スイート・メモリーズ     ~第26話~

「では、これより儀式を開始したします。」
透き通るようなそれでいて何ともいいがたいような鈴を転がしたような声。
そう宣言すると同時に。
シャラン。
アンジェリークが手にしている銀色の鈴が。
静かに音をたて。
それを合図に神殿の中は静まり返ってゆく。

祭りの開始の合図である。


シャラン。
鈴の音とそしてアンジェリークが舞いを踊るたびに。
あたりの空気そのものがまるで浄化されたようにと、空気がはっきりと変わったのがわかる。
「…カティス様、これって…」
つぶやくマルセルに。
「何だ、やっぱりお前ら知らなかったのか。」
そういいつつ思わず苦笑する。
「…つうか、何でアンジェの雰囲気…がらっと変わってるんだよ…」
それは……まるで、そう。
まるで、聖地のしかも神殿にいるかのような、そんな雰囲気。
「……というか、あれ本当にアンジェリーク?」
思わず目を見開いているランディ。
それはそうであろう。
彼らが知っているのはアンジェリークの六・七歳の姿のみ。
話には聞いてはいたが、彼女はロザリアと同じく十七歳である、ということは。
だがしかし、実際にこうして、歳相応の姿をみるなどは彼らは始めてで。
思わず目を見開きつつ見とれてしまうのは仕方がないというか。
今さらながらに本当にアンジェリークが17歳なのだと納得した、というべきか。
とにかく、頭では17だ、と理解していても、見た目が六・七歳の少女であったことから。
どうしてもそのようにアンジリェークをみていたのは明らか。
当たり前のことに対して三人が三人とも目からうろこの面持ちで、
巫女のような衣装に身をまとったアンジェリークを眺めている、
マルセル、ランディ、ゼフェル達。
九人いる守護聖の中で最年少組みのこの三人。
彼らの目の前では。
儀式的な舞が終了し。
そして。
大きな花の形の水晶の前に並んでいる五人の姿。
そんな彼らの前に近づき。
すっと片手にもった鈴をもっている手以外のその手を彼らにとかざすアンジェ。

もう片方の手をすっと彼らにとかざす。
彼らの視線とアンジェリークの視線が交じり合う。

「汝は自然に 自然は汝に 疎は大いなる ゆりかごの元 汝の器 還りゆかん
  器にありしは 命の輝き 輝きは 始まりの海へとかえりゆかん
  我が意思のもと すべてなる腕へと いざ還りゆかんせん。」
ちらりとマルセルたちと視線が交じり合ったが。
そのままそこにいる五人にと視線を移し。
そのまま膝まづいている彼らの頭の上にと手をかざすアンジェリーク。
それと同時に。
ポウッと彼ら五人の姿がほのかに光り。
次の瞬間には。
ゆらりとその肉体より浮き上がる、透き通ったような五人の姿が彼らの真後ろにと出現する。
そして、それと同時に時をおかずして。
ふわり。
魂の抜け出た彼らの体がふわりと浮き上がり。
そして。
それと同時に彼らの肉体がほのかに光りを発しつつ。
そのままその体が光りに包まれ、まるで夢でもみているかのごとくに。
体そのものがマルセルたちの目の前で、五人の体が透き通ってゆく。


「な゛!?いったい!?」
思わず驚きに声をあげているマルセルたち。
それもそのはず。
みれば。
彼らの目の前で、いきなりその肉体から魂が離れたかとおもうと。
魂のなくなった残った器、つまり肉体がふわりとうかび。
そして、その肉体は瞬く間に透き通り、そして、完全にまるで水晶と化してゆく。
そして。
そのまま目の前にある巨大な水晶の花の中にと、彼らの肉体は吸い込まれてゆく。

やがて、五人の体が水晶の花の上にと浮かび。
それに呼応するかのように花が光り。
そしてそれは天井から取り込んだ光りと反射して部屋全体を照らし出す。
そして、次の瞬間には。
シュン。
まるで何かが吸い込まれるような音を残して。
やがて彼らの肉体は、完全にと目の前にある巨大な水晶の花の中にと吸い込まれてゆく。
……あとに残るは、すでに肉体を失った五人の魂の姿のみ。


「皆さん、彼らの未来とそして、次なる目標を祈って。」
そうアンジェリークが高らかに宣言すると同時に。
手にもっている鈴をシャラリと鳴らす。
それと同時に。
『おおおおっ!』
周囲から一族すべての歓声の声が巻き起こり。
「新たな欠片にすべてのものの恵みをあたえんことを。」
そういいはなち。
シャラン。
手にした鈴を一振りする。
それと同時に、水晶の花に光が差し込み、部屋全体を銀色にと光る光が満たしてゆく。



「…つまり、この祭りって…」
おもわずジュースをもっていた手を止める。
ちなみに天然果実100%の混じりものなしのジュース。
これなら、というのでゼフェルもそれを飲んでいたりするが。
「ああ、そうだ。この祭りは一族の者が命を終えるときに。
  その空となった肉体を水晶にと変えて、そしてその肉体は。
  お前たちもみただろう?あの神殿の【花】の一部となり。
  ずっと一族の御神体、として祭られるんだよ。この一族、クリスタル一族は。」
そういいつつ質問を投げかけてくるランディにと説明しているカティス。
すでに祭りも終わり。
人々はその余韻に浸り。
そして。
祭りも終わり、質問してくるマルセルたちに、カティスがあいてをしつつ答えている。
そんな光景がここ、湖のほとりにあるカフェテラスにて見受けられていたりする。


話の内容として、簡単に説明するならば。
この祭りは俗にいう、よくある葬式、みたいなものだ。ということ。
よく多々とある葬式の形態はあるが。
彼ら一族は過去の悲劇を繰り返さないために。
そしてまた。
その肉体が悪用されることを恐れ、彼らは命を閉じるときに。
その身を水晶にと変化させ、そして、御神体の一部と化し。
そして器から解き放たれた肉体は新たな輪廻にと赴いてゆく。
つまりはよくあるこれはいろいろな宗教とかである、いわゆる【葬式】そのものなのである。
まあ、お墓をつくったり、祭ったり、という風習があれば、こういった変わった風習もある。
というところか。
「そもそもは、かつて一族の肉体が不老不死、の力をもつ。
  という間違った伝説が伝わったことから始まるらしいがな。この祭りの始まりは。」
そういいつつ、手にしたマンゴージュースを一口、口にと運ぶカティス。
そんなカティスの説明に、
ただただ驚くしかないマルセルたちの姿がそこにて見受けられていたりするのであるのだが……


   -第27話へー


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