スイート・メモリーズ ~第31話~
――びくん。
「?どうかしたのか?アンジェ?」
今大陸に必要なのは勇気の力。
風のサクリア。
物事を活性化させるための。
育成のお願いをしているさなかに感じたこの気配。
これは……
ふとどこか別なところを見ているアンジェリークに。
「アンジェ?どうしたんだい?」
再度問いかける。
ここは風の守護聖ランディの執務室。
その言葉にはっとなり。
「あ、何でもありませんわ。ランディ様。それより育成をお願いいたします!」
そういってふとわれに戻りにっこりと微笑みつつ勢いよく首を下げるアンジェリークに。
「うん、わかったよ。たくさん育成しておくね。」
「はい!お願いします!」
そういってにっこり微笑むアンジェ。
「それはそうとアンジェはこれからどうするの?よかったら…」
今から出かけようと思うんだけど一緒に。
そういいかけようとするランディの言葉をさえぎり。
「今日は部屋でちょっと調べ物があるので今から戻ります。」
そういいつつドアに手をかけているアンジェに。
「そ、そう。がんばってね。」
「はい。ランディ様もお気をつけて。」
そういいつつ扉にと手をかけ。
「それではランディ様、失礼しました!」
元気よく挨拶しそのまま執務室を後にしてゆくアンジェリークの姿。
「う~ん、どう考えてもあのときのアンジェと今のアンジェの姿。同一人物とは。」
この前、アンジェとそしてゼフェル、マルセルと共に出かけた彼女の一族の隠れ里。
そこで彼らはアンジェリークの本来の歳相応の姿を目の当たりにしたのだが。
どう考えても今の子供の姿とのギャップがありすぎる。
思い出しただけで心ならずも少しばかり顔が赤くなるのを自覚する。
「――かなりの美人だったよな。アンジェ。それに……」
あの気配は。
まるで陛下そのもの、といった感じうけたし。
そんなことを思いつつも。
「アンジェが女王になったら。あれよりさらに綺麗になるんだろうな……」
などとつぶやきつつ。
すでに神殿より出て道を歩いているアンジェリークの姿を窓からみつめつつ。
そんなことをつぶやいているランディの姿が。
ここランディの執務室で見受けられているのであった。
「ふふふ。アンジェには負けない装置を作ってやる!」
アンジェリークが自力で空間移動ができる。
それを知った鋼の守護聖ゼフェル。
自分の力では不可能でもそのつかさどる器用さを生かして、ただいまとある機械装置の製作中。
「ふふ、絶対にあいつを驚かすぞ!お~!」
…どこか完全に目標というか目的がずれているような気もしなくもないが。
まあ、とことんのめりこんだ彼を止められるものは……まずいない。
今の感覚は間違いない。
部屋にと戻り意識を一部切り離し。
そのまま、意識そのものをエリューショオンにと向けてゆく。
すでに、さすがに目には見えないまでも余分に与えられた力は。
真っ先に自然にと影響を及ぼし始めているのが見て取れる。
…豊か過ぎるということは、争いを招く。
それは。
かつての悲劇。
あの悲劇はそうして起きた。
「…とりあえず、この余分な力は。吸収しないと。」
それだけつぶやき。
そのまま精神をエリーシュオン全体にと集中させる。
刹那。
エリューシュオンの大地が一瞬見えない力で震え、
ザザァァ…
見えない力がそのまま大地より浮かび上がり。
そしてそれはひとつの結晶となり、そのままその場にあるアンジェリークの意識の欠片を通じて、
部屋にて目をつむっているアンジェリークの手の平にとそれはやがて集まり結晶化と化してゆく。
「――マルセル様には早い段階で気づかせないと。」
このように始めてしまったたからにはこれからも間違いなく行うはずである。
――自分の意思での勝手な育成を。
それは下手をすると……
今はまだいい。
ひとつの惑星、しかもアンジェリークだからこそそれはなかったことにできるのだから。
だがしかし、宇宙全体を保つ力の持ち主。
マルセルもその一人なのである。
一時の感情などでそのような身勝手な行動をとれば。
それは簡単に軽く世界の銀河の崩壊を招くことになりかねない。
