スイート・メモリーズ ~第27話~
かつて。
一族が【不老長寿】であるということを目にした人々は。
当然普通の人間の寿命と彼らの寿命とは果てしなく異なる。
それゆえにいったいどこからか当然ともいえるべきか。
一族のものは不老不死だ。
という噂が立ち。
そして、それは伝説となり、いまだにそれが真実だと思われている節もある。
過去、大量に起こった一族の虐殺事件。
彼らの肉体を食べたものは不老不死の力を得られる。
または生き血などは若返りの効果をもたらす。
などと、まあ一体全体どこをどうやったらそんな嘘のうわさがたちゆくのか。
ともかくそれらが原因で一族はかつて大量にと無慈悲に虐殺された。
――それゆえに、それが原因で滅び去った。
ともいわれていたるするのが、このクリスタル一族。
「とにかく、無理やりに一族を殺してそしてその肉体を得る。という話もあったらしいな。
それにそのすでに屍となった肉体をめぐってすらも。
過去には戦いが起こったことがあるらしいぞ。」
――それはかつて、まだカティスが守護聖であったころよりもかなり前のこと。
「…ルヴァから聞いたことがあるな。」
そういいつつ、コップをテーブルにと置くゼフェル。
それゆえに、すでに滅亡した、と思われていた一族の一員だ。
と。
アンジェリークのことを知った地の守護聖・ルヴァは。
目を輝かして一族のことを研究し始めていたりするのが今の現状。
そして。
さらに一族の特徴とすべきは。
彼らの長は代々、たったの一人。
しかも、それも特殊な方法でしか見分けられない。
伝説にはその魂は初代女王が代々長を勤めている。
という何とも眉唾ものの伝説もあったりする。
…事実なのだが。
だがその真実はまさかそれが真実だとは到底、普通に信じられるはずもなく。
「ま、そういうわけで、それ以後、彼らは死期を悟ると、この地に戻り。
そして、先祖たちと融合して、ひとつの水晶の花にとその肉体を変化させる。
まあこれも人それぞれだがな。
最近はそんな昔の伝説を目の当たりにするものとかはあまりいないから、
そのままお墓に入るものもいるな。
あとはそのときになって一族を抜け出る。とかいうこともあるようだしな。」
昔は隠れて生活していたが。
すでにもう時代は255代女王の納める時代。
今はちょうど女王交代の時期にさしかかっているのだが。
まあ、それだけではなくこの銀河系、そのものの寿命がつきかけているのだが。
近年は普通の人にまじって生活することから。
あまり不老長寿、というものにこだわらず、短くそれでいて強くいきる。
ということを望む一族の者たちも多々といる。
一族を抜け出るのはそれは誰でもできること。
たとえば好きな人ができてその人と共に生きることを望み。
一族を抜け出る人々も少なくない。
逆に、彼-カティスのように一族に迎え入れられる。
という人物もいるのだが。
「葬式っていったら何か寂しいけど。
でも、これだと何か聖なる儀式みたいでそんな寂しい感じはしないね。」
そういうマルセルの言葉に。
「まあ文化はそれぞれに無限にあるからな。」
そうしみじみいっているランディ。
「そういえば、カティスはどうして一族なんかに?」
ふと疑問に思ったことを問いかけているゼフェルに。
「そうだな。理由はいろいろあるが、やはり、それは。新たな……」
それは新たな時代、新たな宇宙。
その行く末を見てみたい、という純粋な思いもあってのこと。
「カティス!」
そんな会話をしていると。
その続きの言葉をさえぎるように、どこか甲高いような声が彼らの耳にと届いてくる。
見れば。
先ほどとはまったく異なる容姿をしている金色の髪に緑の瞳の少女が一人。
彼らのいるカフェテラスにと入ってくるのが目に入る。
「「あ、アンジェ!」」
その姿をみて三人が同時に言葉を発していたりするが。
カフェテラスにと入ってきたのは、紛れもないアンジェリークの姿。
先ほど、というか先刻の儀式を行っていたときの姿ではなく。
彼ら、守護聖たちが見慣れている姿のままで。
