スイート・メモリーズ ~第25話~
ゆったりとした服にと身を包む。
すでにもう何代も、長のみが着ることを許されたその服は。
淡い色調とそしてまた、何ともいえない雰囲気をかもし出し。
すでにかなりの年月が経過している、というのにもかかわらずに。
まったくそれは朽ちることなく当時のままにと存在している。
その服は常日ごろは水晶の中にと封じられており。
そしてその水晶からその服を取り出すことができるのもまた長のみ。
アンジェリークが神殿の奥の部屋にと安置されているそれに触れると。
彼女の頭上に虹色とも不可思議な光を放つまるでとある花のような水晶が浮かび上がる。
これこそが、長のみにしか扱えない、というレインボゥ・クリスタル。
見るものによっては様々な色合いにもみえるそれは。
その水晶ひとつで銀河ひとつかるく壊すことも可能、とすらいわれている品物。
事実は長、否、アンジェリーク=ユニバースの力の一部でもあるので。
それどころかこの空間に存在するすべてなる銀河宇宙をどうにかすることが可能なのだが。
だがそれを扱えるのはその力の持ち主たるユニバースのみ。
彼女がこの形態を思いついたのは。
一重に、彼女にこの【世界】を任せてくれたかの御方。
その御方が、常にいつも見につけているとある石を参考にしたからに他ならない。
フワリ。
ふわりと不可思議な光を放ちつつ空中に浮いた水晶が、
やがてつぼみが開くごとくにその水晶の花弁をふわりと広げゆき。
部屋に何ともいえない七色以上の光があふれ出す。
そんな中ゆっくりとアンジェリークが手をかざすと。
まるで水晶の中より浮かび上がるようにその目の前にあった水晶の中より。
空中にと浮かび上がる一式の服。
それを手にとり、意識を集中する。
と。
パァァァァ……
アンジェリークの体が淡い金色のような光に包まれ。
その服にあるレースのような布が彼女の体をつつみこんでゆき。
そして、ゆっくりとアンジェリークが目を閉じると同時に。
アンジェリークの姿そものものも揺らいでゆく。
ゆっくりと、その光の中でアンジェリークの姿がゆらいでゆき。
光に鼓動するかのようにその身長すらも伸びてゆく。
次にアンジェリークが目を開いたときには。
そこにいるのは。
先ほどまでそこにいたはずの六歳程度の金色の髪の女の子。
ではなく。
年相応の…十七歳くらいの何ともいえない雰囲気をもった、とてもきれいな女の子。
ふわりとなびく肩より少し長い程度のふわふわの金色の髪に緑の瞳。
これこそが、本来の…もともとの、アンジェリーク=リモージュの、今現在の彼女の姿。
歳相応の彼女の本来の姿でもある。
その背に淡く金色に輝く白い羽が見えるようなきがするのは、おそらくは気のせいではないであろう。
その姿をまのあたりにして。
その場にいた人々は全員ひざをついて彼女に対して頭を下げている。
「――さて、それでは儀式を始めましょ。用意を。」
今までの子供特有の何ともかわいらしい声とは異なり。
どこか凛として、まるで鈴を転がしたような声色の声がアンジェリークの口より発せられる。
『御衣。』
その言葉に。
一族の手により、儀式の準備が開始されてゆく。
一瞬風がかわったように感じられた。
ふわりと里の中を拭きぬける風。
守護聖たる彼らだからこそ感じ取られる変化というべきか。
「あれ?今空気が浄化された?」
確かに空気が一瞬のうちにと変化した。
それを感じ取り、空を見上げてつぶやくマルセルに。
「どうやら儀式が始まるようだな。お前らもみてみるか?」
そう問いかけるカティスのその言葉に。
「その儀式っていったい何だんだよ?」
ぶっきらぼうに質問しているゼフェル。
「そうだな。一般には葬式、みたいなものだ。この祭りは命を終えるものたちのための祭りだからな。」
「…葬式って、どうして葬式が祭りなの?」
その言葉に思わず眉をひそめているマルセルに、首をかしげているランディ。
そんな彼らをやさしく見つめ。
「これは一族のものが命を終えるときに必ず行う…まあ儀式のようなものだな。
……かつての経験からその体を悪用されないように、彼らが選んだ結果だ。」
『???????』
そういいつつ席を立ち上がるカティスの言葉に、
ただただ首をかしげるしかないマルセルたち年少組み守護聖三人組。
「ま、お前らもアンジェリークの歳相応の姿。見たことないんだろ?