……そう。
今彼等の故郷である銀河、といっても数え切れないほどの銀河が集まり形成されている、大銀河。
それが今まさに寿命を迎えて滅びようとしている、その現状と同じように。
「……とりあえず、マルセル様には…かつての記憶の夢を。」
それだけいいつつ。
その手に結晶化されたまるで緑の小さな薔薇の花。
それを握り締めるアンジェリーク。
と。
アンジェリークが握り締めると、その緑の花は。
まるで空気にと溶け消えるようにと掻き消えてゆく……
「ふふ。アンジェ、喜んでくれるかな。」
毎日これを繰り返していれば間違いなくエリューシュオンは発展する。
そうすれば。
「そうしたらアンジェが女王様だよね。おやすみなさ~い。」
微笑つつ、夢の中にと旅立ってゆくマルセルの姿が。
彼のこの地に与えられた私邸にて見受けられてゆく……。
「うん?これ…は?」
いつものように何となく水晶球をそこにおき、空を眺めていた。
この場所は命の輝きにと満ちている。
それは元の場所の危うさを感じさせないほどに。
おそらく、彼女……否。
女王の目的は。
ふっ。
さすがに彼女らしいな。
そんなことを思いつくなどとは。
そんなことを思いつつ。
いまだに新たな命の鼓動、生命の力に満ち溢れているこの宇宙の星星を眺めつつ。
ふと。
テーブルの上にとおいてある水晶の球が突如として光を放つ。
「な゛!?」
彼の持っている遠見の水晶はまれにきまぐれにその中に様々な光景を映し出す。
そして。
今もまた……
水晶の中に浮かぶは。
淡くそして金色にと輝く光に包まれた、金色の髪にそして。
「こ、これ…は。」
彼だから、いや、特殊な力をもっているからこそ……わかる。
その水晶に映っているその人影が、いったいどれほどの力を秘めているのか。
まるで身長よりも長いのではないか、と思われる長い金色の髪。
それがまるで淡く光る金色の光に揺られるようにふわりと、
その力の流れ、であろう、それによってたなびき。
そして硬く閉じられている目を開いたその瞳は――金色にと輝いているのが見て取れる。
「……彼女…は……」
思わず絶句する。
確か、その姿は。
どこかで、そうどこかでみたことがある。
だが、しかし。
「…まさか、あれは…」
しかも、今この女性がいるのは見たところ……
「エリューシュオン?」
闇の守護聖クラヴィスのつぶやきが。
夜の闇にと解け消えてゆく-……
普通にやっていたのでは、自らの気配を隠すことはかなり困難。
それでなくても今は、あちらの世界の補佐をも知られずにやっている今の状況。
「この姿のままで、いろいろと隠したまま、というのもちょっとつらいからねぇ……」
人の身で、器を得ていると不都合は多々と出てくる。
いくら一族の一員と生まれ出でていてもそれは避けられない。
自力で具現化しているのならまだ話は違ってくるものの。
肉体の限界、というものも確かに存在するのもまた事実。
この姿ならば。
限界を知らずにそして力が発揮できる。
知られないように結界を張ることもたやすい。
伊達に自らの一部ともいえる力を託している存在が使った力だけのことはあり。
その力の波動は確かに大陸にと行き渡り。
必要以上の力は逆にその場に住むすべてのものの命を脅かす。
……そう、かつての出来事のように。
「緑の力、この地より あるべき場所へ-……」
まだそれは時ではないにしろ。
今この場においたままよりはよっぽどいい。
今まさに新たな太陽系として発展を遂げようと、成長しているあまたの恒星。
そんな無数にあるそちらにとその力を転移させてゆく。
…本来ならばできるはずもないことをあっさりとなしとげているアンジェリーク。
だがしかし。
この姿こそが彼女の本質。
彼女の本来の姿。
この地を…この宇宙空間すべてのそのものをまかされた。
――この宇宙の闇、そのものであり意思そのものであり、そして……すべてなる母。
――そう、この場所においては……
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