スイート・メモリーズ ~第24話~
彼らにとっては見るものすべてが新鮮そのもの。
ここの空気はここちよい。
まるで、そう、女王の力がもっとも強く感じる聖地と同じ感覚をうけるこの空間。
「え?それじゃあ、この一族の始めというか誕生のきっかけは初代女王。というのは本当なんですか?」
とりあえず休憩に、と連れて行かれたカフェテラスで、カティスにと聞いているマルセル。
「ああ、どうやらそうらしいな。まあもっとも、初代女王はすべての宇宙の創造主。でもあるらしいがな。」
それだけいいつつ、ハイビスカスティーを一口、口にと運ぶカティス。
「確かそれって、『
散々口をすっぱくして地の守護聖たるルヴァに聞かされているのと。
必ずといっていいほどに、きょうび、ちいさな子供でも知っている。
伝説となってすらいる、初代女王、アンジェリーク=ユニバース。
その正式名称をしるものはほとんどいないが。
伝説にはこうある。
【すべてが無とかしたそのときに。一人の少女の願いを聞き入れしすべてなる母が少女にこの地を託し。
少女はこの地ー宇宙と一体化してこの宇宙のすべてを救い。
彼女の意思のままに再び無とかしたこの宇宙に星星がきらめきだした。】
と。
どこまでが真実でどこまでが嘘か。
だがしかし、伝説、とされている中に真実は含まれているわけで。
そういうゼフェルのその言葉に。
「それ、俺も聞いたことがある、よく年の離れた妹にその絵本、読んでいてあげたことがあるから。」
そういいつつ、もうあうことはない、いや、もう会えない。
というのが正解であろう。
もはや、愛した家族はいない。
それほどまでに、彼ら守護聖と一般の人々の時間は隔たっているのだ。
外界とはかけはなれた時間。
その中でも特殊な力、というか女王の力をもってして宇宙の均衡を保つべく、
サクリアの目覚めにより選ばれた九人。
そういうランディのその言葉に。
「それ僕もよくお姉ちゃんたちに読んでもらって聞かせてもらってた。」
子守唄がわりに、そして寝付くまでに、いろいろな絵本を読んでいてもらったものである。
彼が守護聖になることは両親は彼が生まれたときに知っていた。
……当時の緑の守護聖、カティスが尋ねてきたがゆえに。
だがそれはマルセルには伝えずに、おおらかに育てた。
そして、時期がきたときに、マルセルに正式に聖地からの迎えがきたのである。
「だからなんですか?カティス様?ここの空気が女王様の気配に近いのは?」
問いかけるマルセルに。
「ま、そんなところだな。」
かるくかわしているカティス。
どうやら長。
否、アンジェリークは、彼らに自分がこの一族の長である。
ということをいってないようだな。
などと、そんなことを思いつつ。
「ところでよ?この祭りって毎年あるのか?」
祭りといってもそんなに人々でごった返しているわけでもなく。
どちらかといえば人々は静粛なそれでいて厳粛な雰囲気にと包まれている。
「ああ、この祭りはいつも毎年行われる祭りとはちょっと異なるからな。」
そういいつつ、少し考え。
「ちょっと聞くが、お前ら、彼女、アンジェリークの本来の姿、見たことあるのか?」
ふと疑問におもい問いかける。
「?アンジェの本来の姿?」
「それって確かアンジェリークが外見はああでも一応は十七歳の女の子。
というのに関係があるのですか?」
「つうかあいつあの姿が普通じゃないのかよ?」
口々にそんなカティスの言葉に質問を投げかけているマルセル、ランディ、ゼフェルの姿が。
「ふっ。なるほど…な。つまり彼女はあいつら達にも隠しているわけだ。
じゃ、きっとお前らたまげるぞ。」
そういいつつ、何やら意味ありげに笑っているカティスの姿をみつつ。
「ああ!カティス様!気になるじゃないですか!」
「そうだぞ!カティス!隠し事は卑怯だぞ!」
「…カティス様…まったく少し意地の悪いところは変わってませんね…」
などとわきあいあいと会話している彼ら四人の姿が。
カフェテラスにて見受けられているのであった。
「おお、生きているうちに、まさかお目にかかれるとは。」
いくら不老長寿の一族。
といえどもやはり終わりはあるわけで。
まあ、年を重ねるごとに自らの意思のままにその姿は保てるのだが。
…たとえば、そう、長老たちのように自らの意思で老人のような姿になっているものもいれば。
もう千歳を超えている、というのにもかかわらずに、世間で摩擦がおきにくい、という理由で。
子供の姿をとっているもの。
などと姿形のものは様々。
そして。
このたびの祭りは。
その命をまっとうするための人々のための祭り、ともいえる大切な儀式。
それはかつての出来事より恒例となっている神聖なる儀式。
神殿にとはいってきたアンジェリークにうやうやしくその場にいる全員がお辞儀をし。
中には敬礼したり頭を床につけて礼をとっている人々もいる。
――それほどまでに彼らにとって長の存在、というものは神聖なものなのである。
「今回、命の役目を終えるものはこの数名?」
そういってそこにすでに儀式用の服に着替えた人々をみつつ。
横にいる長老たちにと問いかけているアンジェリーク。
「はい。今回はこの五人です。」
「そう。あなたたち、よくこれまでがんばったわね。ご苦労様。
あなたたちの魂はこれから肉体を離れて新たな輪廻の輪にはいりますけど。…後悔は、ない?」
そういいつつ彼らの前に目線をあわして問いかける。
その緑の瞳が彼らにはまぶしい。
「思い残すことはありません。」
彼らは自分の死期を知ることができる。
それゆえに、一族はそんな彼らを送り出すために、こうして祭りを行うのである。
新たな生にと赴く彼らを送り出すための祭り。
その言葉をききふわりと微笑み。
「では、私は準備を始めます。……儀式の用意を。」
いつもはこの神殿に使える巫女たちがその役目をするのであるが。
このたび、長が戻ってきた、ということもあり、巫女たち、そして一族の人々は。
数年ぶりに長のその姿を見れる。という嬉しさもあいまって。
急遽、当然のことながらその役目をアンジェリークにと手渡している。
その言葉に、彼ら一族全員が。
これより後にある儀式の用意にと取り掛かり始めてゆく。
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