この祭りで彼女の歳相応の姿、みられるぞ?たまげるぞぉ、絶対に。」
などといいつつまるでいたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべるカティスに。
ただただ首をかしげるしかないランディ、マルセル、ゼフェルこの三人。
ざわざわざわ。
すでに神殿の中には一族の人々が。
一目、長の姿をみようとざわつき集まっている。
そして、その神殿の奥、その先に。
このたびの主役ともいえる、五人の人々がその場にと座り。
そして、その横にたたずんでいる巫女や神官、そして、長老たちといった人々の姿が。
そして、特質すべきは神殿の最深部、そこに安置されていた巨大な水晶。
水晶、といってもこれもまた花の形をしている巨大なものなのであるが。
それが天井をあけたがゆえに太陽の光を反射して銀色の光をあたりに照り返している。
この神殿、儀式のさなかには天井をあけ、光を入れることができる仕組みにとなっているのである。
「ちょっとごめんよ。」
そういいつつ、前にと進み出るカティス。
その後ろには彼ら三人の姿が続いているが。
「ねえ?確かカティス様、葬式、とかいってたよね?」
「ああ、どうみてもそんな雰囲気ではないな。」
などと周りでは人々が祈りをささげる様子や。
挙句はなぜか写真を撮っているものなどの姿もちらほらと具間みえていたりする。
やがて、前の方に進みでたかれらが目にしたものは。
見たこともないような巨大な何かの花のような銀色にと淡く光っている水晶らしきものと。
そして、その周りにまるでどこぞの星などである聖なる祭り、
そのときのような神聖な服装をまとっている一族の人々。
おそらくは格好からして巫女や神官、といった存在なのであろうが。
そんなことを思っていると。
「…ね。ねぇ…ゼフェル…あれ…」
ふと、そこに見慣れない姿を認め、思わず口をあんぐりあけていっているマルセル。
「うん?マルセル、どうかしたのか?…って!?」
それだけいいつつランディもまた口をあんぐりあけてそのマルセルの視線の先を見つめだす。
「なんだよ、お前ら、…!?」
そういいつつマルセル、ランディが口をあんぐりとあけて見ている先にと視線を向けるゼフェル。
彼らが目にしたものは。
どこかでみたことのあるような淡い金色の髪に緑の瞳。
だがしかし、そのまとう雰囲気はどこか近寄りがたくもそして神聖な雰囲気をかもし出し。
身にまとっている薄い色調の巫女のような服装がその雰囲気をさらに向上させている。
そして。
一番驚くべきことは。
彼らの目にはその背に淡く金色にと輝く白い翼が、たしかにはっきりと確認できる、ということと。
「…だからいっただろ?驚くって。あれがアンジェリークの歳相応の姿なんだよ。」
そういっていたずらっぽく笑みを浮かべているカティスの声も今の彼らの耳には届かない。
まるでどこか遠いところでいわれているような感覚。
彼らが目にしたものは。
いつもの、六歳程度の女の子の姿ではなく。
話にはきいてはいたが、ロザリアと同い年という歳相応の少女の姿。
だがしかし、その姿から感じられる雰囲気は-まるで…
『女王…陛下?』
我知らず、三人は同じ言葉をまるでつぶやくようにと発しているのであった。
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