
自分が守護聖で、緑の力を司どっている。
そう話しても誰も信じてはくれずに。
挙句はこのご時世である。
彼が何らか目の前などで不幸なことを目の当たりにし。
空想の世界に自分をおくことで、自分の心を保っている。
そう誰もがそう思ってしまったのは、こんな世界だからこそに他ならない。
「…いや、だから僕…」
そういいかけるマルセルに。
ふと。
アンジェリークの顔が真剣そのものとなる。
がくっ。
そのままその場にて倒れるようにとうずくまる。
「「アンジェ(姉様)!?」」
彼女を慕って集まっているほかの子供たち、そして少年、少女たちの声が一斉にと重なる。
そんなアンジェリークを支えているのは。
ロザリアにそっくりなロザリアナ、という少女。
「――またなの?」
そう寂しそうに問いかけるその言葉に。
「ロザリア…また大人たちが星を…」
そういいつつもうなだれる。
間に合わなかった。
「アンジェ、あまり無理しきずよ。
あなたの一人の力じゃ…すべては…それにこの星にも限界があるわよ。」
そうやさしく諭すようにと慰める。
「でも、だからって見過ごすわけにはいかないじゃない!」
こんな力をもったからこそ。
だからこそ、すべてを助けたい、見守りたい。
無慈悲に殺されたり消滅する命があるのは耐えられない。
そのやるせなさはマルセルにも伝わってくる。
それは特別なサクリア、という力をもっているマルセルにも言えることなのかもしれない。
「――また…って?」
問いかけるマルセルのその言葉に。
「そういえば。まだあなたの記憶は戻らないのでしたわね。」
数日前から見始めたこの夢。
だが夢にしてはやけにリアルで。
しかも目の前で死人などがでたりするのは、当然のこと。
殺伐とした光景の中からつれてこられたこの星は。
緑があふれ、そんな空気の淀みなどは一切感じないが。
だがこの星そのものが特殊な力で覆われているのは、彼だからこそ理解できる。
力を使おうとしても、まるで何かに邪魔されているかのように表面上にその力は具現化できない。
それがもどかしくも感じるが。
星の中心に、とある建物がひとつあり。
そこを中心に。
様々などうみても子供たち、としか思えないような存在たちが集っている。
中には多少大人の姿も見えなくはないが。
それはごく少数。
「ロザリア、私はあの星の魂たちをどうにかして助け出す方法をみつけるわ。…しばらくこもるから。」
そういうアンジェリークの顔色はかなり悪い。
「アンジェ!だめだよ!私たちもがんばるから!
この星のバリアは私たちに任せて、アンジェは休んで!」
周りに集まっている子供たちの悲鳴に近い声があがってゆく……
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