つまりは六歳程度の女の子の姿なのだが。
――カティス、余計なことはまだ彼らにはいわないでください。
ぱしっ。
「っ!」
カティスの脳裏に響く声。
それはアンジェリークからのテレパス、つまりは直接通信。
まだ、時期ではないのだ。
彼らは知らない、この宇宙が限界を迎えている、というその事実を。
――彼らはまだ、知りません。この宇宙の寿命が尽きかけている、という事実を。
まだ時ではありません。いいですね。
そういいつつ、視線でカティスを見つめるアンジェリークではあるが。
「マルセル様、ランディ様、ゼフィル様、こんなところにおられたのですか?そろそろ戻らないと時間が。」
すでにもう空は暗くなり始めている。
それは、いわく、あちらでもそれだけの時間が経過している、ということに他ならない。
「え゛~。ぼくまだカティス様とお話がしたい。」
いいつつ横にいるカティスに助けをもとめているマルセルではあるが。
そんなマルセルの頭をぽんとたたき。
「こらこら、そういって彼女を困らせるんじゃない。
それにマルセル。今は大切な試験の最中なんだろう?」
くしゃり。
そういいつつごねるマルセルの頭をくしゃりとなでる。
「あ、もうこんな時間!?」
ふといまさらながらに空が暗くなり始めているのに気づき、驚きの声をあげているランディに。
「どうせだったらここでとまらないか?」
などといっているゼフェル。
「ゼフェル様、今日は日曜日で試験お休みでしたけど。明日から試験再開なんですが?」
そんなゼフェルの言葉にくすりと笑いつつにっこりと微笑みかけつついっているアンジェリーク。
その言葉に。
「そうだぞ。ゼフェル。試験をほうっておいてまでここにいる。というわけにはいかないだろ?」
そんなゼフェルにいっていたりするランディ。
「ちっ。頭のかて~連中だな。」
そうはき捨てるゼフィルに。
「あら、でもゼフェル様、一日育成しないと。
エリューシュオンの時間は、こちらの時間とは異なりますから、進化の過程に大きな影響が…」
説明はじめるアンジェの言葉に。
「だぁぁ!わかったってば!まったく、ルヴァみたいなことをいうんじゃねえよ!」
そういいつつ残っているジュースを一気に飲み干してゆくゼフェルではあるが。
「それじゃ、私たちはそろそろ。カティス、後はよろしくね。」
そういうアンジェリークの言葉にうやうやしくお辞儀をし。
「マルセル、ランディ、ゼフェル。彼女を困らせるんじゃないぞ?」
そういいつつにっこりと微笑むカティス。
その様子に。
「…だからどうしてカティス様は??どこかアンジェに対して敬意をもってませんか?」
さらにまた同じことを突っ込みしているランディに。
「う!?ま…まあ、そのうちにわかるさ。」
そう言い放つと同時に。
「――カティス様!ちょっとすいません!」
あさっての方からカティスを呼ぶ声が彼らの耳にと聞こえてくる。
その声のした方向をみて。
「おおっと、どうやら呼ばれてるようだしな。――がんばるんだぞ。お前たち。」
『はい!!』
「けっ。いわれなくてもやってやらあ。」
マルセル、ランディ、ゼフィルの声がカティスの言葉に答えるかのように同時にと発せられる。
やがてその場からカティスが立ち去り。
「それじゃ、そろそろ戻りましょう?あ、お土産とか忘れものはないですか?」
すでにカティスに案内されていたときにいろいろと品物は購入していたりする。
そんなアンジェの言葉にうなづく三人に。
「じゃ、戻りましょうか。あまり遅くなったらジュリアス様たちも心配してはいけませんし。」
その言葉と同時に。
すっとその手を横にかざすアンジェリーク。
と。
シャラ……ン………
まるで鈴が鳴るような音がしたかと思うと。
アンジェリークたちがいた場所に淡く金色にと輝く白い羽が舞い散ってゆき。
そして。
その羽が舞い散る中には、すでに彼ら四人の姿は。
どこにも見受けられないのであった。
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